第15話 幕間 マート・ブルート

セイの能力を確立させることで第一幕終わりとなります。

この幕間は探索者協会受付嬢のマートさんの視点でこれまでの内容を振り返っています。

主人公セイの容姿はどのようなイメージで読まれていましたか?

ここではその答え合わせと一部の矛盾を描いていきたいと思っています。

少しでもお楽しみいただけたら幸いです。


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私の名前はマート・ブルート。年齢は20代後半と曖昧にしておきます。見た目はそこまで不細工ではないはず。仕事をしていても時折その、、好意的な視線は感じるので整っているはずだ。まぁ、その視線の多くが胸元に向いているのが何とも言えないが・・・。胸元に視線がいくのも慣れたものなのでそこまで気にならないが何で男子は胸が好きなのかね?私からしたら肩は凝るし動きにくいしめんどくさいだけなんだけどな~。こんなことは絶対に友人には言ってはいけませんよ?


私が働いている職場は探索者協会の受付だ。依頼の受注や発注などの窓口の仕事。ここはダンジョンが多いことで有名な都市ということもあり仕事は常に忙しい。依頼は尽きないし人の出入りも多いし常に経済が回っている様子を肌で感じることができているように錯覚してしまう。


今日も朝のあれこれを済ませたら仕事の始まりだ。朝食を取ろうと宿舎に併設されている食堂に向かう途中、焦げ茶の髪色の少年と出会う。


「セイくん おはよう~ 今日も訓練?」


この少年の名前はセイ。こげ茶色の髪、顔立ちは整っており体型をよく確認しないと男の子か女の子かわからないぐらいにかわいらしい見た目をしている。身長は130センチと十歳の年齢にしては低いかもしれない。服装はうん、その~あまりセンスがないのか、それか無頓着なのかあまり似合っているとは言い難い長袖長ズボンの地味な格好だ。昨日も同じような格好だったから使いまわしかもしれない。


今日は革の防具も着けていることからどこかのダンジョンにでも挑むのだろうか?それか訓練かもしれない。


「おはようございます いえ、今日は試しのダンジョンに挑戦しようと思いまして」


「試しのダンジョン? パーティーかな?」


試しのダンジョンとはこのダンジョンの多い都市セントヴェンでも有名なダンジョンだ。階層と魔物の脅威度が一致しており自身にあった難易度の魔物と戦闘することができるダンジョンとなる。試しのダンジョンで獲得できる素材は深い階層でなければ余りおいしくないがレベルをあげることだけを考えるのであれば最適なダンジョンであろう。ダンジョンに挑む場合、何かの事情がない限りはパーティーで挑むことが基本だ。だから、どのパーティーと組むのか聞きたかったのだが返ってきた答えは予想と違った。


「今日は一人です」


「一人? パーティーじゃなくて大丈夫?」


「はい、大丈夫です 自分のレベルにあった階層でレベル上げをしようと思っているだけなので無理はしないつもりです」


レベルに合った階層と言ってもそれはパーティーを組んで複数人で挑む場合の階層だ。ソロなら何層か下の階層でレベル上げになるだろう。それだとあまり効率が良くないはずだけどいいのかな?あまり無理はしてほしくないな。


「そう ならいいけど・・・ 気を付けてね? 危なくなったら逃げるのよ?」


「はい 分かりました それでは行ってきます」


「はい 行ってらっしゃい」


セイくんは年齢の割にしっかりしているから大丈夫だとは思うけど心配なものは心配だ。今日の顔色は良さそうなので元気そうだがつい先日までお手伝いに来てた時の顔色はそれはもう酷い様子だった。病気ではないそうなのだけど顔が真っ青なのだ。休憩を多めに取らせて様子を見ていたが一週間ほどその症状が続いていた。セイくんが休憩所で寝ている時に探索者協会に常設している医務官に診断してもらったところ食中りとのこと。軽度の症状と診断されたので一まず様子を見ることにしていたのだ。


