第8話 東公先生 国の形を語る その3(結)
東公先生これに答えていわく。
火に象る。
火、良き薪(たきぎ)をくべらば勢いを増し、悪しき薪ならば衰えんとす。
薪の代わりとて紙をくべれば火の色形また変わる。
国また同じ。良きことすれば勢い増し、悪しきことすれば衰える。
その王また臣の変ずれば国の形勢また変わる。
民また同じ。良きことすれば勢い増し、悪しきことすれば衰える。
人の変わりあればまた形勢変わり、民の考え変わればまた形勢変わると。
丈夫これを聞きていわく。
我今手に火をともす薪二本を持つ。一方を国また一方民とす。
民は国の内に住まうがゆえに、民の火を国の火にあわせる。
いずれの民国の形の正しかるべきかと。
東公先生これに答えていわく。火の二つをあわせるといえどもただ一つの炎となりて二形をとらず。ゆえに、汝の問いは間違いなりと。
丈夫これを聞きて崩れ両手をつきて嘆く。
東公先生いわく。
汝、天下の総事を知らず。ゆえに汝の椀中の銭を汝がとることあたわず。東公これをとるべしと。
東公先生、丈夫の椀の銭全てをとる。
しこうして東公先生、悄然として立つ武人の手をとりていわく。
東公この銭をもって良酒を買い、王に元に参じて酌み交わさん。
酒宴半ばにしてまた王に話さんと欲す。すなわち、王が臣の忠を試すさんとするは王徳少なし。強いて行えば臣の忠を失わんと。
汝も来たれ。ともに来たりて酌み交わせば王も汝の忠を信ずるべしと。
東公先生良酒を求めたる後市を立ち去らんとするに、丈夫のいまだ立てざるを見る。いわく。
汝、嬰児のごとくに四本の足にて体をささえたるが、汝は丈夫なり。二本の足にて立つべし。なお老者のごとく杖なる三本目の足を欲するかと。
丈夫これを聞きて大いに羞ず。
東公先生最後にいわく。
これ古き試問なり。東公も直ちに答えに至らずして人に聞く。知らざるを羞じるべからず。己の天下の総事を知ると信ずるを羞じよ。
汝羞じたならば汝の空椀とともに来たれ。ともに酒を飲まんと。
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