第5話 剣使いの完全習得
僕は戦闘を繰り返す。最低限の安全は確保しつつ過度な無理はせず慎重にしかし無駄をなくすように戦闘を繰り返す。
小型の亜人種、ゴブリンやコボルトとの戦闘はジョブが魔法使いの時に倒し続けたので相手の行動を読むことは容易になってきている。複数戦闘でも苦労することなく、奇襲を掛ければ五体との戦闘でも危なげなく勝利した。
16階層から出現するようになる大型の亜人種、ホブゴブリンやハイコボルトに加え、オークが追加される。オーク以外は一対一の戦闘で勝利を収めている。まだ複数戦闘には挑戦していない。まだ、動きを読み切れていないと感じているからだ。この感覚も何となくでしかないため説明することは難しい。僕が具体的に何を見て相手の動きを読んでいるのか僕自身も理解しきれていないところがある。分かっていることは相手の体の動きを参考に予想しているということだ。武器だけを見ていては分からないが相手全体を見て視野を広げると読みが早くなったためそうなのだと思う。
ホブゴブリンは小柄なゴブリンよりも体格が大きくなり僕よりも大きい大人の身長だ。体格は個体差がある為一定ではないが一番小柄な者でも僕よりも全然大きい。
ハイコボルトはホブゴブリンほど体格に変化はないが全体的に素早さに関する能力が上がっている。こちらを見つける動きも早く奇襲を仕掛けることは困難だ。
オークは筋肉の塊だ。でっぷりと太っている容姿から純鈍そうに見えるが見た目を裏切って速い。筋力も相応に高く僕では簡単に吹っ飛ばされてしまうだろう。
魔法使いの時はオークに挑んでいない。短剣では致命傷は与えられないと判断したし何よりも一撃で沈められるイメージしかわかなかったのが大きい。でも、レベル上げを加速させるためにはタイマンの討伐を成し遂げ複数戦闘を繰り返さなければならない。
今はまだ剣使いのレベルも低いことや武器に慣れていないこと、剣を触っていなかった時期が三年と長いこともあり思い出している段階だ。
剣使いにジョブチェンジしスキル【斬る】を獲得し直したことで習った教えを徐々に思い出している。過去に一度着いたジョブにもう一度着いたことで初めて分かったのだがスキルには経験が蓄積されているのかもしれない。そうでなければ、僕が学校の訓練教官に教えられた基礎を簡単には思い出せないのではないだろうか?現に僕は急速に教えを思い出し剣の動きや基本の型を苦も無くなぞらえることができてきている。魔法使いの時に使っていた短剣捌きよりも冴えがあるように感じる。
経験値獲得と並行して実践の中で調整することもありかもしれない。小型亜人種までであれば不安要素はなく勝利することができている。このまま続けていけば大型亜人種も討伐できるだろうか?
いや、ここは慢心を捨て慎重になるべきだ。また、協会の人に心配をかけては次はないかもしれない。あの心配様から言って次、大怪我して宿舎に帰っては強くなることを止められるかもしれない。最悪そうはならなかったとしてももう一度ダンジョンに挑むことについて説得しなければならなくなるのでは?時間がない今の状況ではロスにしかならない。
訓練教官にもう一度教えを乞おう。教官なら嫌な顔せずに答えてくれるはずだ。
僕は今日の探索で一度切り上げることにする。明日から一週間ほどは学校に行くことに方針を決めた。
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「よろしくお願いします! ニコライ教官」
「よろしい まさかもう一度セイを教えることができるとは思っていなかったぞ」
この人は探索者協会が運営する学校の訓練教官だ。名前はニコライ・コブイルキン。ニコライ教官と呼んでいる。ニコライ教官はこの学校の実技過程の全てに関わっている人だ。もちろん、他にも教官はいるのだがニコライ教官は暇さえあれば顔を出しすべての生徒に一度は指導している。
その教え方は的確で生徒の特技を見出し何を伸ばせばいいのかを教えてくれる。言葉もはっきりとしていて向いていない事には諦めろと直接強い言葉を言うため一部の生徒が苦手としているのは仕方がないのかもしれない。
僕には体を動かすこと自体はいい線をいっているが武器の扱いに関しては並だと言われてしまった。同時に訓練自体は無駄にならないから続けてみると言いとも教えられている。
僕自身も自覚はある。周りの生徒と比べて特段上手くも下手でもない。凡人と言える実力だ。
「はい もう一度試してみようと思いましてこれから一か月ごとにジョブを変更していこうと考えています」
「ふむ なるほど また一から探してみるか 私はその心意気を応援しよう」
