第41話 神などいらない
とうとう逃走用の魔法陣が発動した。異形の姿の中心部分で魔力の動きが起こる。見た目に変化はないが中身が消えたことが感覚で分かる。発動までに間に合わなかったということだ。
(ごめん、掌握する前に逃げられた)
(それは仕方ない 僕も追いつけなかったし ・・・どこ行ったか分かる?)
(ちょっと待って ・・・あれ? 近い??)
(ん?)
リアナが言うや否や玉座の間の隅の方で魔力反応が起こる。魔力の流れは見覚えがあるもので、、、というかさっき発動したばかりの転移の魔法だ。
「これでやっと逃げ、きれてない!? 何故だ!? 転移は発動したはず・・・」
「逃がすわけがないだろう」
玉座の間にエリアスの声が響き渡る。
転移できていないことに戸惑うゴ・ミ。当たり前の様に僕の横にいるエリアス。押し寄せる軍勢を退けている状況は変わらないのに今この時だけ全ての時間が止まったように静寂が訪れる。
「お前らみたいな世界に侵略を仕掛けてくるドクズを処理するのが俺たちの仕事だ。久々に数千年と平和な時が続いていたのにぶち壊しやがって・・・ 俺の仕事を増やすなクソ野郎」
いつになく激オコなエリアスさん。今日まで散々面倒を見てもらったが、一度も出会ったことのない表情をしている。怖い、ただただ怖い。
「ねちねちネチネチ隠れて陰キャプレイを繰り返しやがって、、、やっと乗り込んできたと思ったらすぐ撤退とかどういう了見だ!ゴラァ!! 落とし前つけて帰りやがれ!!」
鬼の形相とはこのことだろうか?実はストレス溜まってたとか?
「セイを囮にしてやっと出てきたってのにこんな小物とか拍子抜け過ぎるぞ?何が自称神だ 力も無いくせに出しゃばるんじゃねぇ」
ビュッッ バシッ!!
「おい、エリアス 囮ってなんだ? 何も聞いてねぇぞ?」
(ねぇ、エリアス 説明して)
「落ち着け落ち着け、な? リアナも魔法を止めて話し合おう な?」
「(・・・・・)」
ちょっと聞き捨てならない単語が出たので全力で攻撃してみたが普通に止められてしまった。最大出力の魔力強化、瞬時に最大打点となる足に集中させ今までで一番完璧な力の操作で脚撃を浴びせたわけだが、両手で受け止められてしまった。リアナも僕の行動と同時に空間魔法で時空を歪ませ妨害してくれたにもかかわらず受け止められた。つくづく化け物だと思うが今に始まったことではないので仕方ない。
「(ふぅ、あっぶな)今から説明するから殺気を抑えて、な?」
仕方がないので一先ず殺気を抑えてエリアスの話を聞く。
曰く、三十年ほど前から他世界からの干渉を受け始めていたそうだ。
チクチクと嫌がらせの様に魔物を送り込んで生態系を壊そうとして来たり、手下を送り込んで裏工作を嗾けて来たり、亜空間に干渉して来たり、わざわざこっちの世界で危険な実験を繰り返したり、挙げたら切りがないほどの悪行の数々、迷惑行為をゴ・ミは繰り返していたのだそうだ。
しかし、元凶であるゴ・ミは隠れ続ける。警戒心が強いのか遊び感覚で侵略行為を繰り返しているのか本人ではないのでわからないが一向にこちらの世界に現れようとしなかった。
無数にある世界の中から元凶の黒幕のいる世界を見つけるのは非常にというかクソめんどくさい。
世界の渡るすべはあれども狙って目標とする世界にわたるのは何か目印がないと困難な技術だ。
そこで、嫌がらせを繰り返すだけで引きこもり続けるゴ・ミを誘き寄せるために、狙われていたセイを囮に作戦を立てた。
内容は単純、セイの目の前に現れたところを逃げられないように閉じ込める。敵を誘き寄せ、運が良ければまとめて一網打尽。ただそれだけの作戦ともいえない作戦。
「今、この空間は次元的に隔離された空間になってる 空間魔法は俺が一番得意としている魔法だからな そう簡単に破られることはないよ」
ゴ・ミがなんか喚いているが無視をしてエリアスとの会話を進める。
「僕に囮ってことを教えなかったのは?」
「敵を騙すならまず、味方からって言うだろ?」
・・・ムカつくが今はスルー。それよりも重要なのは・・・。
「・・・・・僕が巻き込まれた魔物の反乱も関係ある?」
「・・・ああ 元凶はアイツだよ」
ビーちゃんを銜え大きく大きく息を吸い込む。
「ふぅ~~~ ・・・アイツは僕が殺す」
魔煙を漂わせ覚悟をもってエリアスへ宣言する。
「わかった 露払いは俺たちに任せな」
エリアスはそう話すと空間を飽和させるように押し寄せていた大軍をどこかへ転移させた。
「じゃ、ぶちのめせよ?」
