第三幕 不死者へと至る
第31話 帰還 大道芸な日常
僕は体の揺れを感じ目を覚ます。
「うぅ、ベット? ここは・・・」
周りを見渡してみると個室のようだ。ベットと簡素な椅子と机、丸窓の外は街並みではなくどこまでも続く海。どうやら揺れていたのは波の揺れらしい。
「船の中?」
「よう、目が覚めたようだな」
さっき見渡した時にはいなかった椅子に一人の男が座っている。手元のゲーム機を宙に投げるとどこかへ消えていった。
「ユウヤ? んん? ああ、イフリートに負けたのか・・・」
「しししw まぁ、負けはしたが試練は達成だ お疲れさん」
「うん、ありがとう」
はっきりしてきた意識で見渡してみると、布団の中にはリアナがしがみついているし机の上にはビーちゃんが置かれてある。どうやら、あの理不尽な状況の中を誰もかけることなく生還できたみたいだ。
「とりあえず説明するぞ ここはグンダヴィラ大陸とクリガース大陸間の船の中だ 今はクリガース大陸に向けて進んでいる セイたちが予約していた便に乗って数時間ってところだな 到着まではあと三日ぐらいになるか? そこら辺は職員に聞いといてくれ 他に質問あるか?」
「えっと、船の予約なんてした覚えがないんだけど・・・」
「いやいや、してたぞ?予約」
??? 炎しかない大陸で予約も何もないと思うんだけど・・・。
「ん? あぁ、今は試練に飛ばされた時間から数時間後だ エリアスに連れ去られる前はセントヴェンに帰ろうとしてたろ? その船の予約便」
・・・??? 僕はまだ混乱している。あの過酷な試練は最低での数十年は経過しているはずだ。途中から時間の感覚なんてなくなっていたから実際には数百年、数千年かもしれない。それだけの月日が経過しているのに予約がまだ残ってる?あれ、試練に飛ばされた時から数時間後だっけ?でも長い時が経過しているはずで・・・あれれ???
「あー混乱してるなぁ よし、分かり易く説明するぞ
・エリアスに試練会場の過去の時間に飛ばされた。
・5000年以上の時間をかけて試練を達成した。
・俺が元の時間軸、エリアスに飛ばされた時間に戻した。
・今は予約してた船の中にいる。
OK? わかったか?」
「お、オーケー」
「理解したな? よし、俺のお使いはこれで終了 俺もやりたいことがあるから行くな? じゃ、またな!」
「お、おう またな?」
僕がまだ戸惑っているとユウヤは消えてしまった。転移か何かをしたのだろう。魔力が何一つ感じられなかったが・・・。
まだちょっと混乱しているが、体がすごいだるいので寝ることにする。結局起きなかったリアナと共に二度寝に入った。
カランコロン~♪
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セントヴェンへの旅路は問題なく進んだ。
港町へ入港し、ヴードリア統治領を経由し、セントヴェンへとマイペースに歩を進めていった。
船旅の途中ユウヤがまた現れて、いつの日かはわからないがライムからも説明があるとの伝言を受け取る。これ以外は特に変化もなく魔物を間引きながら帰っていった。
二週間ほどで着いた、セントヴェンの東門。僕たちが旅立った時と変わらず建っている。若干、きれいに改装されているように感じなくもないが、、、んー、変化はないと思う。
「ようこそ、セントヴェンへ 身分証を確認します」
「どうぞ」
冒険者のライセンスカードを見せ、料金を払い、町の中へと入った。門番の人は僕たちの知らない若い人だったので新人なのかもしれない。
「街並みもあまり変わらないね」
「ん、変わらない 種族も雑多なまま」
