第24話 数々の試練 ダイジェスト

僕たちは最後の一撃で気絶している間に次の試練となる樹海の大陸へ飛ばされた。僕たちが耐えきった、というより僕たちが限界となるギリギリまで手加減してくれていたのだと思う。意識を取り戻したときは見知らぬ樹海の中であり、消耗していた体力や傷は回復されていた。


重力の孤島での試練達成報酬?証?として土の微精霊を貰い受ける。僕の精霊の靴に小さな意志と強化されたバフがされていたことによって気づくことができた。リアナも僕とは違う形で土の微精霊を貰い受けたようだ。




ここからの試練の状況は大きな変化が無かった為、ダイジェストでお送りします。




~樹海の大陸~


 種々多様な木々が生い茂る樹海の大陸。日中でも日が差さないほどに木々で日光が遮られ薄暗い森が延々と続いている。大きな木々に日光が遮られているにも関わらず、地上は死滅することなく様々な植物で緑に覆われている。


 重力の孤島と同様に高濃度の魔力に覆われた大陸は、自然の法則を無視して独自の植生を形成している。大陸の大きさに比べて水が少ないにも関わらず、水不足、栄養不足に陥っている土地はない。濃い緑の香りに混じって、毒性の強い胞子が空気中を常に漂っている。あまりの胞子の密度に視界が塞がれることもしばしば。


 胞子の例以外にも様々な植物そのものが余所者に牙をむく環境だ。分かり易いものであれば魔物でない食虫植物や強力な麻痺毒や睡眠毒などが含まれた棘のある植物、植物の生い茂る足場の悪い環境に加え、少しの振動で爆発する植物などなど環境そのものが殺そうとしてくる。




 この大陸に生息していた魔物は植物の魔物に偏っている。


樹木の生物

 動き出す樹木。他の樹木と見比べることは非常に困難。違いは動き出して攻撃を仕掛けてくるかどうかでしかなかった。動かなけれは他の樹木とは変わらない為知らないうちに通り抜けているかもしれない。気配も魔力も巧妙に擬態しているので奇襲を避けることができなかった。

 戦闘能力は本体の移動速度が遅い以外は侮ることができない。枝は伸びるし鞭の様に振るわれた先端は視認できない、枝の範囲外に距離を取れば残弾無限の葉の狙撃、水分が多いため火に強く、動けないことをいいことに修復速度が以上に速い。こちらの攻撃が当てやすいこと以外は何もいいことがない厄介な敵だ。

 樹木の種類によって攻撃方法も異なる。針葉樹系は狙撃がガトリングに変わるし、実る木の実によって鞭の攻撃に追加効果が加わるし、とどれもこれも苦戦を強いられた。

 一番凶悪だったのは枝垂桜。鞭が斬撃に変化し狙撃の花は反応できなかった。初手の奇襲で片足を切り落とされ確実にこちらの機動力を削ぎに来る。奇襲に反応できるようになるまでは一方的に蹂躙され続けることになった。


茸の生物

 二足歩行の茸の生物。樹木の生物とは違い機動力があり、奇襲性はそのまま、様々な複合毒を扱ってくる。体長は人間の大人ほどの身長に、力士のような太い筋肉質な体型。色彩豊かでどの色がどの毒なのかを判断することは不可能だった。

 戦闘方法は肉弾戦。超近距離戦のインファイト戦術に加え、猛毒の胞子を振りまき続けている。また、成長が以上に早い為少しでも戦闘時間が延びれば本体より小さな茸の生物が戦闘に追加される。脅威度は本体より低いとはいえ、気づけば百以上に増えるため無視することができない。

 魔法で範囲攻撃をしようにも僕の召喚魔法は未熟だ。高濃度の魔力環境ではまともに発動することもできず、無駄に魔力を消費するだけとなった。生活魔法に範囲攻撃はないので希望はない。僕は物理で範囲攻撃をするという自分でも意味不明な現象を起こすことで乗り越えた。