エリアスもいなくなり残るのは人型に戻ったゴ・ミと僕のみとなった。
(やるよ リアナ)
(・・・ん、わかった)
戦闘を始める。
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世界各地、特定できた異世界からも侵略者を亜空間に集合させたエリアス。
「今回は無駄に配下が多いな」
青色の広大な空間。地平線の彼方まで埋め尽くす魔物と人間種の侵略者の群れ。魔物は好き勝手に行動しているが、薄緑肌の人間種は戸惑いつつも統率の取れた動きで一か所に集まりつつある。
「英霊級の数体が最高戦力かな 想定していたよりも戦力としては多いが有象無象の集まりには変わりないか・・・」
これまでの嫌がらせの傾向を見るに、この集団の主な能力は隠密だ。裏から世界を牛耳って世界制覇をしたような集団なのだろう。セイと相対しているアイツは頭一つ能力が高いようだが俺から見れば団栗の背比べだな。
俺たちの住んでいるこの世界はこれまで様々な世界から干渉を受けてきた。今回の様な自称神の野心家だったり、本物の神の軍勢だったり、邪神だったり、と現世の生物からすれば超常の存在から干渉を受けてきた。
今、この世界では曲がりなりにも平和な時間が過ぎていることからわかると思うが、俺たちはこの全てを撃退してきた。
神といった統治する存在のいない世界。さらに、他世界と繋がり易い境界の薄さもあって、神を名乗る者たちにとっては格好の獲物に見えるのだろう。
これは俺が作り出した罠だ。邪神ホイホイと適当に名付けているが、この境界の薄さはただの錯覚。亜空間は俺が支配というか俺の本体で埋め尽くされているので他の存在が干渉する余地がない。この境界に触れようものなら俺の体に触れたことと同義。逆探知し干渉してきた不埒者を特定し殲滅するのが俺の英霊としての仕事だ。
基本的にこの逆探知殲滅だけで侵略行為を撃退できているわけだが、ときどき小賢しくも先兵を送り込み嫌がらせをしてくる者たちや異世界召喚を利用されて侵入してくる者たちなど僅かながら小さな抜け穴から侵略してくる者たちが存在する。
今回もそのレアケース。用意周到で小賢しくも隠れることが上手い為、上手く尻尾を掴むことが出来なかった。やっと、尻尾を掴んで逃げられないようにしたのが今というわけだ。
三十年も干渉され続けるとは何とも失態だが、今までもなかったわけではない。
こちらの世界に一度も干渉せずに兵だけを送り込んでくる者もいた。複数の神がリズムゲームか何かの様に干渉してきて侵入を許してしまったこともあった。後は消滅しそうな世界から地上の生物だけが流れ着いてくるなんてことやダンジョンが突然生えて生やした超常の存在は消滅してしまったり、善良な神が最後の力で他世界に転移させて来たり、などなど長い年月を生きていればそれはもういろいろな方法で干渉を受けてきた。
英霊としての役目は世界を守ること。人類の平穏ではなく世界そのものを守るというのが重要なところ。世界を崩壊に導く存在、ここで言う超常の存在の干渉から守ることが英霊の役目。
自称神や神、邪神は存在ごと消滅させ撃退するが、現世を生きる普通の生物には何もしない。ないもしないことで人類が滅んだとしてもそれはまた別の話なので俺たちは一切干渉しない。
英霊はただ世界を守ることだけ。例外は能力の一部を召喚されて一時的に使役されているときだろうか?そのぐらいの能力制限をされなければ現世に干渉する力はない。
え?俺はどうなのかって?あぁ、俺も英霊ではあるがまだ死んでないからね。この世界のスライムの死ぬ条件は魔力の全損。俺の魔力は亜空間を支配しているから無限、実質的な不死ってことだ。詳しいことは・・・まぁ、知りたければどうぞって感じだな。
俺は生きてるから特に制限なく現世に干渉していると理解してくれれば問題ない。不死者も同様だ。他世界から流れ着いてこの世界で英霊になるまでのステータスを手に入れたが死んでないから制限を受けていない。
この不死者たちはこの世界を集まる場所、、、ようは近所の溜まり場である居酒屋のような感覚で拠点にしている。俺がいるから安全であり俺も不死みたいなものだから理解がある。同じ時間を生き、考え方の意気投合した者たちがここにいる不死者だ。
不死者たちは家賃の対価に防衛に参加してくれている。英霊だけでは手が足りない軍勢の時や本物の神相手では力不足の時もある。そういう時は彼ら彼女らが集結するというわけだ。
ぎゃーー~ー~~~ーー~~~ーーー!!!!!!??!?!???!?!?!
