第4話 「異世界にありがちなヤツ」
ギルドに入ってようやくライセンスが発行できる事に、少し疲れを覚えてきたイヤミ。
しかしそれはそれとして異世界では馴染みの属性検査。
心躍らない方がおかしいというもの。
「それじゃあお願いしまーす!」
「は、はい。それではライセンス発行のご説明させていただきます。まず初めにイヤミ様の属性、魔力量などを調べその後にライセンスを発行致します。
属性は大まかに7つの色ごとに変わり、そこから個人特有の能力をライセンスが刻みます。」
そうして出された赤子の頭ほどの大きさの水晶は、奥にところが淡く光って見えた。
「それでは手をかざしてください。」
「力まなくていいのか?」
「しなくていいわよ。」
手をかざして数秒のうちに水晶が強く光り出す。色は無色だったが、水晶から何かキラキラと光るものがライセンスについて溶けるように消えた。
「……はい、これで登録は終了です!」
「お、これでおしまいか呆気ないな。」
「イヤミのあれって多分無属性よね?」
渡されたライセンスの属性が書かれた所を2人で見る。そこには確かに無属性と書かれていた。
「無属性ってどういう感じなの?」
「基本、どの属性にも属さない完全に新しい属性って事ね。結構珍しいわよ?」
「ほほう?主人公にありがちなやつだな。」
「それよりも、イヤミの固有能力って何かしら?」
「固有能力……?って何?」
「魔力に応じて使える魔法の種類のことよ。でも能力自体、結構適当な説明で書いてある場合もあるから、気をつけて見ないと行けないのよね。」
ふーんと他人事のように相槌を打つイヤミは、属性欄の下に書かれた文字を見る。
そして目を見開いて思わず2度見してしまう。
「え、『武器創造』?」
「えっと、魔力量と本人の知っているものによって武器を創造することが出来るってことなんじゃない?」
かなり使える固有能力でイヤミは興奮した。
リカーネの様子からも結構強いらしい。
「魔力量にもよって作れちゃうってことは、私レベルの魔力量があったらなんでも作れちゃうんじゃない?」
「こっわ!え、魔力量は……」
ええと、魔力量は……101万?
イヤミは多いのかよく分からない数値に首を傾げてリカーネにみせる。
リカーネは少し驚いたようにしてライセンスを見た。
「これって多いの?」
「結構多いけど、私ほどでもないわね。それに魔力が多くても能力を使いこなさなくちゃ意味ないから、まずは技能を磨くところからね。」
「へー……ちなみにリリィはどれぐらいなんだ?」
「1569万ね。」
ゴリラやん。
思わず心の声が漏れ出てリカーネに殴られたのは言うまでもないだろう。
茶番をしている2人に受付のお姉さんは顔を青くして震えた。
「……いや、101万って……しかも1000万越えって…………」
余談だが、この国でリカーネなどの聖女を抜けば最大魔力量は91万なのだ。
そしてこの国最強の騎士、ベルトは89万。
――つまり、そういうことである。
「あ、もうこれで冒険者になれるってことでいいんですか?タダ飯が私を待っている。」
キリッとした顔で言う事があまりにもしょうもなく、受付のお姉さんは苦笑いを返す。
「アハハ、いえまだありまして。イヤミ様にはこれから冒険者専門部門を決めていただきたく……」
「冒険者専門部門?」
「大まかに討伐部門と採取部門にわけられるわ。そしてその部門ごとに説明と試験が変わるのよ。それと依頼内容もね。」
「ふむ、リリィはどっち選んだん?」
「私は採取部門よ。」
まあ、私の能力だったら完全に討伐部門だからあんまり考える必要ないな。
イヤミは間髪入れずにさっさと決める。
「じゃあ普通に討伐部門でお願いします。」
「ハイ!それではこれから簡単な試験をご説明します。まず初めに――」
イヤミは忘れていた。
あの時立てたフラグを、そしてあの時のテンプレを、完全に忘れていたのだ。
そして今それが後に冒険者と多くの民に語られるある伝説となった。
『世界を救った最悪3人組の誕生の日』と。
****
ギルド内にある大きめの広場に着く。
小さめだが闘技場のような形で所々に謎の血痕が着いていた。
リカーネは既に観客席でこちらを見ている。
「おぉう、何この血。」
「それはただのイチゴジャムなのでお気になさらず!」
「いや、なんでただのイチゴジャムがここにあるんだよおかしいだろうが。」
んだそのテンプレは。言い訳適当か。
まあ絶対何かヤバいやつだし、深く関わるのはやめよう。
イヤミは何かを決意するようにして受付のお姉さんに体を向けた。
「それでは初めに、イヤミ様の戦闘能力を調べさせていただきます。見る点は3つ。
まず1つ目が、基礎能力。
2つ目が、冷静な判断力と行動。
最後の3つ目は技能となっています。」
なるほど、まあ一般的なのだろうな。
いちばん不安なのは技能だが、さっき軽く教えて貰ったしとりあえず大丈夫だと信じておこう。
「ここ王都ギルドでは、ここに滞在する冒険者の方が対戦相手としてイヤミ様の行動全てをみます。それでは対戦相手の方を紹介します。」
そう言って受付のお姉さんは反対側にある選手入場口を手で示した。
静かに足音がなり、こちらに近づく。
そしてそれは姿を現し、イヤミはようやっとさっきのことを思い出した。
「あ、アイツ……」
「よう、また会ったな。」
「イヤミ様の対戦相手、ジャック様です。」
猫のような目に、黒一色の髪はどこかさっきの時よりも冷徹に見える。
