第39話「荒野の戦争 急」

 イヤミがリートからセクハラを受けてブチギレていたそのころ。

 ユウト&ジャックペアとグライアの戦いは拮抗状態にあった。


 強くなった二人とは言え、戦いにおいては右に出るものなしとまで言わしめるグライア相手に、そう簡単に勝てたるのであれば苦労はしないというもの。

 ジャックたちの攻撃を土壁などで相殺してはそこから攻撃を繰り出す。

 その隙きのなさ、絶妙な攻撃のタイミング。

 一枚も2枚も上手なグライア相手と戦うのはなんともやり辛いなと、ジャックは舌打ちをしながら攻撃を避けた。


「チッ、やっぱり四天王相手にそう簡単じゃねぇな……」


「そうだなっ、しかもこっちは傷が増えていく一方なのにあっちは回復する手段があるっ。このバランスが崩れるのは時間の問題だ、ぜっ!!」


「なかなかに素早い猫だな!!これはどうだ!!」


 グライアの拳がユウトに狙いをつけて落ちてくる。

 ユウトは地面に転がりながらも避け体勢を直そうと動く中、一瞬の隙きを見せるグライアにジャックがダガーを振り下ろす。


 しかしそのダガーを弾き、ジャックの横腹に拳をぶつけた。

 今の隙きが罠だと気づくが遅く、ジャックは歯を食いしばって衝撃を殺すため空中で身を捩る。

 当てられた横腹は、服が破れて肌が見えて大きく痣になって赤黒く変色していた。


「クゥッ……!……ハハッ!なかなかキレるじゃねぇか?」


「それで吾が戦う資格がないとよく豪語できたものよ。寧ろないのは貴様の方では?」


「煽ってくれるじゃん。でもよぉ、そうペラペラと俺と話していたら……猫に引っかかれるぜ?」


「なっ!?――クッ!!!」


 ジャックは油断するグライアを嘲笑い、後ろを指差す。瞬間、グライアの顔面に鋭い痛みが走り地が滴り落ちた。


「やりーー!!ようやっと一発入ったぜ!!」


「ナイスだ、ユウト。」


 ユウトは顔を抑えて呻くグライアから大きく間合いを取って跳ぶ。

 ジャックのところにまで跳んで隠れれば、ジャックが笑ってユウトの頭を撫でた。


「ちょっと!俺もういい年なんだからやめろよ!!」


「おっと、そうだったな。ワリィつい彼奴等の癖で。」


 彼奴等、というのは勿論イヤミとリカーネのことであり、ジャックは撫でる癖がある。

 まさにお兄ちゃんのような癖であり、この間はイヤミにバカにされた上に煽られていた。

 因みにリカーネは嬉しそうに目を細めていた。イヤミに銃口と殺気を当てられた。


「……前から思ってたけどあんたらって距離近くねえか?」


 ユウトは目をジト目にしてジャックに呆れる。

 まだ戦いのさなかだと言うのに呑気な二人。イヤミが見たならツッコんだであろう。

 しかしそんな事を忘れて二人は話し込んだ。


「そ、そうか?」


「イヤミならともかく、リカーネさんは完全に乙女じゃんか。アウトだろ。」


 尻尾をバシリと地面に叩いて不機嫌だと言わんばかりの顔でジャックを睨むユウト。

 何故ここまで責めるんだとジャックは首を傾げるが、しかし言っていることは正論。

 ぐうの音も出ないジャックは項垂れた。


「しかしリカーネが嫌がってないのであれば別にいいのではないか?」


「そ、そうだよな!別に嫌がられてねぇもんな!!……ん?」


「そういう問題じゃー……あれ?」


「それより問題はあのイヤミだろう。吾的には馬鹿にした上で煽って来るだろうな。どうだ?吾の言うこと、間違ってはないだろう?」


 ジャックとユウトの男子会に入ってきた野太い男の声に二人は動きを止めた。

