第22話 重力の孤島 攻略
修行はこれまでよりも更に過酷になる。・・・というかヨシタカが大雑把すぎるため、それに巻き込まれているが正しい表現かもしれない。
僕の修行内容は大きく分けて二つ。
・適応した能力を理解する。
・適応した能力を意識的に実践で活用する。
僕が適応していた能力は三つ。
ヨシタカから適応したのは『魔力体』というスキル。これはヨシタカの根幹となるスキルで魔力の直接の運用が能力の主体だ。
具体的な強化は魔力操作の操作性向上だ。魔力に関する全体的な能力が向上した。魔力操作による身体の強化率上昇、生活魔法の効果上昇、無属性魔法の超強化。
ケイから適応した能力は『体術』だった。ヨシタカ曰く、僕に合うようにこのスキルになったようだ。ケイは不死者仲間の中でも一際特殊らしい。ケイの能力は一言でいえば万能。得意不得意が全くない為、僕がケイの能力そのまま適応しては効果としていまいちな結果になっただろうとのこと。
スキル『体術』によって上昇した能力はそのまま身体操作性の向上。基本職、魔法使いの時に突然動きが良くなったように体を動かすことが上手くなる。
三つ目に獲得していた能力『体術』と合わせて相乗効果が生まれたことで当時格段に動きが良くなったようだ。ケイは僕が獲得していた適応能力に合わせて適応する能力を合わせてくれたのだろうとのこと。
まとめると『魔力体』『体術』『体術』が僕が適応した能力となる。
適応した能力を意識的に活用することでこれら三つの能力は本来の効力を発揮できるらしい。
らしいと不確定なのはまだ訓練中で実感がないからだ。
特訓はヨシタカの体質によって群がってくる岩の巨人と戦闘を繰り返すこと。ヨシタカは大雑把で実践を繰り返せば覚えるだろうと具体的なアドバイスがない。乱戦を繰り返す中で能力に慣れろということだ。
慣れない能力を意識しながらやっと攻撃が通るようになった岩の巨人と連戦する。未だに一撃食らえば瀕死になることは変わらず、背水の陣のような状況で死に物狂いで岩の巨人との戦闘を繰り返す。
ヨシタカはギリギリの死ぬ寸前になるまで助けてくれない。ギリギリのギリギリになって最低限立てるまで回復させられる。鬼畜も鬼畜で最初の訓練だけで僕はいつかの時の様に心を殺した。
ヨシタカ自身が人外だからかまともな休息を忘れることもよくあり僕は亡者の様にふらふらとした足取りで戦闘をしていたように思う。
時間の感覚はとっくに消えた。稀にある箱庭での休息が僕の最後に残ったモノを保たせてくれていた。
~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~
私の特訓は新たなスキルの習熟。
セイに置いて行かれないために新たなスキルを習熟させる。予定しているスキルは九つ。
裏ステータスによるスキルの新規獲得はほぼ不可能と言っていいほどに困難を極める。現実的にスキルを増やすためにはスキルポイントが必要。
私は既に100ポイントを使い切ってしまった。エリアスが話していたようにあれから私はスキルポイントを獲得できなかったので裏ステータスの確認すらしていなかった。
しかし、ヨシタカが言うにはまだスキルポイントを獲得できる機会があるらしい。エリアスの伝言では裏ステータスの位階を上昇させることで獲得できるそうだ。
私は裏ステータスを確認すると位階はⅣまで上昇しておりスキルポイントが3増えていた。
私は新しく『セーブ』『ロード』『リセット』を習得する。
この世界のスキルはあくまで才能としての意味しか持ち合わせていない。100種類以上のスキルを獲得し習熟させた私が判断するに、スキルとは獲得したからといって劇的にその能力が扱えるようになるわけではない。
その分野に関する才能を手に入れるようなものだ。例えば、剣術スキルを獲得しても達人のような技術は手に入らない。長い年月をかけて習熟させることで達人に近づくことができる。剣術スキルとは剣術に関する理解力をスキルレベルとスキル熟練度に応じて上昇させるもの。スキルを獲得していればスキルを持っていないものと比べて効率よく剣術を熟達することができるようになる。
今回獲得した『セーブ』『ロード』『リセット』の三つは私の特殊性を補助するスキルだ。
私の特殊性とは同じ十年間を無数に繰り返したこと。この繰り返しを行ってきたことに尽きる。
『セーブ』とは、時間を記憶し始まりとすること。
『ロード』とは、記憶した時間から始めること。
『リセット』とは、記憶した時間まで戻ること。
この三つを行うことで別のループ時間を作り出すことが目的だ。これまでの時間と空間に関する理解も合わさり実現できないことはないと思われる。
スキルはあくまでも才能。私が別時間をループできるようになるかどうかは私の努力次第だ。
これから急激に成長するであろうセイについて行くためには時間が足らない。その時間を作り出すために私は過去の地獄に再度挑戦する。
でも、今回はまだあの時の繰り返しよりは余裕だ。だって、もうセイは隣にいるのだから私が失うものは何もない。
残り獲得できるスキルポイントは6。位階の上昇方法は不明だが、取得する予定のスキルは決まっている。
時間の繰り返し関係の『ループ』。残りはセイに追いつくために適応能力に関係するスキルを獲得する予定だ。
私は『セーブ』が実現し次第、同じ時間での修行を始める。
============================
「・・・・・」