相変わらずの極彩色な人通り。様々な髪色、肌色、服装の種族が入り混じった混沌とした大通り、ビル通りも教会も道順も大きな変わりはない。
「お店がいくつか入れ替わっているぐらいか? 変化といえば、、、」
「ん、いくつか変わってる ラーメン屋が減ってる? 気のせい、かも?」
がやがやとし大通りを街並みを観察しながら人の流れに流されていく。
「こんなに人いたっけ?」
「たぶん、変わらない 時間が昼だからかも」
「なるほど??」
ちょうど昼時だから人通りが多いのかもしれない。・・・違うかもしれない。いい匂いが漂ってはいるが、ときどき混じり合って不快な匂いの時もある。衛生面は魔法技術もあり完璧な都市なのだが、流石にその場その場の匂いは限界がある。人口が多いと問題も出てくるが、治安はいいので見える範囲では問題も起こっていない。それでも人通りが多いような、、、増えたような、、、・・・なんかいつも通りな気がしてきた。
「あー、そうだ 宿どうしようか さすがに協会職員寮は残ってないと思う」
「んーん 残ってる」
「え? なんでわかるの?」
「残しとくって言ってた」
「そうなの?」
聞くに、旅立つときに部屋を残しておくことを聞いていたらしい。僕たちがいつでも帰ってこれるように部屋を改装しておくとも話していたそうだ。改装費は無駄に余っている僕たちのお金を使ったとのこと。そのため、セントヴェンには僕たちの豪邸が立っているそうだ。ええ??
「家があるの?」
「ん」
「豪邸なの?」
「ん」
「聞いてないよ!?」
「ん? そうだっけ? でも、モーマンタイ」
はぁ~、大金が余っているとはいえ相談してほしかった・・・。いつの間にか知らない物が増えていたら怖いよ。てか豪邸なの?普通の家じゃないの?僕とリアナの二人しかいないのに豪邸の広さ必要ないよ?え?職員寮と兼用?探索者協会に大半の貯金を預けている?そこから有効活用されている?これまでの親孝行?恩返し?あー、それならしょうがないのかなぁ。
「預けてたお金を使ってできた物ってこと?」
「ん いろいろ使ってる 何に使ったかはデータが来てるから把握してる」
「んー リアナが把握できてるならいいのかな?」
よし、この話は置いておこう。何か悪いことがあったわけではないし問題ない。
「それだと、これから向かうべき場所は協会になるのか?」
「ん、そこ 帰ってきた報告するべき」
流れで歩いていた道のりから目的地に向けて移動する。どれだけ月日が経過しても体は道のりを覚えているもので迷わずに進んでいく。途中、昼食を取り昼過ぎほどに探索者協会へと顔を出した。
「こんにちわ~」
僕が挨拶をしながら探索者協会の中へ入っていくと、、、
「へ? あれ? なに?」
協会内が静まり返った。どっかで既視感のある光景なのだが・・・。へ?耳栓?つけといた方がいいの?リアナから耳栓を受け取りさらに数秒・・・。
『『『『『『セイくん(ちゃん)!?!?!?!?!?!!!!!!』』』』』』
耳栓をしてもなお響く驚愕の声。状況の理解できなかった探索者はあまりの音量に気絶している人もいるし、かくいう僕も耳が若干しびれているし、リアナはちゃっかり遠くの方にいる・・・え?なんでそんな遠くの方に・・・・・。
ドドドドドドドドドッッッ
「へぁ? まって! そんな短い距離でなんでそんな足音に・・・・・」
僕は協会職員の人波に呑まれた。
===============================
帰ってきた当初は連日連夜、探索者協会内はお祭り騒ぎで、全員からハグの歓迎を受け、なでなでされ過ぎて禿げるのではないかと戦々恐々とし、空高く胴上げをされ、職人の師匠の方々にも歓迎され、ファッションショーが行われ、プロテインを大量に貰い受け、協会が機能停止した。