 野太い声の男、グライアは腕を組んで二人を見下ろす。

 そしてうーんと唸りながらイヤミのしたことを的確に当ててみせた。エスパーである。


「「は?」」


 しかし問題はそこではない。

 何故ジャックとユウトは敵であるグライアとで男子会をしているのか、だ。

 そもそも始めたのはこの二人バカだが、どうしてこんな事になっているのか二人には皆目検討もつかずにスットンキョンな声を上げた。


「?どうした、間抜けな顔だぞ?」


「「いや、何お前も参加してんだ!!」」


 どうしたと首を傾げてグライアは二人を見やるが二人は首を勢いよく振って叫ぶ。

 なんで俺たちは敵とこんな話すを……と頭を抱えるが、そもそも始めたのは二人である。


「クッソ!!そういえばここ戦場だったわ!!」


「なんで忘れてんだよ!って言いたいところだけど俺も忘れてたわ……」


「お主らは何しに来たんだ?」


「参加したお前が言うな!!あーもう!格好つかないな!!」


 ジャックは岩陰から飛び出してジャックは武器を構えてグライアと対峙する。

 それに習うよう、ユウトも自分の武器であるメリケンサックをはめて構えた。


「気を取り直すぞ、ユウト。攻撃に備えろ。」


「分かってる、分かっているけど……なんかおかしくないか?」


 ユウトは訝しそうに耳を動かして立ち上がるグライアを睨む。


「……ああ、そうだな。」


 たしかにそうだとジャックは頷く。

 この男の行動は矛盾だらけだ。あれほどジャック達を倒そうと息巻き、戦争を起こした上でどうして、どうして暫くの間この男は、


 全てが矛盾。この男は一体何をしたかったのだとジャックは眉をひそめる。


「お前の目的は、一体何なんだ?」


「……それは言えん。それに吾は、まだ何も成し遂げてない。」


「?それはどういう……」


 グライアは閑静な目でジャックではないどこかを見ていた。

 その目にどこか既視感を覚えながら、ジャックはさっきの言葉を考察していく。


(何も成し遂げてない?じゃあコイツの本当の目的はこの戦争とは関係ないってことなのか?じゃあ、もしかしたらこの戦争を引き起こしたのは……)


 グライアじゃない?


 この時、ジャックとイヤミは同じ答えにたどり着く。

 違う面は、イヤミは既にその黒幕に気づいて接触した部分だけだ。

 結果、イヤミはセクハラを食らったが。


「はぁ、グライア、お前の話全部聞かせてもらうぜ?イヤミでもなく、この俺にな。」


「――っ!!何を言って!?」


「なに、深く考えんのがめんどくさくなっただけだ。こういう考察は彼奴イヤミの得意分野だからな。だったら俺がするべきは……」


 ジャックはダガーをグライアに向けてにやりと笑う。

 だがその表情とは裏腹に、目は真剣そのものでグライアは狼狽えるように後ずさった。


「お前の話を聞いてやるだけだ。男同士のほうが言いやすいだろう?」


「っ!……ククッ、ジャックよ。お主お人好しだとは言われたことないか?」


「な、何故それをっ!?」


 ジャックは動揺してグライアよりも後ずさり、その様子を見たユウトの目はとても冷たかった。

 しかも心当たりがある。特にイヤミとかイヤミとかに。

 その時の出来事を思い出してはジャックは項垂れて凹んだ。


「ハハッ、確かに彼奴にも言われたが俺は案外お人好しだ。たった少しの間でしか関わってこなかったイヤミやリカーネのために自分の人生投げ売ったし、面倒見てきたし。……そう考えると俺ってかなりのお人好しじゃないか。」


