第12話 レベル上げの日々 後編

百一日目


今日から試しのダンジョンでのレベル上げ再開だ。と意気揚々とダンジョンに行こうとしたのだがマートさんに止められた。なぜだ!ほぼ一ヶ月ダンジョンに入っていないのになぜ?


どう言いつくろってもダメそうなので大人しく図書館で読書です。ついでに読者を早めに終えて軽く型稽古をして宿舎に帰りました。新しい武器には早く慣れたいと思う。




百ニ日目


今度こそダンジョン探索再開です。三ヶ月ぶりに50階層に転移で踏み入れた。馴らしも兼ねて50階層の魔物と戦闘してから階層を下りる。51階層から出現する魔物は小型、大型亜人種の魔物とその更なる発生個体が追加される。40階層以降でも追加されたアンデット個体も追加され見た目はほぼゾンビだ。


ゴブリン、ホブゴブリン、コボルト、ハイコボルト、オーク、ハイオーク、の職業個体かつその装備がグレードアップしている。下手な探索者や冒険者よりも高品質な装備だ。


魔物の装備が潤沢なため投擲武器が増えたようにも思う。予想外の距離から槍が飛んできたときは驚いた。投げ返したら直撃させることができたが肝を冷やしたことは確かだ。でも大剣を投げることは無理があると思う・・・。仲間の魔物からツッコミを受けていたのは少しウケた。


相変わらず敵の索敵技術は優秀だ。ソロはやはりカモなのだろう。戦闘回数が増えるのは仕方がないのかもしれない。どうにか【真似る】を意識して取り込んでいきたい。自身の技術力はダンジョン内において生死に直結するのだから。


レベルが53まで伸びていたので適正階層である53階層まではなるべく戦闘をしない様に隠密をフルで進んでいく。


初めは敵の戦闘技術も向上していたので手間取ることがあったが【真似る】を活用して行動を徐々に先読みし苦戦することなく進めることができた。武器を一新したのもよかったのかもしれない。以前よりも楽に深手を負わせることができた。


55階層に到達し残りの時間は素材採取を中心に活動した。


レベル55




百三日~百四日目


55階層から探索をスタート。56階層から追加される魔物はオーガ、鬼人種の魔物、獣人種の魔物、そして更なる職業の複雑化だ。


鬼人種はオーガが純粋進化した魔物だ。魔法関係はからっきしだがその身体能力は脅威だ。オーガより一回り小さい個体もいるが力は倍増どころでは済まない強化が施されている。その皮膚は鈍らな武器では傷一つつけることができない。その剛腕は自身の数十倍の重さのものであっても持ち上げることができる。魔物である故か自傷も気にせず限界以上の力を行使するため一撃死もあり得るだろう威力をほこっていた。


人間にも鬼人といわれる種族はいるが魔物ほど理性が飛んでいないのでその力は比較的常識の範囲内だ。それでも人間の数倍の筋力があるので種族的に肉弾戦が優秀な種族なのだろう。


獣人種は人の姿形により近くなった獣の特徴を持つ種族の総称だ。地上で暮らしている獣人との違いは理性があるか無いかだ。これは鬼人種の魔物と鬼人の違いとも共通している。魔物は破壊衝動、殺害衝動などに思考を侵され理性がない。獲物を見つけるなり即戦闘に突入することになる。明確な違いとして体内に魔石があるかないかでも判断ができる。


獣人種は鬼人種ほどの驚異的な筋力はないが総合的に身体能力が高く、足が速い個体が多い。魔法や幻覚を使う個体もおり戦術の幅が広い。鳥系統の獣人種は空を飛ぶこともできるため空中も警戒しなければならないことになる。一番の脅威が飛べない鳥種の魔物であることが納得できなかったがあの脚力から繰り出される爪撃は侮れない。


複合職業の魔物も増えて以前の様に外見の特徴だけでは戦闘方法を見分けるのは難しくなる。魔法職と近接戦闘職を熟せる魔物が非常に厄介だ。器用貧乏とも言われることになる組み合わせだが隙が少なくなるというのはそれだけで厄介だ。攻撃の隙を潰すように繰り出される魔法やスキルはこちらがソロであるというハンデも合わさり苦戦することになる。


中でも面倒なのが移動魔法を多用する遠距離職業。近づくだけで時間がかかりその間は一方的に攻撃に晒されることになる。遠距離攻撃魔法を習得していない僕には天敵だ。倒すことはできたが時間がかかりすぎる。