蔦に覆われた獣型

 動物が草花や蔦に寄生されたかのような見た目の植物の生物。小型から大型の動物まで姿形は様々。共通していることは植物だけで体が構成されていること。どうやって再現したのか口や目、鼻など器官をもっている。

 戦闘方法は当に獣。牙で、爪で、尾で、それぞれの攻撃的な部位を主武器に襲い掛かってくる。五感もモチーフにした動物に近いのか索敵能力が高い。小型の個体は見つけ辛く他との戦闘中に乱入してくれば面倒なことになる。大型種になれば、体格も大きく質量もあるため一つ一つの攻撃がそれだけで強力だ。

 前二つの生物と比べて特殊な攻撃をしてくる個体は少なかった。戦闘としては純粋な実力勝負になるので重力の孤島で鍛え上げた戦闘技術を活用しやすかった。


植物の人型(小型から巨人型まで)

 植物で構成された体、または魔力で構成された体を持つ人型の生物。人型だが人の様に目鼻口が同じ場所に付いている訳ではなく、怪物的な印象を持つことが多かった。人に近い個体もいたが会話は成立しなかった。

 人型であるためそれぞれに多彩な攻撃方法を確立していた。武器のような部位で戦うものもいれば獣の様に襲い掛かってくる個体もいた。共通していることは獣と違い知能を有していること。直情的な戦い方ではなくフェイントや無意味な行動、不利になれば逃走を図ることもあった。

 対人戦としての戦闘経験を使うことが出来たので比較的戦いやすかったように思う。それでも厄介な敵であることには変わりないので苦戦することもよくあった。




 この大陸でも異世界人の不死者と会うことになる。名前は二コラ。とても小心者の男性でなぜ自身がこんな場所に飛ばされたのかと終始憤っていた。二コラは他に連れがいたようだが一人この樹海の大陸に飛ばされたらしい。

 帰るまでに時間が必要なようなのでその間二コラに指導してもらう。


 二コラから適応できた能力は『逃げ足』。逃走時の身体能力、特に素早さの上昇が主な能力。副次的に素早さに関する能力が少し上昇したように思う。

 この能力の本質は状況から逃げること。二コラの戦い方を見る限り二コラの嫌な状況から逃げるために早く動き続け、ついでに魔物を切り刻み殺していたように思う。まぁ、実際には僕の目では二コラを捉えることができなかったので予想でしかない。




 樹海の大陸での最後の試練は主であるドライアドに認められること。

 植物で覆われた巨人の姿をしていた。重力の孤島と変わらず全く歯が立たない。何度も一方的に蹂躙されることになる。

 どこからともなく現れる樹木の枝に拘束され叩きつけられる。巨人に殴り飛ばされる。体を強力な状態異常で侵される。体力、魔力を吸い取られる。それはもうめっためたにやられた。

 どうにか打開策を模索し重い一撃を入れることで木の精霊ドライアドに認めてもらうことができた。


 ノームのように止めを刺されることはなかったが木の微精霊を受け取ってすぐ次なる試練へ飛ばされることになった。




~嵐の大陸~


 轟雷が降り注ぎ、大地が隆起し、溶岩の明かりが亀裂から漏れ出し、嵐が全てを吹き飛ばす。そんな天変地異な大陸。情景なんてあったもんじゃない。大岩やマグマが空を飛び交い、一切合切を雷が粉々にする。視覚的にも音的にも匂い的にも全てが狂っている。


 高濃度の魔力濃度によって起こされた現象のためか、やはり自然の法則を無視している。植生なんてものはない。砕けては再生しまた砕け散る。大地が常に変動し続けるまともな生物が生き残れない土地。ここで生息する生物の多くは幻想種に似ていて実態を持たない精霊のような生物だった。


雷の生物

 雷で構成された体を持つ生物。雷の体は酷く不安定、少しの衝撃で回りを巻き込み放電現象を引き起こす。自身の体を崩すだけでなく、周囲の物質も結合を崩壊させ環境がより酷くなる。


 戦闘方法はそのまま強力な雷による攻撃。強い、速い、轟音、発光と単純に強い攻撃を無尽蔵に繰り出してくる。轟雷降り注ぐ環境も合わさり残弾が枯渇しない。雷速を潜り抜けられなければ一方的に蹂躙されるだけとなる。