「今更じゃね?」


 ハッとするジャックの言葉に、ユウトはジト目から呆れたような目に変わって突っ込まれる。

 ユウトはジャックがお人好しで兄貴肌なのも、イヤミが嫌なやつだが頼れることも、リカーネが本当に気高く、そして優しいこともこの数日一緒に過ごしてきて知っていた。

 表面上は全く似てないこの三人、しかし全員が共通していることがある。

 それは、三人とも結局優しさを持ってしまうということ。悪く言えば甘い。極上に。


 その事を思い出してユウトはため息をつく。

 ユウトは闇社会の人間であり、しかもその頂点に立つ可能性のある人だ。

 だから最後には甘くして敵を逃してしまうのではと不安視していた。


「……でもな、そんな俺でも、ムカつくことってあんだわ。特に、テメェの都合で彼奴等危険に晒す、とかな?」


「「っ!!」」


 しかしそれは杞憂である。

 ジャックはたしかにあの三人の中で一番お人好しで優しい、だがあの三人の中で一番容赦ないのもジャックなのだ。

 それはイヤミよりも容赦なく、そして徹底的に敵を潰す。それがジャック。

 だからこそジャックはイヤミの相棒でいられるのだ。


「しかもさっきイヤミに助けられちまったし、後で色々言われるしな。――だからまずお話の前に、四天王じゃなくお前が俺の八つ当たりに付き合え、グライア!」


 不敵な笑みでニヤつくジャックのその闘志に、グライアはどうしようもなく興奮する。

 この興奮は、あの時戦ったイヤミとはまた違う。心の底で熱が灯るかのような、グライアがこれを望んだかのような心地良い闘志だった。


「――〜〜っっ!!良いだろう!今はただのグライアとして戦ってやる!!そして吾も、貴様に八つ当たりしようじゃないか!お互い全力を尽くすぞ!!ジャック!!」


「ああ、来い!!グライア!!!」


 同時に動き出したジャックとグライア。

 その攻撃も同時、同位置。拳と黒き刃は重なる。


 その瞬間、とんでもない轟音と衝撃波が戦場の一角を支配した。


 ****


「たく、好きにしてもいいって言ったけどここまでしろとは一言も言っとらんわ。」


「あの、なんで俺俵持ちされてんだ?俺さっきまであそこにいたはずだけど。」


 ジャックがいるであろう場所は砂煙がドームのようにその場に上がって見えない。

 イヤミはため息を付きながら首を振る。しかしその肩にはユウトを担いでいた。


「そりゃお前。あれみてお前が無事に居られた保証なんてあんのか?」


「ウッ……それは、ないけど……」


 悔しそうにそっぽ向くユウトを下ろし、イヤミはその頭を撫でた。

 ユウトは驚き顔を上げる。そこにはまたあの優しい顔で微笑むイヤミ。

 その顔のまま、イヤミは目を細めて言う。


「あと、お前のことはリュウジに任されているからな。無事に帰すのは、保護者としての私の義務だ。……でもあれだな、強くなったじゃん。流石だなユウト。」


「お前……」


 まさかのセリフにユウトは顔を赤くしたが、イヤミはニチャァと口の端を上げたことで真っ青に変わる。


「でもジャックの足をひっぱていたなぁ?私は見ていたぞぉ?――最後の一手でツメが甘いのは一体誰なんだろうな?ユウト。」


 イヤミはニヤニヤしながらユウトを見て話すが、最後の言葉だけは表情を無くしてユウト見やった。

 それにユウトは身を固くさせて冷や汗を垂らす。


「っ!お、お前一体どこから見てたんだよっ。」


「ずーっとここで。お前らが戦場のど真ん中で話していたのも、それにグライアが参加していたところも全部な。あとグライアは気づいてたと思うぞ?目が合ってたし。」


 イヤミ、全て見て聞いてた上で放置していたという真実が発覚。

 つい半目になったユウトは責めるようにイヤミを見た。


「アンタ仲間が大変だったっていうのに助けないのかよ……薄情じゃねぇか?」


「ふむ、薄情とな?」


 イヤミは顎に手をやって考えるように空を見上げる。

 そしてしばらくした後にユウトに顔を向けてキョトンとした顔で答えた。


「でも、彼奴は嫌がるだろ?」


「え……?」


「たしかに私は彼奴の仲間だし相棒だよ?でも彼奴言ってただろ?『俺の八つ当たりに付き合え』ってな。彼奴は私やリカーネに迷惑をかけたくねぇんだよ。私やリカーネが忙しいのをよく知っているからな。だから彼奴は年上っていうくだらん矜持を振りかざしてでも私達の前では強がんのさ。おかしな話だろ?私やリカーネのお願いでここに来たっていうのに彼奴は自分が迷惑になるのを嫌がんだ。全くかっこ悪くて、カッコいい私の仲間だよ。」


 イヤミは困ったように笑いをこぼして未だに砂埃舞う戦場を見た。

 その顔に、ユウトは呆然としてイヤミを見つめる。


(なんだ、それ?

 それじゃあまるで、お互いを愛し合っているみたいじゃないか……?)


 たかだか少しの間でしか関わって来なかった奴に向ける表情じゃない。

 そんな仕方なさそうに笑うイヤミに、ユウトはそんな事を考える。


 しかしユウトはその考えに間違いがあることに気づく。

 イヤミはきっとそういう目でジャックを決して見ない。見るはずもない。


(その愛は、きっとそういう愛じゃない。そんな下世話なものじゃなくってきっと……)


 それは運命の赤い糸のように三人を絆ぐ。

 もっともっと深いものなんだ。



 ****


 リカーネは今、大変混乱していた。

 それは勿論、さっきほど起きた爆発音で結界が破れてしまった……ということではなく。

 今目の前にいるある一人の人物の対応に追われているからだ。


「えっと……貴女はもしかして……」


「――ワタクシの名前は。」


 真っ白いベールに包まれた顔は見えず、しかしその神聖な風格は紛れもない。

 しかしその声は、ハスキーボイスと言わんばかりに低く大変な美声。

 そのことにリカーネの頭は混乱していく一方だったが、その人はベールを脱いでリカーネを真っ直ぐに見つめた。


「お願いいたします、我が同類。どうか、どうかグライア様を助けてくださいまし!」


 猫のような目、真っ白い毛に、黒くピンとした

 毛は顔のすべてを覆い、その顔は可愛らしく愛嬌のある顔。

 だがその姿はまるで、まるで猫そのものだった。


「もう貴女しかおりませんの!お願いしますわリカーネ様!」


 ミスマッチの塊がリカーネに近づき、膝を地面に立てて懇願するユウナ。

 もう全てが混乱、カオス状態なったリカーネは頭から湯気を出して目を回して、涙目になる。

 そしてリカーネは空を仰いで呟いた。


 ――イヤミ、助けてと。


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さあ、次回荒野の戦争編最終回!(作者歓喜)

ぜひぜひお楽しみに!!!

あとキャラ共ォ!!勝手に動くなぁ!!!

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