それが今日の朝はケロッとしている。う~ん、若さなのかね~。少し話した感じでは大丈夫そうなので追及はしなかったが最近になって行動が活発になっているように感じる。


私はセイくんが他の同僚とあいさつしながら離れていく様子を少しの間眺めていた。




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午前中の業務が終了した。昼休憩ということで私は食堂に来ていた。少し早いせいか食堂の人は少ない。どこに座ろうか見渡していると珍しくもあの少年を見つけた。生姜焼きを受け取り少年の席へ近ずく。


「となりいい?」


「はい どうぞ」


OKをもらったので隣に座る。


ここの食堂はいつも利用しているけど美味しいわね。毎日、献立が違うこともあり飽きることがないように工夫がされている。食堂のおばちゃんには感謝、感謝。


セイくんが探索者協会に来てもう5年になるのね~。翠髪の綺麗な女性(確かシードさんだったかしら?)に連れられて来たのがセイくんと出会った日だ。私はまだ新人ということもありテンパり過ぎて上司に怒られてしまったけどそれは置いておこう。当時五歳のセイくんはそれから数日誰とも話すことなく過ごしていた。私もどうにか元気を出してもらおうといろいろしたが失敗の数々は割愛する、先輩に怒られ続けたことも割愛です。


私の行動が影響したかはわからないがどうにか話せるようにはなってくれた。ある日セイくんは強くなりたいとギルド長に直接話に行く。どういう心境の変化があってどのような話し合いの末に決まったかは詳しくわからないがセイくんは探索者協会の宿舎で暮らすことになる。同時に五歳にして探索者協会が運営する学校に通うことになり今に至る。とだいぶ端折ったがそんな感じだったはずだ。


五年もここで暮らしていることもありセイくんの存在は探索者協会職員全員の子供のようなものだ。時にお手伝いでちょこちょこ動く様子に癒され、時に鏡の前でポーズをとっているかわいい一面を目撃してしまったり、時に回復魔法の【ヒール】で癒してもらうなどセイくんはよくかわいがられている。その筆頭は私かもしれないが・・・。


そういえば、セイくんと長いこと係わっているはずなのに名前を呼んでもらったことがない気がする。


「ねぇ いつも思ってることなんだけどさぁ」


「? はい?」


「セイくんは私の名前覚えてる?」


「・・・・・ ・・・お、オボエテマストモ ハイ」


あ、これは覚えてないわ。だいぶショック。


「やっぱり 覚えてなかったかぁ~」


「・・・すいません」


うむ、素直なのはよろしい。かわいいから許しましょう。


「私の名前はマート マート・ブルート 今度こそちゃんと覚えてね?」


「マート・ブルート マートさんですね 今度こそしっかりと覚えました 間違いないです」


うんうん、何度も繰り返してこれを機に覚えてほしい。


「で、本題なんだけどさ 最近大丈夫? やつれてるというか切羽詰まっているというか 余裕がない様に感じるんだけど 無理し過ぎじゃない?」


「・・・ここ最近はそうですね 時間もあまりないですし焦っているんだと思います」


「無理に探索者になる必要はないんだよ? 全ての人が職業に恵まれるわけじゃないから気に病む必要はないし他にも道はあるんだからそんなに無理しなくても・・・」


セイくんは上級の戦闘職が現れなかったと話していた。その落ち込んだ様子はとても心に刺さるものでなんとも・・・。


「いえ、その 僕の中で決めてしまったことなので なんというか諦めきれないというか最後までやれることを全部試してからじゃないと納得できないんです 僕も男ですからね はは」


なに?この尊い存在!ヤバい、顔に出ないように表情筋を全力で制御する。


「・・・そっか うん わかった」


抱きしめたい衝動をどうにか抑え、顔に出ないように全力を使っていたら無言の時間が続いてしまった。


ちょっと制御がヤバそうなので一言声をかけ、先に食堂を後にした。




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昨日の思いがけない一面を不意打ちでくらってしまったがもう大丈夫。今日もいつも通り職場に向かっている途中、玄関口でセイくんと出会う。


「おはようございます マートさん」


「お~ やっと覚えてくれたか お姉さん嬉しいよ~」


昨日の今日でやっぱりだめだった。もう抱き着いちゃう!なでなでしちゃう!いい子いい子しちゃう!