「ありがとうございます」
筋肉の盛り上がった大きな体で腕を組み、厳つい顔のついたスキンヘッドの頭をゆっくりと「うむ」と頷いた。
「して 今のジョブはなんだ」
「剣使いです 今日から一週間、午前中のみですが訓練をお願いします」
「あい、わかった」
そう言うと教官は隅に立てかけられた模擬剣を二本取り片方を僕へと投げ渡す。僕は受け取り教官に目を向けると既に構えを取っていた。
「時間がない 早速始めるぞ」
僕もすぐさま構えを取ると合図はなく訓練が始まる。
訓練は攻守を交互に交代しながら続いていく。流れるようにしかし途切れることなく。どれだけの時間行っているのかは余裕がなくなり分からなくなる。教官に食らいつくために自身に『ヒール』を掛けながら剣を振る。
何度も転がされ泥だけになりながら起き上がる。せめて一本は取りたいと果敢に攻めるがすべて受け流され受け止められる。教官の攻撃は重く、受け流しがたい。二、三で簡単に崩され転ばされる。
基礎の型の稽古などはなかった。模擬戦の中で何かを掴めと言わんばかりに言葉もなく続けられる。
教官との訓練はひたすら泥だらけになることを繰り返した。
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一週間という時間はあっという間に過ぎてゆく。午前中は教官に扱かれ、午後はバイトや経験値稼ぎ。バイトである探索者協会に戻るときは『クリーン』の魔法を多用し汚れ一つない状態にしてから中に入る。今のところ職員の人に心配されるようなことにはなっていない。職員の人の手伝いをし疲れも残し過ぎずにその日を終える。
ダンジョンも小型の亜人種を中心に挑んでいる為、余裕をもって探索することができる。教官との訓練を始めてから日に日に上達していることが分かるのでとても楽しかった。
教官との訓練、剣使い最終日。
今日こそは教官から一本取ろうと活き込んでいたところ声がかかる。
「セイ 今日は見ることをいつも以上に意識してみろ」
「見る、ですか?」
「そうだ 意識して見ることだ 頭の先から指先、一つ一つの筋肉の動き、視線、剣先、どこに意識が向いているか、相手と自身の動きの違い、そして視野を広くすることを意識しなさい」
「一つ一つ・・・ そして広く・・・ やってみます」
教官は「うむ」と頷くといつもの様に模擬戦が始まる。
見ることを意識する。視野を広く保ちつつ一つ一つを見ていく。初めはいつものような勢いはなくなってしまったが教官は合わせてくれる。少しづつ速く、正確に、教官の動きを参考に、目が慣れて来る。しばらくするといつものような泥だらけになる稽古が始まった。
どれだけ転ばされても視線だけは外さない。どれだけ動いても視界内に教官を捉えるようにする。動きを観察する。違いを参考に修正する。視界を狭めないように意識する。
何かがブレた。
「む!」
今日一番の打ち込みが入ったが教官は態勢をすぐさま修正しカウンターで僕は地面に転がった。
「はぁ はぁ はぁ」
息が続かない。集中し過ぎて基本である呼吸を忘れていた。それにしても今のは・・・?
「今日はここまで」
「ふぅ~ ありがとうございました」
息を整えニコライ教官にあいさつする。日の高さを見るとだいぶ時間が経過していたようだ。
「最後のはよかったぞ 次の時はまた呼んでくれ」
「はい! よろしくお願いします!」
ニコライ教官は汗を拭きながらその場を後にした。教官の横顔は凶悪な感じに歪んでいたが笑顔だろうか?あれを夜には見たくない。たぶん、僕はちびる。
整理体操を行いよく柔軟をしておく。思い浮かべるのは最後の何かがブレた光景だ。あれは何だったのだろうか?意識したときには体が動いていて打ち込んでいた。結局、一本もとることはできなかったが最後の感覚は大事にするべきのように思う。あれは必要な何かだ。直感がそんなことを言っているような不思議な感覚に囚われている。
体操が終わってからは午後のバイトに向けて軽くシャワーを浴びたり、念入りに『クリーン』を使ったりして学校を後にした。
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教官との訓練から翌日、今日はバイトはない。レベル上げの再開だ。剣使いのレベルはこれまでに12まで上昇した。基礎レベルも22に上昇している。
いつもの様にマートさんと朝の挨拶をし道中職員さんともあいさつをする。朝一にダンジョンへと入って行った。
装備は使い慣れた短剣をサブにメインはショートソード。協会に借りた新人さんの作品。レンタル品だが20階層までは問題なく使えるとお墨付きをもらっている。