 風の生物、溶岩の生物と続く属性生物もそれぞれの属性で体を構築していた。空気で構成された風の生物は視認することが難しい。溶岩で構成された生物は流動する溶岩を常に纏い、周囲の溶岩も操って襲い掛かってくる。


 これらと違うのは地中に生息している生物。主に昆虫型が多く、その甲殻を持って災害による被害を跳ね除けていた。

 特に強力だったのがミミズ型の生物。頑強な甲殻は無いが再生力が異常であり、基本的に敵対するような生物でないので察知するのが遅れる。唯々そこに居るだけの生物だが大きさがまた巨大で進路上にいただけで跳ね飛ばされる。




 この大陸で遭遇?派遣?された人物は永田亮(ながたりょう)だ。不死者のリョウは木刀一本でこの大陸まで渡ってきた人物だ。この大陸へ渡るときは転移ではなく、空間を切り裂いて渡ってきた。目の前で巨大生物がズレ落ち、裂けた空間から彼が現れた時はあまりの力の差に身動き一つできなかった。


 リョウから適応した能力は『蹴り姫』。蹴りを主体とする体術が向上した。僕はてっきり剣技に関する能力を適応するとばかり思っていたがそうはならなかった。リョウの根幹となるスキルは別にあったが『蹴り姫』もまた彼が引き継いだ大切な能力なのだそうだ。このスキルがあったことで剣技にさらに磨きがかかりより高みを目指せる礎となったのだそうだ。




 嵐の大陸ではシルフに認められることが最後の試練だった。これまでの最終試練と変わらず、成長したはずなのに手も足も出なかった。

 この大陸で味わった理不尽な環境そのものが襲ってくるのだ。怒涛の自然災害の連打攻撃。文章にすると陳腐な表現になってしまうが理不尽としか表現のしようがない。

 最後は気持ちだけで立ち向かっていたように思う。なぜ僕は立ち上がって一撃加えることができたのか今でもわからない。


 シルフから譲り受けたのは風の微精霊。精霊の靴が順調に成長している。




~遅延の浮島~


 次に飛ばされた場所は、全てが遅い浮島。時間の流れ、物質の動き、生物の動き、僕自身の思考速度、何もかもが酷く遅い空間。ここに訪れた初めは何が何だかわからないままボーっと突っ立っていた。どうにかリアナに箱庭に運んでもらうことで何が起きたのかを理解することになる。


 この環境での一番の障害は思考能力が強制的に遅くされること。例に漏れず高濃度の魔力環境によって≪遅い≫ことを押し付けられる環境。早く動こうとしても無駄にエネルギーを浪費するだけになり、遅い環境下に順応することを強いられる。




 そんなすべてが遅い環境で生息していたのは闇の生物。闇という物質にない現象で体を作り上げている生物。一番近い表現は闇の精霊。不定形な闇の体は様々な形を作り出し、それぞれに戦闘方法が違う。

 共通することは魔力属性が闇に偏っているため、それ以外の魔法を行使できないこと。多様性を捨てる欠点は一芸特化という利点を生み出す。リアナですら召喚魔法で対抗することができなかった。

 闇によるすべてを飲み込む防御能力、強力なデバフ魔法、神出鬼没な影による奇襲攻撃。リアナは再現は出来れどもオリジナルを超えることはできなかった。


 リアナにできないことが僕にできるはずもない。環境によるデバフに加えて、闇の生物による強力なデバフ。遅い動きに思考能力、闇の生物により身体能力まで最低値まで下げられる。僕は単純に数々のデバフを覆す自己バフをするしかなかった。




 そんな状況で派遣されたのが自称シシリー。彼?又は彼女?は、長い時間を生き、その時の中で偽名の数々を名乗ってきた弊害か自身の本名が曖昧らしい。よく使う偽名の一つ『シシリー』と僕たちは呼ばせてもらっている。

