第19話 重力の孤島 撤退
「「~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~!?」」
僕とリアナはいくら力を入れても身動きが取れず、ただただ、身体を強化して重圧に耐えることしかできない。いくら強化を繰り返しても首を動かすことさえできない重圧。骨が嫌な音を立て始め全身に激痛が走った。
「「ッーー~~ー~ー!?」」
体に激痛が走っているのに呻き声を出す余裕さえない。
僕は何とか体を保つために『クリーン』を発動し続ける。重圧によって砕けそうな骨を『クリーン』で修復するが重圧が消える訳ではない。また、体が軋み始め重圧に耐えられず全身が悲鳴を上げる。その度に『クリーン』で修復するが重圧に押しつぶされ拷問を繰り返されているような状況だ。
僕は身体強化の出力を上げる。魔力で全身を覆い、体内魔力を活性化させ全身を強化する。加えて『ヒール』による強化を行い身体強化を重ね掛けする。余りの強化率に身体の端から崩壊が始まるがそれも『クリーン』を繰り返すことで身体を保つ。
自壊するほどの強化をしてやっとよろよろと立ち上がることが出来た。絶えず繰り返される激痛の嵐に僕の意識は今にも途切れそうだが何とか立ち上がった。
(リ、アナ 無事、か?)
口を動かす余裕がない為、契約のパスを使い念話で会話を試みる。
(・・・ん 動けな、いけど大丈夫)
(よかった・・・ リアナは魔力を温存してくれ、僕は無理矢理立ち上がったから少し周りを観察する)
(ん、りょうかい)
さて、やっと立ち上がることが出来たわけだが・・・ここはどこなのだろうか?
周りを見渡して見える景色は鈍色の景色。地形はどこまでも平坦で植物は見当たらず地肌がむき出しだ。鼠色な灰色の土地。遠くには泥のような暗い茶色や白に近い色も混ざることから単一色の土地でないことはわかる。
いや、本当にここはどこなのだろうか?今まで大陸中を旅してきてこのような土地に来たことはない。
何か目印はないかと視線を巡らせていると視界が黒に染まった。
ドゴッ!
そして轟音。視界に映る景色が高速で離れていく。更に背中に衝撃。一転二転三転と転がり僕はここで初めて攻撃を受けたことを自覚した。
(セイッ!!)
リアナの念話が聞こえるが答えれそうにない。自壊をしてまで続けた身体強化の反動と今受けた意識外の一撃により意識が遠退き始める。
これはまずい。そんなことを片隅で考えながらコントロールしていた魔力が途切れてしまった。
~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~
(セイッ!!)
セイの気配が高速で離れていく。突然現れた存在にセイが殴り飛ばされた。何に殴り飛ばされたのか分からない。自壊するほどの魔力を漂わせ強化していたセイを簡単に殴り飛ばした存在のはずだが未だに私には相手がそこに居るのか感知することが出来ない。
(セイッ! セイッ!!)
いくら呼び掛けてもセイからは何も反応がない。でも、契約が切れていないことから無事なことは確かだ。この繋がりがある限りセイは死んでいないことがわかる。
でも重篤な状況のはずだ。自壊するほどの魔力を放出しそれを無理矢理魔法で修復していた。加えてセイが反応できない存在から攻撃を受けたのだ。ただで済むはずがない。一刻も早くセイの元へ向かわなければならないのだが・・・セイを攻撃した何者かが問題だ。
(?? 私を攻撃しない?)
