1日目

この日も自然と4時に起きた。

特に予定は決めていないが、とにかくこの度の主目的である釧網本線に乗るため釧路方面に向かう。

途中から普通列車に乗るのもいいかもしれない。

まず何時にホテルを出るのかも決めていないがとりあえずシャワーを浴びる。

髪を乾かしながら時刻表をめくると、朝一の釧路行き特急おおぞらが6時48分発と書いてある。

6時半からと言われたホテルの無料朝食に後ろ髪を引かれるが、そのために出発時間が遅れるのもアホらしい。

おとなしく6時前にホテルを出た。

北海道の朝はまだ寒いというほどでもないが関東とは空気が違う。

天気は昨日の夜パラパラと雨が降っていたが、今日は回復傾向のようで薄日がさしている。

朝食は適当に駅近くの店で済ませようと思ったらどこもやっていない。

調べるとむしろホテルがあったすすきの近辺の方がよほど店がある。

戻るにはもう時間がないので朝食は抜きだ。

やはり一度どこかで降りるとしよう。

おおぞらの自由席は当然のように空いていた。

5両編成のうち4,5号車が自由席であるが、それぞれ座席の仕様が異なっていた。

4号車は新しいヘッドレストがついているもの。

5号車は従来の座席、ただし4号車にはないフットレストが付いている。

頭が足のどちらかが休められる仕様のようだが、どちらかと言えば頭を休めたい人の方が多かった。


右手に札幌貨物ターミナルを見ると函館本線の旭川方面が左手に分かれていき新札幌に到着する。

検札がやってきてフリーパスを見せるら。

どこまでいくのかと聞かれまだ決めていなかったので少し考えて帯広までと言ってしまった。

目的地を聞いて考えられる車掌も困るであろうが、こちらも何も決めていなかったのでお互い様である。

ともかく帯広で降りることに決まってしまった。

南千歳では2番線に停まった。

記憶では南千歳の2,3番線は対面乗り換えのために空港線の列車が逆侵入してくる面白い方式だったはずだが、どうやら昨年のダイヤ改正で辞めてしまったようだ。

南千歳を出ると左へカーブして石勝線に入る。

トンネルとトンネルの間に信号場があり、よく維持できると感心する。

しばらくして室蘭本線の複線を跨いで左手に見ながら合流する。

その複線を一つ石勝線に分けてやってほしいと思う。

程なく追分に到着。

大量の石炭貨物が行き交った広い構内には生い茂る草と枕木が置いてあるだけであった

追分を出てすぐに室蘭本線が左手へ分かれていく。

こちらも右へカーブし道路を潜ると広い牧場があり遠くに牛が屯しているのが見えた。

その後もいくつもの綺麗な緑の草地を要した牧場があり、これもまた北海道らしい風景だと嬉しくなる。

夕張川の鉄橋を渡る。

この鉄橋はダム湖の上を通っているはずなのだが、水が全然溜まっていない。

大丈夫なのだろうか。

新夕張の手前にある十三里信号場を過ぎたあたりでドアの窓から右側の車窓を見た。

この辺りで夕張線の旧線跡が分かれていくのが見えると思ったからだ。

トンネルに入る直前で下の方へ分かれていく比較的平らな場所があったので、おそらくそれがそうなのだろう。

新夕張で降りて夕張線の遺構を少し探索しようかとも思ったが、あまりにも駅に何もないためそのまま素通りした。

いつかバイクで来た時に改めてゆっくり見ようと思う。

夕張付近から車窓の木々が色づいてきた。

この度の終わり頃には見頃になるだろう。

それにしても信号場が多い。

トンネルを抜けるごとにあるようだ。

CTC化がされていなければとてもやっていけないであろう。

清風山信号場でとかち2号とすれ違う。

向こうは停めておいてこちらは通過だ。

元急行との格の違いを見せつけた形である。

占冠を通過し滝ノ沢信号場で貨物列車を追い越した。

コンテナが満載であったが、そのうちどれほどが空なのか気になる。

トマムに停車。

ここで5人ほど乗ってきて驚く。

紅葉狩りの客だろうか。

前の席に座った人はトマムから新得まで乗るという。

新夕張新得間の特例適用の様子を初めて目撃した。

新狩勝トンネル内で根室本線が合流するのを見届けトンネルを抜けると左手に新得の町が見える。

ここからΩループを駆使して坂を駆け降りていく。

その道中に道総研畜産試験場という看板があった。

畜産試験場とは具体的にどんなことをしているのだろう。

新得に停車。

札幌を出てからちょうど2時間くらいであるが、そんなに乗っている気がしない。

常々狩勝線の後を見に行きたいとは思っているがその足がない。

幸い早々どうにかなるような廃線跡でもないので、これもまたいずれバイクで来た時に巡ろうと思う。

帯広が近づき左手に工場が立ち並ぶようになった。

わざわざ線路の近くに工場があるということは当然専用線があったということで、帯広貨物駅まで専用線分の用地が遺されている。

今般の時流に則って考えればこんなにいい立地にあってなぜ専用線を使わないのか理解に苦しむが、未だに専用線を廃止する会社が相次いでいるのはもはや犯罪的である。

お国にももう少しテコ入れをしてほしい。

降りると言ったからにはちゃんと帯広で降りねばなるまい。

帯広の改札は上下線のホームで完全に分たれており、改札内で上下線ホームの行き来ができなくなっている珍しい構造だった。

さて、この旅の主目的は釧網本線乗車だが、それと同じくらい重要なこととして前回ろくに食えなかった北海道の美味いものを食べるということがある。

というわけで帯広の名物はなんだと調べたら豚丼が出てきた。

海も遠いし肉だろうとは思ったが豚であった。

私が入った店に書かれていることによれば、北海道開拓自体にこの辺りでは、牛は牛乳、馬は馬力、豚は豚肉という畜産の分担があって、肉といえば豚であるという文化だそうだ。

その豚丼は脂が乗っていて美味しかった。


やっと飯にありついたところで帯広からは普通列車に乗ることにした。

10時28分発キハ40系2両編成の釧路行きは、ボックスシートに互い違いに1人ずつが座る程度の乗客を乗せて帯広を発車した。

発車直前の10時23分に新得からの普通列車がそれなりの乗客を伴って接続よく到着した。

が、ほとんど帯広で降りたようで、こちらに乗り込んでくる客はいなかった。

札内を過ぎてしばらくすると右手に真っ白な鳥居が見えた。

チラリと見えた看板には金刀比羅神社と書いてある。

間も無く幕別に着くと対向の普通列車が停まっている。

あちらは2両に3人しか乗っていない。

こちらも釧路に着く頃には同じ運命かもしれない。

池田が近づいてきたので左の席へ移る。

左手から地北線の線路跡が近づいてくるのがわかった。

ふるさと銀河線がまだあった頃父親が出張の折に車輌のチョロQを買ってきた覚えがある。

おそらくまだ実家の机の中に入っているはず。

地北線の廃線跡を航空写真で追うのに夢中になっていたら浦幌に着いていた。

ここから10km以下だった駅間が広がり、間に信号場が出てくるようになる。(駅からの格下げを含む)