「おうおう、始まってんなぁ」
俺の視界の端では敵が何者かに吹き飛ばされ宙を舞っている。指向性の持たれた爆発が起き、局所的に隕石が飛来したような震源地となっている。
「あれは、、、たぶんシードだな」
その場所以外でも悲痛な悲鳴が響き渡る。
何もせず大欠伸をしている者の周囲では誰一人近づくこともできずに倒れていく。
攻撃された者は血煙へと消え、攻撃を仕掛けた者はその装備と一緒に触れると同時に煙へと消える。
誰かの笑い声と誰かの叫び声は聞こえるが認識できず、声の周囲では何かが通り過ぎると血しぶきが舞い散る。
白色の木刀を片手に、一振りする毎に空間ごと敵が削がれ消滅する。
フィンガースナップ一つで周囲の存在は砂と消える。
氷を纏った大剣を振り回し、数えきれない種類の魔法を連射しながら物量戦を単独で行う。
精霊、龍、様々な仲間と共に戦場を搔き乱す、二人の女性。
神出鬼没な行動でその能力をもって敵を圧倒する。
ステータスの暴力。圧倒的な差で敵を寄せ付けない。
ド派手なエフェクト、現実ではありえない動き、規則性のない様々な能力で敵を翻弄する。
「こんなに不死者が集結するのも珍しいか?」
「最近はセイを育てるのに夢中で滞在期間が延びてたからね 後は単にセイの助けになりたいからだと思うよ?」
「おう、クリスタルも来てたのか 戦闘には参加しないのか?」
「えー、めんどい 能力も彼らと比べたら一段と劣るし俺の専門は電脳空間だからパスかな」
「ゲームステータスで戦えるだろうに・・・」
「悠椰ほど自在にはムリ 俺は観戦してるよ」
「そうか じゃ、そろそろ俺も参加しますかねぇ」
「いってらっしゃ~い」
エリアスはクリスタルをその場に残し、阿鼻叫喚の敵の直中に躍り込む。
エリアスのガンカタはセイとの訓練で見せたものよりもさらに一線を画すもの。一撃一殺、一つ一つの行動が敵を確実に屠っていき銃弾に無駄玉などなく一発の銃声が数百の悲鳴を響かせる。その殺しの舞いを止めさせようと近づけば巧みな体術で持って物言わぬ肉塊へと変えられてしまう。
エリアスの獅子奮迅の活躍を見つめるクリスタルは・・・。
「英霊も呼ばないで、、、一番張り切ってるのがエリアスなんだよなぁ」
侵略者は一分もたたないうちに全滅する運命が確定した。
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スゥーー ふぅ~~~
何やら喚き続けているゴ・ミ(リアナ命名)を前に魔煙を漂わせているのはセイ一人。実質、セイとリアナの二人で戦うわけであるが・・・。
(リアナ、僕一人で戦ってもいいかな?)
(・・・大丈夫?)