 シシリーはなんだか不思議な不死者。振り回され過ぎて疲れ切っているような悟りを開いているような、何とも言えない雰囲気を醸し出している。


 適応した能力は『ステップ』。僕に合う技能はこれだろうと僕が適応する能力を操作されたように思う。シシリーの力の根幹は純粋なエネルギー量。膨大なエネルギーは一朝一夕で身に付くものではない。今ある余剰エネルギーを僕に合う形で調整してくれたらしい。




 遅延の浮島での最後の試練はシャドウに認めてもらうこと。ぼっこぼこにされ、微かに宿り始めた自信は元に砕け散った。

 遅延の浮島で戦った闇の生物の完全上位互換の戦い方。やっと対抗できるようになったところを更なる力で押さえつけられる結果となった。

 最後は意地で負けん気で食らい付き認めてもらうことができた。


 シャドウから譲り受けるは闇の微精霊。僕とともに強くなってほしいと思う。




~加速の浮島~


 次に飛ばされたのは全てが早い浮島。遅延の浮島の真逆。何もかもが早い。速度的な意味でも時間的な意味でも強制的に加速させられる。減速させられるのとはまた違いがあり、この環境に振り回されることになる。

 生息する生物も真逆の属性。闇の反対が光というのも安直な気がするのだがここで生息している生物は光に偏った生物だった。デバフではなくバフ、防御ではなく攻撃。真逆の環境と生物だったが僕にできることは結局同じことでしかない。

 バフをバフで上回り、雷を超える速度の光の攻撃を加速された世界で越えなければならない。僕にできることは只ひたすらに実践できる限りの方法で自己強化するしかなかった。


 加速されたこの浮島で遭遇した不死者はケンヤ、芦屋健也(あしやけんや)。ケンヤには初遭遇こそ力の差に圧倒されたがとても謙虚な人物だった。自身の力を貰い物と表現しどこか他人事のように昔話をしてくれた。ケンヤはそこに居るのにとても遠くにいるように感じてしまう。浮世離れしていると表現すればいいのか?いや、これでは違うか・・・。疲れてやつれきっている訳ではないのだがなんとも言い難い不死生を歩んできたようだ。


 ケンヤから適応できた能力は『運勢』。適応できた今でも何が変わったのかはわからない。ケンヤからはこの能力が適応できたときまさにケンヤ自身のことを的確に表していると話していた。運とは幸運なのか不運なのか悪運なのか、パッとしない能力に適応した。


 この浮島での最後の試練はアスカに認められること。試練の内容はいつもどうり、どうにもならない。

 能力もシャドウと真逆で光の生物の完全上位互換。防御的ではなく攻撃的な蹂躙の結果となった。意地でよけて気合で避けて気持ちで認めさせたように思う。試練に手も足も出せないのだから気持ちで負けないようにしなければ何もできなかった。


 譲り受けるは光の微精霊。闇の微精霊と特に仲がいいようで精霊の靴が賑やかになってゆく。




~海底世界~


 海の底の暗闇の世界。深海の水圧の中、それも魔力によって狂いに狂った深海ではその場に居るだけで潰される。重力の孤島で慣れていたから死ぬことこそなかったが水に囚われ、視界が暗闇で染まる環境はまた違った苦戦を強いられた。


 ここで生息する生物は見た目と質量が釣り合わない。小型の魚のような見た目をしているのに、何の変哲もない体当たりから受ける衝撃は、人力では動かせない大自然にぶつかった時と変わらない。なんか言葉がおかしくなった。山が圧し掛かってくる?隕石の衝突?そんな風な表現がいいのだと思う。

 小型でも脅威なのだから大型の生物ともなれば理不尽としか言いようがない。理不尽リフジンりふじん・・・呪詛の様に呟きながら戦闘を続けていた。うん、心を殺していたともいう。


 そんな過酷な環境で一番の脅威は海月のような生物。普段は漂っているだけなのだが戦闘範囲に引っかかると無数の触手に囚われ捕食されそうになった。千切っても千切っても再生する触手。それでいて千切ることも容易ではない。触手に囚われるだけで体力と魔力を吸い取られる。副椀を持つ敵は大体似たような能力な気がしてくるが脅威であることには変わりないことが腹立たしい。