早速次の常豊信号場で停まり普通列車と交換した。

この時運転席まで様子を見に行ったら先頭車両には乗客が1人もおらず、2両目にも私を含めて3人しかいなかった。

完全に幕別で会った対向列車と同じ有様である。

厚内で特急と交換のために10分弱停まるというのでホームに降りてみた。

ワイシャツ1枚では肌寒い。

ホームは砂利で列車が滅多に入らない3番線だけに黄色い点字ブロックが置いてあるという不思議な駅であった。

厚内を出るとずっと内陸を進んできた中で遂に海が間近に見えるようになる。

その後一時内陸側を進み音別川を越え町っぽいものが見えてくると音別に停まる。

音別には大塚製薬の工場があり、オロナミンCの看板をつけた倉庫が建っている。

その関係で貨物扱いがあったはずなのだが、貨物の機材が何もない。

おかしいと思ったら2019年で貨物扱いをやめていた。

そうやってポンポンやめてるからより使う人がいなくなるんだぞと言いたいが、ほぼそんなことを言って採用試験に落ちたのでどうしようもない。

また海の近くに出ると砂浜に大量の流木が打ち上げられている。

先日の台風16号の影響かもしれない。

海を挟んだ進行方向2時の方角に釧路が見える。

白糠線があった白糠駅を過ぎる。

この辺りの惨状を見るにつけ貨客混載を復活させたらどうかと思い始めた。

せめて宅急便屋がもっと鉄道を使ってくれたら良いのだが。

庶路を過ぎると珍しく隣の道路を走る車よりも速く走っている。

噂をすれば宅急便の大型トラックが目に入り恨めしくなる。

大楽毛で10人ほど乗ってきた。

地元の高専生か。

彼らが使ううちはなんとか保つのだろうか。

何もわからない。

俄に港湾の工業地帯らしき雰囲気が出てきた。

間も無く新富士に着く。

なぜこんなところに富士の名がついているのかといえば、その昔富士製紙の工場への専用線を分岐するために作られた駅だからである。

ちなみにその製紙工場は既に無い悲し過ぎる。

現在では釧路貨物駅として使われているのでまだ救いがある。

釧路に着いた。


ここから根室方面へ行って厚床駅の標津線跡を見ようかとも思ったが、それよりも釧路駅が移転していった跡を辿ってみようと思った。

が、ここで釧路の手頃な宿が軒並み休業していることが判明した。

流石に私の財力で宿に一万も出してはいられないので釧路散策は諦めて早々に網走へ行くことにした。

釧路14時16分発釧網本線普通網走行きはキハ54系の単行列車でなんと座席が転換クロスであった。

ボックスでないのを残念に思ったのも束の間その座席にほぼ1人ずつ座っているような状況で、想像していたよりもはるかに乗客がいた。

こちらの方を2両編成にしてほしい。

東釧路までは根室本線を通り、ここから左へ分岐する。

次の遠矢駅までは住宅地の中を進みおばちゃんが1人降りて行った。

1人とはいえ地域の人がちゃんと違っていることに安堵する。

後の大多数はどこまで行くのか。

みんな次の釧路湿原で降りてくれないかと祈りながら乗っていると、列車は山の裾野に沿って大きく右にカーブし始めた。

すると左手に湿原が広がっている、はずであるが林が邪魔で見えない。

湿原を撮ろうとカメラを構えているおじさんもいたが、おそらく湿原駅を越えるまで見えることはないだろう。

ここから茅沼までの区間では断続的に湿原を見ることができた。

紅葉と湿原が合わさって綺麗というわけではないが、こんな風景が日本にもあるのかという不思議な感想を抱いた。

この区間で10人降りて1人乗ってきた。

ここから湿原に別れを告げ、一転牧草地帯となる。

本州で四角に整理された土地を見れば田んぼだと思うが、北海道ではそれが牧草地帯であるということがわかった。

標茶を過ぎるとしばらく右側に標津線があった分の用地が並んでいる。