「ぷはぁ どうしたんですか? とつぜん」


セイくんが超絶かわいいのがいけないのです。


「いや~ 嬉しくてね~ セイくん名前を憶えてくれないからやっとかと思ったらさぁ」


「う、それは僕が悪いですね すいません」


「うんうん その調子で他の人の名前も覚えてあげてね?」


「・・・善処します」


まだ、余裕がない感じだけどそれでもいいから頑張ってほしい。


「そういえば、セイくん 今日はあの日だね」


「ん? あの日って何ですか?」


あら、大事な日なのに忘れてる?


「え? セイくん今年で十歳だよね」


「そうですね」


「なら今年は祝福を授かる日でしょ? もしかして忘れてた?」


「あ、」


あ~、その忘れてましたって顔もかわいい。なんでそんなに表情豊かなの?私としては表情で何を考えているのかわかりやすいから大助かりだけどね~。


「忘れてました! 今から言って来ます!」


「いってらっしゃーい」


セイくんが手を振って駆けていった。私も負けずに大きく手を振って見送ったが見えたかな?


セイくんは祝福で何を授かるかな?私としては危険の少ない物がいいと願う。時折、用途が分からず暴発させてしまう物もあるから注意が必要なのだ。危険な物に関しては教会の方から指導が入るはずだからそこまで心配はしていない。戦闘以外でも役立つ祝福であることを私は強く願うよ。セイくんは強くなりたいようだけど私としてはあまり危険なことはしてほしくないからだ。


この平和な時代で武力はそこまで必要じゃない。現役の探索者の人でもレベル50以上の人は少ないのが現状だ。地上では人同士の戦闘だけでなく魔物との戦闘もほとんどない。


セイくんの村が魔物の侵攻に晒されたのはここ数十年、数百年か?それほど珍しいほどにないことだった。セイくんには悪いが運がなかったとしか言いようがない。侵攻に関してはセントヴェンの警備隊や探索者によって直ちに駆逐された。レベルが50以上が少ないと言っても50もあれば十分な武力なのだ。


セイくんの将来が平和になるような物を授かるように願いながら職場に向かった。




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セイくんが授かった祝福は精霊シリーズの靴だった。精霊シリーズとは成長する武具のことだ。それぞれの強化方法で鍛えることで精霊の武具は成長する。靴というのは珍しいが精霊の武具に関しては未知という訳でもないほどには認知されている。


私も知っていたのでお古の靴をすべて上げた。中には女性物の靴もあったが些細なことだろう。靴をあげたのだからそれに合う服装も必要だろう。これを機にセイくんのファッション事情を改善してしまおうと思う。同僚というか同志にも声をかけ『セイくん育成計画』を始動する。


どさくさに紛れて女性用の服も渡してしまったが些細なことだ。


同志たちの説得により一着だけ女性物の服装を受け取ってもらえた。すぐに着てもらおうと休憩所に案内しようとしたがセイくんはその場で着替えてしまった。


肩だしのズボンまで隠れる白を基調とした絵柄の入ったシャツ、腿を大胆に露出させたジーンズの短パン、その下にスパッツを履き、黒のハイソックスに厚底のグレーのブーツ。極みつけは魔法少女の変身シーンであるかのように一回転している間に着替え終わり、キュートな決めポーズ。


これは・・・・・セイくんがめちゃかわいいのがわるいんですぅ。




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翌日の昼頃、昨日の充実した時間と朝のセイくんとの挨拶もあり仕事が捗っているとセイくんが帰ってきた。


大怪我をして・・・。


探索者協会の職員の空気が凍り付く。探索者は突然の状況に戸惑っていたがそんなことはどうでもいい。急いでセイくんを医務官の元へ運び治療をさせる。


怪我の具合は左肘の複雑骨折。上級の回復魔法で治る傷だったから問題なかったが今後は何か対策が必要かもしれない。傷が治り次第お手伝いしようとするセイくんを同志全員で説得し寝かせる。


