第6話 東公先生 国の形を語る その1
市に丈夫立ちて大声にて人を集む。
足下に札ありていわく。
我天下の総てを知る。あらゆる問いに答えん。値一銭。
ある人丈夫の前の椀に一銭を投じて問う。
我商人なり。いかにせば富貴となるらん。
丈夫これに答う。
まず多くの人に問え。即ち何をもって不便とし何を欲するかと。多くの人の欲するところを知りたる後、そを安く買える所に出向きて買い入れ戻りて売るべし。人に先んずればなお良しと。
またある人一銭投じて問う。
我ある人に問われ答え難きことあり。
すなわち朝に足の四本、昼に足の二本、夜に足の三本なるはいかなるものかと。
丈夫しばし考えたる後答えていわく。
そはおばけ煙突なるべし。
すなわち朝仕事に出でんとしてこれを見れば四本の煙突それぞれ見えるがゆえに四本と見る。昼に仕事場にてこれを見れば二本の煙突他に相重なりてこれ二本に見る。夜に家路を急ぐとてこれを見れば一本の煙突のみ重なりて三本に見えるらん。煙突より立ち上る煙まさに胴のごとくして煙突は足に見えるなりと。
これ聞きて東公先生片目を開ける。
またある武人一銭を投じて問う。
我は王に仕える者なり。今朝王より我が父母を誅すべしとの命を受く。忠と孝いかにせば並び立つやと。
丈夫これに答えていわく。
直ちに父母を誅すべし。誅すればすなわち王命に添いたるが故に忠。また王は汝の忠たるに感じ入りて汝を取り立てん。されば父母にとりては子の天下に立身するが故に親にも孝なりと。
東公先生これを聞きて両眼大いに開ける。
しかる後一銭投げ入れ丈夫に問う。
されば聞く。国何に象(かたど)るかと。
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