3日目

よほど昨日疲れたのか6時前まで寝ていた。

そそくさと準備をしてホテルを出る。

何はともあれ主目的の朝市へ行く。

道中函館市電が見え、後で乗ろうかと思った。

朝市の通りをぐるりと回ったが、食い物屋は普通に高い。

朝市だからといって別に安いというわけではないらしい。

一度離れて摩周丸の方へ歩く。

そういえば摩周丸の見学はやっているのだろうかと調べる。

8時半から見られるらしい。

ひとまず先に飯を食うことにする。

どこに入っても大した差はなかろうということで適当な店に入る。

一昨日の夜と同じいくらとホタテとウニの丼を頼んだ。

流石にちゃんと美味しいが、一昨日ほどの感動はなかった。

ただ付いてきたイカの刺身と岩海苔の味噌汁は美味かった。


摩周丸の見学が始まるまで駅のベンチで時間を潰す。

先に市電に乗ろうかとも思ったが、ちょうど通勤通学の時間に当たるのでやめておいた。

摩周丸の中は各種資料や設備の見所が多く、思ったよりも長居をしてしまった。

特に操舵室の各設備が見た目にはちゃんと動くようになっていたのが驚きだった。

これが鉄道の保存車両となると大体どこも動かないように固定されているものだが。

ただ一階の鉄道車両甲板が見られないのは残念であった。

いつか生で見られる時が来ることを祈る。


いい時間となったので函館駅の観光案内所で市電の一日乗車券を買う。

一番遠くまで乗っても260円だが往復プラス分岐先も乗るとなると600円の一日券の方が安い。

市電に乗りに函館駅前のホームに行き、ちょうど来た谷地頭行きの電車に飛び乗った。

摩周丸でもそうだったが、10時を過ぎた途端にあたりに修学旅行と思しき小中高生が大勢歩いている。

かなり騒がしいが来た道じゃということで温かい目で見ておく。


函館駅前を出て次の市役所前と魚市場通りは交差点を挟んで千鳥にホームがあった。

いずれも信号を超えた先にホームがある形になっている。

十字街で分岐して左へ曲がる。

路面電車も車のように信号を見切り発車することがあって不思議な感じがする。

丘の頂点にある青柳町を越えると猛烈な坂を降って谷底の終点谷地頭に着いた。

降りて少し駅の周りを歩いたが、なんの変哲もない住宅地であった。

仕方ないのですぐに引き返そうと駅に戻ると、目の前で発車していく電車が見えた。

駅の時刻表を見ると次は14分後だという。

日中はずっと14分間隔で運行しているようだ。

なぜそんな中途半端なのか理解に苦しむ。

少し遅れて次の電車がやってきた。

架線間に速度標識があるのに気づいた。

電車が接近しても容赦なく右折していく車が多い。

それがここの常識なのかは知らないが、路面電車がある街で車を運転する自信がなくなった。

函館駅前で右に曲がる。

道床のコンクリートがボロボロで補修工事をしていた。

歩行者用信号が点滅している段階で信号待ちを決めていた。

そちらはしっかりしている。

ちょうど信号で路線バスと並んだ。

あちらとスピードはそう大差ないが、すこし早着したのかしばらく駅に停まっているうちにバスは先に行ってしまった。

こちらが横断歩道点滅で停まったのに対しバスは黄色信号を突破していく。

かわいそうになってきた。

今度はパトカーが並走している。

ふと路面電車が信号無視したらパトカーに止められるのかと思った。

ちゃんと道交法で取り締まれるらしい。

駒場車庫前で右手に車庫が見える。

庫内から出るときにはスイッチバックをしないといけない配線になっていて、狭さに苦心している様子が伺える。

終点の湯の川にに到着。

すぐに戻ろうと思ったが、これはそのまま元の谷地頭行きになるようで、函館どっく行きを待つことにした。

いつのまにか時刻は昼になっている。

やってきたのはかなり古さを感じさせる電車で、812と書かれている。

床が板張りで吊り掛けのモーター音が凄まじい。

よくぞこんな車両たちを平常で運転してくれているものだ。

五稜郭公園前で杖をついたおばちゃんがやってくるのを待つ。

ふと路面を見るとここだけレンガ敷きであった。

ここで左へ曲がるが昔は直進していたらしい。

特に痕跡は分からなかった。

千代台からの長い直線で速度が出ると、車体がねじれるように大きく左右に動揺した。

今にも脱線するのではないかとヒヤヒヤしたが茶飯事なのかもしれない。

函館駅前に差し掛かったところでZOOMのミーティングの時間が迫ってきた。

実は研究室の顔合わせがオンラインでなされることになっている。

洞爺駅の待合室なんか人がいなくて良かったからそこでやろうかと思っていたのに市電に乗っている間に時間になってしまった。

終点の函館どつく前に着く前にはじまってしまい慌ててイヤホンを耳につけて参加する。

そのうち自己紹介の順番が回ってきたところでやっと到着し、大急ぎで降りて目の前の公園のベンチで簡単に自己紹介を済ませた。

おかげで分岐してから先を何も見ていない。

精々帰りによく見るとしよう。

他の人の紹介を聞き流しながらすこし周りを歩く。