業務が終わった後は会議の発足だ。セイくんの安全を守るためにはどうするべきか夜通しで話し合いが続いた。護衛をつけるべき、探索者に依頼を出そう、ダンジョンに行かせるべきではないなど様々な意見が飛び交ったが最後の結論としては今まで通りに見守るに落ち着いた。


私としては危険なダンジョンに行ってほしくなかったがセイくんの意思を蔑ろにすることはできない。妥協案としてセイくんが怪我を負ったとしてもすぐに治療ができるように準備をしておくことで落ち着くことになる。


私を含めて諦めきれない人がセイくんに話しかけたが意思は固いようで曲げることができない。仕方ないので私は朝の挨拶を必ずするようにしセイくんの体調に注意を払うことにした。


あの大怪我以降セイくんは怪我をすることなくダンジョン探索を繰り返した。セイくんは最後の足掻きなのか一か月ごとにジョブを変えながらダンジョンに挑んでいる。訓練教官のニコライ・コブイルキンさんの指導も受けているらしく何度か様子を聞いてみたが問題ないそうだ。


私たちを心配させないためかお手伝いに来るときは綺麗な格好で職場に来る。そんな健気な姿に悶えながらも気づいてないふりをしていた。他の同志も同様だ。


セイくんの学校卒業まであと一年というところまでセイくんのダンジョン通いの日々は続いた。




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いつものように業務に勤しんでいると向かいの席に小柄な少年が座る。


「おかえり、セイくん 今日で鍛冶は終わりだっけ? どうだった?」


「ただいまです、マートさん とても楽しかったです!」


「よかったね~」


あ~、かあぁいいぃわぁ~。気づいたときには頭を撫でていた。無意識の行動はヤバい、自重しよう。あ~、でも、むりだわ~。この癒しは捨てられない。


「次の職場を確認に来たのかな?」


ここ最近のセイくんは見習い人として鍛冶職人の職場へと修行に行っていた。一つの職場に一ヶ月間というのは珍しいがいないわけではない。就きたい職業がなく自分に合った職場を探したい人はこの方法を使う。転々と回っていく中で自分の才覚に気づくことができれば将来が安泰になるということもあり短い期間で様々な職場を回るのだ。それでも、最短で三ヶ月とかだったのでセイくんの様に一ヶ月ごとに見習いの職場を変えるのは珍しいことになる。


「そうです」


簡単に確認してみるがセイくんの希望した職場はどれも空いている。最近の子供は平和すぎるゆえかスリルを求めてダンジョンに挑む者が多い。大体は大怪我をする前に職場探しに戻ってくるのだが中には後遺症の残る怪我を負ってしまう場合もある。肉体の傷は欠損であってもそのほとんどを直すことができるが心の傷はどうにもならない。もう少し自分の将来のことを考えて行動してほしいものだ。


「次は裁縫ね 布の服だけでなく革の鎧も作る職業よ 場所はここ そんなに離れてないから迷うこともないと思うわ」


希望の順番通りで大丈夫だろう。鍛冶の次は裁縫を頑張ってもらいたい。セイくんが作ってくれた服とか欲しいかも・・・。


「セイくん、協会でも職場体験してみない? 簿記とか覚えたら今後も楽よ? ここなら知り合いも多いしセイくんなら上級職もすぐ現れるはずだわ」


そうだわ、セイくんがここで働いてくれたら癒しが常にいてくれることになる!名案じゃない!