イヤミは静かに喉を鳴らして不敵に笑った。
「それでは準備をお願いたします!」
その言葉を合図にザッと空気が重くなる。
相手は完全にこっちを潰す気なのは目を見れば明らかだった。
ジャックと呼ばれた青年はイヤミを睨んで威嚇したように口を開く。
「……先に言っとくが、俺は決して手加減しない。」
「んなもん、目見ればわかるっての。言いたいことはそれだけか?」
「チッ……いやまだある。アイツらから巻き上げた金を返せ。それが言いたかった。」
舌打ちをするジャックにニヤリとイヤミは嘲笑う。ジャックはその様子にさらに目を細めた。
「ジャック君、君聞いてないのか?どうして私がそんなことをしたのかを、さ。」
「聞いた、確かにあれはあいつらが悪いが、なにもそこまでしなくていいだろう。」
「……ふーん、じゃあこうしよっか?」
イヤミはジャックの前に人差し指を立てる。
リカーネの方には声が聞こえないが、イヤミのその悪い顔を見てとてつもなく嫌な予感がしていた。
「君が勝ったらあのお金を全て返しその上で怪我させたという名目で慰謝料を払うよ。」
「……お前が勝ったら?」
「ジャック君、君が私のお願いを何でもひとつ言うことを聞くってのはどうだい?」
「いいだろう。お前が勝ったらなんでも聞いてやる。ただし……」
「わかってる、ちゃんと言ったことは守るよ。勿論私が負けたらだけどね。」
風のような圧が強く体にまとわりつく。
それが殺気だと言うのをイヤミは薄々何処かで感じ取っていた。
『それでは、試験開始です!』
受付のお姉さんの声が闘技場の響き、その瞬間ジャックの姿は掻き消える。
そして次に鳴り響いたのは、強い衝撃で鉄がぶつかる金属音だった。
「クッ……!!」
「やるな!」
ジャックの持つ黒いダガーふたつがまるで、鋼鉄な鞭のようにイヤミに襲いかかった。
イヤミは小さめの盾を武器のように振り回し、何とかジャックの攻撃を躱す。
だが人間とも思えないその素早く柔軟な動きにイヤミは段々と生傷を増やしていく。
「おいっ、その動き流石におかしいぞ!?流石に人間技じゃねぇ、なにかの能力だな!」
「おかしいと思うなら、負けた後で俺の能力の考察でもしてな!」
余裕にイヤミの攻撃を躱し、猫のような動きで翻弄する。イヤミの顔は強ばるばかりだ。
しかしイヤミは傍から見ればかなり焦っているように見えたが、頭ではかなり冷静だった。
(この動き、かなり猫に似ている。
……コイツあの時、豹って呼ばれてたよな。豹、豹か。……なるほどそういう事ね。)
イヤミは大きくジャックから間合いを取って、その強ばった顔をいつものニヤケた面にし、笑った。
「なるほど、お前の能力わかったよ。」
「…………一体なんだと?」
「お前の能力、それは『豹と同じ身体能力になる』だろう?それかそれに準ずるなにかだな。」
ジャックはその言葉に鼻で返す。
ブランとダガーをぶら下げて隙を大きくイヤミにみせた。
「フッ、もしそうだとして一体お前に何ができると?俺は自慢じゃないがここのギルドでは指折りの実力者だ。新人のお前が勝てると思ってるのか?……わかったなら降参するべきだな。」
自分で言うかそれ。恥ずかしくないの?
イヤミは完全気シラケた顔をして、ジャックをバカにする。
それにコメカミをピクリとジャックは動かした。
「お前こそわかってねーな。私にお前の能力が知られてしまった。つまり!攻略方法も私に知られてしまうってことになるんだよ。
対してお前の方は私の能力を知らない。
だからなんの能力か知らないお前は私にビクビクしながら攻撃を仕掛けなくちゃ行けなくなった。
これで私の方がお前よりもずっと有利になったな。いやー残念だったね。」
黒いコートが風に靡き、イヤミの言葉にジャクの瞳孔が開かれる。
殺気の満ちる闘技場はもはや誰も入れないほど濃いものに変わっていた。
「ハッ、さっき初めて自分の能力を知ったやつがでかい口を。」
「そんな新人に弱点知られた気分はどうだい?先輩。」
「……本気で怪我さしてやるよ後輩っ!」
その言葉と共に、ジャックの姿が掻き消え、砂埃が軽く立ったかと思えば、鋭い金属音と共にイヤミの盾が吹っ飛ばされた。
****
彼、ジャックの能力『豹化』。
それは獣人でないが豹と同じ身体能力を持つどころか、その上で彼の技量を足すとそれ以上の力を出すことが出来る能力だった。
豹は身体能力凄れ、獲物を狙うときの速さと、跳躍力は他の動物をも圧倒する。
その上で彼の技量を足すとなるとそれはもはやチートと言われてもおかしくないものだった。
目の前には武器を失ったイヤミ。
既に王手をとったジャックはそのま真っ直ぐにダガーを振りかざす。
「――これでしめーだ。」
もうイヤミに手はなく、そのガラ空きな胴体にジャックのダガーが鋭く入るはずだった。
ピンッとなる音が聞こえなければ……
ジャックの目の前に、拳サイズの物体が飛び出る。その上に浮いていた丸いなにかのピンと飛ばされた盾に伸びる糸。
その先に見えたイヤミの顔が不敵なものだったが、目には何かを黒いものをつけ耳を塞ごうとしていた。
「おしまいなのはお前だ、ジャック。最後に私の能力を教えようか?私の能力は、自分が武器だと思った武器を創造する能力だ。」
その言葉を最後に、ジャックの目の前は強烈な閃光と鋭く聞こえた耳は轟音で潰された。
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