第27話「変態は案外強い」

「はぁ!?2日も寝てたのかよ俺!」


 そう叫ぶのはさっきまで暴れていたジャック。

 ユウトも参戦した争いだったが、医務室の主こと医師が帰ってきたことにより追い出された三人は、談話室のようなところを(心のなかで)借りて話していた。


「マジだっつの。全回復したはずなのにずっと寝てるもんだから、リリィも寝ずにお前のこと見てたんだぞ。私はしっかり寝たけどな!」


「その報告は良いわ、どうせお前のことだから心配なんて微塵もしてなかっただろ。」


「よく分かったね。」


 ジャックの言葉に勢いよくうなずいて笑うイヤミに、ジャックは手刀を頭に叩き込む。

 その痛みに蹲ってゴロゴロ暴れるイヤミを横目に、ジャックは呆れた。


「で?イヤミ。なんでコイツいんの?全部説明しろ。」


「今の衝撃で吹っ飛んだわ。お前の口の中にもう一回あの飴放り込んでやろうか?」


 ダラぁとソファにたれてグダグダと文句をつけるイヤミ。

 目覚めてこんなに疲れるぐらいならもう少し寝てればよかったなと、ジャックはここまで後悔することはなかった。


「俺が悪かったから説明しろ。」


「はいはい、分かったよ。まずソイツがいる理由だけどリュウジに頼まれたからってのが強いな。何でもコイツを護りながら強くしてくれという。まあ、私達になんの特もないお願い事だな。」


「そうだったんだな……俺正直その話知らないんだけど、なんで?」


 仕方ないなと言わんばかりに話すイヤミの言葉に、頷きながらユウトは首を傾げる。

 その顔が少し青いのは、多分イヤミの気のせいだろう。


「いや気のせいじゃねぇよ。なんでその話当の本人である俺が知らねぇんだよ、おかしいだろ。」


「そりゃ知らんはずよ。だってこの話聞いたら猫チャン反対するだろ?それが面倒だったから私がちょっと……ね?」


 シュッと手刀を自分の首に当てるイヤミはニコリと笑う。

 言葉の濁しが全く意味のなくなる事例があるが、ここまで極端なのも珍しい。


「全部アンタのせいじゃねーか!!何してくれてんだ!!」


「はぁ?弱いお前を鍛えてやるっていうお優しいイヤミ様に対してなんて口の聞き方……反省しろこの泥棒猫!」


「というか俺あの時の理不尽なケリも許してねーからな!それら含めて俺に今すぐ謝罪しろ!」


 シャーと威嚇するユウトに、イヤミは耳をほじって右から左に流す。

 地団駄踏んで暴れるユウトを、ジャックはなんとか鎮めながらイヤミを睨んで叱った。


「おいこらイヤミ!コイツの言ってることも正しいんだぞ!!」


「ソイツ、リリィと恋に落ちる前触れ起こしてたぞ。いわゆる恋愛フラグな」 


「よし殺そう。」


 恋愛フラグを簡潔に説明してユウトを指差すイヤミ。

 ジャックはイヤミの行いを責めていたのを見事に手のひらヒックリ返してユウトの首を絞める。

 さすが我らがジャック、揺るぎない。


「いだだだだ!!ギブッギブッ!もう嫌だなんで俺がこんな目に……!」


「「そりゃお前が泥棒猫だからだよ。」」


 話は全く進まなかった。毎度のことである。



 ****


「今度こそ話すぞ!全くグダグダすぎなんだよ!」


「お前もなんだからな、要因。」


 他人事のように机を叩くジャックに、ユウトがツッコミを入れて紅茶を飲む。

 イヤミも同意するように頷き、紅茶を飲んでソファに凭れた。


「んじゃあ、お前たちが気絶していた間に何があったか説明していくから、今度こそ静かになー。騒いだら不本意だけど撃ちます。」


 イヤミは静かに懐から銃を取り出して膝の上に置く。

 二人はその銃の馬鹿げたサイズに目が点となって、イヤミの銃について説明を求めた。


「殺す気満々じゃねぇか。何だその凶悪だった武器が更に凶悪になったものは。」


「ジャック、人間誰しも最強の武器って物に憧れるとは思わないかい?これはそんな浪漫から誕生した、ただ最強の武器を求めただけで全く実戦用じゃないハンドガンさ。これを使った時肩外れるかと思ったからもう封印するけどね。」


「ダメダメじゃん、全く扱えてないじゃん。何時創ったそれ?」


「グライア戦の時、お前がふっ飛ばされて気絶した時に使った。右腕は吹っ飛ばせたぞ。」


「まさかお前……そのためだけに時間稼ぎ俺に頼んだのか?」


 ジャックがフルフルと指を震わせてイヤミを指差す。

 そのジャックの反応にイヤミはテヘッと拳を頭に軽く乗っけて謝った。


「ごめん!ちょっと創ってみたくなちゃって!魔力半分ぐらい消えたけどね!」


「……〜〜〜っっ!!こい、つっ!こいつっ!!」


 頭を抱えてなにかに葛藤するジャックからは、今話しかけたら確実にやばい雰囲気を出して言葉を耐え耐えなっていた。


「アンタ……マジサイッテーだな。」


「……かなり悪いと思ってるよ、流石に。」


 ユウトもあまりのイヤミの対応に、ジャックに同情の視線を向けイヤミには批判的な目を向ける。

 イヤミもジャックのこの態度には流石にやりすぎたなと思い素直に反省した。


「…………それであの怪物を倒したあとは?」


「え、あ、うん。あのあと私も少し眠って、その後ユウトの引き取りについて話したあとはココに来たぞ。一応国王に呼ばれていたから話し合いには行ったけどな。」


「何を話した?」


 全く顔を上げないジャックにイヤミは冷や汗が垂れる思いでなんとか状況を整理して話す。

 が、本当に怖いのはここからだった。


「え、まぁ、四天王の討伐と聖女奪還の話かな……」


「……ふぅ〜。」


 話を聞き終えたジャックは深くため息を付いて黙り込む。

 その無言の時間がイヤミにとってはかなり恐怖の時間だった。


(え、怖い。なにこれ怖い。こんなジャック初めてみたよ怖っ!こんな状況じゃあ、さっき国王抹殺しそうになったとか言えなくなったんだけど!)


