第二幕 過酷過ぎる環境
第17話 セントヴェンでの五年間
試しのダンジョンのダンジョンボス(阿修羅と命名された)を倒してから早、五年が経過した。
試しのダンジョン前で喜びを叫んだ後、探索者協会へと帰還した。
協会の扉を潜りマートさんに報告しようとしたのだが、僕が入ったあたりから協会内は耳が痛いほどの静寂が包んでいた。一体何事か!?と思ったのも束の間、マートさんを含めた職員の人が大慌てで動き出す。
僕は驚きで硬直している間に男性職員に回収され医務室に運ばれる。混乱の中、ボロボロの服はそのままに触診が始まり、ベットに寝かされると治療が始まる。一通りの治療が終わると点滴付きで個室のベットに寝かされることになった。
戸惑いは大きいが重傷を負い疲れていることも確かなため職員の人に甘えることにする。
僕の体はボスの最後の攻撃により左半身がボロボロだ。他にも最後の特攻をするまでに何度も攻撃を回避し損ねることがあった為裂傷の痕も多い。服に関しては買い替えるしかないほどにボロボロだ。重症となる攻撃は『クリーン』で修復していたが最後の方では服まで修復している余裕はなかったからだ。
ベットでうつらうつらする中職員の服を着た女性に介護をしてもらいながら食事をとった。食事を終えた頃睡魔の限界がきた為眠りにつく。横で女性がほほ笑んでいた気がしたがなぜだろうか?
・・・・・
なんだろうか?心の奥底が温かい。そんな表現が一番しっくりとくる。何かが僕に混ざり合うように僕に溶け込んでいる。それは決して不快なことではない。かけがえのないものが増えるような、ぽっかりと空いていた穴が満たされるような、そんな得難い感情が押し寄せる。
・・・・る
なんだ?
・・・ぇる
なんて言っているんだ?
『愛してる』
え?
意識が浮上する。
そこからはその僕にとって衝撃的なことで・・・体験したことがないことで・・・あぁぁ。
今思い出してもとても恥ずかしいです。
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リアナとは最初こそ衝撃的な絶対に忘れることの出来ない出会いをしてしまったが今では僕の一生の彼女だ。
アドリアナは全てを説明してくれた。なぜ僕の為に何かをするのか。アドリアナ・ヴォフクとは誰なのか。これまで何をしてきたのか。これからどうしたいのか。彼女の生い立ちから繰り返してきた時間、今の僕と話すまでのことを全て話してくれた。
途中、顔を引きつらせたくなる内容も多々あったが僕は受け入れた。今の僕に了承なしに契約したことは一言物申したいが僕は彼女のことを嫌いになれなかった。
なぜ契約したのか、リアナは何も隠さず全てを説明してくれた。全ての説明を聞いて簡単に訳すと要するに僕と一緒に居たいということだ。
僕と一緒にいる為にステータスを鍛えた。僕と一緒にいる為に体型を維持した。僕と一緒にいる為に調べ上げたのだ。
その歪んでいるが僕一人に向けられた感情を否定することが出来なかった。
否定する理由がなかった。
むしろ嬉しいと感じてしまった。
こうなっては僕に否定するすべはない。ハニートラップに掛かったような形だがもういいや、どうにでもなぁれ!どうせ彼女がいたわけでもないし好きな人がいたわけでもないのだ。むしろリアナは僕の好みドストライクの女の子です。流石調べ上げてきただけのことはあるよね~。素晴らしいね!
ぐちぐちと話したが要するに・・・
かわいい は 正義
ということだ。以上!