 この海水に閉ざされた空間で出会ったのは立川康(たちかわこう)。コウはエリアスの知り合いの中でも最古参の不死者。今回はエリアスの要請に答えて一人で来たようだが普段は数々の仲間と共に永遠を謳歌しているらしい。

 彼女から適応した能力は『加護』。力を貸してくれる存在からより強力な繋がりを紡ぎ出す。コウの力の本質を現した能力に適応した形となった。

 別れ際にコウから「これからよろしく!」とあいさつを交わし転移して行った。




 海底の主はウンディーネ。ウンディーネに認めてもらうことで試練達成となる。

 蹂躙され、抗い、足掻き、最後まで気持ちで負けなかった。感情で負けたくなかった。ウンディーネは海月の完全上位互換。水魔法の一芸特化。強いとしか言いようがなかった。


 彼女から譲り受けたのは水の微精霊。『加護』も合わさり僕を支えてほしい。




~天空世界~


 暗い空の空気のない空間。土地は小さな浮島が所々にしかなく、色彩と音が不安定な空間。空気がなく宇宙空間に近いのかもしれない。圧力から逆に解放され、強化の方向性を考えさせられる環境だった。

 強く魔力が影響しているのは大きく分けて二つ。音と色だ。空気が振動することで僕の下まで音が届くはずなのに、それを無視して真空の空間で音が響き渡る。爆音、轟音、消音、無音、あらゆる音が響き渡る。一つ一つのそれ自体には影響はないが組み合わさり掛け合わさると状態異常を引き起こす。色も同様、光の物理法則を無視して様々な色を認識させられる。

 音と色が複雑怪奇に襲い掛かってくると・・・・・発狂する。狂わされる、強制的に狂わされる、発狂させられる、理性を保てない、意識が混同する、まーぶるもよう、ふえてく、ふぁんたっすてぃっく・・・はっ!


 この環境で生息していた生物は、音の生物と色の生物。どちらも視認できない。明確な姿形が存在しない。これらの生物の攻撃は、環境と合わせて狂気に侵されることになる。精神攻撃が深刻な敵だった。抗いようのない状態異常というのに恐怖を刻み込まれた敵だ。

 この環境で生き抜くためには耐性を獲得し克服しなければ探索が始まらなかった。僕には耐え抜く以外に画期的な対処法など思いつかなかった。




 こんな理解不能な環境で遭遇したのはジェームズ・ソロモン。彼、ジェームズはお爺ちゃんのような言動を時折よくしている若い男性だ。彼は旅そのものが好きらしく自身が経験したこれまでを吟遊詩人の様に語ってくれた。彼の永遠の時の中の僅か一瞬の瞬く間のような出来事。英雄的な歌よりも日常的な幸せを語った歌が特に印象的だった。


 ジェームズから適応した能力は『記憶力』。彼の始まりであり彼が不死者となる切っ掛けとなった能力。能力は単純明快、記憶力が良くなる、これだけだ。自身の経験した出来事を潜在記憶が大部分を占めるとはいえ忘却することはなくなるらしい。慣れれば自身の匙加減で記憶を整理できるようになるとのこと。




 最後の試練はハルモニウムに認めてもらうこと。過酷、もうその一言でよくない?

 せっかく克服した耐性を抜けてくるとかフザケルナ。よく認めてもらうまでやり切ったと自分を褒めてやりたいぇ。


 ハルモニウムから受け取ったのは音色の微精霊。他の微精霊とも仲が良く僕を助けてくれる。




~亜空次元~


 白一色の何もない空間。最初に来た時の感想は≪無≫の一言だ。これまでのような殺しに来るような環境ではなく身体に何ら不調はない。見渡す限り一面の白。どこまでも歩けども走れども景色が変わらず、動いているのかどうか今まで歩いてたのか走っていたのかどうか自信がなくなる。