攻撃魔法を習得するべきだろうか?だが、習得するには生活魔法を習得するのにかかった時間以上の時間が必要だ。まだ、生活魔法の活用方法を模索する方が短時間かもしれない。魔法というのは才能がものをいう世界だ。僕の非才具合では一生かけても実用性に欠けるようにしか思えない。


どうにか【真似る】を活用してできないものか?見えない才能はマネしようがないため無理なことか。師匠も技術はマネできても才能はマネできないと言っていたし無理なのだろう。


以前はオーガに傷をつける事すらできなかったが今回は楽に深手を負わせることができた。武器の品質というのは思いのほか戦闘に直結する。今の装備であれば90階層までは持つだろうと親方は話していた。それまでは重点的にレベル上げをしていきたい。


一日では60階層まで進めることができなかった。レベルの上りが遅くなっているから仕方がないのかもしれない。これからはもっと時間がかかりそうだ。二日目には61階層まで進めレベルが上がったので切り上げた。


レベル61




百五日~百九日目


60階層からスタート。追加された魔物はいないが今までの魔物が階層相当のレベルで出現する。どの魔物が出現するかはランダムだ。これが70階層まで続くことになる。集団戦闘が複雑化しオーガなどの大柄な魔物との戦闘中に初期の小さな兎に攻撃されるなど今までよりも視野を広げなければ直撃しそうになる場面が多くなる。


この階層レベルの魔物というのは地上ではほとんど見かけないレベルになる。地上の魔物は人間が生活圏を広げる過程で大きく減らすことになった。僕が今住む大陸には脅威となる魔物は極少数だ。魔物は秘境の奥地でひっそりと暮らすか、数を増やすことで絶滅を防ぐか、人間の生活圏と共存の道を探るかに別れた。そのどの魔物も人間に手を出すことはほぼない。手を出したが最後、一族郎党住処にいる魔物は駆逐対象になってしまう。


僕の目標とする強さはこの段階で地上の基準としては問題ないのかもしれない。実際今のほとんどの人がレベル50を超えるか超えないかほどでレベル上げを切り上げている。日常生活を送るうえで強すぎる力は必要ないため求める人が少ない。また、これ以降はダンジョンの魔物が極端に強くなるため諦める人が多いのも事実だ。でも、まだ強くなる余地があるのなら最後まで上げ切りたい。今の時代で一番脅威となりうる人の中にはこのダンジョンを踏破する実力の人がいるのだから。


鬼人種に警戒し、素早い獣人種に警戒し、連携が巧みになった亜人種に警戒し、本能で襲撃してくる動物種に警戒し、視覚外から強襲してくる小動物に警戒する。いくら警戒してもし足りない。気を張り詰めすぎて徐々に精神を摩耗することになる。判断を今まで以上に瞬時に行わなければ生き残ることはできない。


初めは慣れなかったが僕は見ることを重点的に訓練してきたのだ。次第に慣れていき索敵も併用して敵の行動をほぼ把握した形で戦闘を進めることができた。複雑な戦闘の繰り返しの中で僕は確かに成長していることを実感していた。喜びとはこういうことなのだろうか?


3レベル、2レベル、2レベル最後には一日に1レベルずつ上がることになる。五日かけて70階層に到達。ここからは一レベル上げるだけでも時間がかかりそうだ。


レベル70




百十日目


強制的に休暇です。90階層まで速く進みたかったがマートさんは認めてくれなかった。最近ますます元気になっているから大丈夫だと話したのだがダメなようだ。週に一回は休みなさいとも言われてしまう。これからレベル上げがさらに難しくなるのに・・・。


大人しく休みます。怒ったマートさんは怖いです。




百十一日~百三十九日目


70階層からスタート、80階層に到達。


出現する魔物は以前話した異形種が追加される。レベルが遅々として上がらなくなったので素材を採取しながら進めていく。魔物の進化の成れの果ての様な階層。魔物によるトラップが出現するようになり探索するのがさらに遅れる原因になる。


進化の果ての階層ということもあり僕の今までの想像力ではすべてを予想することができなかった。何をするにも僕の予想を上回り後手に回ることになる。一つのミスで重傷を負い逃走することにもなった。