驚愕する内容は多々あったが概ね全てを受け入れリアナと行動することになったのだった。
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それからの日々はゆったり(?)と時間が過ぎて行く。
他国との戦争のない平和な時代ということもあり僕たちが何かの騒動に巻き込まれるなんてことはなかった。
ゆったりとした平和な日常。この五年間の間に行った行動は以下のようなことだ。
・アドリアナとの関係のすり合わせ
・生活魔法についての理解
・武器防具の修繕、改良、作成
・大道芸人の師匠による修行
・四大迷宮の踏破
これら五つのことを中心的に動いていた。
アドリアナとの関係は大きな摩擦が起こることなく進むことになる。アドリアナ・ヴォフクの愛称はリアナとなった。何と呼べばいいか質問をしたとき『リアナ』がいいとのことだ。
リアナとの契約は強固であり僕の力では切ることの出来ないものである。古くから伝わる番になる儀式『姓を同じにする』を踏襲することで条件を違えない限り破ることの出来ない契約となっている。
契約内容はどちらかが死ぬまでアドリアナ・ヴォフクがセイ・ヴォフクの奴隷となること。
この契約内容でこの契約を破城させるには『セイかリアナが死ぬ』『リアナが奴隷をやめる』ことだろう。
僕かリアナの死はあまり意味がない。リアナは死ねばまたループすることになる。同じ契約をすればほぼ同じ時間を進めるようになるからだ。では、二つ目の条件は?これも実質無理だ。リアナの執着具合から言って奴隷をやめることはないだろうし明確な『奴隷』の定義がないため、仮に考え方を変えさせて奴隷を辞めさせるとなっても何をすればいいのかがわからない。
それに初めに摩擦が起きていないと話したようにリアナの行動は傍から見ても奴隷とは思われないだろう。僕の専属のメイドの様に行動している。全ての時間を僕に合わせているような生活状況だが嫌な顔一つすることなくむしろ嬉々として甲斐甲斐しく世話を焼く始末だ。ベットから動かなくても何不自由しなかったと言えばリアナの有能さ、もとい恐ろしさがわかるだろうか?
リアナの話でも僕が遊び人の職に就くまでにリアナと接触してしまえば、僕はダメ人間になっていたと言われた。数日を過ごして納得することになる。というか僕でなくてもリアナをメイドとして雇えばダメ人間になるだろう。それぐらいリアナのメイドとしての技能は優秀過ぎるのだ。
さらにリアナは繰り返しの中で僕の情報を調べ上げている。どれくらい係わってもいいのか、嫌なことは何か、好きなことは何か、私リアナに何を求めているのか等、完璧に理解した上で行動している。僕から見れば何一つ隙が無く、完璧なメイドを熟している。
有能であり優秀、僕が劣等感を受けるなんて隙すらないほどに完璧にメイドを熟している。摩擦なんて起こそうとしても起きるような状況にならなかった。
アドリアナ・ヴォフクはどこまで行ってもアドリアナ・ヴォフクだった。
リアナとの関係が順調に進む中、僕は僕として行動する。
一つ目が生活魔法についてだ。
阿修羅との戦闘の中で僕は生活魔法の可能性について気づいた。
【クリーン】綺麗にする『修復』
【ヒール】癒す『強化』
【ウォーム】温める『加速』
【クール】冷ます『停止』
【ドライ】乾かす『操作』
【ウォーター】水を出す『召喚』
【チェンジ】着替える『収納』
僕が習得した『生活魔法』はライム・エリクシールが著書ということもあり普通ではなかった。マートさんに本来の生活魔法と違うことを教えられる。あまりの違いに驚かされ一週間ほど本来の生活魔法を習得しようとしたがこちらは何一つ切っ掛けすら掴むことが出来ず習得もできなかった。やっぱり基本的に僕には才能がないのだと理解させられた。
そういえばホームキーパーのおにいさんと従者のおじ様やメイドさん達は僕と同じ生活魔法を使っていた様ないない様な・・・?