また、衣装が大量に増えた。増えた、増えすぎた、、何で六年間も毎日作ってるの?夜寝てる?え?スキル獲得した?一時間でワンセットできる?さいですか。。。
あんまりにも見た目が成長してないのでプロテインを大量に貰い受けた。これを飲んで大きくなれと輝く剛体が眩しい。さらにムッキムキになって、人数が増えているように見えたが気のせいだろう。。。
職員寮は大きく改装されていた。一つ一つの部屋に時空魔法が付与され、三階建ての見た目なのに内装は別次元に広い。僕とリアナの部屋ももちろんありいつでも住めるように家具も置かれていた。食堂のおばちゃんも便利になったと大喜びだ。特に喜んでいたのが協会職員なのは言うまでもない。
お祭り騒ぎも終わり滞った仕事も謎の気迫で速攻終わらせて探索者協会も通常運営が行われるようになった。妙に生き生きしているのはもしかしなくても僕がいるからなのだろう。これだけ歓迎されたら流石に間違えない。
「これからどうしようか?」
「ん、なんでもできる セイはその力を手に入れた」
「イフリートには負けたけどねぇ」
「ん、鍛錬を続けてればいつかは追いつける」
「そうかな?」
「そう、もんだいなし」
そういうものなのかな?スタートが違えばその分だけ差が開くように思うのだけど、、、それを言ったらキリがないか。経験を地道に積んでいけばいつかは勝てる日が来るのかもしれない。そこら辺は深く考えてもあまり意味はない。やることは今までとそう変わりないのだから問題ないのだ。
「鍛錬を続けながらやりたい事をする 今は試練で疲れたからのんびりとしようか」
「ん、そうする ラブラブのんびり過ごす」
ぎゅっと抱き着かれてしまう。僕は未だに慣れないしこれからも慣れることはない様に思う不思議。
「ら、ラブラブも偶にはいい、よね?」
「ん、だいさんせい!」
ステータス限界上限のこの世界においても最高値の力を手に入れる事が出来た僕たちは平和な世界で変わらない日常を過ごす。
カランコロン~カラン~♪♪
いつも以上に綺麗な音色が響いている。
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=コロ↑コロ↓コロ→、(6,3)『9』=
=コロ↑コロ↓、『5』=
セントヴェンで過ごす大道芸な日常の出来事。。。
セントヴェンへと帰ってきてから数か月。ほのぼのとした平和な日々を過ごしている。今日は十分な休養もできたので久しぶりに大道芸をしたくなった。
意外にも体は覚えているもので様々な小道具を試してみたが自由に動く。
「ん? 今日は何かするの?」
「大通りで大道芸がしたくなってね リアナもする?」
「んーん 私は見てる 楽しみにしてる」
「それならがっかりさせないように頑張らなきゃな~」
リアナも見るようだし恥ずかしい姿は見せられないな。
道具に不具合がないか入念に確認し準備を進める。リアナは後ろで何とも興味深そうな視線で見守っていた。
「さてと どこで始めようか・・・」
セントヴェンの中でも人通りの多い大通りをリアナとともに歩いている。相変わらずの雑多な通り。様々な人種がそれぞれの目的で広場を行きかっている。
「何か切っ掛けがあればそこから始めるんだけど・・・」
「きっかけ?」
「そう、きっかけ なんでもいいんだけどスタートにピッタシなインパクトのあるイベントでもあれば、、、」
「ん、カタカナいっぱい」
「え? そこ?」
何ともズレた会話をしながら大通りを歩いていると・・・。
うわぁぁあぁぁああぁあぁあぁぁぁん!!
