第23話 重力の孤島 主戦

僕とリアナは箱庭でしっかりと休息をとる。


戦闘終了は朝方だったようでこの日一日を休息の時間へと充てた。


久しぶりの朝食をゆっくりとリアナと食べる。風呂に入り、入念に酷使した体を解して、精神を落ち着かせるためにゆっくりとした時間を過ごす。


リアナと何でもないことを話しながら時間は過ぎていき、昼食、夕飯、風呂に入り寝支度を整え、久しぶりにまとまった睡眠をとった。


うん、ちゃんと寝た。




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七時ぐらいに起床し朝食を食べ、いつでも出られるよう身支度を済ませた後、主戦へ向けて精神を整えていく。


午前九時、リアナとの憑依を開始。強化率を慣らす様に徐々に上げていく。柔軟を行い、型をすることで現状の確認をする。


『チェンジ』内の武器各種も確認したが、主戦ではあまり戦力とならないかもしれない。これまでも岩の生物との戦闘ではあまり武器は使ってこなかった。武器を魔力で強化することでいつかのハルバードの様に砕け散ることはなくなったが有効打とはなりえなかったからだ。


武器を使うよりも適応した能力を活用した方が戦力となったことも理由の一つだろう。僕が適応している能力は『魔力体』も合わせて直接体を動かすことに偏っている。『体術』『体術』の二つは言わずもがな、『魔力体』も無属性魔法が強化されたことで『ショック』『バレット』『シールド』がロマン通りの威力を獲得した。


特に『ショック』が使い勝手がいい。外部で使えば衝撃波となり、内部で使えば内径破壊として使うことができる。無属性魔法のためノータイ。僕の不慣れな召喚魔法よりも高威力の魔法となっている。


そのため、『チェンジ』内の武器は何か改善が必要となっている。受け流しや盾、投擲としてはこれまで通り使うことができるが今回の主戦では主戦力として活用することは難しいだろう。


「ふぅ~」


一通りの型を終え一息つく。


(リアナはどう? 調子よさそう?)


(ばっちし モーマンタイ)


リアナは朝からとても生き生きしていた。十分にとった休息もあり体調は万全のようだ。


「よし、行こうか」


あえて声に出し、気持ちを奮い立たせる。


(ん)


リアナにより箱庭から外へと出る。そのまま目の前の大穴に飛び降りた。




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飛び降りてからそう時間もかからず穴の底へと降り立つ。


((ッッゥ))


増大した重力に合わせて強化率を上昇させる。一瞬体に負荷がかかりミㇱッと不快な音が聞こえたが『クリーン』ですぐに治療し十全に動かせるように整える。


大穴の底に居たのは・・・岩の巨人。


体長に大きな違いはないが、見た目は大きく違う。ゴツゴツとした雑に組み合わせたような姿ではなく。人型の人形のように洗練された姿をしている。相変わらず、目などの五感はなさそうだが、視線を感じることから『視て』いることは確かなようだ。


黒い光沢の全身鎧を着ているように見える、正しく岩の巨人。


僕たちが戦闘に移ろうとするとプレッシャーという重圧が増す。


「ッ!? フッ」


一瞬、呼吸が止まるがすぐに整え、まずは一歩、巨人へと挑む。




初手は僕から、精霊の靴も活用し最速で巨人の足元をすり抜ける。すり抜けざまに鉈で膝裏を切りつけた。


キンッ


魔力で十全に強化していた鉈の刃は弾かれる。


(やっぱり、武器は通用しないか・・・)


(ん、むり この様子だと私の魔法も目くらまし程度)


(格闘戦しか選択肢がないってなかなか辛いな~)


念話の会話にタイムラグは存在しない。巨人が僕に振り向くまでの少しの間で会話が終了する。


振り向いた巨人は・・・ブレた。


「ッッグぎ」


(セイッ!!)


