第10話 設楽 有人×ハンバーガー
わーっはっはっはっは!
俺は
バーガー量産機だ!
何故か知らねぇが女神サマとやらに異世界に連れていかれた。
何だこれ。
何て言う悪夢なんだよ。
ネット小説やら読み漁ってる奴は異世界召喚キター! なんて言うんだろうが俺は、んなことは言わねー!
言うなら
「いきなり何なんだクソヤロォォォォォ!」
だろ。
普通に考えて異世界召喚なんぞしてたまるか!
分かってんだからな。
こういう手のもんは大体、俺達の世界より古い世界の発展してない場所だってよ。
俺はどこぞの非営利活動法人の一員でも非営利組織の一員でも非営利活動団体の一員でもねーんだよ!
苦労して完成した俺の店がぁぁぁああ!
明日から新装開店だって言うのによ!
仕方ねぇ。
異世界だろうがどこだろうが、俺の作ったバーガーを美味い美味いと言って食ってくれる奴がいるならどこだっていい!
店ごと転移させてくれ!
仕入れは全て女神運送で頼む!
面倒な掃除不要、いつでもピッカピカにしてくれ!
俺はバーガー量産機としてバーガーの量産に集中してーんだよ!
そんな俺だが……この店を作る前までは大した人間じゃねぇ。
むしろ社会のゴミだった。
毎日喧嘩して、面白くも何ともねぇ人生で、何度も世界を呪ったぜ。
この店だって色々、苦労した末に作ってもらってテメーの店だって譲って貰ったもんだ。
ちったぁマシな人間になれって、ってな。
「よぉ。元気か? 元気もクソもねーか」
店舗兼居住スペース。
そこに俺は写真を一つ、飾っている。
誰かっつーのは察してくれや。
恋人。
嫁。
師匠。
親父。
お袋。
俺が誰に言ってるかは想像するだけスマイルゼロ円と同じくタダだ。
「あっちの世界にゃ戻れねーってよ。ま、いいんだけどな」
一人写真に向かって喋ってる俺、痛い奴。
わーっはっはっはっは!
俺にこの店を与えてくれた奴は俺に、笑えと言った。
笑わないから面白くないんだと。
店に出るなら常に笑っていろ、スマイルはいつだってゼロ円だって言ったのも、この店を与えてくれた奴だ。
そいつに初めて、温かいハンバーガーを食べさせてもらった。
ガキの時から金がなくて冷や飯やコンビニの安いパンやらは当たり前だった。
ちょっとしたことでそいつと出会って、俺は生まれて初めて温かいハンバーガーを食った。
冷たくてぱさぱさになったパンズでも、時間が経って萎れた葉野菜でも、固くなったパテでも、水分が流れたトマトでも、痛む直前のチーズでもない。
真新しいものだ。
そいつの作ったパンズは柔らかかった。
葉野菜も新鮮だった。
パテも肉汁があった。
瑞々しいトマトも挟んであった。
チーズも新しいものだった。
普通は、それが当たり前だ。
普通なら、な。
なんて、俺の生い立ちをここでぶちまけるために俺は語ってるわけじゃねぇ。
あいつの作るバーガーは、マジで美味かった。
行く当てのない俺に居場所をくれた。
俺はそいつの作ったハンバーガーを、そいつから教わったバーガーを、そいつが俺にやってくれたように今度は俺が誰かに食わせたいだけだ。
俺が笑えるようになったのはそいつのお陰だ。
そいつがいなけりゃ俺はずっと底辺にいて、社会のゴミだ、クズだ、なんだと言われながら豚箱と行き来するだけの馬鹿野郎だっただろうぜ。
「今日も行ってくるぜ」
出来りゃまた会えたらいいんだけどよ。
そいつに俺が作ったバーガーを食わせてやりてぇが出来ねーもんは仕方ねぇ。
俺が店で語る言葉は全部、あいつの受け売りばっかりだ。
バーガーやポテトが熱い内が華だっつーのも。
体に悪い食べ物作ってるからこそ、客に長く通ってもらうために制限を設けてるのも。
頭がアレだと言われても構わねぇ。
あいつが、それが大事で何でも良いから笑えって言ったからだ。
ぶっ飛んだ接客やってんのもあいつが喜んでくれたらって思ってるからだ。
開店準備や掃除は女神サマの力頼みだ。
違う世界に連れて行きたいと言ったんで色々と頼んだ。
あいつからもらった店を俺は俺の代で終わらせるが、傷付けられたくはねぇ。
異世界に料理を広めるために俺は行くんじゃねぇ。
俺が作ったバーガーを美味いって言いながら食ってもらうために俺は行くんだ。
自分勝手なのは百も承知!
俺は他人のために何かしようと思って行動出来るヤサシイ人間じゃねぇからな。
そんなもんは出来る奴がやりゃいーんだよ! わーっはっはっはっは!
よし。
今日の笑いも絶好調だな。
初めは戸惑っていたディレィシア国とやらの国王も、その宰相も、貴族の女も、エルフも、ドワーフも、別の国の使いも、どいつもこいつも美味そうにバクバクバクバク俺の作ったバーガーを、我を忘れて頬張ってらぁ。
わーっはっはっはっは!
ありがとうございます!