(ん? あぁ、大丈夫 冷静だよ 突然、仇が現れたことには驚いたけど、、、まぁ、冷静だね やり場のなかった怒りの矛先が見つかっただけ・・・ やることは変わらないし、強さを手に入れたことで一度整理した感情だから問題ないよ)
自己分析ではあるが本当に問題ない。魔物の反乱によって家族や村の人を亡くしたのは確かだが、もう遠い昔のことだ。ライムの試練での長い時間、不死者との訓練による長い体感時間。力を求め続ける気持ちは変わりにないが、失ったことに対する感情の整理は膨大な時間が解決している。リアナが心配するようなことは起こりようがない。
(ん、わかった 私は魔力操作の補助だけする)
(うん、ありがとう ビーちゃんもよろしく)
カランコロン~♪
何とも気の抜ける涼やかな音色を後に攻撃を仕掛ける。
精霊の歩幅で接近、動揺する敵の顎へ掌底、流れるように正中線へ上から順に貫手で貫き、拳打を鳩尾へ当て吹き飛ばす。
ゴ・ミは何も出来ずなすがまま。接近に反応できず、脳震盪によりまともに動けない。そんな中で額、眉間、鼻、人中、喉仏、心臓、横隔膜、鳩尾、肝臓、腎臓、金的と一瞬の間に刺し貫かれた。最後にはあまりの激痛で覚醒したところを腰の入った拳打で血だらけで吹き飛ばされる。
「くぇrちゅいおp@あsdfghjkl;:zxcvbんm、。・¥ッッッ!?!?!?!?!?」
「弱い」
あまりに弱い。回避されることも考慮した攻撃が全て命中した。仮にも神を名乗っているからかまだ死んではいないが重症なのは明らかだ。
魔力操作による強化もない状態でこの結果。エリアスが来る前にある程度は実力が見えていたとは言え、あまりにも弱すぎる。こんな奴にいい様に不意打ちとはいえ攻撃を受けたのが何だか腹立たしくなってきた。
「あjkhふぁいうlkdjfhn」
ゴ・ミはもう言語化できていない。意味のない叫び声をあげながら両手の前で力を溜め始めた。その溜めている動作は隙だらけな訳だが・・・。
「あれって、最初に受けた攻撃だよね?」
(ん、そう 奇襲で受けた光線)
「うんうん ・・・ちょっと、苛立ちを解消させてもらおうかな」
ゴ・ミが溜め続けるのをそのままに、僕は『チェンジ』で弓と矢を取り出す。
これはエリアスから貰い受けた弓と矢。矢はちょっともったいないかもしれないが、、、まぁいいだろう。全力で『分解』を矢に込めてみる。
「いぃ!? 流石エリアス製の矢 僕の魔力が全部持っていかれたわ」
慌てて、ビーちゃんを銜えて魔力の回復を図る。リアナからも魔力をいくらか譲渡してもらい、魔力酔いによる眩暈が解消されてきた。
「ふぅ~ ありがとう 二人とも」
(ん 全力でいってみよー)
カラン~コロン~♪
矢をつがえ、ゆっくりと狙いを定て構える。キリキリと弦を引いていき、呼吸を整え、停止。
フーーー フッ
矢を放つ。
ゴ・ミの攻撃と同時に放たれた矢は、光の奔流を消滅させながら撃ち貫いた。
バリィィィンィィィ!!!!
矢の勢いは尚も止まらず、ゴ・ミの右手を空間ごと吞み込んで玉座の間の半分を消滅させた。
「ッッッー~ー~ッーッッ~~~~!?!?!?」
ゴ・ミはあまりの動揺と半身を失ったことによる激痛か、声にならない声を響かせその場に蹲ってしまう。
「(・・・この技は封印しよう)」
僕とリアナの考えは同じ結論になった。
今の攻撃でエリアスの結界に穴をあけてしまったようなので、慌てて、魔力飽和を発動する。結界の修復に時間をかけるよりも魔法の発動しない空間を作った方が早いし逃げられないで済む。
空間を様々な文字列と魔法陣、図形が飛び交い始める。イフリートとの戦闘以来の発動だが以前よりも格段にスムーズに発動した。
「・・・これでアイツは逃げられないようになったはずだから止めを刺そうか」
気を取り直して魔力を練り直す。さっきから慌ててばかりだから一旦落ち着こう。
すーーーー ふぅ~~~
大きく深呼吸をし集中する。ビーちゃんもさり気無く集中力を高めるレモン系の香りに変化して補助してくれる。
引き手をゆっくりと構え、精霊の歩幅。接近し未だ蹲り続けているゴ・ミに掌底をそえる。
「発勁」
シードさんに教わった細胞単位での物理破壊。今の僕、完成された今の僕の体ならば、シードさんの技を模倣できる。そして成功した。
ゴ・ミは体を崩れさせながら宙へとふわりと浮かび上がる。
視線の高さまで浮かび上がったゴ・ミに脚撃を浴びせる。
「ㇱッ」
技名などない回し蹴り。ただ、その一撃に込められた威力は異常。セイとリアナ、ビーちゃんの三人分の魔力を精霊の靴に込めに込め、完璧な魔力操作の下『ショック』を発動している。
『ショック』は、【無属性】のスキルの習得と共に使用できるようになる基礎技術。素人が行えば、僅かに押すことしかできない魔法だが、賢者などの魔法に長けた者が使えば、最速の攻撃呪文になる魔法技術。ならば、今のセイが『ショック』を発動したらどうなるか?