「う~ん・・・、後にしたいです 物作りが思ったよりも楽しかったのでいろいろ体験してみたいです」


「そっか~ そうよね、楽しいなら仕方ないわね」


しょうがないわね~。楽しいことは今のうちに何でもするべきよ。


「協会にも回ろうとは思っているのでその時はお願いします」


「ほんと! わかったわ~ セイくんも頑張ってね」


「はい!」


ここでの見習い体験も考えてくれているなんて朗報よ。同志に報告しておきましょう。




それから、セイくんは様々な職場を転々としていき希望したすべての職場を回った。職人さんからの評価も高く「セイはいつ来るんだ」といった連絡が多い。どうやらどの職場でも才能の片鱗を見たらしくぜひ欲しい人材なのだとか。


そんなセイくんは最後に大道芸人のお弟子さんになり修行に励んでいる。休みの日に見たセイくんの様子は目がキラキラしていてとても生き生きとしていた。もしかしたら天職を見つけたのかもしれない。セイくんの大道芸・・・いいかも。かわいい男の娘が背伸びした服装で観客を沸かせる様子はうん、妄想だけでも鼻血ものかもしれない。同志に報告案件が増えてしまった。夜の会議で報告しよう。


変顔にならないように気をつけながらその日の業務を終え、その後の会議は大いに盛り上がった。




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今日はある報告を受けたためセイくんを探している。いつもの時間であればそろそろ協会前を通るはずだ。・・・来た。疲れているようで申し訳ないがこちらも大事なことなので呼び止める。


「おかえり、セイくん ・・・ちょっと今から時間あるかしら?」


「? はい 大丈夫です」


私はセイくんを連れて応接用の一室へと案内する。途中、他の職員を捕まえ、ギルド長に連絡を入れるようにお願いした。私が案内した応接間は機密情報を扱うときに利用する防音仕様の部屋だ。


「座って」


席を勧めたが状況が分からず緊張しているようだったので少しブレンドした紅茶を用意する。私が普段休憩で飲んでいる紅茶だ。味は保証するしリラックス効果もあり重宝している。うん、セイくんも飲んでくれた。少し気持ちも落ち着いたかな?


それにしてもギルド長遅いわね。セイくんを待たせるなんて何様かしら?時間にルーズなところをもっと注意するべきね。


「こんばんわ、ギルド長」


セイくんが慌てて挨拶する。かわいい。


「ああ、楽にしてくれ」


ギルド長の挨拶。どうでもいいわね。


ギルド長という呼び方は気にしないでいいわ。職員が適当に読んでいるだけだから。


「さて、セイくん」


「は、はい!」


かわいい~。ギルド長にはあとで差し入れをしよう。健康には良いがとびきりマズイやつ。


「ステータスを見せてはくれないか?」


「え?」


また、やったコイツ。フォローする身にもなれやボケ。威てまうぞだらー。


こっちに助けを求めるセイくんかあいい。もちろん助けますとも!


「ギルド長 話を急ぎ過ぎです」


「む、そうか すまない」


妙な汗をかき始めているが知ったこっちゃない。そのまま胃に穴を開けてろ。


「はぁ 私の方から説明します セイくん、今の職業は遊び人よね?」


「え、どうして・・・」


「ドリスさんが教えてくれたのよ セイくんはこの二年間、この本に書いてあることを頑張ってたのよね?」


司書兼上司のドリス・ジュールさんから預かった本【凡人が強くなるには・・・】を机に置く。


ドリスさんとはもう長い付き合いだ。仕事のノウハウを教えてくれた先輩。ギルド長の扱い方について教えてくれた先輩でもある。今は司書としても過ごしているがこれは息抜きで職場を変えているのだそうだ。しっかりと睡眠をとっているのに私の数倍の仕事量を熟している。軽く化け物じみた方です。ッ!?今、寒気がした!!


ん?あ~、セイくんのこの様子は名前覚えてないかな?