姿を見れないうえに未だに気配を感じない為状況が全く持って何もわからないが、私は攻撃されていない。理由は分からないが攻撃されないようだ。
(攻撃されないなら好都合 今はセイの元へ向かうべき)
私はセイの元へ向かいたいのだがこの重圧が発生しているこの環境が邪魔をしてくる。ここは魔力濃度が高く私の『箱庭』などの空間魔法が作用しない。何度も魔法陣を構築しても高濃度の魔力が押し流してしまう。瞬時に構築しても次の瞬間には崩れ正しく魔法が発動しなくなる。これでは精密な操作が重要な時空系の魔法は困難だ。
(やだやだやだ 嫌だ セイ セイ セイ セイ セイ・・・)
リアナは契約の繋がりを辿り転移を発動させようと繰り返す。念話が出来たのだ、転移が出来ない道理はないと自分に言い聞かせ一瞬の内に何度も魔法の構築と崩壊を繰り返す。
脳の酷使により鼻血が流れ、閉じられた目から血涙が流れ落ちる。身動きが取れない為自身の血に顔を染めながら魔法の構築を繰り返す。
狂気的な思いの成せる業か、ダミーの偽装魔法とセイの元へ転移する魔法を同時に発動し、ダミーが崩壊する中転移魔法が発動した。
リアナの姿が消え、セイの側に横たわる形で出現する。
(ッッ! セイ)
重圧が続く中、意志の力で持って無理矢理右腕を動かす。右腕に激痛が走るがそんなものは妨げにはならない。セイに触れる頃には手とわからないぐらいぐちゃぐちゃに潰れていたが確かに触れることが出来た。
(クリーン)
魔法を発動する。今にも潰れそうだったセイの体は元の形へと盛り上がり復元された。でも、セイは目を覚まさない。重圧でまた体が壊れ始めるので自身の治療と合わせて『クリーン』をかけ続ける。
絶え間ない激痛が続く中、私は考える。なぜ追撃が来なかったのか?と。あの場での私とセイの違いは魔力量だ。大気中に可視化されるほどの濃密な魔力による強化をセイは行っていた。対して私は自身の内で完結する魔法しか使用していなかった。大きな違いがあるとすればこれしかないだろう。そこから導き出せる簡単な答えは・・・。
(敵は魔力に反応している?)
近くにいた私を攻撃しなかったことからも敵は魔力にのみ反応するのではないかと予想が立てられる。ただ単に見逃されただけということも考えられるがそれならこの場所に転移して直ぐに接触があっても良かったはずだ。私たちでは到底かなわないであろう実力の持ち主なのだから。この重圧が続く環境下でセイが認識できない速度で動くことの出来る強者なのだから。
(これ以上考えても分かることはない セイが起きるまで耐える)
私は無意味な思考を放棄し現状の維持に全力を注ぐ。セイが意識を取り戻すまで周りを警戒し、『クリーン』を使い続け、何とか『箱庭』が使えるように模索しなければならない。
(エリアスがここへ送ったってことは何かあるのは確かなはず・・・)
少し考えては考えを辞めるを繰り返し少しでも打開策を探していく。
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・・・あれ?僕は何をしてッッ
「ぅッグゥゥッッ」
意識が浮上して直ぐ全身に駆け巡る激痛により気を取り戻す。
(セイっ! 起きた?)
(あ、あぁ ありがとう リアナ 僕はどれくらい気絶してたの?)
(十分ぐらい そこまで時間は経ってない 魔法切るよ?)
(うん、大丈夫 自分で発動できる)
リアナが続けていた『クリーン』の発動を引き継ぎ、この環境に殺されないように耐える。
(追撃は来なかったの?)
(なかった 私も攻撃されてない たぶん、魔力に反応して攻撃してきたんだと思う)
(なるほど)
僕を攻撃した何者かは高濃度の魔力に反応して攻撃してきたのだろう。現に今も発動している『クリーン』には反応していない。自身の内側で完結する魔力操作であれば攻撃されないのだと思う。
(箱庭は発動できそう?)
(むり ここの環境は異常 箱庭を安定して発動させるには時間が必要)
(出来ないことはないってこと?)