答えは・・・・・魂をも消滅させる。
セイが体制を戻し残身をとる中、セイの目の前にいた空間には何もない。ゴ・ミは何一つ残すことなく消滅した。
「(この技は採用!)」
セイとリアナはちょっとズレたことを考えながらも緊張を解いた。
カラン―コロン~・・・♪
器用に呆れたような音色が響く中、自称神との戦闘は拍子抜けするほど呆気なく、終始圧倒して終わりとなる。
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「よっ 終わったようだな」
「ん、エリアス」
「はい ちょうど終わったところです」
リアナが『憑依』をちょうど解いて一息ついたころエリアスが現れる。
「こっちも終わったからとりあえずセイの自宅まで戻ろうか 話はそこでしようぜ?」
「? はい、わかりました」
なんか話すことなどあっただろうか?んーーー。ちょっと思いつかない。何か知らないかリアナに視線を向けるも・・・。
「ん、私も分からない」
とのこと。
疑問に思っているうちにいつもの様に頭をガシッと掴まれ転移する。市場ではなく自宅に転移したわけだが、特に忘れ物がある訳でもないので大丈夫だろう。
窓の外は暗くなり始める時刻。拉致されてからの戦闘はそれほど時間もかからずに終わったようだ。
リアナは夕飯、、、というより侵略者を撃退した祝いとしてパーティーをするとエリアスが言い始めたので、その準備に取り掛かることになった。
他の不死者も続々と家に訪れる。誰一人玄関を使わず転移で直接入ってくるのはそれだけ仲が深まったということだろうか?無遠慮にも程がある気がするが『不死者だからなぁ~』と諦めてる僕がいるのは彼ら彼女らに毒され過ぎかな?
リアナが分身も最大限活用して準備を進める横で、僕はエリアスと会話する。
「それで、話というのは何ですか?」
「あぁ、セイに話したいのは不死者についてだな」
「?? 不死者について?」
エリアスから語られたのはここにいる不死者とはどういった存在なのかについてだった。
不死者とは『死なない』から不死と呼ばれるのではなく、『死ねない』存在であること。
エリアスであれば、生命力=魔力量なスライムでその魔力量が無限であるため死ぬことが出来ない。
シードであれば、たとえ体を魂を全損させたとしてもその能力で完全復活するために死ぬことが出来ない。
他、ここにいる13人の不死者はそれぞれの理由で死ぬことが出来なくなった存在たちだ。
「セイは今回の件でその『不死者』の仲間入りを果たした、というわけだ」
「僕のはただ『クリーン』で回復しただけでは? 不老はわかりますけど、不死ではない様な・・・」
「いや、セイはもう死ねない 例え魂が消滅したとしても死ねないようになった」
僕の不死身性はなかなか複雑。
一つ、種族の人間への固定。
種族人間から何があったとしても変わらない不変性。今のセイのステータスほど育て上げれば種族は高位種族に進化するものだが、それすらも拒否をし一切の変化を赦さない。
二つ、全身のスライム細胞への置き換え。
全身、全ての細胞が万能細胞であるスライム細胞に置き換えられたことで魔力が全損しない限り死ぬことは赦されない。
三つ、血筋による適応能力。
血筋だけでなく種族的な適応能力も合わさり、どのような環境どのような状況でも生きることが出来る体に作り変えられる。たとえ、魂が消滅するような攻撃だったとしても瞬時に適応する。
四つ、リアナとの契約。
リアナの執着心。仮にセイが死んだとしてもリアナが繰り返し状況を打開する。この能力が転じより直接的にセイの死を赦さない。目の前でセイを失った今回の事でよりこの能力が顕著になってしまった。セイが死ぬような状況をそもそも起こさせない強過ぎる執着心。
五つ、ビーちゃんとのテイムの繋がり。
ビーちゃんとの魔力の直接的な繋がり。セイの魔力だけでなくビーちゃんの魔力も全損しなければ死は訪れない。
六つ、精霊の靴の執着。