「あ~ 司書さん!」


「・・・セイくん 名前は憶えてあげて」


「あ、はい すいません」


はぁ、やっぱり~。気を取り直して咳ばらいをひとつ。


「この本を返したってことはこの本の内容をやり遂げたのでしょう? 私たちはどうなったのか確認がしたいの」


「? 分かりました たぶん、何か理由があるのでしょうし どうぞ、確認してください」


セイくんは不思議そうに首を傾げながらもステータスを見せてくれた。その内容はどれも信じられないものだった。


まず、職業の遊び人。この職業は非常に危険な職業として探索者協会職員に周知されている。就いた者は廃人になり、運が良くても別人のような性格になってしまう。


でも、セイくんの様子を見る限り変わった所はない。話を聞いた時から不安に思っていたことだったので一安心だ。


「この本の指示通りに進めてくれたのね よかったわぁ~」


「あの~、何か不味かったですか?」


ギルド長が遊び人について説明しているうちに私はセイくんのステータスを記録する。


種族固定されていることも普通とは違う。種族はそれこそ仙人のような修行をしない限り進化することはない。種族を固定できることも驚きだがこれを行わなければ遊び人という職業は変化させられるということなのだろうか?事例が少ないため断定できないが遊び人の危険性を改める必要性があるかもしれない。


次に能力値。レベル11にして普通の探索者のレベル30相当の能力はハッキリ言って異常だ。上昇量が上級職の比ではない。最上級職の上昇量それも全ての項目が平均的にだ。


普通の人はレベルをリセットすることはない。最上級職まで上り詰めたとしてもまた、一からレベル上げをやり直す人はいない。レベルをリセットするということは今までの努力を捨てることと同義だからだ。そのため順調にジョブを進化させたとしても基礎レベルの20ぐらいまでは初級職の上昇値、40ぐらいまでは上級職の上昇値となりレベル一から最上級職で育て治すのと比べると弱くなる。


だが、セイくんはレベル一から最上級職の上昇量で上げなおしている。レベルを上げ切ればこれまでにない能力値になるかもしれない。


次にスキルだが、これは本に書いている通りの状況だ。発生スキルはなく、基礎スキルのみが記載されている。総ての職業の基礎スキルが使えることはすごいことだがこれがどのような変化をもたらすのか私にはわからない。前例がないというのが大きな理由だ。


最後に魔法。生活魔法と一括りにされているがこれは何の冗談だろうか?生活魔法は【クリーン】、【ティンダー】、【ウォーター】の三つのはずだ。【ティンダー】は種火をつける魔法、【ウォーター】は少しの水を出す魔法、【クリーン】は基礎の属性魔法の練習に習得する魔法だ。【クリーン】は水魔法で対象を洗い、風魔法で水けを飛ばし、火魔法で乾かす、これらの一連の流れを練習する魔法だ。


それに対してセイくんが覚えている魔法は七つ。【クリーン】と【ウォーター】は確かに生活魔法だが他は知らない。セイくんは何を教科書にしたのだろう?これも後で調べておく必要がありそうだ。


驚きの内容に戸惑いつつも記録を取っているとギルド長の説明もひと段落着いたようだ。私からもいくつか補足をセイくんに説明する。


「この手の信憑性に欠ける本は多いのよ それでドリスさんもあまり深く気にしてなかったみたい でも、作者がライム・エリクシールなら話は別なの この作者は趣味なことしか書かない方だけどその内容は全て真実と言われているわ 今までにもこの作者の本を読んで人生を一変させたという人は大なり小なり多いのよ」


「なるほど、そうだったんですね」


一瞬、怖い顔になっていたけど大丈夫かな?かわいかったけど・・・。


「それで、セイくん 君はこれからどうするのかね?」


「これからですか? 今のところ決まっている予定はレベルを上げることです 試しのダンジョンに挑んでレベルを最大値まで上げようと考えています」


最大値までってセイくんの強さへの執着はそれほどまでに・・・。


「ふむ では、セイくんにはすべての武器が使えるように手配しておこう それでよいかね」


「わかりました では、そのように職員に伝えておきます」


仕方ない。意思は相変わらず固いようだし私が全力でサポートしよう。無理をし過ぎないように徹底的にサポートすると今誓った。


これからのことを簡単にメモしギルド長に許可をもらう。否定はさせない。セイくんの命がかかっているのだから妥協はしない。


私はすぐに行動に移すためにその場を後にした。同志諸君にも協力を仰ごう。




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翌日、セイくんに私が専属になったことを話した。専属と言ってもセイくんの依頼の管理やステータスの成長具合の把握、セイくんが無理をし過ぎないように調整することが私の役目になる。


