4日目

3時頃に目が覚める。

なんとなく地震があった気がしたのでTwitterを開くと、全く関係ないが首都圏で大きな地震があったという。

なんだか自分がいないときに限って居住地周辺で地震が起こることが多い。

来年から私も川崎に住むのですこし心配になる。

5時くらいまで起きていたが、やはりまだ眠いので目を閉じる。

目が覚めると7時を過ぎていた。

どんどん起きる時間が遅れている。

もう早朝に起きる必要もないが、すこし勿体なさを感じた。

今日は新得まで行って根室本線の代行バスに乗ろうと思う。

時刻表を見るとバスは朝にあったきり14時頃までない。

ただ新得でいろいろ見て回ろうと思ったのでむしろちょうどいい時間であった。

初日には食べられなかったホテルの朝食を食べ駅へ向かう。

連泊なのでリュックはホテルに置いて身軽だ。

10時半ごろ発のとかちに乗るつもりだが、1時間前に駅に着いた。

特にすることもないのでホームのベンチに座ってこの文を書いていると、10時発の旭川行きライラックがやってきて大勢乗り込んでいく。

端のホームでは普通列車の解結作業が行われている。

今は朝と昼のちょうど境目の時間だ。


とかちが入線してきた。

試しに指定席の埋まり具合を券売機で確認していたが、結構混んでいた。

もし自由席も混むようなら急いで指定席を取ろうと思ったがそれほどでもない。

今回使っている北海道フリーパスは6回指定席を無料で使える権利がついているが、この調子では一度も使わずに終わりそうだ。

札幌を出ると強烈な陽射しにたまらずカーテンをすこし下げる。

昨日とは打って変わってとても天気がいい。

南千歳からかなり乗ってきて相席が発生するほどになった。

空港からの観光客だろうか、ほとんどが私服の高齢者だった。

早速斜め前の爺さんが缶酎ハイを開けて一杯やっている。

隣では老夫婦がみかんを剥いている。

あまりにも典型的すぎる。

あまりにも早朝の特急にばかり乗っていたから気づかなかったが、日中のまともな時間はちゃんと乗車率がそれなりなようで安心した。

滝の下信号場でおおぞらと交換する。

チラリと見えるダム湖はかなり堆砂が進んで干潟のようになっていた。

新夕張と占冠で数人ずつ降りていった。

占冠では近年再々再度人口が増加しているらしい。

なんとか頑張って欲しいと思う。

右手のほとんどの座席で眩しさからかカーテンを全部下ろしている。

この車窓を見ずして何のために北海道へ来たのかと問い詰めたい。

トマムで3分の1ほどが降りた。

新狩勝トンネルに入り、左側の窓に貼り付いて上落合信号場で根室本線が合流するのを見る。

特急の先頭と最後尾の正面窓は侵入禁止にされ、根室本線が死んでいるために普通列車も通らない今、上落合信号場を正面から見る術がないのが非常に残念である。


新得について用を足そうとトイレに入ると、この数年で改築したような新しさだった。

駅隣接の商工会館で自転車が借りられるというので、すこし旧線の方へ行ってみることにした。

久々に乗る自転車にバイクの癖が抜けず、止まるときにあるはずのないクラッチを握ろうとして失笑する。

駅前の道を狩勝峠方面へ進んでいくと、突然左手にD51 95と旧線跡の遊歩道が現れた。

新線は築堤の上にある。

旧線は新線が左手にカーブするまでは同じルートであると思っていたが、どうやら川を渡ったところですでに分かれていたらしい。

実際に見なければ分からないことがあるものである。

ここからその遊歩道を進んでいったが、路面は落ち葉や枝が散乱しているし、苔むしていて後輪が滑って走りにくいことこの上ない。

たまらず隣の国道へ出る。

舗装のありがたみを実感した。

それでもずっと上り坂で疲れるし、これ以上の見どころは旧新内駅や狩勝信号場まだない。

流石にそこまで行っていたら日が暮れてしまうので新線と分かれてしばらくしたところで引き返した。

まだバスの時間まで20分ほどあるので、ホームへ出て駅を見てみる。

流石に旧線時代の遺構が分かるわけではないが、なんとなくホームの端から端まで歩いてみる。

駅前の広場には投炭する機関助士の像と北海道の重心地のオブジェ、それと新得駅のwikiには載っていないが希望という銘板のついた謎の裸婦像が置いてあった。

代行バスがやってきたので乗り込む。

大型の観光バスである。

私を含めて7人を乗せて発車した。

オタクしか乗らないだろうと思ったが、普通の観光客風のおばちゃんが2人乗っていたのは意外であった。

バスは先ほど自転車で通った国道をそのまま進んでいく。

やがて左手に狩勝実験線時代に使っていたと思われる鉄塔が見えてきたので写真を撮っておく。

他に写真を撮っている様子がない。

もしかしてオタクは私だけなのか。

やがて坂が急になって旧線跡が離れていく。

旧線はここからオメガループの連続で勾配を稼いでいくが、こちらは一直線だ。

すこし登ったところで国道を外れ代行バスなのにサホロリゾートホテルへ寄り道をする。

当然乗降客はない。

国道に戻って登坂車線をゆっくり登っていく。

この道をバイクで走ったらさぞ気持ちいいことだろう。

絶対にまた来ようと心に決める。

徐々に眺望が良くなってきて、木々の合間から十勝平野が見えるようになってきた。

やがて峠の頂上に差し掛かると一気に遮るものがなくなって数秒間十勝平野を一望することができた。