大声で泣いている子供の声が響き渡った。
何があったのかと周囲を見渡すと道の端で竜人族の男性を前に大声で泣いている少女を見つける。竜人族は泣きつつける少女を前に半腰のままおろおろとしている。
「あー、迷子か何かを訪ねようとして怖がられたってところか?」
「たぶんそう 竜人族は厳ついから仕方ない ・・・でもイベント?」
「そう、だね ここから始めようか!」
第一のお客さんは決まった。頑張りますかねぇ~。
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厳つい強面の竜人族の男性がおろおろと周りに助けを求め始め、少女はさらにギャン泣きが続く中、一人の少年が近づきます。
「こんにちは 大丈夫? 落ち着いて?」
少女と同じ目線に合わせて姿勢を低くし、可愛らしい面立ちの少年が少女に話しかけます。
「ぅぇぐ ぇぅ まま ママ、が いな、い の ぇう」
「そっかぁ ママがいないのかぁ ここでいなくなっちゃったの?」
「ぅ ぇ ぅん うん」
少女は少し落ち着いたのか自身が迷子であることを話します。竜人の男性は少女が泣き止んできたことに少しほっとし怖がらせないようにそっとその場を離れようとしました。
少年は自然な動作でクリスタルの煙管を加え煙を吐き出します。
見た目が子供の少年が突然たばこを吸いだしたことに一瞬、周りは硬直してしまいますが、状況を理解する前にさらに不可思議な現象が一部始終を見ていた人たち全員に襲い掛かります。
吐き出した煙がひとりでに動き出し、様々な形を作り出しました。
デフォルメした様々な小動物か空中を駆け回ります。大小さまざまな煙が消えずに人々の隙間を縫って行きます。新たに作られた小さな煙の道を小さな存在が駆け回ります。煙は色を変え、形を変え、徐々に複雑な不可思議な景色を彩り始めました。
「わぁ~」
気づけば少女は泣き止み、キラキラした瞳で一瞬にして変わってしまった景色に見入っていました。
ふぅ~~~
少年はさらに煙を増やします。
少女の周りに煙で形作られた小動物たちが集まりました。少女は小さなピンクの兎を抱き上げます。少女の手に収まった兎は大人しく少女の顔を覗き込み、しばらく見つめ合っていると小首をかしげました。
「わあぁぁぁ~♪」
少女はそのもちもちの感触にも感激し、ぎゅっぎゅッと何度も抱きしめ他の小動物とも触れあい始めました。
「楽しい?」
少年のその質問に・・・。
「うん!」
満面の笑みで答えました。
少年はその言葉にうなずきで返し、次へと進みます。
ひゅぅ~~~~~
これまで以上の勢いで煙があたりに漂い始めました。
「よし、ママを探そうか」
少年は形作られた大きなペガサスに飛び乗り、少女に手を伸ばします。
「空から探してみよう?」
「うん!!」
少女は少年の手を取り空へと駆け上がりました。
大通りの人々は突然の出来事に驚いてばかりです。いろいろな可愛らしい動物が現れたかと思えば今度はパステルカラーのペガサスが大空に羽ばたきました。大通りに開けた広い空をそのペガサスが旋回しています。
キャッキャ、スゴイスゴイと大喜びの少女が落ち着くタイミングを見計らって話しかけます。
「僕の名前はセイ 君の名前は?」
「サーニャ!」
「サーニャか いい名前だね よし、この煙に息を吹きかけてみて?」
少女、サーニャ―の前に、少年、セイは煙の球体を差し出しました。
サーニャは次は何があるのだろう?とワクワクしながら煙の球体へ息を吹きかけます。
すると、球体はほどけていき様々な模様が空中に弾けました。
丸、三角、四角、星形、音符、様々な形が弾け、中央に大きな文字で『サーニャちゃんのお母さんいませんか?』と描かれています。
「これならママにも見えるかな?」
「うん! もっと、見たい!!」
「よ~し ここからが大道芸のはじまりよ」
ひゅぅぅぅ~~~~~~
セイはさらに大通りの空を彩っていきます。色彩豊かな煙は様々なアートを作り出します。
