第32話 紗彩と介司の初恋

 あれから10分間、沈黙が続いた。でも、もうすぐ冬。虫の声や鳥の声も

あまり聞こえない。聞こえるのは、そこらを過ぎていく、トラックのガタンガタンと

言う音だけだった。

「なあ風馬。僕、そろそろ帰るわ。せっかく教えてもらったんだから、早く

試したくってさ。紗彩ちゃんとそれほど親しいんだな。いいよな・・・。僕も

たくさん話したいけど・・・でも僕にはできねぇ・・・」

「そう。まあ、イメチェンしとけば、あっちから話しかけてくるかもよ?今すぐ

やって学園の校庭にいたら、声かけてもらえる率75%だよ!」

「75%ってビミョーだな」

「ハハハハハハ」

直樹は笑いながらうちを後にした。心臓の音はまだなっている。


 次の日、僕は、介司と会った。前回、紗彩が言ってた、介司との色々を知りたい。

それが、直樹の恋に生きるかもしれない。

「なあ介司、ちょっと話す時間あるか?」

「は?あるけど、何話すの?」

「南紗彩と小学生の同級生だったんだろ?」

「うん・・・」

「恋してたんだろ?」

「ああ。してたけど・・・。それが何か?」

「何かって。ちょっと聞かせてほしいんだよね。いいかい?」

「そうだな~。ちょっと今日はやめとくわ。それじゃな」

「そっか。分かった。仕方ない。でも、気が向いたら話してくれよな」

「分かった。気が向きそうにないけど」

「・・・・・」

そして、橋立介司という紗彩の初恋の相手と別れた。介司は、多分何か苦い経験が

あって言い出さなかったのだろう。それなら、無理に問い詰めない。でも、話して

くれたら結構僕も楽に何のにな。


 介司は特に何も教えてくれなかった。それなら、今度は紗彩に聞こう。紗彩は、

介司の恋を介司と同じくらいよく知っている本人なのだから。

「なあ紗彩、介司との恋を詳しく聞かせてくれないかな」

「嫌よ。思い出すだけで嫌な出来事。失恋は思い出したくないし、

話したくないんだ。はっきり言って、話す価値もない。だから、聞かないで」

「うん、分かった。聞かないよ。了解です」

「それならよかった!!」

紗彩の顔がパァッと明るくなる。それほど話したくないことなんだ。だからもう

聞かないことにした。彼女は、僕の大切な愛人なのだから。

「それじゃあ、ちょっと聞いてくれる?昨日さ、私ね。ちょっと考えたの」

「何を?」

「決まってるでしょ!どこでデートするか!!付き合い始めてちょっとしかない

けど、善は急げでしょ。だから、考えたんだよね」

紗彩が考えたデートとは、市内の公園、商店街、そして、ゴールは人気のカフェ、

「HOT温まるカフェ」で優雅に紅茶を飲む・・・というもの。

「商店街では、プリクラね!自撮りもいっぱいしたいから、カメラちゃんと用意

しなきゃ。いつにする?いつ時間空いてる?」

第一印象だったクールな感じのかけらはどこにもない。でも、それはそれですごく

かわいかった。

「それで、関係がどんどん発展して行ったら・・・セッ〇スとかできたらなぁ」

おいおい、セッ〇スはやりすぎだろ。でも、僕はちょっとそんなのもいいなぁとも

思った。そのせいで、その陰にあった眼光には気が付かなかった。

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