5日目

7時過ぎに起きて身支度をする。

昨日洗濯をした衣類を整理していると、洗濯されてボロボロになったフリーきっぷを発見して青ざめた。

慌ててネットでこれでも使えるのかどうかを調べるが、なかなか同じような事例が出てこない。

おそらく有効期間と切符の名前が読み取れれば使えると思うが、念のため札幌駅の窓口で確認をしようと思う。


今日は札幌市電にも乗ろうと思う。

札幌市電は環状運転をしていて、どれだけ乗っても一律200円である。

1日乗車券は500円で売っていて、さらに土日限定で大人と子供1人ずつまで乗り放題になる券が370円で出ている。

かなり意味不明な価格設定だが、それで黒字なのだから恐ろしい。

ホテルのすぐ近くにある東本願寺前の停留所で、ちょうど停まっていた外回りの電車に乗り込む。

乗ってから気づいたが、これでは札幌駅方面へ遠回りであった。

正直切符のことが気が気でなかったが、乗ってしまったものは仕方ない。

停留所の液晶には全体の路線図と電車の現在位置とその車両の種類まで表示されている。

流石に札幌と函館とでは金のかけ方が違う。

それとは対照的に石山通手前にある道路の案内板がとんでもなく古かった。

古い看板は色味もそうだがまず自体からして古い。

電車事業所前手前の交差点に車庫へのポイントがある。

本線は右へ直角に曲がり、車庫への線路はすこし直進した後右へ曲がりながら門の中へと入っていく。

この辺りで中心部まで半分を過ぎたからだろうか、明らかに人が増えてきて西線11条からは立っている人も多くなってきた。

ちょくちょく外回りと内回りをつなぐ渡り線があるが、函館ではこれが軒並みスプリングポイントであったのに対してこちらは皆普通のポイントである。

この辺りもまた流儀が違う。

西4丁目でほとんどが降りていき、私も例に漏れず降りる。

札幌駅まで歩きみどりの窓口で洗濯した切符が使えるかどうか訊いた。

フリー切符の再発行はできないと言われたがそれは知っている。

問題はこのまま使えるのかどうかだが、券面の金額や有効期間の文字が読めるので大丈夫だろうということで一安心した。


札幌に勤めている高校の時の友人と落ち合わせる。

これから2人でニッカウイスキーの蒸留所へ見学に行く。

快速エアポートで小樽まで行き、乗り換えて余市に着いた。

土曜日ということもあって小樽からの2両編成のディーゼルカーはちゃんと席が埋まっていて立っている人もかなりいた。

平常時に比べればまだ観光客がいないはずなのにこの乗車率ならば、なかなかバス転換というのも厳しかろうということで、新幹線開業後の安心材料がすこし増えた。


余市ではまず友人に連れられて海鮮丼をご馳走になる。

函館で食べたものよりも美味しいし安い。

やはりこうあったものは地元の人の方がよく知っている。

いつかこちらもお返しをせねばと思うが、来年からは東京に行くというのでお互い仕事に忙殺されない限りは機会があるだろう。

見学の時間までまだ時間があるので、駅の周りを一周する。

跨線橋の下にある安全側線が余市臨港軌道の後にも見えるが、戦前に廃止になったとあって地図を見ても確信が持てない。

駅前に戻りまだ少し時間があるので蒸留所の隣にある道の駅へ行く。

余市宇宙記念館が併設されているが、余市と宇宙の関連が思いつかない。

調べると宇宙飛行士の毛利衛さんの出身地だからということであった。

蒸留所の見学はなかなか面白く、特にこの日は実際に蒸留器が稼働していて、投炭の様子やかまどの蓋を開けた時の熱気を感じることができたのは貴重な体験であった。

今回が3回目という友人も、実際に稼働しているところに当たったのは初めてということなので運が良かった。

見学後には無料で試飲ができ、さらに有料で終売となったり限定品で今は手に入らないウイスキーを飲むことができるということで、計3杯飲んだ。

酒の良し悪しがわかるような舌も経験も持ち合わせてはいないが、飲み比べるとものによってこうも変わるものなのかということは体験できた。

この日は終日快晴で風もなく、絶好の行楽日和であった。

こんな日はただ外を歩いているだけでも楽しい。

酔って気が大きくなり、売店で1万円分も買い物をしてしまった。

これで今後数年酒を買うことはないだろう。

駅に向かって歩いているとリキュールの試飲をやっている店がありつい入る。

地元の果物を使っているということでどれも美味しい。

気になった桃のリキュールを買ってしまう。

前言撤回だが、これをもってもう買うことはないだろう。

列車に乗り小樽で一度改札を出て手宮線の廃線跡を歩きつつ埠頭公園の方に歩く。

小樽の鉄道博物館に行こうかとも思ったが、すでに当たりが暗くなっている。

そそくさと駅に戻り18時発のエアポートで札幌に戻った。

車内では隣で友人が船を漕いでいる。

車窓は真っ暗で何も見えないが、たまに波飛沫だけが白く映っていた。


駅で友人と別れ、ホテルに向かう。

眠いことは眠いが腹も減っている。

ホテルに荷物を置いて近所のラーメン屋に入る。

中はカウンターが7席あるだけの小さな店でしまったと思ったが、出てきたものはほっとするような味の味噌ラーメンで生姜が効いていてうまかった。

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