振り向いた半身の体勢のままのショルダータックル。僕は咄嗟に無拍子で後方に跳躍し盾を差し込む。それでも威力を削ぐことはできなかった。ほぼ減衰していないタックルを盾越しに直撃し、おもちゃの様に吹き飛ばされる。


滞空時間は短く、背中に受けた激痛で現状を理解させられる。


(セイ! 次くるッ!!)


「ク、ッソ」


温存なんて考えている暇はない。『ヒール』による限界を超えた強化も同時に使いその場から逃げる。


ドッ


重い音が響き、さっきまで僕のいた場所に五指の岩の拳が突き刺さる。だが、拳を受けた壁は砕けもせずに僕が衝突した時の罅割れ以外に変化がない。


「・・・ソレ ムダ」


無造作に振り抜かれた魔力の津波により、僕の『ヒール』による強化が剝ぎ取られた。余りの衝撃に眩暈がし息が出来ない。


「ハッ は、はぁはぁ」


「・・・ソウサ ガ アマイ モレデル ノハ ムダ ノ ショウコ」


拳が迫る。何とか反応しようと盾を翳すが受け流す余裕はない。


「ガッ」


また、直撃し吹き飛ばされる。


それから僕はピンボールのボールか何かの様に暗い穴の底を吹き飛ばされ続ける。


どうにか抵抗しようと『ヒール』や『ウォーム』『クール』による強化をするが、魔力の濁流により無理矢理かき消される。そうなると僕に残るのは魔力操作による強化しかない。遥かに格上の存在に抵抗するにはあまりにも心許無い状況だ。


何か打開するために手だてが必要だ。でも、今の状況はこれまでの様に時間をかけて打開策を探ることはできない。


まただ。リアナが一時撤退しようと魔法を構築するが拳で砕かれる。


(ごめん ごめん、セイ)


(大、丈夫 初めから予想してたよね)


昨日の一日で召喚魔法は上手く使えないであろうと僕たちの間で結論は出ていた。リアナが悔いやむことではない。


また迫る拳を盾で受け止めて吹き飛ばされる。


バキッ


盾から嫌な音が響く。この調子で防戦一方ではジリ貧だ。なにか・・・何か手を考えないと。


攻撃を避ける一瞬の間に『ヒール』で強化するが・・・。


「ムダトイッテイル!!」


何度目とわからない魔力の衝撃波だけで吹き飛ばされる。


(『ヒール』の強化がムダって何なんだよ 内側じゃなくて外側の強化だぞ?)


(・・・・・)


迫る拳に盾を差し込む。また同じように吹き飛ばされ・・・。


「ホウ」


拳の軌道を反らし直撃を避けることに成功する。軌道は反らせたが威力は削がれず吹き飛ぶ向きが変わっただけだが変化は変化だ。


(セイ この場で『ヒール』をものにして 魔力操作が甘い 理由は本当にそれだけ)


(無茶を言ってくれるなぁ! おい)


『ヒール』の魔力操作が甘いって生活魔法は僕の唯一の魔法だぞ?それが未熟って要求する高みが高すぎるんだが?クソが!まだ先があるんだろ!やってやるよ、やってやる!


リアナが『ヒール』の出力を上げてくれることで辛うじて目が追いつけるようになる。僕も戦闘の中で『ヒール』による強化を低出力から行い、徐々に出力を上げていく。少しでも魔力が漏れでると巨人により強化が無理矢理剝がされる。しかし、リアナの強化は魔力の濁流に曝されても簡単には剝がれなかった。


目が慣れてきたことで『真似る』を活用できる下地ができたが、巨人の行動を読み切るまでにはまだまだ足りない。


何度も何度も挑戦し何度も何度も吹き飛ばされ搔き消される。長期戦なんて考える暇もなく全力で魔力を運用しガリガリと削られていく中、少しでも被害を抑えようと魔力操作を繰り返す。


次第に身体の強化率が上昇し向け流せるようになってきた。だが、その時には既に体はボロボロだし攻撃に使う体力もほぼ残っていない。


(セイ、『クリーン』も最後)


これまでに受けた傷が動ける最小限の傷まで回復する。


(ああ、わかってる)


まだ、僕の『ヒール』は最大強化率まで操作できていないが体力的に次が最後だ。


巨人は攻撃できていないのだから無傷だ。どうにか、なにか、せめて一撃、攻撃を当てる隙を作り出すことができないものか・・・。


最初に斬撃を当てられたのは相手の余裕か?そうでないのならば・・・。


(セイ?)