 生物に会うこともなく永遠と歩き続けていると景色が微かに変わり始める。初めは目の錯覚程度のものだったが、徐々に線が見えるようになる。線を認識し意識するようになるとより変化が顕著になる。僅かな線だけだったのが線が入り乱れ始め、模様を描き、文字になり、数字になり、理解できる羅列に変化をしていく。

 多分だがこの空間に慣れたことで正しいこの環境のことを理解できたのだと思う。リアナも僕と同じで白だけだった空間が複雑怪奇な情報の羅列された空間へと変化していったそうだ。


 次に起こるのは粒子のようなものが漂っていることを認識できるようになる。認識が始まればそれが何なのか理解できるようになってくる。漂っていたのは粒子レベルの大きさのスライム。後に教えられたそのスライムの種類はナノスライムと言うらしい。

 特に戦闘も起こることなくこの環境を理解することに時間を費やすことになった。




 この空間を理解しようと彷徨っていた時に出会ったのがクリスタルだ。彼女は自室のような空間で生活していた。場違い観に戸惑いながらも彼女が不死者であることを理解してからは「あっ、いつものことか」と納得することにした。


 クリスタルから適応した能力は『情報理解』。亜空次元のような特異な情報領域を理解する能力とのこと。この空間で羅列されている現象を理解していけばこの能力をより深く扱うことができるらしい。実感がないのでわからないができるようになるらしいよ?クリスタルが言うにはだが・・・。

 適応した能力はなるべく理解したいのだがあんまり難しいことは頭が追いつかない。なるべく早く自分の血肉となるように修練を続けている。


 ここでの最終試練はクリスティナに認められること。亜空次元は他の場所と比べて毛色が違うため戦闘で白黒つける、ということにはならなかった。彷徨っているこの空間をクリスティナに認められるまで理解することが最終試練だった。

 時間は相応にかかったように思うが何とかクリアすることができた。ずっと白い空間なので時間の感覚が曖昧でどれだけの時間この亜空次元にいたのかは全くわからない。


 クリスティナから譲り受けたのは情報の微精霊。僕の足りない頭の助けになってほしいと切実に願っている。




~氷炎の大陸(氷の大地)~


 大陸を中央で二分するように炎と氷が覆いつくしている。どちらの大陸もこれまでの様に高濃度の魔力で覆われている為、通常の自然環境、物理環境を無視している。いちいちそんな違いに振り回されていては生き残ることすら難しい。




 まず降り立ったのは氷の大地。何もかもが凍っている世界。降り立った時、思考が追いつく前に体の自由が奪われた。リアナの機転により箱庭に避難することで一命を取り留めたが解凍するのにも時間がかかった。いるだけで問答無用で凍らされる。辛うじて死んでいないだけで一つ間違えれば永眠しかねないそんな氷の環境。

 高濃度の魔力というものが今まで以上に厄介に感じる。温度を無視して凍らされる。温かい物は温かいままに凍らされる、熱い物は熱いままに凍らされる、油断すると精神まで凍らされる。火が炎の形のまま凍り付いたときはこの環境の異常性を深く理解させられた。


 そんな環境にも生息する者たちがいる。体が氷で構成された生物たちだ。体を形作る成分が魔法的氷のみで出来ている。先に話したように≪凍る≫という現象のみを魔法的に作り出している生物たちは多種多様な者が存在した。

 これまでの傾向通りに精霊的な特徴を持つ者が多い。魔力属性を氷に偏らせた存在。同じ土俵で戦うことを許さない、他の現象を氷の現象で捻じ伏せるそんな戦い方がほとんどだ。

 獣型、人型は視覚的共通点として体表に霜が降りている。通常の物理攻撃に加え触れただけで凍傷を引き起こす。≪凍る≫現象に温度は関係なく戦闘時間が延びれば延びるほど凍結する範囲は広がってゆく。

 この環境下で戦闘を続けるには凍らないように対策なり耐性なりを獲得しなければまともに戦闘することもできない。例によって才能のない僕には単純な自己バフしかない。中途半端な召喚魔法では力負けする、生活魔法しか習得できていない僕に残るのは自身の身体能力を二重三重と重ね掛けし強化するしかなかった。