まぁ、それは置いといて生活魔法についてだ。
『クリーン』は今までの要領で活用できる。特に捻る必要もなく傷の修復や装備の破損の修復に活用できる。使い始めた頃は効率が悪く、魔力消費量も多かったが何度も繰り返し練習することで最小限の消費量に抑えるまでにすることが出来た。
『ヒール』は身体能力の強化ということもあり難しい面は多々あったが何とか習得する。自然治癒について理解するところから始まりなぜ強化に繋がるのか頭をフル回転させてなんとか理解できたように思う。初めは効率が悪かったが今では最小限の消費量で部分強化までできるように成長した。
『ウォーム』と『クール』はセットで習得しなおすことになる。この二つの魔法は表裏一体だ。加速と停止、何に魔法を作用させるかで大きく変化することを理解する。『ヒール』の様に部分的な使い方は難しいが対象の全体に作用させる方法であれば簡単に習得することが出来た。何に作用さえるのかも僕の匙加減次第ということもあり感覚を掴むまでに時間を使うことになる。徐々に慣れていき今では部分的な作用も空気中の変温もできるようになり使い勝手のいい魔法となった。
『ドライ』は風以外を操作することをひたすら練習した。新しい対象を操作しようとする度に勝手が違うため魔力切れギリギリの消費量を強いられることになった。今まで通り何度も繰り返し間隔を慣れさせ、体に馴染ませ、最小限の消費量にまで反復練習することになる。水、砂、泥、土、火、雷、木、光と少しずつ操作する対象を増やしていった。今でも何を操作できるのか試しながら消費量を抑えるように練習を繰り返している。
『ウォーター』の召喚についてはリアナに教えてもらうことになる。リアナの一番得意な魔法は召喚だからだ。リアナにワンツーマンで連日教えてもらうことで他の生活魔法と比べるまでもなく最速で習得することが出来た。一般的に魔法と呼ばれる現象を再現できるようになる。例えば、火球を飛ばす、土の壁を創り出す、氷の槍を飛ばす、風の刃、落雷、天候を雨にする等だ。それに加え、一時的に協力してくれる存在の召喚、ビーちゃんを手元に呼ぶことなどが出来るようになった。今でもリアナにコツを教えてもらいながら呼び出せるモノのレパートリーを増やしている。
最後に『チェンジ』だが、これに関しては大きな変化はない。物を収納することが出来る。この能力に尽きる。チェンジの使い方として一瞬にして服装や武器を変えることはいつも通り。新たに出来るようになったことは毎回登録しなくても収納できるようになったことだ。装備品だけでなく荷物を収納できるようになった。一つ工夫するだけで使い勝手が今まで以上になった魔法だ。
二つ目が武器防具の更なる改良。+師匠の修行。
見習い人時代にお世話になった方々に協力してもらいながら武器防具を改良していく。大きな目標が終わった後ということもあり軽い気持ちで親方の元に訪れた僕は職人の世界の厳しさを教えられることになった。
この時の記憶は酷く曖昧だ。怒鳴られ叱られながら教えられるといった環境ではなかった。しかし、覚えることが多すぎて余計なことを考えている暇がなかった。リアナの手厚いサポートがなければ僕は乗り越えることが出来なかったかもしれない。
何時かの再来の様にほぼ機械的に行動する。僕は才能がない為何度も繰り返して覚えるしか方法がない。天才であれば一つのことで十を理解するのだろうが僕は一も理解することが出来ない。何度も繰り返し体にしみこませ反射に近い領域まで昇華させることで親方たちの技術を理解できるそんな状況だ。
余りにも遅々として状況が進まない為、大道芸人の師匠に『真似る』の修行をつけてもらいに行ったことは覚えている。師匠の顔は少し崩れていた様な気がしないこともあったが快く教えてくださった。
平日は親方達の下で生産技術を学び、素材が足ら無くなればダンジョンで素材採取をする。週末の休日は師匠の下でスキル『真似る』について学ぶことになる。そして、また平日が始まる。
レベル99まで上げ切った強靭なステータスの力もあり肉体的には何ら不調はなく進んでいく。精神的には摩耗が激しかったように思う。記憶が曖昧なのもそのせいだろう。
素材は徐々に高額なものに変化する。市場にあまり出回らない素材を収集するために僕は難易度の高いダンジョンへ潜ることになった。僕の強靭なステータスに加え、リアナがパーティーにいるため苦戦することなく攻略していく。生活魔法についても実践の中で修行していた。
何時かを境に身体能力は上がらなくなったが特に不自由なくダンジョンを攻略していった。
師匠との修行は三年ほどで終了することになる。もう教えることはないと頭を撫でてくれたことが印象的だった。
それから一年後、親方達生産者による修行が四年で終了することになる。最高品質の素材で創り出された戦闘用の靴を作り終えたことで卒業となった。卒業ということで盛大にパーティーを開き吞兵衛が酔いつぶれる中お開きとなる。親方達だけでなく僕の修行を見ていたのか様々な人から頭を撫でられ時間が戻ってくる感じを実感しながら達成感を感じていた。
まぁ、その後僕の状況を聞きつけた探索者協会の職員の人に怒られていたがそれはいいだろう。
そして最後になったが四大迷宮の攻略についてだ。
これは修行の最中にその多くを潜り進めていた。四大迷宮以外のダンジョンについては全て踏破していた。四大迷宮についてもそれぞれあと十数層で最終階層というところまで進めていた。素材採取の中には深い階層に潜らなければ獲得できない貴重な物も多くあったからだ。
約一年ほどで四大迷宮のボスを倒すことになる。この一年間は武器、防具が最高品質の物に換装された。リアナの存在がいることも大きい。そのため危険に陥ることもなく進むことになった。
生活魔法の修行についてもこの一年間で本格的に進めている。消費魔力は殆どが最小限にまで抑えられていたこともあり大きな苦戦することなく強敵を倒していく。
四大迷宮に出現する魔物に規則性はない。浅い階層は弱い魔物が出現する階層だがイレギュラーで階層に見合わない魔物が出現することがある。その為、初心者は入ることが禁止されている。一定の実力がなければ入ることが出来ないダンジョンだ。試しのダンジョンの踏破が挑む資格の一つとしてあるため挑戦権を得ていた。
この四つの迷宮に共通していることはハイリスクハイリターンということだ。深く潜れば潜るほど危険度は比例的に上がることになるが、その分獲得できる富も比例的に価値が上がっていく。一度でも深層に潜り込み生還できれば一生遊んで暮らせると言えば凄さがわかるだろうか?