慣らすように16階層まで進んでいく。小型、大型の動物系の魔物には苦戦しない。小型亜人も人数を増やしていったが苦戦することもなく討伐できた。問題の大型亜人戦だ。
~ホブゴブリン~
錆びた斧を装備したホブゴブリンと対峙する。部屋に入ったときには気づかれてしまった。相手の出方を伺いつつも教官の言葉を意識して視野を広げる。別個体はいない。乱入する様子もなし。装備は錆びた斧に加え酷く汚れているが皮の鎧。
僕が先に動いた。直線に進む。ホブゴブリンは少し驚いた様子だったが対応は早い。左からの斜め振り下ろしを速さを落とすことでスカらせる。その場から流れた相手の手首に切り付ける。浅いが傷つけた。下からの両手での振り上げ。一歩下がり回避し中断に構えた刺突を左わき腹に差し込む。入ったが手ごたえからして骨に引っかかった。苦痛で視線がそれた隙に足を開きしゃがみ視線から外れるように動く。一瞬見失ったようだ。無意識にか脇腹を抑えたところをしたから喉に再度刺突を入れる。
今度はクリーンヒット。刺さったまま放置し一歩離れる。ガッという声を最後に崩れ落ちた。
~ハイコボルト~
短剣を装備したハイコボルトと対峙する。部屋に入る前に気づかれていたようで僕が部屋に侵入と同時に戦闘開始。
半奇襲の刺突を回避し軽く剣を振る。相手が引き、僕も後ろに引いたことで距離ができた。現状の確認。敵は一匹のハイコボルトのみ。別個体無し。装備は短剣、防具は皮、どちらもそこまで手入れがされていない模様。
確認は数秒。コボルトが弧を描くように最接近してくる。出鼻を挫くように軽めの振り下ろし。ハイコボルトは右にステップ。V字の軌道で振り上げる。回避されたが追撃はなし。こちらから踏み込み大振りの横切り。しゃがんで避けた。僕は左から右の大振りで手を開いた状態だ。前蹴りでハイコボルトの頭を蹴り抜く。予想外だったようで空白が生まれた。左手で短剣を投げ牽制。その短剣に弾いて対応している内に右上から袈裟懸けに切り裂いた。
苦痛で止まったところを首を斬り止めをさす。ハイコボルトは声もなく力尽きた。
~オーク~
大剣並みの棍棒を装備したオークと対峙する。気づいていないようなのでそのまま観察。オーク一匹のみ。装備は棍棒のみ。服装は腰布だけだ。並外れた筋肉を誇示しているようで暑苦しい。
座り込んでいるようなので上手く背後に回り、奇襲から戦闘を開始。後ろ首への刺突に成功。ショートソードが深々と刺さりオークは体が動かないのか痙攣して動かなくなった。あれ?
部屋を移動し別個体と戦闘。気づかれていたので奇襲は無し。こちらから仕掛けた。走り抜ける様に脇腹へ斬撃を加える。オークは怪我を無視して棍棒を振り下ろした。予想よりも速かったので慌てて飛び込むように転がりながらかわす。地面を無ると軽く凹んでいた。地面石造りなんだけどな~。ちょっと呆けているうちに二撃目が迫る。今度は横にかわし同じ脇腹をなぞるように斬る。三度繰り返すと傷が無視出来なくなったのか片膝をついた。頭が下がったところで首に横から突き刺す。一瞬死角に入り飛ぶように突いたが命中。討伐に成功した。
今日の成果は無事大型亜人種のソロでの討伐。一対一の戦闘ではあったが比較的危なげなく勝つことができたように思う。
ここからは少しずつ討伐数は増やしてレベル上げを加速させるだけだ。
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ジョブチェンジしてから一か月、剣使いのレベルは20、基礎レベルは23になった。
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セイ 10才
レベル:23
種族:人間(固定)
職業:剣使い20(MAX)
スキル
【斬る】
魔法
生活魔法
【クリーン】【ヒール】【ウォーム】【クール】【ドライ】
【ウォーター】【チェンジ】
精霊の靴
素材強化 合成強化
バフ
ジャンプ強化(極小)ダッシュ強化(極小)消音(極小)
キック強化(極小)
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一か月で一つの初級職を完全習得できた。最後の方ではオークの複数討伐も危なげなく出来るようになったのでレベルが上がりやすくなった。この調子ならばなんとか戦闘職を全て習得出来るかもしれない。
目標に近づいていることを実感しながら次なるジョブを修めるために教会へと祈りをささげに行く。
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