なるほどこれは日本3大車窓と謳われるだけはある。

正直線路が不通になっていなければ、わざわざここまで来ようとは思わなかった気がするので、その点では良かったかもしれない。

それはそれとして復旧はして欲しい。

麓まで下りると落合駅をすこし通り過ぎてから駅への道に入っていく。

駅の正面からまっすぐな道もあるがそこをなぜか通らない。

駅は線路やホームが見事に草に覆われている。

ここからはほとんど線路に並行して走っていく。

途中に見える踏切は遮断桿が外されていて、やる気のなさが露わになっている。

道中隣の線路をチラチラと見るが、駅で見たほど線路に草はない。

日当たりの問題であろうか。

次の幾寅は鉄道員のロケ地ということで、そのアピールが前面に押し出されている。

駅名も幾寅ではなく幌舞駅となっていた。

幾寅からは国道を離れてダム湖対岸の線路に沿った道を進む。

途中踏切を渡るが、一応まだ廃止されてはいないので一時停止していた。

踏切を渡るときに左右を見ると、線路のど真ん中に小さな杉の木が生えている。

本当にこのまま終わってしまうのかと残念に思う。

東鹿越に着くと、4人ほど待っていた。

何だまだ地元の需要があるじゃないかと思ったが、それことこの程度バスでもなんら問題はない。


単行の滝川行きに乗り込む。

運転士がバスの運転士へ向けて手で大きな丸を作って何やら合図をしている。

東鹿越の駅は本来廃止予定であったが、何の因果か仮の終着駅となったことで生き延びた。

それまで1人以下/日だった乗降客が一気に50人ほどにまでなったのだからどうなるかわからないものである。

だがつまりいつ富良野から先は全部廃止と言われてもおかしくないということでもある。

駅を発車し車内が暑かったので窓をすこし開けるが、思ったよりも風が強いし冷たい。

この前帯広から普通に乗った時はそんなに強くなかったのだが。

つまりあちらがひどく遅かったということか。

次の金山駅は優等列車が通っていた時代の名残かホームの長さに対して有効長がやたら長い。

北海道内の交換可能駅は大体そんな感じであるが、他はまだ特急や貨物のために意味があるとしてもここは今や完全に無用の長物と化している。

そもそもこのままでは交換設備自体がいらない。

そのうち取り払われそうである。

ならばいっそ富良野から一閉塞として札沼線のようにスタフ閉塞にして欲しい。

富良野に機関車がいて驚くが、そういえば貨物の取り扱いがあるのであった。

まっすぐ伸びていく富良野線と分かれてこちらは左へカーブしていく。

上芦別で乗っていた高校生が皆降り、芦別でまた6人ほど乗ってきた。

言ってはなんだが立ち振る舞いが頭の悪そうな高校生たちである。

赤煉瓦の駅舎が立派な赤平駅で高校生が降りていった。

赤平もまた3つの炭鉱専用線が接続していた駅で、左手に広い空き地が広がっている。

間もなく滝川というところで、夕焼けが綺麗になってきた。

増毛の方の山へちょうど太陽が落ちたところで、オレンジの空に山のシルエットがくっきりと見えて見事である。

反対側には大雪山があるはずだが、建物が邪魔で見えなかった。

行き止まりの1番線にゆっくりと入っていくと、隣に岩見沢行きの普通が入ってきた。

さらに接続よく札幌行きのライラックがきてこの普通より先発していくという。

もしライラックが混んでいるようなら普通の方に乗っていこうと思う。

やってきたライラックの自由席はガラガラであった。

滝川で1両に5,6人乗っていくようだが、これなら構うまいということで乗り込む。

そういえば北海道に来てから初めて電車特急に乗った気がする。

こんなに静かなものだったかと思った。

岩見沢でかなり乗ってきたらしく、出発してしばらくしてから後ろの車両から彷徨い歩いてきて端の端の私の隣にまでやってくる人がいた。

この旅で初めての相席になった。

ここらで猛烈に腹が減ってきた。

そういえば朝食以来お茶しか口に入れていない。

今夜はスープカレーを食べようと店を調べる。

するとカレーの写真で余計に腹が減ってきた。

厚別で普通列車を追い抜く。

白石を通過したところで鉄道唱歌のオルゴールが聴こえた。

もう少しの辛抱だ。


札幌に着くと大急ぎですすきの方面へ向かう。

泊まっているホテルの近くに良さげなスープカレー屋を見つけたのでそこに入るつもりだ。

とにかく腹が減っている。

地図が示す場所まで行くと確かに店があった。

しかし店の前が暗い。

まさか休みなのかと愕然としたが、扉の前にはOPENの看板がある。

単純に店の中の光が全く外に出ないだけのようだ。

入り口を入るとなんだか怪しげな像がたくさん置いてある。

イメージとしては、動物のお医者さんの漆原教授が好きそうなタイプだ。

席に案内されチキンのスープカレーをご飯大盛りで頼んだ。

色々な種類の素揚げされた野菜とほろほろの鶏肉が入っていて美味しかった。

しかしジャガイモは入らないのが普通なのだろうか。

ホテルに戻ると溜まっている洗濯物を全てコインランドリーにぶち込んだ。

洗濯に30分と乾燥に1時間かかる。

とっくに眠たいがこのままでは明日着る服もないので我慢して起き続けた。

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