そんな迷宮を一つ一つ踏破していく。
・北の迷宮 ミノタウロス 筋骨隆々な巨人の体に闘牛の頭の魔物
パワーファイターだった。身体能力の全てが高水準であり、見た目に寄らず器用であり様々な武器を活用する。ボス部屋に散乱する武器を型にはまらない使い方をしてきた。リアナと二人で翻弄し僕が首を切り落としたことで戦闘が終了した。
・東の迷宮 ピュトン 巨大な蛇の魔物、再生力が異常
とにかく巨大な蛇の魔物。巨体から繰り出される攻撃は壁が迫ってくるようなもので躱すことが困難。そのうえ防御力も高いため生半可な攻撃では傷一つつかなかった。再生が追い付かないほど早く傷つけていき巨体を削りきることにより勝利する。
・南の迷宮 ティタニス 飛べない鳥の魔物、脚力が異常
飛べない鳥は強い。一瞬の蹴り技で半身が吹き飛んだときは死を覚悟した。『クリーン』の修復を反射の領域まで練習していたため事なきを得た。時間をかけて『真似る』により目を慣れさせカウンターを叩き込んだことで勝利をもぎ取る。
・西の迷宮 オオカミ 狼の魔物、群れで行動し全てを倒すまで戦闘が終わらない
群れ。無数の群れ。数えるのも億劫になる群れ。一つ一つの個体の実力が高く油断するようなことがあれば一瞬にして挽肉になっていたかもしれない。連携し隙らしい隙が無かった。開幕に大規模の魔法をぶつけ数を減らしそこからは徐々に削りつくした。
迷宮を踏破したことで右手の刺青の文様は複雑になっていく。それに合わせえ身体能力も強化された。刺青の文様による身体能力の上昇値は1.5倍ほどだと思う。この判断は体感でしかないので正確ではないかもしれない。
迷宮を踏破したことで探索者としてのランクも上昇した。
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セイ・ヴォフク --才
レベル:99
種族:人間(固定)
職業:遊び人 99
スキル
【斬る】【突く】【打つ】【流す】【中てる】
【隠す】【無属性】【真似る】
魔法
生活魔法
【クリーン】【ヒール】【ウォーム】【クール】【ドライ】
【ウォーター】【チェンジ】
精霊の靴
素材強化 合成強化
バフ
強化(特大)ステルス性(特大)
精霊の歩幅 瞬撃
テイム
エナジースライム<ビーちゃん>
契約
英霊〈アドリアナ・ヴォフク〉
(各種能力値がグラフとして表記されている)
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【無属性】、魔力操作による技術
『ショック』『バレット』『シールド』
『チェンジ』に登録されている手持ち武器
短剣×2 片手剣 鉈 刀
短槍(約一メートル、穂が20㎝) 斧槍ハルバード
片手斧ハンドアックス 両手斧 (スプリッティングアックス)
ラウンドシールド×2 大楯
長弓(140㎝ほど) 銃(ハンドガン×2、スナイパーライフル)
投擲武器(短剣、針、金属球、投げ槍、投げ斧、×20毎)
その他ダンジョン内で収集した各種武器(消耗品として投げる予定)
ステータスも大きな変化ではないが変わった点がある。
名前はリアナと契約したことによる変化。年齢が表記されなくなった理由は分からない。
バフはこの五年間で様々なものが増えたが最終的に統合され表記としては簡略化された。能力が失われたわけではないので今までどうり使うことが出来る。見た目は変わらず裁縫のおばあちゃんのセンスには敵わない。
能力値は余白がない為、上限値なのだと思う。
各種武器は戦闘であまり使わない種類を破棄し、厳選した。長大な武器種はハルバードと両手斧と大楯、片手で持てる武器種は種類が多くても困らなかったのでそのまま、長すぎる槍は扱い難かったため身長ほどの短槍のみに、弓は持ち運びに不便がないので長弓のみに厳選した。
投擲武器は作成する種類を絞った。本数もそれぞれ20個ずつ作成。『ウォーター』による召喚術で回収が容易になった為、投擲武器も全て打ち直した。
これらの武器の中で一番お金がかかっているのは銃だ。弾一つ一つが高額なものだからだ。普段使い用の安い銃弾も用意しているが使うときはあるのだろうか?