健康に長生きして俺の作ったバーガーをお前らか俺かどっちが先か分からねーが死ぬまで食べ続けてくださいコノヤロー。
あいつも嬉しいだろうぜ。
俺にとっちゃぁ、あいつの作ったハンバーガーは、始まりのハンバーガーだ。
王様お気に入りの俺特製ハンバーガーは、言い換えればあいつ特製ハンバーガーだ。
その他は俺にとっちゃぁ付属物!
だが手は抜かねぇ。
あいつがそうだったから、俺もそうする。
そうして一日を俺は終える。
今日の売り上げもなかなかのもんだぜ。
俺は今日も自分の作ったバーガーを食う。
たまには他のもんも食いたくなるから、女神輸送はチートだな。
それもこれもあいつが教えてくれたお陰だ。
まぁ、俺は長々語るなんてことは出来ねぇ男だからな。
そろそろ切り上げるとすっか。
おっと女神サマにゃチーズバーガーセット、捧げてやらねーとな。
なんだかんだ、世話になってっからな。
「よぅ。今日も無事に一日、終わったぜ」
朝晩と写真に話しかける痛い男だと思うだろうが、別に構わない。
俺にとってはいつもの儀式みてーなもんだからな。
毎日バーガー作って、毎日来る客に笑いながらバーガー食わせて、あいつが見たらどう思うだろうな。
とりあえず先にいつものハンバーガーを作るか。
パンズは元々あいつが作って俺と改良したのを女神サマに毎日減った分だけ増やしてもらってるから一から毎日作る手間はない。
元の世界じゃそんなことは出来ねぇが、俺が改良すりゃまたそれで女神サマに頼んで増やしてもらえばいい。
今日もパンズは美味い。
トマトは輪切りにして、パテを焼いて……。
野菜の準備も出来たな。
ピクルスの輪切りも山盛りだぜ。
俺がもっともオススメするのはやっぱりハンバーガーだ。
他のやつもオススメだが、ハンバーガーは全てのバーガーの元となったやつだ。
そういやあいつは結構知識があってよく俺に歴史やら由来やらも教えてくれた。
俺が賢そーに語るのも何だからネットで検索してくれや。
とにかくハンバーガーってのは俺にとっては俺の命を救った食べ物で、俺とあいつを繋げてくれた食べ物で、俺がバーガーショップ=シタラを作るベースとなった食べ物だ。
来る日も来る日も俺はディレィシア国なんて国でバーガーを作り続けた。
そして―――俺は、死んだ。
老衰だ。
最後の最期までバーガーに捧げた人生だ。
何て贅沢な人生なんだよ。
始めはクソでも、人間変わるもんだぜ。
だから俺は、女神サマの提案を全て蹴った。
大満足な人生のその先に行く気はなかった。
これで終わりか……本当に、贅沢盛りの最高の人生だったぜ、悔いはねぇ……と思いきや、俺は転生をしたらしい。
元の俺―――設楽 有人が死んで何十年も後の世界だった。
きっかけはとある店でハンバーガーを食った時だった。
この頃にはハンバーガーはディレィシア国でメジャーな食べ物になっていた。
当たり前のように転生した俺はそれを食って―――思い出した。
自分が設楽 有人だと。
女神サマめ。
こんだけメジャーになってりゃ俺はもういいだろうが。
思い出したことを、俺は誰かに言うのを我慢した。
成人さえすりゃこっちのもんだ!
今の身体は元の俺じゃなくても、精神は元の俺。
俺は好き勝手する男、設楽 有人だからな。
だから俺はまた店を作った。
いや、女神サマに作らせた。
かつて持っていた同じ店を。
まさか女神サマが応答してくれるとは思わなかったが、やってくれた。
転生も元の店の復活も、どんだけチートっつーか、ご都合主義なんだと文句を言いたくなるが、やってくれたことにむしろ、スライディング土下座を決め込みながら
「ありがとうございまぁぁぁぁす! 俺特製、チーズバーガーセットを献上申し上げますぅぅぅぅぅぅ! 熱い内が華なのでどうぞお召し上がりくださいぃぃぃぃぃ! これからもよろしくお願いしますぅぅぅぅぅぅ!」
ってやんなきゃなんねーレベルだ。
「わーっはっはっはっは! 今日からここが俺の城だ!」
かつてと同じシステム。
それに若干、時が進んだ分だけ性能も良くしてもらっている。
ご都合主義だろうが何だろうが、どうでもいい。
転生させられたのならまた捧げてやるぜ。
そして同じように小金を握り締めた客に俺の最先端バーガーを美味い美味いと言わせてやる。
進化した設楽 有人のハンバーガーをどいつもこいつも食いやがれ!
「写真まで復活させてくれるなんてよ。憎いぜ、女神サマ」
余計なことをしてくれるぜ。
って思うけどよ、多分、女神サマの気持ちなんだろーな。
だったら受け取ってやれ、んなことより前向いて笑えってあいつなら言うだろうし。
それよりも俺はまたこの城で、バーガーを提供するんだ。
パンズ、良し。
野菜、良し。
トマト、良し。
パテ、良し。
最初はやっぱ、あいつと俺、俺とこの店の始まりのバーガー。
ハンバーガーだろ。
そうして俺が、過去に異世界から来たユート・シタラの再来だって言われるまで時間はかからなかった。
さーて、今日も新しいバーガーショップ=シタラ、開店だぜ!
バーガーもポテトも熱い内が華だ!
わーっはっはっはっは!
了
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