(・・・・・)


精霊の靴で踏める無拍子の歩数は相変わらず三歩。攻撃手段は・・・明らかに硬そうな体をしているのだから浸透系の打撃。絶対に倒すことは敵わないとわかっているが、それでもせめて一撃ダメージを与えてやりたい。


前傾姿勢を取り、突撃の体勢を整える。攻撃するは両手、両方の手を引き手とし巨人に狙いを定めた。


精霊の三歩は予備動作のない歩行。一瞬の時にその場で三歩踏み込む。


(リアナ!)


(わかってる)


巨人の懐へと一瞬にして踏み込み両手の掌底をブチかます。インパクトの瞬間、僕とリアナの『ヒール』による強化率を最大にする。力の流れに無駄は許さない。着地の踏み込みから発生した力の流れは全身の関節という間接から捻りを加え無駄なく両手へと流す。


ビシッ バキッ


踏み込んだ床が罅割れ、接触した巨人の黒い岩の胴体に砕ける音が響く。


((『ショック』!!))


二人同時に無属性魔法『ショック』を流し込む。


巨人は地面に足をついたまま衝撃によって後方へスライドする。二本の岩の足が道を作るように跡をつける。巨人は一メートルも動かないうちに止まった。


「はは、ハハハ、ハァーはっはっは 凄いな! まだ荒削りだがわしの体に傷をつけたか! そして、この流し込まれた力のうねり! う~ぬ、及第点だが合格としようかのぉ」


「はぁはぁ はぁ?」


全力も全力の最後の一撃だ。突然流暢に話し出したこともそうだが『ショック』の内部破壊が効いてないことの方が驚きだ。


「合格の土産だ とくと味わうがいいよのぉ」


巨人は四つ足の体勢となりその姿を変える。黒い体はそのままに獣のような姿に、似ている生物は牛か?ゴリッゴリの筋骨隆々な黒色の牛の姿に変わっていく。


そして、その傍らには立派な髭を蓄えた小さなお爺さんが元岩の巨人から分離するように立った。


「わしの名前はノームと言う 坊主たち、重力の孤島が試練は合格じゃ 次の試練は樹海の大陸が試練 そこへ行く前にちとわしからの土産をやろうかのぉ」


(やばいやばいやばい セイ、やばい)


(うん、これは死んだかなぁ~)


ノームという小さなお爺さんはニヤッと笑い・・・。


「改めて、わしの名前はノーム 又の名を『ベヒモス』!」


巨大な黒い牛、『ベヒモス』は突撃の体勢を取り、力を力み始める。


「死んでくれるなよぉ?」


その巨体が眼前に迫る。


僕は大楯に『チェンジ』し、少しでも攻撃に耐えようとなけなしの魔力をリアナとともに絞り出すが当然足りるはずもなく・・・。


今までのことが遊びに思えるほどの衝撃。当然、僕は耐えられるはずもなく、意識を暗い闇の底へと落とすことになった。




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RESULT


~重力の孤島~

セイ

・三つの適応能力の理解、習熟(『体術 Ⅹ』『体術 LV:-- 』『魔力体』)

・魔力操作の習熟(完全習得まであと少し)

・『ヒール』の操作率向上(完全操作まで半分ほど)

・土の精霊の獲得(精霊の靴に宿る)


リアナ

・『セーブ』『ロード』『リセット』の獲得、習熟(スキルレベルⅩ 熟練度10000)

・魔力操作の完全習熟

・『ヒール』の操作性向上(完全操作まで残り二割)

・土の精霊の獲得(魂装:冥土の嗜み に宿る)




NEXT STAGE 樹海の大陸





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