微精霊が宿ったことで精霊の靴に明確な意思が宿り始めている。この繋がりもまたセイの死を赦さない条件に嚙み合い始めている。
七つ、セイ自身の強さへの執着。
そして、最後にセイ自身の執着心。種族固定というセイの思い込みから始まった自身の強化は様々な出会いや繋がり、関わり合いをもって誰もが予想しない方向に成長を遂げた。
偶然の状況から始まったライム式生活魔法の完全習得。種族固定が起こるほどの強い思い込み。ビーちゃんを生み出す偶然。本の内容を順に全て成し遂げ手に入れた力。リアナのセイへの執着心。複合的に強化された適応能力。不死者との関わり。最後に今日の出来事。
偶然に偶然を足して偶然を掛け合わせたその歩みは、もはや必然。
セイは『未完成にして完成した生命体』という『死ねない』存在となっていた。
「あの、リアナは・・・」
「私はセイが死なない限り死なないから、、、同じように不死?」
「あぁ、リアナもセイと同様に結果的に不死だ 同じくセイと繋がっているビーちゃんもな」
カランコロン~♪♪
リアナは一通りの準備が終わったのか戻ってきた。ビーちゃんは今までで一番うれしそうな音色を奏でている。
分身体がパーティーの準備を進め、不死者が思い思いに過ごしている空間で、エリアスは一つの問いを投げ掛ける。
「セイ 君はこれからどうする?」
その問いに対して僕は・・・。
「僕は・・・・・・」
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涼やかな風が吹き抜ける長閑な田舎。大きく開けた形で田畑が並び、ぽつりぽつりと家が建っているとても開けた土地だ。
時間がゆっくりと流れていく情景に子供たちの高い声が混じる。
「かえぃて!」
幼児特有の高い声で悲痛な叫びをあげる子供。
「やだね、お前なんかにはもったいないからもらってやるよ」
声を上げる子供のおもちゃ(何かのカードだろうか?)を取り上げて遊んでいるのは子供にしては大きな体格の少年。
「かえぃて!!」
「取れるものなら取ってみな~」
「はぁ」
少年の手からカードが消える。
「そんな意地悪するなよ」
少女の手元にはさっきまで少年が持っていたカードが握られている。
「かえせ! それは俺のだぞ!!」
「違うでしょ」
取り返そうと近づいた少年は避けた少女に足をかけられ盛大に転んでしまった。
「この、かえせ!」
再び、襲い掛かるが何も出来ずに転ばされる。面白い様にクルンクルン回され何度も地面に転がり泥だらけになっていく。
「っぅ ぐすぅっ 覚えてろよ~」
「何ともテンプレなセリフを・・・」
少女はあきれた様子で少年を見送り、ため息をつきながらもカードを元の持ち主に返す。
「はい、取られないように気をつけろよ?」
差し出されたキラカードを見つめながら五歳児のセイは・・・。
「しゅごい!」
キラキラした瞳で不死となった少女のセイにそう言うのだった。
裏ジョーカーで性転換しているセイは、五歳児のセイに連れられて家に向かっている。
その場をすぐ離れようとしたのだが小さな手に捕まって離れることが出来なかった。済し崩し的にセイの家、魔物の反乱が起こる前の家に向かうことになった。
(小っちゃいセイもかわいい♪)
(はぁ、こんな予定じゃなかったんだけどなぁ~)
ユウヤの時渡りで過去の時間、魔物の反乱に襲われる前の時間に来た。予定としてはタイムパラドックスが起こらないように何もせず平和だった頃の村をもう一度見るだけだった。
たまたま、村のガキ大将に虐められている当時のセイに遭遇し助けてしまって今に至る訳だ。
(本当に僕は強くなったんだな・・・)
(ん? セイ?)
当時の僕からしたら絶対に勝てなかったあの少年。いつも虐められて仲も悪かったので名前も覚えていない少年だが、僕にとって最強の存在だった。
最強の姿で脳に焼き付いていた少年に同じ身体能力で圧倒した。わざわざステータスも制限して少年と能力値を合わせた上での圧倒。なんだか不思議に思う。
(リアナ・・・)
(ん、なに?)