素材収集の時に低階層の異形種と戦闘したがこのダンジョンの異形種は次元が違う。不気味で嫌悪感をもたらす見た目でありどこに五感があるのかもわからない。死角を取ろうにもこちらの行動を予想していたかのような攻撃の前置き。総てが全て後手後手に回り苦戦を強いられた。


元の魔物が何だったのか原形のない魔物たち。戦闘方法も様々であり複雑だ。


溶解液をばら撒く魔物、体の全てが筋肉で出来ている軟体生物、構成成分がほぼ水分な魔物、軍団にして個の亜人魔物集団、唐突に必ず背後に出現するゴースト種などなど表現しきれない魔物の数々が集団で現れることもあった。


僕は持てる力をすべて使わなければ生き残れなかった。【クール】に過剰な魔力を込め凍結させる。【ウォーム】に過剰な魔力を込め発火させもした。【ドライ】で大気を操作し侵攻を遅らせもした。酷い魔力の酷使はそのまま反動となって自信を侵す。気休めに【クリーン】や【ヒール】を使いどうにか生を繋ぎとめて戦闘を繰り返した。


二日に1レベル、三日に1レベルと成長が遅くなる。ほぼ一か月かけて80階層に進むことができた。


マートさんを怒らせるのは怖いので週に一回休みを取っています。取らないと体をダメにしそうだったのが本音かもしれない。


レベル80




百四十日~百九十日目


80階層からスタート、90階層に到達。


出現する魔物は不死種が追加。魔物が強くなるだけでなく討伐するのに粉砕しなければならないためさらに時間がかかる。魔物の能力自体も凶悪なものが出現し状態異常は非常に厄介だ。魔物の長命種は不死種の中でも質が悪い。死にそうになると逃走を図るようになるのでさらに戦闘時間がかかりレベルが上がらなくなる。魔物のくせに逃げ出すことにイラつくこともあったがどうにか階層を進めていく。


不死種は長命種や一度死んだ魔物の総称。その生命力は不死であると勘違いするほどのもであり昔のどこかの賢者は自ら不死種に落ちる者もいたとか。死してなお動くのはなぜか?未練か?後悔か?怒りか?憎しみか?何が理由なのかはわからない。アンデットは話すことがないからだ。


この階層のアンデットは今までの階層のアンデットとは次元が違うため戦闘方法を見直す必要が出てきてしまった。最大の原因はその再生力。放っておくと完全復活し再度襲ってくる。一定以上壊しつくさないと活動を停止しないため厄介なことこの上ない。


それに加えバンパイアやサキュバス、デビルなどといった魔物が追加される。長命種なためそれだけで戦闘の熟練者であり強者だ。


バンパイヤはその異常な再生力に苦戦することになる。魔力さえあれば血の一滴からでも再生して見せた。体を霧状に変化させ攻撃を回避する。血で形成された武器はかするだけでも僕を侵し身体能力を大幅に低減させることになる。


サキュバスは存在するだけで面倒だ。短時間視界に入れるだけで状態異常に侵される。視界をふさいだとしても音で嗅覚で味覚で感触で状態異常に侵される。対策の方法が実質レジストするしかない。耐性をつけようにも強弱は様々であり一定の決まった状態異常がない。もうそこにいられるだけで迷惑だ。


デビルは上の二つに比べて比較的弱い。上二つが質が悪いだけでありデビルはデビルで面倒だ。身体能力が純粋に高く魔法にも適性がある。器用貧乏を極めたようなスタータス構成。デビルがいるだけで安定したものとなり戦闘が長引く要因になる。


その他にも面倒な不死種は存在したが特に面倒なのがこの三種だ。


吸血鬼、淫魔、悪魔は人族にもいる。僕の身近に知り合いはいないが隣の大陸に国を興している。違いは獣人と同じく理性があるかないか、体内に魔石があるかないかだ。能力的にはそれほど違いはないといわれている。長命種な点も共通なため過去には獣人も併せて戦争になることもあったようだ。


詳しい説明は省くが結果は国ができた。獣人はそれぞれの地域に溶け込んだ。今は戦争のない時代が長らく続いている。過去の確執はだいぶ薄れてきたといわれている。


僕が相手にしているのはダンジョンの魔物だ。僕は苦戦を強いられた。ここ最近は苦戦してばかりだ。この次の階層がさらにきつい階層だというのに躓くわけにはいかない。


生活魔法を本来の役割以上に酷使し活路が開けないか模索し続ける。ジョブスキルに関しても何かないか全て手探りで探すしかない。【真似る】はもう無意識でも使い潰しているほどだ。そろそろ他のジョブスキルも無意識で発動するかもしれない。