岩の拳を最小限の動きで避ける。一歩懐へと踏み込み掌底を繰り出す。同時に発動するは無属性魔法の『ショック』。鋭い踏み込みから発生した力の流れは余すことなく両手に流動し岩の重い体を吹き飛ばした。
吹き飛ばされた岩の巨人は射線上にいた岩の小人と衝突し体勢を崩させる。岩の巨人の勢いは小人の重さ程度では留まらず乱回転しながら吹き飛び途中内側から破裂した。
僕はその結果を確認することなく、次に迫ってきていた敵の対処に移る。
拳を避け、伸ばされた腕の関節を軸に他の岩の巨人へ投げ飛ばす。一瞬の空白の時間に敵へと踏み込み、岩の人型の正中線へ拳打。インパクトの瞬間リアナと完璧なタイミングで魔力の強化率を上げる。
大人程度の体長の岩の人型は溝内から罅割れ砕け散った。
この重力の孤島に来てからどれだけの月日が経過したかわからない。
重力の孤島とはこの過酷な環境の場所だ。高濃度の魔力により常に尋常ではない重力が発生している絶海の孤島。重力によって緩やかなすり鉢状の海面に囲まれた孤島は島の中心へ行くほどに重力が増してゆく。
島の海岸から見える景色は目の錯覚の様に地平線が高く見える。海面は重力により押さえつけられており波が立たない静かな海だった。
僕たちはヨシタカ監修の下、特訓を続けている。
それぞれの特訓から始まり、リアナが途中から合流する。リアナの特訓は現状できるところまで終わってから合流となった。それからは憑依による強化も合わさり微々たるものだが比較的戦闘が楽になる。
僕たちの戦闘に余裕が生まれると島の中心へと少しずつ移動しさらなる戦闘を繰り返す。
移動する毎に体へかかる重力は増し、強化率を上げなければ動けなくなる。中心へ近づくほどに敵対する岩の生物も強化されていく。
これまで戦闘した魔物は以下の通り。
・岩の巨人
ゴツゴツとした大小様々岩を組み合わせた岩の生物。頭と呼べる部位はなく、一際大きい岩に手足となる岩を繋げただけの姿。その純鈍そうな見た目とは裏腹に魔力によって強化された速さは初め僕の目では認識することができなかったほどだ。岩の拳による拳術の習得、漏れ出ない完璧な魔力操作の副産物である気配の薄さも合わさり厄介な魔物だ。
島の中心へ近づくほどに強化率が上昇し、この島最弱の魔物でありながら最強の魔物になりうるポテンシャルを持っている。
・岩の小人
岩の巨人と同じような見た目だが僕の身長ほどしかない岩の生物。岩の巨人よりも早さと隠密性に優れており岩の巨人の陰に隠れて何度も奇襲を受けた。
・岩の人型
大人ほどの身長の完全な人型の岩生物。マネキンの様に関節や指先があり徒手空拳だけでなく中には武器を使う個体も存在する。頭に該当する岩は存在するが顔なしであり五感で状況を判断している訳ではないようだ。
・岩の獣
獣の見た目をベースとした岩の生物。熊や狼、虎、鳥など、中には浮遊する魚型の岩の生物も存在した。それぞれの標準的な動物の体格であり、武器となる部位が非常に硬い岩となる。一番厄介だったのが兎型の岩の魔物。死角から窮迫し重い岩の足から繰り出される蹴りは何度も吹き飛ばされた。乱戦の中で小型の個体がアタッカーなのが苦戦させられる。
・岩の大型種
岩の巨人よりも更に大きい個体。幻想種であるドラゴンの見た目であることが多い。ただでさえ強力なのに巨人を超える巨体から繰り出される攻撃は攻撃範囲が広く避けるのが困難だ。頑丈な岩の体であるため質量に比例するかのように攻撃が全く通らない。
共通しているのは岩の巨人での説明と同じく、中心へ近づくほどに強化率が上昇すること、気配が薄いこと、力任せの戦闘をしないことだ。
どの敵にも苦戦し何度も環境に慣れるところから始め、少しずつ島の中心へと移動を続けた。
何度死にかけたかは数えられない。ヨシタカは最初から一貫してギリギリになるまで手出しをしなかった。連続戦闘時間も最長がどれだけなのかわからない。
(セイ ドラゴン)
(あぁ~、クソ 他の個体を投げ飛ばしてしばらく牽制する)
図体がデカいだけで今では非常にめんどくさいだけのドラゴン型が戦闘に加わった。巨体による防御能力が面倒なだけで今の僕たちであれば攻撃を避けることは容易だ。
他の個体を減らすためにドラゴン型に向けて投げ飛ばし続ける。玉となる岩の生物も強力な個体であるため十分に傷つけることができる。
「ッ!? ッチ」
首筋に悪寒が走りとっさに伏せることで攻撃を避けた。頭上を通り過ぎようとする兎型をドラゴン型へ向けて殴り飛ばす。
その後も何度も砲撃を行う。獣型をジャイアントスイングの要領で吹き飛ばし、『ショック』を内部でなく外部で発動して吹き飛ばし、人型から武器を奪い取っては投擲し人型も同様に投げ飛ばす。
無心で殲滅行動を繰り返していると最後にはドラゴン型に接近し蹴りを連打する。攻撃の度に『ショック』を発動し内部で反響させ続け、最後の一撃を決めると弾け飛んだ。
「ハァハァハァ・・・」
(セイ 次が来てる)
「だぁぁクソ!」
またわらわらと湧いてくる敵と戦闘を繰り返す。
~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~
しばらくして、戦闘が終了した。近づいてくる岩の生物はおらず、草木の一つも生えない荒野は静かになった。
僕は大の字になって寝転び空を見上げていた。
「はぁはぁ、ぅん ・・・ふぅ~」
ビーちゃんを銜え、ゼリー飲料を飲んだ後、霧状の水蒸気を取り込み吐き出す。
寝転んだ姿勢で行儀が悪いが空へと漂う煙を見ていると落ち着いてくる。
(リアナは大丈夫か?)