(うん 時間さえあれば出来る)
『箱庭』さえ使えればこの環境から一時的に退避することが出来る。状況を整理して一つずつ問題を解決すればこの環境でも生き残れるはずだ。
(リアナは箱庭に集中して 僕はどうにかこの環境で動けるようにならないか試してみる)
(ん、わかった)
リアナが頑張ってくれている間に僕はこの環境について考える。
まず、重圧というか重力か?地面に押さえつけるように絶えず圧力がかかっている。触れている地面は凹凸がなく平らだ。いや、極僅かではあるが傾斜がある様に思う。試しに投擲用の鉄球を『チェンジ』で置くとその場に止まらず少し動いて潰れた。『チェンジ』で置く行為に転がすような力は働かない。その場に止まらず動いたということはこの地面は斜めという事だ。
体に押しかかる重力から考えるにこの土地は肉眼で分かり難いほど緩やかに擂鉢状なのではないだろうか?異常に高濃度な魔力によって侵されている超重力の環境。最も重力の強い場所から周囲に影響を及ぼしているのではないかと予想する。
となるとこの場所の重力はまだ弱いということになるのだが・・・。この環境無茶苦茶ではないだろうか?レベル99の最高のステータスによって補強されている僕の体を簡単に圧し潰そうとする重力環境。それがまだ序の口の可能性がある。それに加え今の僕が反応できない生物が存在するのだ。
いや、僕たちがデバフを掛けられている可能性はないか?体内の魔力を動かし確認してみるがあまり自身の能力が落ちている様には感じられない。全力を出そうとすれば魔力が可視化されるほど溢れ出ることになるからそれがデバフと言われればデバフかもしれない。どうにか体内の魔力のみで強化出来ないものか・・・。
それからも僕とリアナはこの状況をどうにか打開しようと足掻き続ける。
リアナは箱庭を発動させようと試行錯誤し、僕はどうにか動けるようになろうと情報収集や魔力操作を何度も続ける。
身動きが出来ず、圧し潰されないように耐え続けながら何日も時間が過ぎて行く。
何度も魔力を操作する内に微かに指先が動くようになった。魔力操作は限界まで熟達していたと自負していたがまだ先があったようだ。リアナも何か切っ掛けを掴んだのか何とかなりそうと話していた。
一週間、二週間と時間が過ぎて行く。その中で不幸中の幸いは最初の不意打ち以降、攻撃されなかったことだろう。
魔力を漏れ出さないように気を付けさえすれば未知の生物と戦闘することにはならなかった。
ただ、身動きが一切できない為、食事を取ることさえできない。
飢餓感に耐えながら強靭なステータスにより生きながらえ続ける。『クリーン』の発動に必要な魔力量は微々たるものだ。自然回復力で魔力が枯渇することがない御蔭で死ぬことは免れているが精神的にはギリギリまで追い詰められている。激痛はもちろん続いているため、満足に睡眠をとることもできない。
どれぐらいの時が経ったのだろうか?僕とリアナは意識が朦朧とする中、条件反射の様に『クリーン』の発動を繰り返し続ける。
僕は微かに動くようになってきているはずだがまだ体を起こすことは出来ない。身動きの取れない状況で集められる情報など高が知れている。僕は魔力操作を繰り返しながらもリアナが頑張ってくれることを待つことしかできなかった。
リアナの魔法の才能か、リアナの狂愛の精神が成せる業か、とうとう箱庭が発動する。
さっきまで続いていた重圧が消え見慣れた箱庭の草原に横たわる。視界の隅には僕とリアナの家が何も変わることなく建っている。
久しぶりに嗅いだ草の香りは新鮮で平和的で、安全な環境に来れたのだと朦朧とした意識の中で理解した。
温かい吐息が頬に触れる。薄目を開けるとやり遂げた表情を浮かべたリアナの顔が目に入る。
重い腕でそっと触れると確かに温かい。リアナと手を重ねお互いに生き残ったことを確かめ合う。
あぁ、生き残ったんだと実感することが出来た。
僕とリアナは緊張が解けたことで草原に二人並んで眠りについた。
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