昨日の会議の結果、セイくんには専属の担当が必要との結論が出たのだ。一応ギルド長に話は通しているが私たち職員がほぼ独断で判断したことであり正式な書類があるわけではない。同志との激しい取り合いの末勝ち取ったこの椅子、有意義に活用さていただこうと思う。すまないな、同志諸君。


ステータスを報告することは義務ではないのでセイくんにお願いしてみたのだが特に悩むこともなくOKをもらうことができた。


一番の難所を乗り越えたのでそれからは雑談が続いた。セイくんのジョブについて、私を含めた職員がセイくんのことをどう考えていたのか、職人さんのセイくんの評価、セイくんがどれだけ魅力的か、などなど自己評価の低いセイくんに様々なことを話した。中には私の愚痴も聞いてもらったが嫌な顔一つすることがなかった。セイくんマジかわいい。


うまく話を繋げ・・・なんてことは考えなくてもセイくんとのお話で私が飽きることはないし伝えきれてないことも多いのでストレスを与えない程度に話を途切れさせないことは容易いことだ。午前から始まったセイくんの今後についての話し合いは昼食を跨ぎ、午後のデートまで続く。


そして、最後に写真会だ。


これは同志諸君によるミッションだった。拒否することは許されず、どうにか午後の事業終了まで誘導しなければならなかった。これは仕方がないことなのだ。セイくんちゃん、許してほしい。


前回の唐突な写真会の結果とセイくんのステータスを確認して後に資料を調べた情報をまとめたことにより完璧に計画を立てたと自負している。


セイくんが魔法少女さながらに変身できる服装の上限はほぼない。荷物が嵩張る心配もなく、一つの着替えにかかる時間も最短。同志諸君の中でも裁縫に秀でた者には衣装の作成を依頼した。


写真会はとても充実した時間となった。セイくんのあんな姿やこんな姿、もう、私の人生に悔いはないと断言できる。世の中のかわいいをこの場に集めたんじゃないかと錯覚トリップしてしまうほどには満足の結果となった。同志諸君を見ても私と同じ考えなのだろうことは疑いの余地もない。


あ~、セイくんの夏服ワンピース姿での羞恥の照れ顔。マジきゃあいいぃ~。




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遊び人にジョブチェンジしたセイくんは試しのダンジョンに潜り続け順調・・・というか異常な速度でレベルを上げていった。


普通の探索者は連日ダンジョンに挑むことはない。どれだけ短くても二日の休暇期間を挟んでダンジョンに挑んでいる。最短でも三日おきにダンジョンに挑むのはそれだけ危険だからだ。ダンジョン内では安全な場所がほぼない。食料、飲料水の調達手段が限られており長期のダンジョン探索は困難を極める。魔物の総数が減ることがないため連戦が続くことが普通だ。他にも様々な要因はあるが総じて集中を切らすことのできない環境であり精神的に非常に疲れることになる。


なのにセイくんは前日の疲れを見せることなくダンジョンに潜って行ってしまう。


私が何か言わないとセイくんはずっとダンジョンに挑み続ける。何かの拍子にセイくんがいなくなってしまわないかと心配だ。あまり、行動を制限するべきではないが休暇を取らせるようにしている。




一週間と少しでレベル50まで成長してしまった。


素材集めの情報が欲しいと聞いたときは驚きを隠せなかった。たった数日で武器が追い付かないほどに成長してしまったのだ。これが驚かずにはいられない。


セイくんのサポートは完ぺきに熟すとセイくんに誓っているので事前に情報は集めてある。これに関しては何も心配することはないがセイくんが遠くに行ってしまうようでとても寂しい。




素材集めから武器作りまで三ヶ月ほどで終わってしまった。


セイくんは全然休まない。もう、強制的に休暇にしてやっと休むほどだ。挙句には私にバレないように悪知恵を働かせ始める始末。同志諸君の情報網により気づくことができたが少し強く注意するべきかもしれない。体を壊してしまわないか本当に心配です。


なのに職人の皆さんときたらまだ十代のセイくんを徹夜で作業させるなんて・・・・・何を考えているの?隣で寝ているセイくんの様子を見るに何日も徹夜をしているはずだ。こんなにボロボロになるまで働かせるなんて・・・・・ちょっとガチギレしてもいいかな?いいよね?