漫画、アニメ、ゲームの有名なキャラクター。空を漂っていた雲も巻き込んで大きな動物のデフォルメ姿。果ては巨大ロボットも一員加わりました。
大騒ぎの少女を横目にさらに場を彩ります。
次に加わったのは光です。様々な光が煙の間に現れより一層不可思議な空間へと変えていきます。
蛍の様に光が浮かび上がり、仄かに弾けます。サーニャが触れた光はその場で小さな花を咲かせ宙に消えていきました。重なった光に触れれば小さな小さな花火を咲かせます。
大通りを歩く人々も、あまりの現象に立ち止まる人々も、光に触れるとその場で一瞬の小さな花を咲かせました。まだ昼間だというのにその光ははっきりと見ることができ不思議な景色を形作っています。
「すごいすごい! もっともっと!」
「よーし こんなのはどうだ?」
すると、今度は大通りを駆け回っていた煙たちが空へと駆け上がり、集まっていきます。様々な彩の煙が寄り集まり徐々に形作っていくのは大きな大きな可愛らしい優しい表情の龍です。
色とりどりの龍は大通りの人々が圧巻とされる中、ゆったりと宙を漂い、その長い体を漂わせていきます。人々が驚く中、龍は大きく息を吸い込み始めました。
大きく大きく吸い込み、ぷっくりと膨れた頬から吐き出されたブレスは雲一つなくなった青空にそれはそれは大きな虹を架けました。
セイとサーニャはペガサスに乗ってその大きな虹を渡っていきます。
サーニャは終始感動しっぱなしで、もう大はしゃぎです。さっきまで大泣きしていた少女はそこにはいません。そこに居るのは満面の笑みの元気な女の子です。
セイがその様子を小さくガッツポーズしながら見守っていると、サーニャを呼ぶ声が聞こえてきました。
「サーニャ~ サーニャ~ そこにいるの?」
「あ、ママだ!」
サーニャが手を振る中、セイはペガサスを操り地上へと降りました。サーニャのお母さんの近くに降り立つと同時に今までの煙たちは空中へと溶けて消えていきました。
「ママ!!」
「サーニャ!」
煙が消えていく中、サーニャは母親と再会のハグをしています。サーニャは何で泣いていたのか忘れてしまったようで無邪気に喜んでいます。母親は叱ろうと思っていたのか少し毒気が抜けたような表情で娘を撫でていました。
「さて、大道芸は始まったばかりだ ショータイムといこう!」
セイはそう話すとその場でくるっとワンターン。服装は奇抜な白黒衣装へと変わり、白と黒半々のシルクハットを華麗に着こなします。
また注目を一瞬で集め、セイが始めたのはジャグリング。三個から始め、いつの間にかボールの数が増えていきます。高く高くボールは上げられ、個数は分裂するように増えていき、セイの手元から大きな大きな円をボールが描きます。
しまいには勝手にボールたちが空中を回り始めました。セイはそんなことは当たり前であるかのように次々と様々な種類をジャグリングしていきます。
ピンが回り始め、投げ輪が回り始め、透明な水晶、先ほどの煙の小動物たちなどなど、なんでも回します。中でも小動物たちは頂点でかわいいポーズを決めていてとても愛らしいです。
ジャジャ、ジャジャ、ジャカジャカジャカジャカ、ジャジャ~♪
人々が奇想天外なジャグリングに集中する中、いつの間にか音楽が流れ始めました。心躍るような音楽。軽快な音楽。音楽に合わせてジャグリンが変化していきます。
空を舞っていたそれぞれが交差し、より複雑な円模様を描いていきます。セイの手元はもう何をしているのか見えません。
音楽に気づいた人々が視線を向けるといつの間にか小人の音楽隊が集結していました。雲の上に集まった小人の音楽隊。軽快な音楽を奏でてこの場を彩っています。
音の種類が増える度に楽器を携えた小人の音楽隊が雲と共に登場します。
音楽隊に意識が向いていると、それまで宙を舞っていた小道具たちは空中へと消え始めました。
消えていく光景に驚いていると人々の間を精霊たちが楽しそうに踊っていきます。
曲に合わせて精霊たちが踊り、何度も現れては消えるキャラクター達も踊りはじめました。立ち止まった観客の中から、子供たちが踊り始め、それは徐々に広がっていきます。