四日に1レベル、五日に1レベルと成長した。ほぼ二か月かけて90階層に到達。


レベル90




百九十一日~三百日目


90階層からスタート、99階層に到達。


出現する魔物は最後の幻想種。とにかく強い、この一言に尽きる。ドラゴンなど昔話に出るような存在だ。それが複数体で現れるのだ。覚悟はしていたつもりだったが理解が甘かった。悪夢でしかない。何度も大怪我を負いながらも死ぬわけにはいかないと『ヒール』で命を繋ぎ『クリーン』で混ざり合った血を消しながら戦闘を続ける。四肢の欠損だけは避け、回避し戦い続けた。


竜種はそれ自体が脅威だ。その巨体から繰り出される攻撃はそれだけで地形を変えることになるのに魔力を巧みに扱い周囲への被害を最小限に敵対対象の存在に最大効率のダメージをたたき出す。掠るだけで身体が吹き飛ばされた。受け止めることは不可能。流れをよく確認し逆らわず木の葉のように舞わなければどうにもならない。


精霊種の魔法は強力無比。何の事象が起きているのか理解が追い付かない。辛うじて後に残る残照が何が起こったのかを教えてくれている。ここまで来ると無意識の領域であるため僕が何をして生き残ったのか僕自身も理解が追い付いていなかった。雷に直撃し満身創痍だが辛うじて四肢は繋いでいる。悲鳴を上げる体に鞭を打ち精霊種に止めを刺すために駆け出す。


特に厄介な幻想種がこの二種。他の魔物も脅威ではあるがこの二種ほど脅威ではない。冷静に対処すれば怪我を最小限で切り抜けることもできたがこの二種に関しては毎回死にかけることになった。自身でも何をどうして生き残ったのか理解が追い付かないがそれでも何が僕を突き動かすのか進み続ける。


嫌でも戦闘技能が向上する感覚がわかる。嫌でも使える魔法の模索をしなければ生き残れない。こんな日々がなぜか病みつきになる。実感することが心が躍るのかもしれない、体感することが生きていることを解らせてくれるのかもしれない。心配するマートさんには悪いがその制止を振り切って僕はレベル上げを続けた。


戦闘時間は伸びる、怪我からの回復に時間がかかる、武器が追い付かなくなれば素材を集める。これらのことが重なり今まで以上に時間がかかることになった。数字で言えばたったの9が果てしなく遠い。


そんなギリギリの戦闘を続ける日々の中で一人の少女を助けた。場違いな存在を目にしたことでふと立ち止まることになる。戦闘に染まってい意識が戻ってきたのだ。


黄土色の粘性の液体に絡まるトラップに嵌っていた少女。抵抗するでもなく立ち尽くしていた少女。匂いも酷く、道を外すこともできなかったので通りすがりに『クリーン』をかけて助けてあげた。


その少女とは挨拶もなくその横を通り過ぎたが何をしていたのだろう?トラップに嵌ったのなら抜け出せばいいのに・・・。この階層まで来れるレベルがあるのだから僕と同じかそれ以上に強いはずだ。抵抗していなかったのが不思議でしょうがない。


会話もなく通り過ぎたからか意識から少女のことが抜け落ち戦闘の世界に落ちることになる。意識が切り替わり戦闘を繰り返す。地上に戻った時にマートさんに少女のことを報告するのを忘れてしまった。


そんな日々もいつかは終わりを迎える。


六日に1レベル、七日に1レベルと上がっていった。レベル上げを一時中断し武器を作る時間も必要だった。大怪我をした翌日は病院に入院することにもなった。肉体も精神も満身創痍ながらも最後まで諦めることはなかった。時間はかかったがレベルを上限まで上げることが出来たのだ。


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セイ 12才

レベル:99

種族:人間(固定)

職業:遊び人 99

スキル

【斬る】【突く】【打つ】【流す】【中てる】

【隠す】【無属性】【真似る】

魔法

生活魔法

【クリーン】【ヒール】【ウォーム】【クール】【ドライ】

【ウォーター】【チェンジ】


精霊の靴

 素材強化 合成強化 統廃合

バフ

 ジャンプ強化(大)ダッシュ強化(大)消音(大)

 キック強化(特大)脚力強化(大)耐久性強化(特大)