 同じような対処しかしてないところに現れたのは不死者クァク。彼は、彼は・・・なんというのだろう?物静か?無口ではないのだが物腰というか雰囲気というものがとても凪いでいる。彼はこれまで全てのことを一人で熟してきたのだそうだ。それができるだけの多彩な技能とステータスを獲得しているからこそ長い年月を一人で生きてきたらしい。最近、同じ不死者という境遇に出会い仲間が出来たのだそうだ。


 そんな彼から適応した能力は『詳細確認』。自身のステータスを詳細に確認する能力らしい。僕はまだ適応したばかりでステータスの表記に変化が表れていないが能力が馴染めばわかるとのこと。

 この能力はクァクのほぼ全てを現しているそうだ。クァクはこの能力だけで万能ともいえる力を手に入れているらしい。僕も適応した能力に慣れればそうなることができるのだろうか?


 氷の大地での最終試練はフラウに認められること。うん、理不尽。

 亜空次元で彷徨っていた時が長かったからか理不尽に対する耐性が衰えていた。やっと辿り着いたこの環境下での適応能力をなんでもないかのように簡単に覆してくる。僕の今までの努力は何だったのかと走馬灯のように加速された思考内で考えてしまった。理不尽さんはそんな考える時間を与えてくれない。一瞬でも考えてしまいその短い時間で僕は死にかけた。リアナがいてくれたからこそ、僕はまだ生きている。

 最後には今までの感覚を取り戻しどうにかこうにか認めさせた。


 フラウからは氷の微精霊を貰い受ける。また一つ、精霊の靴が賑やかになった。


 フラウ曰くこの大陸が最後らしい。大陸の半分、氷の大地が終わった今残すところは炎の大地のみとなる。




~氷炎の大陸(炎の大地)~


 炎で覆われた大陸の半分。暑い、熱い、アツい!!氷の大地とは真逆。≪燃える≫を魔法現象として圧しつけてくる。全てが燃える、なにもかもがモエル、今まで使ってきた盾や武器、防具が燃え尽きた。これまでのことで摩耗していたことは確かだがここにきて武具類に止めを刺された。

 一番強度のある武具が燃えたのだから服が残るはずもない。精霊の靴とビーちゃんを片手に握り込み戦う。『チェンジ』内の武具は封印しての戦闘となった。リアナと燃え尽きない服を作りあげるまでほぼ裸で戦い続けることとなった。


 ここに生息しているのは火の生物。氷の大陸との違いは氷の属性が火に変わっただけだ。戦い方は火属性に偏ったもの、なにもかもを無視して燃やしてくる。対処法は全く違うが戦い方のそれに大きな変化はない。




 ここで出会った不死者は白玖悠椰(はくゆうや)だ。彼はこれまでの不死者と同様に強力で多彩な能力の持ち主だが、少し不思議な能力を獲得していた。同じ名称の技や魔法なのに効果が全く違ったり敵に弱点を圧しつける戦い方だったりとどこか普通の能力とは違った。

 ユウヤの性格は良く言えば楽観的で悪く言えばエゴイスト。自身を中心に物事を考えていることが多いらしく彼の考えを読み切れないときは唐突な行動に戸惑うことになった。何を考えて修行と銘うってゲームで遊ぶことになったのだろう?


 ユウヤから適応した能力は『ゲームキャラクター』という能力。自身がプレイしたゲームデータを現実のステータスとして反映することができるらしい。例によって適応したばかりで完全に僕に馴染んでいない為、効果は発揮されていない。それに僕はこれまで自己強化に努めていたためゲームで遊んだことがなかったので反映させることのできるゲームデータがなかった。

 ユウヤとゲームで遊んだことでいくつかは遊んだことがあることになるはずだがステータスが上がった様子はみられない。

 この能力はユウヤの根幹となる能力と名称も変わらないらしい。違いはステータスのある世界の住人かどうかの違いだ。ユウヤはステータスのない異世界の住人だ。ステータスを持っている僕では『ゲームキャラクター』の能力が正常に働かないかもしれないらしい。僕の特化された適応の性質を考えても不具合が起こる確率は高いように思う。