ふぅ~、怒って疲れたけど・・・この寝顔が見られただけでも役得かな?




六ヶ月と半月ほどで99までレベルを上げ切ってしまった。


過労で倒れた翌日にダンジョンに挑もうとしたので強めの口調で止めた。セイくんの考え方はズレてる?自分のことを考えみない様な行動が多い。


私が注意深く見ていないとセイくんが休む様子がない。ちょっとセイくんには悪いけど自分の事を大事にしない行動は直させたい。専属になって気づいたがセイくんは自分のことになると優しさがなくなるのだ。常に追い詰めようとするし出来ない自分を責め続けているように感じる。


最低でも週に一回は休むように強く言い聞かせてみたがそれでも働き過ぎの様に思う。




そして、セイくんがレベルを99まで上げ切った翌日。


「おはようございます!」


「おはよう、セイくん 今日も元気ね 何か知りたいことでもあるのかな?」


「いえ、ダンジョンボスに挑むのでその連絡です」


「・・・・・ ステータスを確認しますので奥の部屋へお願いします」


前に使った部屋へ案内する。


セイくんの成長が早すぎる。見た目は変化がないのにステータスから与えられる情報は最高峰の身体能力だ。事前に過去の資料を確認したがソロであっても試しのダンジョンボスに挑む基準に達している。この資料を参考にするのであれば問題ないのだが・・・セイくんの年齢はまだ12歳だ。いくら何でも早すぎる。でも、職員として対応するのであればセイくんがダンジョンボスに挑むことを止めることができない。どうしたらいいの?


パパッとお茶とお茶請けを用意し話を始める。


「セイくん、お願いできるかな?」


「はい、どうぞ」


セイくんは素直にステータスを見せてくれた。私は事前に調べた情報ともう一度照らし合わせたが何度確認しても問題なしと判断するしかない。どうにか理由とつけて諦めてもらうことはできないかぁ~。


「・・・・・ はぁ セイくん、ボスに挑む基準の能力値に達してるわ 探索者協会としては問題なく送り出すことができるんだけどね でも、私としては危険なボスに挑んでほしくないわ・・・・・行くのよね?」


「はい、行きます」


「はぁ~ じゃあ、再確認するわ ダンジョンボスは戦闘が始まると逃げ出すことはできない ボスが死ぬか挑戦者が死ぬかどちらかでしか扉は開かない それは理解してる?」


「はい、素材集めで何度かダンジョンボスには挑んでいるので大丈夫です」


セイくんが見つめてくる。うん、かわいい。めちゃ、かわいい。お持ち帰りしていい?いいよね?ダメ?ダメなの?いやだ!そんなこと。


「わかったわ わかったわよ 絶対帰ってくるのよ? 約束よ?」


む~、ハグで我慢するわ。絶対帰ってきて、これでお別れなんていや。かわいい、私たちの、職員全員の子供を失うなんてことがあってほしくない。


「はい! 行ってきます!」


元気な返事とともにセイくんはダンジョンに挑みに行った。








セイくんはダンジョンボスを倒し探索者協会に戻って来たが無傷とはいかず大怪我をして帰ってくる。


いつかの日の様に協会内の空気が凍り付いた。


それからは業務ほったらかしでセイくんの治療に職員全員が動き出し大騒動となった。


いつの間にかセイくんの彼女と名乗る少女は現れるし、セイくんは寝たっきりだし、誰も状況を収集できる人がいないため、業務は完全に停止し探索者協会に大きな損害を与えることになった。




協会やギルド長の胃はどうでもいいがセイくんに彼女がいるなんて聞いてない。誰か説明して!!






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セイくんは男の娘です。十人が十人かわいいと判断するほどのかわいらしさを主人公にしています。

そうしたのは何となくとしか言いようがありません。妄想の垂れ流しですのであしからずや。


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