 踏込み強化(大)軽量化(大)デザイン性(特大)

 スタンプ強化(大) 

 半歩 一歩 二歩 三歩 死歩 空歩 瞬歩


テイム

エナジースライム<ビーちゃん>

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【無属性】、魔力操作による技術

『ショック』『バレット』『シールド』


『チェンジ』、登録されている手持ち武器

短剣 片手長剣 両手剣 刀

短槍 長槍 斧槍

片手斧 両手斧 戦棍

片手盾 大楯 

短弓 長弓 銃

投擲武器(苦無、針、ブーメラン、金属球、投げ槍、投げ斧、など)

その他ダンジョン内で収集した各種武器(魔物の武装品など)


 これらの武器に名称はない。自身で作ったもののため愛着はあるが名前を付けることを忘れていた。素材は竜種の差材を中心に作成されている。99レベルになるまでに素材はほぼすべて集めきった。どれも高品質で親方にもお墨付きをもらっている。


 銃に関してはアサルトライフルやサブマシンガンは作っていない。この階層まで来ると必要な弾の素材だけでも数千万単位の高級品になってしまうため単発式の銃に絞っている。二丁のハンドガンとスナイパーライフル一丁。弾の威力を上げるために大口径にしている。そのため装填数は少なくハンドガンが七発、スナイパーライフルが4発となった。銃は細工師の分野なので寡黙なおじさん監修のもと作られている。


 投擲武器はできる限り数と種類を作った。苦無や針は数十本単位であるが投げ槍や投げ斧は数本ほどの作成だ。型を作って量産しているため他の武器と比べると強度がやや低い。素材は最上級の物を使用しているため十分な威力は発揮できる。矢じりなどの消耗品も同様だ。


 精霊の靴はここまでの度重なる素材強化と合成強化の末にバフを増やすことができた。精霊の靴に吸収させた素材はそれこそ無数だ。これまで討伐してきた全種の魔物を吸収してきている。造形も裁縫のおばあちゃんとダンジョン探索に最適な形を作成した。その結果無数にあった靴の種類はなぜか最適化された靴に統合され作成した靴以上の能力を発揮している。普段使いしている靴以外の戦闘に役立つ靴は一つに集約されることになった。見た目はシンプルなブラウンのブーツ、各所に金糸と銀糸の装飾が施され派手過ぎずそれでいて地味でない趣のある靴となった。精霊の靴のおかげで飛躍的に移動能力を上げることが出来るようになった。


 エナジースライムのビーちゃんに変化はほぼない。ゼリーの生成効率が上がり味がより絶品に変化した。他に変化はないがビーちゃんの住む容器が僕の戦闘に耐え切れなくなり破損することが起きた。そのため親方と試行錯誤しビーちゃん専用の透明のパイプのようなものを作成した。ミスリルと魔力に浸食された水晶をふんだんに使い最高硬度の物を作成した。ビーちゃん自身がそのパイプのようなものを自身の体の一部と認識したことでステータスによる硬度も獲得することになる。僕に常についてきていたビーちゃんは僕と同レベルの魔物だ。戦闘能力は皆無だとしてもそのステータスは大きく上昇している。最上級の魔法が直撃しても無傷で生還して見せた実験結果がある。


これにより僕の強化が終了した。ステータスはこれ以上レベルが上がらない。装備も考えうる中で最上級の物を揃えた。残るは純粋な技術のみとなる。攻撃魔法を覚えるという手段もあるが現状はすぐには不可能だ。それこそ覚えるのに僕の才能では何十年とかかってしまうだろう。戦闘の中でも使える魔法となると一生かかるかもしれない。


次にすることはこの試しのダンジョンを踏破することだ。つまり、ダンジョンボスとの戦いである。


このダンジョンのボスに勝利できて僕は初めて目標とする力が手に入ったと実感できると考えている。ダンジョンボスはそのダンジョンの中でも最強の魔物でありそのダンジョンの集大成だ。これに勝利することが出来て初めてそのダンジョンを攻略できたことになる。試しのダンジョンのボスはこの都市でも最上級のボスだ。この都市の四大迷宮と比べても遜色のない強さのダンジョンボスとなる。試しのダンジョンが強さの基準となるのはこれが一番大きな理由だ。


僕自身が自分自身に対して認めることができる強さの獲得。僕が求める強さの具体的な形として実感することができる。そのために僕はボスに挑みたい。


僕は明確な結果が欲しい。





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