(僕がさ 強さを求めた理由は・・・強くなればなんでもできるようになると思ったからなんだ)
人よりも強ければ、あのガキ大将の様に好きに振舞うことが出来る。何でもできるようになる。そうなったらなんだか最強になれるような気がした。
(さっきの生意気な子供みたいに好き勝手したかったの?)
(んー、と言うよりはもっとすごいことが出来るようになるって漠然と思っていたからだと思う)
強くなって何かを成し遂げたいわけでも目標があったわけでもない。ただ、『強かったら何でもできるんだ』と思っていたんだと思う。
(セイは強さを手に入れたよ?)
(うん)
(不死にもなった)
(うん)
(これから何でもできる)
(そうだねぇ なんでもできるよねー)
今、初めて自分が強くなれたことを受け入れられた気がする。今までどこかで僕よりも優秀な人間がもっといるとか、もしあの少年が死んでいなかったら僕よりもすごい人になっていたはずだとか、何かに理由をつけて受け入れ切れていなかったのだと思う。
それがあの少年を簡単にあしらったことでストンと気持ちに整理がついた。
リアナと話していると、目的としていた家に着く。
「ぁ、まま!」
今まで僕の手を引いていた当時のセイは母親を見つけると一目散に駆け出し抱き着いた。
(母さん)
「あら、どうしたの?」
「まま、まま おねぇちゃんがね? とりかえぃてくぇたの」
「そう、よかったわね~ ちゃんとお礼した?」
「ぁ、しぇくる!」
ちいさなセイは母親と一緒にこちらに来る。
「ありがとうございます」
「あぃがとうぉざます」
「ぇ、あ、いえ 大したことではないので・・・」
あぁ、母さんだ。母さんが生きてる。父さんは畑かな?この時期はまだ収穫の時期じゃなかったはずだけどもう覚えてないな。
「・・・・・? よしよし」
母さんは僕の頭を撫でてくれる?
「がんばったのねぇ」
それはだめだ。ふいうちはだめ。やめて、ぼくはたすけれないのに・・・。
「怖かったよねぇ 辛かったよねぇ 小さい体でがんばったのよねぇ」
たぶん、母さんは女の身で助けるために立ち向かったことを言っているのだろう。ガキ大将は村では有名だし、当時の僕が何かと物を盗られていたことも知っていたはずだ。だからそのことを言っているのあって他に他意は・・・。
「ぁ」
そっと抱きしめられる。ぎゅっと母さんの胸の内に抱きしめられる。
「こんなに大きくなって・・・ ありがとう セイ」
「な、んで・・・」
「母親なら誰でも気づくものよ? 自分の子供なのだから」
「ぁぁ、」
かおをあげれない。あたまをなでるやさしい手からはなれたくない。
「? おねぇちゃん 泣いてるの? いたいいたい?」
ちいさなセイが僕をなでる。
「お姉ちゃんはねぇ~ 大丈夫よ~ だって強いもの でも、ちょっと疲れちゃったかな? 御菓子食べてく?」
「ぁ、うん そうします」
「おかし~♪」
僕は二人に連れられ歩く。ちょっと不思議な感じでどこか抜けたようなところがあるのはやっぱり母さんだ。
(・・・すごいね)
(うん、すごい)
あの時、床下に押し込められ食器の重みで出られないようにすることで僕は助かった。それをしたのは母さんだ。母さんが助けてくれたから今の僕がいる。
その後、不思議な時間を過ごし家を後にした。
家を出るとき
「ありがとうございました」
僕の挨拶
「どういたしまして 元気でね?」
母さんの言葉
短いものだったが、、、込められた思いは、大きい。
帰ってきた僕は感情を抑えられなかった。。。
ーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーー
ちゅんっちゅんっちゅんっ♪
カラン~コロン~♪
ちゅっ ちゅちゅん ちゅん♪
カランッ コロン~カラン~♪
「ふぁ~~~、ぅぅんーーーー、はあ」
いつも通りの起床時間。いつか聞いたような、バージョンアップしているような気のしなくない小鳥とビーちゃんの合唱からの起床。んー、いまいち違いがわからない。
昨日は帰ってきて気持ちを落ち着けてから飲み会パーティーに巻き込まれた。夕飯を取るだけのつもりだったのになぜ巻き込まれたのか・・・。昨日はなんであんなにテンション高かったんだろう?酒癖が悪い人たちではないはずなんだけどなぁ~。
「ふぅぁあぁぁ、、、 ねむ」
夜更かししたのも久しぶりかな?まだ眠いや・・・。