刀は・・・その、ロマンだ。何度練習しても扱いきれていないがいつかは使いこなせるようになりたい。
鉈は便利。一つ持っているとサバイバルでの活動が楽になること間違いなし!
以上がこの五年間。ゆったりとした時間とは言い難かったかもしれないが僕の目線から言うと大きな事件もなく危険な場面もなく過ごせてこれたように思う。
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「皆さん、これまでお世話になりました」
僕は大きな声であいさつをする。その横ではリアナが僕と同じように深くお辞儀をしている。
「セイくん、ほんとに行っちゃうの?そんなに急がなくても・・・」
「何度目なのよ、マート 今日まで何度もセイくんと話し合ったじゃない」
「でも、でも… ドリスせんぱ~い」
マートさんが号泣している。周りを見ると協会職員の何人もが泣いていた。
「そうだ、忘れない内に渡しておくわね はい、コレ」
そういうとドリスさんは冒険者の資格証明となるカードを渡してくれる。カードには大きくCと書かれている。
「ありがとうございます!」
「いいのよ~ これぐらいお安い御用だわ」
僕はマートさんに冒険者資格をどうやって取得すればいいのか相談をしていた。するとマートさんよりも詳しく人脈がある人がいるそうなのでその人にお願いしたのだ。それがマートさんの上司であるドリスさんだ。
ドリスさんの掛け合いもあり僕に武力があることを認めてもらうことが出来た。本来であればGランクからスタートのところをCランクからスタートとなった理由だ。
「セイくんも18才になったのね~ ・・・本当に18才?」
「あまり言わないでください ドリスさん 僕も身長が伸びなかったことは気にしているんです」
「ハハハッ! セイは小さくてもパワフルだからな! 冒険者でもやっていけるさ」
「ニコライ教官にそう言ってもらえるなら安心です」
ここには今までお世話になった人が勢揃いしている。探索者学校でお世話になった先生方、探索者協会でよく気にかけてくれていた職員さん達、僕のたくさんの師匠である生産者の方々。
この光景を見ると僕はたくさんの人に助けられてここまで来れたのだと実感する。
「次の街まで遠いんだろ? あまり長居してると日が暮れちまうぞ セイ坊」
「そうですね 親方の言う通りです」
最後に皆さんと握手やはぐを抱き返し旅立つ時間が来た。
リアナはリアナでたくさんの女性陣に囲まれて話していたようだ。こちらまで会話の内容が聞こえてこなかったので何を話していたのかは分からない。沢山の荷物を頂いたようだから後で手分けして収納しようと思う。
「改めて、いままでありがとうございました」
顔をあげると優しい笑顔や泣きそうな顔など様々な表情を見てしまう。
「行ってきます!!」
最後に大声を出しリアナと共に歩き出した。すると空に魔法の花吹雪が舞う。大道芸人の師匠の演出だろう。顔を見ないと思ったらこんな楽しい仕込みをしていたようだ。
「ありがと~!!」
手を振りながら僕は歩いて行く。
今日は快晴。雲一つない青空は僕のこれからの旅路を祝福しているようだった。
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