(ん、魔力消費が激しいけど大丈夫)
リアナと安否確認をする。憑依状態は肉体的には僕が、精神的にはリアナが、消耗を肩代わりするようになるのだ。
僕は体中いたるところが痛いが歩けないことはないだろうという程度。リアナも念話を聞く限り普通に会話が出来ているので以前よりも消耗していないのだろう。
僕とリアナが体調を確認しながら束の間の休憩をとっていると足音が聞こえてくる。
「よう、セイ 調子はどうだ?」
「・・・全身痛いですけど大丈夫です」
「おう!ならよかった」
何が楽しいのかとてもいい笑顔を浮かべている。今までどこにいたのか意識を割く余裕もなかったのでわからないが無傷なのがほんと腹立たしい。
「どうしたんですか? 話しかけてくるなんて珍しい気がしますけど・・・」
「そうだったか? まぁ細かいことは気にするな ちょっと立ってみろ」
「? はい」
まだ、体の節々が痛かったが『クリーン』を発動して起き上がる。
「セイ、あれが見えるか?」
「? あー、なんか黒いところがありますね」
ヨシタカの指をさした先には黒色の場所が目に入る。その場所へ移動するとのことなのでビーちゃんを補給しながらヨシタカについて行った。
少し歩いて着いたその黒い場所は円形の大きな穴だった。
「これ、何ですか?」
「ここがこの島の中心だよ」
「ここが・・・」
穴の方へ手を差し出してみるとガクッと重力の負荷が増大する。
「ここ、今までよりも重力が強大なんですね」
「ああ、ここが島の中心だからな これまでで一番重力の強い、今いる場所と比べても数倍負荷が大きいだろう」
「うわぁ~」
今の立っている場所でも孤島に飛ばされた初めの重力と比べて千倍近い重圧に上昇している。それがこの大穴ではさらに数倍の重圧。もし飛ばされたのがこの場所であれば何も理解できないまま死んでいただろうと思い当たり身を震わせる。
「そして、ここがこの孤島での最後の試練だ」
「最後の試練?」
「ああ、この穴の底で待っている存在に認められれば試練達成となる」
穴の底の生物とはつまり・・・時折挑発してくるこの孤島の主ともいえる存在だろう。
「俺の指導もここで終了だ ここから先はあいつに挑んで来い!」
「え? あ、はい」
突然、指導終了を言い渡されてもなんだかピンとこない。今まで教えられてきたことといえば、初めの僕が適応している能力についてで、それからはほぼ放任状態だったような気がするのだが・・・。
まぁ、それでも。
「ありがとうございました!」
「ん、ありがとう」
リアナも憑依を解いてお礼を言う。
「おう! がんばれよ ナビ子も『がんばれ』だってさ」
「「はい!」」
ヨシタカは手を振りながら遠ざかると転移を発動しいなくなった。
「・・・とりあえず、箱庭に戻ってしっかりと休憩しよう」
「ん、そうする」
リアナが箱庭を発動しその中へと移動する。鬼畜だったがなんだかんだで最後まで見守ってくれたヨシタカに改めて感謝を心の中で告げる。
明日は孤島の主戦だ。
新規登録で充実の読書を
- マイページ
- 読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
- 小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
- フォローしたユーザーの活動を追える
- 通知
- 小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
- 閲覧履歴
- 以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
アカウントをお持ちの方はログイン
ビューワー設定
文字サイズ
背景色
フォント
組み方向
機能をオンにすると、画面の下部をタップする度に自動的にスクロールして読み進められます。
応援すると応援コメントも書けます