第35話 世界の異変(師匠視点)
やあやあ、こんにちわ。大道芸人のセイの師匠こと、、、いや、名前は言わないでおこう。師匠だけでも私とわかるのだから問題ないだろう?大道芸人としてはミステリアスなぐらいが丁度いいと思うのだがどうかね?
弟子のセイにも性別すら明かしていないし全体的に体のラインの見えない服装で活動している。声帯も大道芸人なのだから変幻自在だ。私の正体を知っている者はそれこそ片手で数えられるほどしかいないだろうねぇ。
今、私はキナ臭い噂を耳にしてねぇ。世界中を飛び回って情報を集めているところだよ。情報源としては信用性のある方からのものだから問題ない。いつか機会があれば話そうかな?
ここ何年もセントヴェンを拠点に大道芸人として活動していたが、旅は慣れたものだよ。若い頃には世界中を飛び回っていたからねぇ~。少々やんちゃしたこともあったが今ではいい思い出だよ。うんうん。
旅支度にしても収納魔法があるから手荷物は少なくて済むし、これでも武力は英霊となれるほど中々のものだから心配はない。
そう、私も英霊の一人だ。私の死後は世界の安定を図るために召喚される守護霊となることが内定しているのだよ。能力値も英霊の中では上位に位置する。手札の多彩さではまだまだ弟子に負けるわけにはいかないねぇ~。
不老の身でもあるから見た目年齢で私の正体を当てにすることはできないよ。多かれ少なかれ英霊へと至れるものは不老となることが多い。方法は違えども一定の強さ以上の者はそうなる運命にあるのかもしれないねぇ。
はてさて、私のことについてはこの辺でいいかな?そこら辺の輩には負けることのない実力のある大道芸人であることが分かってもらえたように思う。
今回の旅の目的はキナ臭い噂の調査。いくつかあるが箇条書きにした方が分かり易いかな?
・未確認の魔物について
・見慣れない人種について
・頻発する魔物の反乱について
大きく分けてこの三つが今回の調査対象だ。
まず初めに未確認の魔物についてだ。
未確認の魔物は世界各地で想定していたよりも頻繁に報告が上がっている。冒険者ギルドを軽く調べただけでも多くの情報が散見された。
本来その地域には生息していないはずの生物や全くの新種の異形の存在、統率の取れていない鳥系統の生物、色違いの原生生物などなど様々な報告が上がっている。
何の前触れもなくほぼ同時期に世界中で報告が相次ぐようになったようだ。どの地域でも多少の差はあれど似通った時期に報告が上がり始めている。
多少の混乱はあれど、大きな問題には発展していない為、あまり世界中に情報が行き渡っていないようだ。致命的な問題であればニュースとして取り上げられるだろうが、そうではないので現状ゴシップネタのような扱いになっている。
この状況は人為的なものを感じる。何者かが情報操作をしているように勘ぐることもできる。それほど情報の上がってくる発生地域は多岐にわたるにもかかわらず大きな話題として取り上げられてはいないからだ。
今回実際に調べてみなければ私自身も気にかけなかったと思うほどに事態は水面下で進行しているように感じる。
とくに鳥系統の生物について。この世界において最強種は鳥系統であることは一定の実力のある者たちにとって周知の事実だ。弱肉強食の生体ピラミッドから逸脱した鳥系統の種族たち。頂点捕食者を差し置いて、独自の生態系を作りあげた強者の集団だ。
奴らは自身が生活する森を管理し時に邪魔者を排除、時に生態系を整えるために間引きをも行う。ドラゴンや精霊種と渡り合えるだけの武力を獲得しており人間種から見ても非常に厄介な存在だ。
そんな存在が単独で行動する情報がもたらされる。強者の視点から見れば、群れからはぐれた者と見るよりも異端的存在で危険であると認識する方が早い。
もし、その鳥系統の魔物が飛ばない系統であればより警戒しなければならない対象だ。強者の直系である確率が高く、危険な存在として認識しなければならない。
私の方でも目撃情報を基に鳥系統の魔物に接触してみたが、、、これが不思議なことに弱い存在だった。二足歩行の飛べない系統の魔物にもかかわらず非常に弱い存在。これはおかしい事だ。この情報だけでも何か良くないことが怒っていると暗示を受けているように感じる。
次に、二つ目の見慣れない人種についても未確認の魔物同様に、調べなければ浮き出てこなかった情報だ。
私は実際に接触することができていないがどうも大きな都市を中心に活動しているらしい。
人が多ければ良くも悪くも多くの人間が集中することになる。そんな都市で人ごみに紛れるように何かしら活動しているらしい。
見慣れない人種の特徴は薄い緑色の肌の人間種。どうも子悪党に接触して小さな騒ぎを繰り返している。
火事を起こしたり、盗みに入らせたり、酷いものでは人攫いに加担させていたりとその活動は多岐にわたる。
旅の途中、性格の変わる友人の話をしていた者と出会う。ある日、何の前触れもなく突如性格が豹変したのだそうだ。その場は取り押さえ、原因を調べていくとどうやらジョブが遊び人になっていたらしい。その友人は前日まで遊び人には何ら興味を示していなかったようで、なぜ遊び人にジョブが変わっていたのかは不明となったそうだ。
