第28話 幕間 飛べない鳥が強いのはなんか納得いかない

翼を捨てた鳥って、、、なんでそんな進化をしたの?って思ってしまいます。

珍生物というのは意外に生き残るものなんですねぇ~

============================================================================


セイが試しのダンジョンを攻略してから五年目。生産の師匠たちの扱きを乗り越え、セントヴェンでの最難関迷宮を攻略しているときのころのお話。


~南の最難関迷宮~


道中は何ら問題なく敵を倒し進んでいく。100層までは四年間で素材集めも兼ねて攻略していた為、転移一つで到達する。セントヴェンの最難関迷宮は東西南北の四つすべてが200階層の迷宮だ。150層までは様々な魔物が跋扈する迷宮だが残り50層はそれぞれの迷宮によって出現する魔物が限定される。


北の迷宮は人型魔物。身体能力が全体的に高水準であり、知能の高い魔物種が出現する。単体で欠点の少ない能力バランスを持ち、知能が高い為技術や作戦をもって戦端が開かれる。これぞ最難関と言いたくなるほど分かり易い異常難易度な迷宮。最高位のステータスを持っている僕とリアナでも難しい迷宮だった。


東の迷宮は大型魔物。再生能力を持ち高い身体能力と著大な体格を持つ魔物種が出現する。北の迷宮とは違い単体との単純なぶつかり合いによる戦闘。高い再生能力と巨体をもっているため生半可な攻撃ではひるませることができない。迷宮自体も魔物に合わせて広大なため探索にも時間のかかる迷宮だった。


西の迷宮は群体魔物。ここの能力は他の最難関迷宮と比べると低いが群れを作る魔物種が出現する。兎に角連戦を強いられる迷宮。ここの戦力は薙ぎ払うことができるほど低くとも数が異常なため休む暇がない。それでいて様々な魔物が混戦の様相を呈し、まるで戦場のような状況になっていた。


そして、今僕たちが挑んでいる南の迷宮は鳥の魔物。鳥系統の魔物が出現する。そう鳥だ。鳥の魔物しか出現しない。他の三つの迷宮と比べるとショボい様に感じるだろうが、セントヴェンにおいて四つの最難関迷宮の中で最も難易度が高い迷宮がここ南の迷宮だ。


150層以降様々な鳥類が出現する。空を高速で飛び奇襲を仕掛けてくる奴、地上を飛び回り肉弾戦を仕掛けてくる奴、水中を自在に泳ぎ魔法戦仕掛けてくる奴など鳥の魔物に限定しているにもかかわらず陸海空全ての領域から攻撃を受けることになる。


特に190層からの残り10層は飛べない魔物しか出現しない。翼があるにもかかわらず、最大の利点である飛ぶことを捨てた奴らは単純に強い。自身の利点を代償にするかのように個々の能力値が突出しているのだ。


翼を起点にジェットエンジンの様に加速する風魔法を操る奴、筋力の全てを足に集約させたような奴、色彩豊かな羽毛を操りどんな環境でも景色に溶け込む奴、気配を消し樹上からの奇襲を得意とする奴、瞬動と立体軌道を駆使し三次元的な戦闘を仕掛けてくる奴、翼を拳にグラップルしてくる奴など、なぜ飛ぶことを捨ててまでその道に進化したのかと問いたくなる魔物たちが襲い掛かってきた。


疲れた。肉体的にもそうだが精神的に疲れた。特にグラップラー!!鳥である必要性が皆無じゃねぇか!!!


「なんなんだよ、この迷宮・・・ まともな鳥類がいやしねぇ」


「ん、情報はあったけど疲れた」


「まぁ、なんだかんだでボス前まで来たわけだが・・・少し休憩してから行くか、、、」


「ん、そうする」


迷宮都市最難関迷宮が一つ、南の迷宮。200階層、その最奥のボス部屋前。ここまで色々疲れながらも到達した僕たちはリアナの箱庭で休憩をはさみボスへと挑むことになった。


