第7話 謎の組織

 放課後……帰る準備をしている美須さんに声をかけた。


「美須さん、ちょっと話が……うッ!」


 一斉にみんなの視線が集まる。

 俺、何も悪い事なんかしてない、はず。

 いや、注目の原因は声をかけた相手にある。

 サラサラのブロンドヘアにブラウンの大きな瞳と目元のくぼみ、制服越しに分かる胸の膨らみとメリハリのあるくびれ。

 クラスの中心にいる有名なセレブ一家の美須さんへ注がれている。


「うん、わかったー」


 美須さんは眩しい笑顔で頷いてくれたが、前の席にいるおさげの女子、黒野さんは俺を黙って睨んでいた。

 幼稚園の時から一緒らしいけど、俺の記憶にいないのはどうしてだろう。

 それにしても、やっぱり怖い。

 いつ胸ぐらを掴まれてもおかしくない彼女のクールな顔つきと反対に醸し出されるオーラ。


「じゃあ私、帰るから」

「うん、また明日ね! ヨーちゃん」


 静かに横を通り過ぎていく瞬間、


「チッ」


 俺にしか聞こえない軽い舌打ちをした。


「ねぇねぇ曄(よう)ちゃん、今日一緒に帰ろうよ」

「私も! 新しいショップにも寄りたいし」


 他の女子に声をかけられ、あの睨みは消えて、大人っぽく微笑む黒野さんはそのままみんなと教室から出て行った。

 全然態度が違うじゃん……。


「永利君、場所変えた方がいい?」

「え、と、その、まぁ、うん」


 告白じゃねぇの? なんてことを言うクラスメイトの声に、まだ帰っていない一部が騒ぐ。

 こういうのも苦手だ、人付き合いっていうか、誰かと絡んで話すのは……。

 耳に残るうるさい声とあの舌打ちを、早く早く塞いでワルツの曲で満たしたい。


「じゃ行こ」


 学ランの袖を引っ張られる。


「いつの間に仲良くなったんだよー」


 クラスのみんなに茶化される美須さんは眩しい笑顔でウィンクをする。

 慣れない空気に気まずさを感じてしまう。

 急ぎ足で廊下を進む。

 速すぎて足がもつれそうになる。


「み、美須さ、ん、ちょっと、ちょっと」

「なに?」

「あ、足が」


 転びそう!


「あ、ごめんごめん、いつもの感じで歩いちゃった」


 やっと解放され、一息ついていると、


「もしもし神田さん、学校終わったからお迎えお願いしまーす」


 スマホで一声、五分も経たないうちに高級セダンのシーマが到着。


「おかえりなさいませ、ニア様。切原様、いつもお世話になっております」

「ただいまぁ神田さん」

「どもっす、は、初めまして」


 白髪交じりのおじさんがビシッと決めたスーツで降りてきて、後部座席を開けてくれた。

 本革シートに出迎えられる。

 眩しい内装に躊躇している状況じゃなかった。

 周りの眼差しに背中をザクザク突き刺され、俺は逃げるように飛び込んだ。


「神田さん、ちょっとだけ近所を回ってほしいの、それから永利君のお家まで送ってあげて」

「かしこまりました」


 めちゃくちゃ背筋が伸びてしまう広い車内。


「話したいことって? もしかしてこの前の?」

「う、うん。今朝、家に来たんだ、あの黒服の人達が」


 鞄を開けて、黒服の人達からお詫びの品として受け取った正方形の紙箱を取り出す。

 フタを外し、2段目に入っている札束を美須さんに見せた。


「口止め料ってこと? 永利君に?」

「うん」

「どうしてだろ、ねぇ神田さん何か知ってる?」

「申し訳ありませんニア様、内部のことは私も聞かされていないものでして」


 神田さんも知らない様子。


「じゃあもうそのまま貰っておけばいいんじゃない? もう永利君と関わることないだろうし」


 何言ってんだこの子!?

 数百円数千円って額じゃない、何万、何百万の札束を軽々しく貰うなんて正気の沙汰じゃない。


「こんな大金受け取れないよ! 怖いし!」

「えー返すの?」

「うん、返したい」

「でも住所なんて知らないし、あの倉庫みたいなところもどこにあるか分からないじゃない」

「まぁそうなんだけど……誰か知ってそうな人、あ」


 知ってそうな人といえば、1人だけ心当たりがある。

 あの先輩に詳しく訊かないと……――。

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