また踊っていると今度は仮面をつけた人たちも踊りはじめました。
曲調は徐々にゆったりとしたものへと変わっていきました。
いつの間にか立ち止まっていた観客の全員が仮面を被り貴族のような衣装へと変わっていました。
流れる曲はワルツ。精霊も動物も仮面を付けた観客も全員を巻き込んで小人の音楽隊による仮面舞踏会が開催されていました。
突然のダンス会場に戸惑う人々も親切にリードしてくれる幻影の仮面貴族により誰もが楽しんでいます。
人々が楽しむ中、イルミネーションが会場をさらに彩ります。
そして、その光を綺麗に彩る、水のアートが大通りという即席の舞踏会場を形作りました。
水と光による幻想的な宮殿。空を優雅に泳ぐ、幻影や水の魚たち。立ち止まる人はどんどんと増えていきより大きな会場へと変わって、より多くの人を魅了していきます。
どこもかしこも目まぐるしい変化への戸惑いなどどこえやら、仮面で隠した口元は笑顔を作り、種族関係なく楽しむ会場に変わりました。
大通りは様々な大道芸が一人の存在によって繰り広げられています。
あっちではポップな音楽会場になり、こっちでは不思議な炎の幻想的な演武会場になり、そっちでは様々な属性の魔法アート作品が生み出されています。
一度に何種類もの高度な大道芸が繰り広げられ、観客が大いに沸く中、セイと衣装が白黒反転の大道芸人が乱入してきました。
ーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーー
ジャララ~ン~♪
「楽しいことやっているなぁ セイ 私も混ぜろよ?」
これまでの大道芸とはまた一線を画す曲が奏でられる。
とても力強く、心湧きたつ、叫びたくなるような音楽性。乱入者に明確に勝負を仕掛けられていることがわかる自己の強い曲調。端的に表すならロック。ソロギターでの勝負を挑まれた。
「師匠!?」
「うん、師匠だ 勝負だよ? セイ 私についてこられるかい?」
より複雑な聞いているものを圧倒させる曲調、技術へと昇華していく。
「負けませんよ! 今度こそ勝って見せます」
セイも負けじと師匠に喰らいつく。
セイと大道芸の師匠の楽曲勝負は加速する。観客が圧倒される中、二人は交互に相手よりもより高度な技術を披露し観客を沸かせる。小人の音楽隊や精霊たちも二人の対決に合わせて場を盛り上げていく。
観客が歓声を上げる中、音楽勝負は決着がつかず次の勝負へと移行した。
ダンス対決。
マジシャン対決。
アート対決。
演舞対決。
変身、女装、早食い、大食い、バランス、曲芸、ダーツ、射的、などなど様々な大道芸で勝負をし、その度に圧倒的な二人の芸に観客は大歓声をもって答えた。
最後に一周回って歌声対決をし、観客の反応を見る限るこれもまた引き分けのようだと思った時・・・。
『ゴラー!!! こんな大通りで大道芸をしている奴は誰だ、ゴォラーー!!!』
「「あ、やべっ」」
余りの大盛り上がりに大通りという交通の重要な場所を通行止めにしてしまったようで警備の人が捕まえに来たようだ。
「あちゃー 決着つかなかったね~ セイも成長したなー」
「今日も師匠に勝てませんでした 師匠はまだ上があるようにも感じるのですが・・・」
「あたりまえじゃん?」
「そのドヤ顔は、少々ムカつきますね」
無駄にカンペキなドヤ顔を披露されてムカつく。
「まぁ、捕まるわけにはいかないからお開きだねー」
「そうですね お開きにしましょうか」
息を整え、柏手を一つ。
パン。
この動作一つで静寂が支配し僕に注目が集まる。
「今日はありがとうございました! 私めの大道芸はこれにて終了となります お集まりいただいた観客の皆様 お気をつけてお帰りくださいませ では、これにて終了となります」
僕と師匠は体制を変えずに空に引っ張られるように浮かび上がった。下を見ると僕たちを見上げる大勢の観客の方々。高い視線で改めてみると広いつくりの大通りが観客ですべて埋まっている光景はすごいものだ。