眠気を覚ますために洗面所に向かう。『ウォーター』でよく冷えた水を召喚して顔を洗った。
「ふぅ、冷たい、、、」
鏡に映る僕は、今更だがとても可愛らしい。こげ茶色の髪、可愛らしく整った顔立ち、とくに目が大きく映え我ながらその瞳に引き込まれるような魅力がある。『魔眼』の能力開発もあって黒の瞳は角度によっては蒼く輝くように見えなくもない。この瞳はちょっとした副作用かな?それにしても顔立ちだけだと女にしか見えないなぁ。
少し下がって全身を鏡に映す。その場で体を捻って確認してみるが、、、低身長で華奢な体型、目を凝らしてよく確認しないと男だとは判断できない。
「・・・あるね」
裏ジョーカーを使ったままかもと思って確認したが、もちろんついており男確定。
「僕ってこんなに可愛らしいのね・・・」
「ん、セイはかわいい いつもどおり」
顔を拭くタオルを受け取る。
「ありがと おはようリアナ」
「ん、おはようセイ ・・・大丈夫?」
昨日のことかな?リアナにはずっとよりそってもらったからな~。
「うん、大丈夫」
「ん」
それ以上は何も言わずに一緒にいてくれる。
「ありがとう」
「ん」
不死者となっても大きく変わらないいつも通りの日常が過ぎて行く。
昨日の飲みの席で不死者たちがなぜ強いのかという話も話題に上がった。
理由は単純で様々な世界を渡り歩いて、様々なステータスを手に入れているからだそうだ。メインとなる能力は不死となった世界の能力だが、基礎的なステータスや多彩な能力は他ステータスを重複させることで手に入れた力なのだそうだ。
僕が世界を渡り歩けば不死者の中で一番高い能力の上昇が見込めるらしい。僕の適応能力はステータスに特化しているのが大きな理由だ。
不死者との訓練、目標としては魂装に100パーセントの実力で不死者の幻影を登録することが出来たら他の世界を渡り歩いてもいいかもしれない。
まだまだ、この世界でもやり残したことはあるし全てが終わったら行動に移そうかな?
僕とリアナとビーちゃんの二人と一匹で様々な世界を渡り歩くのはなんだかとても楽しそうだ。
朝練や不死者との訓練が終わった後、今日は探索者協会で依頼を受けようと思い立ち寄った。
「あ、マートさん こんにちわ」
「セイちゃん! こんにちわ 今日は依頼受けるの?」
「はい、今日はそうしようかと・・・」
僕が話しを進めようとするとスッとリアナが割り込む。こんなことはあまりないので珍しい。
「ん、これからは隠さなくていい」
「!? そ、それって、、、いいの? ほんとに?」
「???」
マートさんは今の言葉に感激なようだがなんだろう?
「ん、いい ・・・セイ、昨日の言葉覚えてる?」
「? 昨日の言葉?」
昨日の言葉?昨日は濃密でいろいろなことがあったからどれのことを指しているのだろう?
「ん 昨日『なんでも』って言った」
「あぁ、そうだね」
うん、言ったね。リアナを慰めるための言葉だったけどリアナになら本当に心から何でもできる。
「ん マート、そういうこと」
「ありがとう セイちゃん」
「??? どういたしまして??」
んん?どういうこと?
「私ね できちゃったの」
「? はい」
「これからよろしくね?」
「はい???」
この世界でもまだまだ退屈することはない。
と、言うかリアナもそうだけど、、、マートさんなにしちゃってるの!?!?
セイが驚愕する探索者協会の外の花壇では、青いヒヤシンスが揺れている。
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【不死者の集い】これにて完結となります。ここまで読んでいただきありがとうございました。
短編で書き連ねていた不死者たちをまとめたくて始めた作品でした。設定集を作っていくうちにハーメルンの二次創作で流用する主人公を作る方向に決まりました。それからは勝手に動き出すセイたちを作者の拙い文章表現で表していった次第です。
再度、【不死者の集い】を読んでいただきありがとうございました。
読者の少しの楽しみとなれたら幸いです。
最後にIFストーリーと設定集を投稿して終わりとします。
これ以降セイたちは、様々な世界を飛び回ることになります。
(ハーメルンより 不死者の迷い込みへ続く)
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