ドックの中を見られないかと思ったが敷地の外からでは大きな建物しか見られない。

仕方なく海沿いを歩き、大きな防潮堤の脇を通ってすこし海を見た。

なんだかいやによく透き通っている気がする。

ミーティングが終わり戻ろうと次の電車を待っていたが、時刻表を見るとさらにその次が低床車と書いてある。

おそらく途中ですれ違った新しげな連接の車両だろう。

どうせだから全タイプを制覇しようと一本やり過ごすことにした。

しかし次に来たのも普通のタイプであった。

このままいつ来るか分からないものを待っていても仕方ないし、いよいよ空腹が限界を迎えているので大人しく乗り込む。

次いつ来るかは知らないが、なくなっているということはないだろう。(慢心)

ここから乗り込んだのは私の他にもう1人だけであった。

見た限りこの路線の需要がそれほどあるとは思えないが、ほかにバスが走っている様子もないし独占状態ならば安泰か。

次の大町を過ぎたところでまた軌道内の工事をしていた。

線路の交換だろうか。

結局分岐点の十字街まで1人も乗り降りしなかった。

乗っていて思ったが、路面電車は鉄道の利点をことごとく殺した交通手段としか思えない。

大量輸送ではなく、はやくもないし安全性も低い。

よくまだ各地の都市で生き残っているものだと思う。

函館駅前に着いた。

ずっと終点だけで降りていたので、降車ボタンを押すのを忘れていた。

扉が開いたときに運転士さんに声をかけるとすこし不意をつかれたようだった。

申し訳ない。


今日はまた札幌に泊まろうと思うが、次の北斗の時間がわからない。

電光掲示板を見るとまだ40分くらいある。

適当に店で昼飯を食べようと駅前横丁の中の油そば屋に入る。

2日連続だが気にしない。

しかしこれが大外れであった。

前回たまにとんでもないものを出す店があるという話をしたがまさにそれであった。

さっさと完食して店を出る。

怒りに任せて駅弁やで身欠きニシン弁当を買う。

そのうち腹が減ることを祈る。


14時54分発の北斗で函館を出る。

まさかこの時間まで函館にいるとは思わなかった。

まだホームを出切らないところで急行色のキハ40とすれ違う。

いさりび鉄道にはあんなのもあるのかと驚く。

上磯まででも乗れば良かったかもしれない。

五稜郭でEH800の貨物とすれ違う。

久しぶりに電気機関車を見た。

次の七飯で信号待ちで停車。

特にすれ違うものはなかった。

藤城支線と分かれる。

すぐに新函館北斗に停車。

指定席の方には結構並んでいたが、自由席にはほとんど乗ってこなかった。

仁山駅ホームにある歓迎の看板が日に焼けて薄れているのが寂しい。

小沼の湖畔を進むと分かれた支線がこちらの下を潜って左から合流してくる。

すぐに大沼で貨物とすれ違いまた右手へ砂原支線が分かれていく。

大沼公園を出て森に到着。

その後検札がやってきてやっとすんなりとした受け答えで札幌までということができた。

海の向こうには見事に羊蹄山が見える。

この辺りからは正直前日に乗ったばかりなので今夜のホテルの予約をしたり、ソシャゲをしたりしていた。

ただ小諸に誰もいないのは確認した。

東室蘭でそれなりに乗ってきて2人掛けにほぼ1人ずつ座るくらいになった。

ここで弁当を食べる。

ご飯の上にニシンの身とかずのこが半分に分かれて乗っている。

小学校の頃毎年決まって北海道へ出張に行っていた父親が買ってきたことを思い出す。

当時はやたら味の濃い弁当だなと思っていたが、今食べるとご飯の進む美味しさだ。

好みが変わったのか、舌が鈍ったのか。

苫小牧でまたどどっと乗ってきて一部2人掛けが埋まるほどになった。

見ている限り函館ー札幌間の需要が思ったよりも感じられない。

そもそも道内の都市間輸送の鉄道のシェアはどうなっているのかが気になって調べると、北海道経済連合会の調査資料が出てきた。

そもそも各方面へ自家用車のシェアがのきなみ50%を大きく超えている。

唯一釧路方面だけは自家用車を30%以下に抑えて鉄道が50%以上になっている。

公共交通機関に絞ればほとんどの都市間で70〜80%のシェアを確保している。

しかし稚内方面は50%台、網走方面に至っては40%を切る状況で本当に苦しいということがわかった。

一瞬窓に雨粒がついたがすぐに上がった。

よく分からない天気が続く。


札幌に着いた。

さっき食べた弁当で腹は満杯なので、さっさとホテルに行くとしよう。

3日前は途中で雨に降られたが、今日こそは地上をのんびりと歩きたい。

先日乗りも明らかに寒い。

大通公園のビルの温度計が16℃を指していた。

流石にここのところの食生活に危機感を抱いたので、多少の足掻きとして道中にあったスーパーで野菜ジュースを買う。

目に入った栗コロッケも買ってしまった。

本末転倒である。

翌日はどうしようかと考えながら眠りについた。

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