遊び人となってしまえば本人から話を聞くことも困難。すぐ取り押さえたこともあり大騒ぎにならず人知れず後処理をされたそうだ。一度、遊び人になってしまっては元の人生に戻ることは極めて難しい。国の監視下に置かれ保護されるのがその後であろう。
私はこの遊び人の事件もこの緑肌の人種が関わっているのではないかと睨んでいる。強制的にジョブを変更させる手段は知られていないが存在はする。刑罰の方法としてレベルリセット以外にジョブそのものを失わせる方法もあるからだ。
この事件の起こった都市では例年よりも事件が多発していた。独自の裏の情報源から調べてみると緑肌の人種が関わっている痕跡が多くみられれた。どの情報屋も直接はあったことがない様子であったが、大きな組織の下っ端の下っ端が接触したことがあるという情報は持っていた。末端の末端な情報のため正確性は皆無ではあるが引っ掛かる情報としては残る。それが複数の情報屋でもたらされるのだから疑いたくもなる。
各地で調べて行っても不確かながらも緑肌の人間種が引っ掛かる。情報が出始めた時期的にも未確認の魔物が発見され始めた時期とそう離れていない。
ここまでくるとどうもこの人種が暗躍しているように思えてならない。もっと正確な情報源があれば、直接接触することもできるのだが徹底的に行動を制限しているようでなかなか出会うことができなかった。
独自の転移手段も持っているらしく、捜索が難航しているのに拍車がかかっている。
そして三つ目、魔物の反乱について。
これは私が思っていたよりも酷い。小規模の反乱が多発するようになり、現地の有志により人的被害は最小限に抑えられているが、それ以外の被害状況は酷いものだ。無くなった農村など数知れず、時期も未確認の魔物や緑肌の人種よりも早い時期から頻発するようになっているた為、関連性がわからない。
同時期であれば緑肌の人間種を怪しむことができたが三つ目の反乱に関しては時期がズレすぎている。疑うに疑いきれない不可解な時期から頻発し始めた。目立つようにならない時期から計算すればもっと昔から反乱は起こっていたのかもしれない。
それこそセイが反乱に巻き込まれた時期まで遡らなければならないかもしれない。
セイが巻き込まれた魔物の反乱は当時、世界中に情報が広まった。数十年もの間一度も起こっていなかった魔物の大反乱。セントヴェンの実力者がいたからこそ一つの村が壊滅するだけで治めることができたが多くの人命が失われることになった。
被害にあった村の唯一の生き残りがセイだ。シードさんがたまたま居合わせなければセイの命も失われていたかもしれない危険な状況だった。
あの大反乱からすでに20年近く経過している。セイの見た目が変わっていないので勘違いしそうだがそれだけの年数が経過している。
この二十年の間に徐々に徐々に小規模な反乱の数が増えていった。被害こそニュースに取り上げられるほど酷いものではないが過去の記録を調べていくうちに少しづつ反乱が酷いものに変化していることがわかる。
ここ最近では、未確認の魔物を中心に反乱が多発している。この部分だけ取り上げれば緑肌の人間種が怪しいのだが二十年も前から発生していたことを考えるとそう短絡的に繋げることもできない。
調べれば調べるほど不可解な存在が暗躍しているように感じる情報。
起こり始めた反乱、未確認の生物、見知らぬ人間種、これらはどこからやってきたのだろうか?
ここ近年ではどこかの国が異世界召喚の儀式を行ったという情報もない。異世界に頼らなければならないほど今の世界は殺伐としてないし平和な世の中だ。
今でこそ混沌とした人種の坩堝となった世界だが長い年月をかけて安定し平和な世界へと変わってきた。
過去には、これだけの人種の種類があれば派閥が生まれ、国が興り、戦争が繰り返された。混乱を極めた戦時のさ中、異世界に頼る国が現れ、より混沌とした世界へと変貌していく。
長い長い、気が遠くなるような時間をかけて今のような高度な文明のいいとこ取りの様な一つの平和な時間が訪れた。
この世界は英雄はいれども勇者はいない。そんな感情論とカリスマだけで平和に導けるほどこの世界は甘くない。絶対悪がいるような、物語のような単純な世界ではない。
一人一人に物語があり、主人公であり、なにもかもがアトランダムに動く規則性のないクソゲーだ。一人の天才が時代を加速させ、多くの凡人たちが理解に奔走する。そんな当たり前の繰り返しを行う世界。
憎むべき世界であり愛すべき世界だ。矛盾に矛盾を重ねた混沌とした当たり前の世界。その一つの平和を、その時代を生きる生命の一つとして守りたいと思う。
暗躍する存在は依然掴めないが、今やらなければならないことは必然とわかってくるもの。今、反乱を起こしやすく、反乱が起これば大きな被害が出ることが確実な地域。暗躍する存在が足掛かりにするならば人間種が支配しきれていない地域が一番手を出しやすい。
情報をあらかた集め終えた私は、これから獣人種の大陸、グンダヴィラ大陸へと向かうことになる。
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