「分かった……で?今の俺達ではあの怪物に勝てないぞ、どうするんだ?」


「ああ、それはリリィが起きてからはなs「――呑気ですねぇイヤミ。」ッッ!?ぎゃー!」


 後ろから聞こえた声にイヤミが叫んで、ジャックの後ろに隠れる。

 何が起こったのかがわからないジャックとユウトは目を点にして、イヤミの後ろにいた人物に視線を向けた。


「え、誰だよお前……しかもイヤミはなんでこんなに怯えているんだよ?」


「きっと照れてるんですよ。イヤミは恥ずかし屋がりですからね。」


「ジャックゥ!!気をつけろ!!ソイツは変態だ!!」


 ガタガタと震えるイヤミはリートを指差して、ジャックを盾にする。


「おやおや、酷いですねイヤミ。いきなり変態扱いはやめてくださいよ。」


「いやお前変態だろ!いきなり人にセクハラしたり気味の悪いことを言う変態だろう!」


 言葉すべてが特大のブーメランになって突き刺さるイヤミは、自分を棚に上げてリートを責める。

 きっとリカーネが聞いていたならこう言っていただろう「お前が言うな」と。


「私はただ気に入っただけしか言ってませんが?」


「ずっと一緒に居たいだの、大切な方だののとのたまってたのはどこの変態狼だ?」


「まじかよ、イヤミにそんなやつができるなんて……頭大丈夫か?」


「どういう意味だコラッ。」


 口元に手をおいて引く動作をするジャックの頭を、イヤミはひっぱたいて揺らす。

 ぐいっと揺らした力を利用してイヤミは、ジャックに耳打ちをして助けを求めた。


「マジどうしよう……お前の言葉あまり使いたくないけど彼奴本当に頭おかしいかも知んない。なんていうか、話が通じない……」


「良かったじゃねぇか。これでお前にも一生を共にする相手ができて。しかも相性ピッタリていうか、お前も似たようなもんだから更に良いじゃねぇか。俺の肩の荷も降りるし。」


「おっま、おま、厄介払いしようとすんじゃねーよ。もし見捨てたらアレな、一生付き纏ってやる。一生な。」


 笑って逃げようとするジャックの方を強めに掴んで、闇を感じさせる目で言ったイヤミの言葉に冗談の文字はなかった。


「こっわ。そこまでか、そこまで嫌なのか。何したんだあの狼は?」


「聞くな。ただ言えることは一つ、私を1人にしたらキズモノになるぞ。良いのか?もしキズモノになったらお前にその状況を詳しく、そして生々しく言ってやるからな絶対。」


 羞恥心のかけらもないイヤミに、ジャックは本気だと悟って更に引く。

 その執念が怖い、イヤミのその絶対という言葉にかけた執念が。


「やめろ絶対に聞きたくない。……お前のそんな目初めてみたぞ……分かったよ、しょうがねぇな。」


 ため息を付いて頭をかいたジャックは、イヤミを背にリートに向き合う。

 ジャックとイヤミが話している間も笑みを絶やさずいたリートだが、何故かジャックの時の目は冷たいものになっていた。


「話し合いは終わりですかジャック殿。」


 犬耳が完全にジャックにピントを合わせて、尻尾がたれている。

 バリバリ警戒心をあらわにするリートに、ジャックは肩に重いものを感じて首を回した。


(……狼の獣人かぁ、獣人の中でも一二を争うほどの執着心を持つ種族とは聞いていたがここまでだったとは……コイツも面倒なものに懐かれたな。いますぐ寝てぇ。)


「リートだっけか?コイツが困っているから勘弁してやってくれ。お前の気持ちはコイツにはまだ早すぎる。」


「何をおっしゃられているのやら……貴方が思っているようなことはしませんよ、まだ。」


 リートの最後のまだという言葉の凄みに、本気度がどれくらいなのかが分かったジャックの目は急激に生気を失う。

 本気でめんどくせぇ、そんな言葉が顔にデカデカとか言ってあるほどあからさまな態度でジャックはそうかと頷いた。


「それで、なんのようだ?コイツが後で話すと言ったことと理由があったから割り込んできたんだろ?」


「ええ、勿論ですよ。ジャック殿、あなた方にはこれから四天王に勝つぐらいまで一週間、みっちり鍛えてもらいますからね。その名も、『スパルタ式ブートキャンプ』です。」


「「は?」」


 リートの良い笑みとともに出された話に、ジャックと空気になっていたユウトが声を上げる。

 そして何かしら理由を知っているイヤミの方に勢いよく振り向いて、目で訳を聞くジャックとユウトにイヤミはお手上げのように手を上げて首を振った。


「頑張ろうな、みんなで!後でリリィにも説明するッペ。」


「「ふざけんなぁあああああ!!」」


 二人の叫びは天高く轟いたが、この件の発端者には一ミリも届かないのであった。


  • Xで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る