さらに進むと右に分かれていくようにそこだけ盛り上がった土地と並んだ杉の木が見えた。

なんだか廃線跡の話ばかりしている。

タイムマシンが欲しい。

この辺り牧草地のど真ん中に電柱が建っていて面白い。

そこだけ刈れずに草が伸びている。

美留和駅を出てしばらくして鹿と衝突したということで急停車した。

まあよくある話である。

昨年花咲線に乗った時には同じ列車で3度もぶつかったし、ぶつからないまでもしょっちゅう減速していた。

結局鹿は後方の線路間に横たわっており、ブレーキ試験ののち発車した。

川湯温泉で再度点検し発車。

ここには御料地があったので貴賓室が設けられていたという。

ここまでお召し列車が来たことがあったのだろうか。

もう少し本数があったら降りて見物したかった。

おそらく線区内で一番長い駅間距離とさらに山中で速度が出ないためにかなり時間が開いて緑駅に着いた。(実際15分かかっている)

隣の札弦では、駅舎の中に釧網本線90周年記念思い出写真館との文字とともに幾つかの写真が飾られていた。

清里町で対向列車と交換。

約10分の遅れであった。

10分の遅れだと最終のおおぞらへの接続がギリギリになるのでかわいそうだ。

ここで3人の学生が乗り込んできた。

地図を見ると清里町小中高とほぼ一塊で存在した。

実に田舎らしい。

中斜里を過ぎて大きく左へカーブすると知床斜里に着く。

ここで7人くらい人が入れ替わる。

清里町で乗ってきた学生も降りてまた3人学生が乗ってきた。

ここから右手にオホーツク海が見える。

上空は曇っているが水平線がぼんやりと赤紫になっていて美しい。

浜小清水で今度は2両編成の釧路行きと交換。

ここでそういえば交換可能駅で交換しない時でもATSが鳴っているなと思うが、浜小清水の駅に安全側線がなかったので多分そういうことなのだろう。

臨時駅の原生花園でスーツ姿のおっさんが1人乗ってきた。

謎すぎる。

北浜でいよいよ暗くなってきた。

日没までまだ時間はあるはずだがと思ったら昨日見た日没の時間は札幌の時間で、網走はそれよりも10分くらい早かった。

砂浜を上ったところに車がたくさん停まっていてちらほらとテントが建てられていた。

暗くなるにつれて網走の街の明かりが際立ってきた。

間もなく今日が終わる。

しかし遅れの影響だろうか網走の場内で機外停車した。


網走では札幌行きのオホーツク4号が接続を待っていたようで、盛んに乗り換えの案内をしている。

これに乗ればなんとか今日中に札幌に戻れるが。今回はなるべく明るい時間だけ乗っていたいということで今日はここで泊まることにする。

今度は列車の中でホテルを取ったので抜かりはない。

駅を出るとコートを着ていてもなお寒い。

天気予報を見れば明日の朝は9℃だと言う。

ヒートテックを持ってきて正解だった。


ホテルに荷物を置いて目星をつけていた店に入る。

海鮮丼とステーキをセットで出すと言う店だ

それを1500円くらいで出すと言うので行ってみることにした。

普段の食事にはとても出せないが、ここでは経験を食べると言ってもいい。

経験のためならほぼ際限なく金は出せる。

店内はいかにも街の洋食屋さんのような見た目で厨房がよく見えるカウンターに通された。

ここで私はいくらホタテウニが載ったどんぶりとステーキのセットを注文。

無事写真通りのものが出てきて泣けることにちゃんとウニが美味い。

そしてすごく気になったのがミックスステーキという牛豚ハンバーグのセット。

今度来た時にはそれを食べてみたいがいかんせんここは網走。

近所に是非欲しいお店であった。

  • Xで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る