ボス部屋への扉を押し開き、中へと侵入する。中はただただ広い石造りの空間。光源もほぼなく、見通しは悪い、しかし、隠しきれないのか多数の存在を認識する。


「道中の魔物を少し強化した程度の魔物が複数いるわけだが奴らがボスって訳じゃないよな?」


「ん、違う ボスはティタニス これまでのとは比べ物にならないくらい強いはず」


「だと、気配を消しているのか ボスなのに奇襲とかなんかせこくないか?」


この迷宮のボス。最も強い存在なのだから正々堂々としていればいいのに、、、とどうでもいいことを考えていた。いや、考えてしまった。


「周りを殲滅してから二人でボスに挑めばらくsh」


ボバッ


鈍い音が響く。僕はなぜ言葉を止めてしまったのか、この音は何なのか、様々な思考が巡り混乱していると視界の端に赤い長いものが僕の体から飛び出ていて、、、


「は?」


正面には相対するように佇む、赤黒い鳥の魔物がいた。奴の右足は赤に染まり、黒い毛並みを赤黒いと誤認したのは赤の斑点に彩っていたからで、、、


「セイ!!」


『クリーン』が反射で発動する。


欠損した半身も半壊した服も左手も左足も全てが元に戻り、今何が起こったのかを再認識する。


「・・・リアナ、周りの雑魚を任せた」


「・・・・・ん、わかった」


油断していた、強くなったと慢心していた。今、完全に死にかけた。体の左半分を一撃で吹き飛ばされ、『クリーン』を反射で発動できるまで習熟していなければ死んでいた。


何がせこいだ。僕とアイツはスポーツをしている訳じゃない。殺し合いをしているんだ。相手を殺し自身が勝つためには何をしても許される。慢心も甚だしい。偉くなったもんだよなぁおい!!


頭が冷えた。物理的に精神的に強制的に冷やされたようなものだが、今はどうでもいい。奴の一挙手一投足を『真似る』で認識していく。


「今まで通りだ」


そう今まで通りだ。僕は何も変わっていない。強大な力を手に入れたが弱者であることには変わりない。いつだって僕は弱いから相手をよく観察して対処するしか方法がない。


始めに痛烈な一撃をくらい慢心が吹き飛んでからは冷静にいつも通りに対処した。奴の攻撃を必要以上に丁寧に丁寧に対応し全ての攻撃に対応できるようになるまで『真似る』で観察する。


奴も本能的に気づいていたのだろう。初撃で一撃のもとに仕留めきれなければ勝ち目がないとわかっていたのだろう。初めの奇襲が奴の最大限の攻撃手段だった。


時間をかけて目を慣れさせ、感覚を研ぎ澄まさせ全てを把握できたと判断した時、相手の一撃に合わせてカウンターを叩き込む。


フェイントからの右側からくる頭部への攻撃を最小限の動きで回避し相手の勢いに合わせて片手剣を叩き込んだ。


ザンッ


鈍い音とともに奴の左足が宙を舞う。苦痛に歪む奴の黒毛の頭部を返す刀で切り捨てた。


左足同様に首が胴体と泣き別れし僕の勝利となる。


「ん、おつかれ」


「うん、ありがと」


リアナから冷えたタオルを受け取り顔をぬぐう。


僕が時間をかけてボスと戦っている間にリアナは周りの全てを討伐していたようだ。


「あ~、完全に油断してた 慢心してたとか馬鹿すぎる」


「ん、私も 次はきをつけよう?」


「うん、そうだね 次があるんだから気を付けよう」




僕はこの日、慢心をして痛い目にあったおかげで、ライムの試練で死ぬ未来を回避できたのかもしれないと時々思う。あのまま慢心を持ちながら冒険者として世界の各地を旅し始めていればろくでもない人間になっていたかもしれない。


まぁ、でも、もしもだ。そんな風にはならなかったし南の迷宮で慢心を捨てることができた。


これはいい経験だった。何事にも油断することなく相手に敬意をもって戦うべきだ。そう再認識するいい機会となった。




なったんだ。



なったんだがな?



各地をその足で旅をして分かったことなんだが、、、



この世界の生物。ドラゴンや肉食系の魔物なんかよりも、、、




飛べない鳥の方が強いってのはなんだか納得いかない。


獣人の大陸グンダヴィラでも食物連鎖の頂点は肉食系の魔物ではなく、独自の生態系を確立した飛べない魔物だったのだからなんだか釈然としない。


奴らは強いよ? 草食であるが故に豊かな緑があれば生きていける。その脚力であらゆる障害を粉砕する。武力的な強さを持っていなくても逃げ切る速さを獲得している。翼を飛行に使わない代わりに多彩な魔法技術を獲得している。


そのほかにもいろいろあるが生物的に矛盾したような進化を遂げているのに生態系の頂点に君臨している。





うん、やっぱりなんだか納得いかない。。。










後にわかったことだけど、スライムの関わらない純粋な進化の系譜において、この世界では奴ら飛べない鳥類種が最強種なのだそうだ。。。






============================================================================

脚力特化の鳥って強いよ!

この世界で自然界の頂点の動物よ!

  • Xで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る