============================ 




「あー!! また負けた」


「ふっふっふっ 俺に勝つには千年ぐらい早いな」


僕はリアナの箱庭でユウヤとテレビゲームで遊んでいる。もう何度目かわからないが僕のキャラがぼっこぼこのめっためたに倒された。リアナとはいい勝負ができるのにユウヤとは勝負にもならない。

あ、今遊んでいるゲームは格ゲーというらしい。


「ほんと強すぎ、、、 そのー、なんで千年?」


「? あぁ、単純にこのゲームのプレイ年数だよ」


「うわぁ、」


うわぁ、不死者ってほんと不死者。これまでも何人も不死者と会ったけど例外なく時間の感覚がぶっ壊れていた。一つのゲームに千年ってよく飽きないな~。


「セイ、夕飯できた ユウヤさんもどうぞ」


「ありがとう リアナ 今片づけるよ」


「ん? もうそんな時間か? さっさと片付けて飯だな」


夕飯と聞いてからのユウヤの行動は早かった。今遊んでいたゲームをすべて手品の様に片づけてしまいとっとと食事の席へ向かってしまった。


「早業 すごい」


「無駄に早いよな 不死となったら食欲が増すのかな?」


「それはおかしい 餓死でも死なないから不死者 食欲は関係ないと思う」


「う~ん? 永遠を飽きない為のコツとか?」


「ん、それはある 何もしない永遠は死と変わらないのかも」


彼の背中は退屈なようには映らなかった。何をするにも楽しみを見出しているように感じる。


「・・・・・」


僕の身長や見た目は全く変わっていない。不死とまではいかなくても僕は不老なのだろう。この試練を始めてからどれだけの年月が経っているのかわからない。自身のことで手一杯で他のことを考える余裕がなかった。


「セイ?」


「ぅん? あぁ、長いこと試練に挑んでいるけど見た目に変化がないなぁ~と思ってな」


「ん、セントヴェンを出てから変化が無い ステータスの年齢の欄が空白になってから不老だと思う」


「そんな初めからか・・・」


「悪いことじゃない 私がずっと一緒 絶対離れない 離さない」


「ははは リアナのそれはヤンデレの度を越えてるよ ・・・でも、嬉しいと思う僕も歪んでるんだろうなぁ」


リアナの言うように別に悪いことじゃない。絶対に一人にはしてくれないのだから寂しくなることはないだろう。


カランコロン~


「うん、ビーちゃんも一緒だから寂しくないね」


カラン~コロン~♪


ビーちゃんの嬉しそうな音色をバックに夕食をとるためにユウヤをゆっくりと追いかける。




明日はいよいよ、この大陸での最後の試練だ。理不尽を乗り越えるためにしっかりと英気を養わなければならない。




============================




RESULT




~数々の試練~


セイ

・適応能力:不死者

 『魔力体』:原田義隆

 『逃げ足』:二コラ

 『蹴り姫』:永田亮

 『ステップ』:シシリー

 『運勢』:芦名健也

 『加護』:立川康

 『記憶力』:ジェームズ・ソロモン

 『情報理解』:クリスタル

 『詳細確認』:クァク 

 『ゲームキャラクター』:白玖悠椰

・裏ステータス認識

・魂装『53枚のカード』(習熟 発展 応用)

・魔力の完全支配


リアナ

・繰り返し(4スキル)Ⅹ10000

 (セーブ ロード ループ リセット)

・適応力(5スキル)Ⅹ10000

 (適応 順応 適合 応化 即応)

・魂装『冥土の嗜み』(習熟 発展 応用)

・魔力の完全支配



獲得した精霊

土の微精霊:重力の孤島

木の微精霊:樹海の大陸

風の微精霊:嵐の大陸

闇の微精霊:遅延の浮島

光の微精霊:加速の浮島

水の微精霊:海底世界

音色の微精霊:天空世界

情報の微精霊:亜空次元

氷の微精霊:氷炎の大陸(氷の大地)




NEXT STAGE 氷炎の大陸(炎の大地) 最終試練 主(ぬし)戦





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