「セイ このあと少し話がしたい 時間をくれないか?」
「わかりました いつもの喫茶店でいいですか?」
「そうしようか」
大勢の観客に見守れる中、その場で一回転。ポンッといったコミカルな音と共にその場から姿を消した。
『お兄ちゃん ありがとー!!!』
大きな歓声と拍手喝采が響く中、サーニャの声援が鮮明に聞こえてとても心が温かくなった。
ーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーー
いつもの喫茶店。探索者協会からほど近く。宿舎からも近いことからよく訪れる喫茶店だ。内装はアンティークでとても静かな雰囲気が漂っている。
いつもの普段着に着替え、リアナと共にゆったりとコーヒーを楽しんでいると落ち着いた衣装の師匠が入店してきた。
「やあやあ、すまないねぇ 突然」
「いえ、大丈夫です」
師匠も来たので、追加のコーヒーと軽食を注文し席に着いた。
「それにしても楽しかったねぇ 一緒に大道芸をやるのはそれこそ帰ってきてから初めてだから六年ぶりかい?」
「そうですね~ 師匠は師匠で安心したところもありますが勝てなかったのは悔しいです」
「ハハハ、まだまだ弟子に負けるわけにはいかないよ」
「うぅ~」
本当に悔しい。こんな見た目でもステータスはカンストしているから身体能力は相応に高いはずなんだけどなぁ。さっきの対決でも思ったが師匠の実力の底が全く見えなかったのだ。僕もまだまだということなのだろう。
「リアナちゃんもごめんね~ 時間取らせちゃって」
「ん、大丈夫 たまにはこういうのもいい」
「私たちの大道芸は楽しんでくれたかな?」
「ん、めっちゃたのしかった」
リアナにも楽しんでもらえたのならまぁいいかな?
「師匠、話とは何でしょうか?」
「そんな焦らなくてもゆっくり話そうよ~」
「それもそうですけど、、、先に要件済ませた方が気楽ですし・・・」
「それもそうかー まぁ、そんな重要な事でもなくてな? 遠出するからしばらく留守にすることを話しとこうと思ってな~」
師匠がわざわざ遠出することを話すなんて珍しい。
「わざわざ話すことですか?」
「どうも今回はキナ臭くてなー 知り合いには一言言っとこうと思っての行動よ」
「キナ臭い?」
どうやら最近記録にない魔物の出現例が多いのだそうだ。生態系が乱れると予想だにしなことが起こる可能性があるらしく各国各地で警戒しているらしい。
「・・・魔物の反乱が起こりそうってことですか?」
「いや、現に小規模だが起こっているらしい」
「え、」
「被害はないよ ほんとに小規模でショボいものだったから大丈夫」
けっこう顔に出ていたらしい。んー、もうずっと前の事なのにまだ引っ掛かる部分があるってことなのかな?深層意識はさすがに自覚がないから難しい。
「すいません 顔に出ましたか?」
「家族を失った原因だからな仕方がないのかもな」
「・・・はい、もう一度考えてみます」
「うんうん、それがいいかもね で、今回は個人的に気になったから長旅をしてこようと思ってねー 長期で家を空ける予定だから気が向いたときに家の掃除をしてもらってもいい?」
「それくらいは大丈夫です 定期的に掃除しておきます」
「ありがとう」
話はそれだけだったようで、軽食を取りながら他愛もないことを話してお開きとなった。
過去の出来事には折り合いをつけていたと思っていたがそうでもないのだろうか?自分のことながらよくわからないものだ。
リアナが言うには折り合い自体はついているが気になるワードとして残っているという表現の方が近いらしい。いや、なんで僕よりも僕の事を理解しているの?え?当たり前?わからないはずがない?さいですか・・・。
まぁ、何はともあれ、今日は大道芸人として過ごしとても楽しい充実した日々を過ごすことができた。
のんびりとした日々はまだまだ続けるつもりだ。
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