第4話 魔法使いの完全習得

精霊の靴は僕の思ったように強くなってくれない。


図書館で話を聞いたのはまだ午前中。その日は午後からバイトが入っていたのでバイト終わりに聞いて回った。協会の人にいらなくなった靴がないか事情を話しながら貰うことができないか交渉する。みんななぜか笑顔で何足かの靴をくれたので僕としては嬉しかったがなぜだろうか?中には新品の靴を渡そうとする人もいて困った。さすがにそれは受け取れないので断ったが女性職員さん達は何を考えているのだろう?ハイヒールなど渡されたときは苦笑いしかできなかった。


そんなちょっとしたハプニングはありながらも合成強化に使える靴が集まったので早速強化してみたのだ。


結果は何とも言えない感じ。靴の変化先が増えただけでバフは付かなかった。精霊の靴一つでいろいろな靴を履けるようになった。ブーツからスニーカー、長靴、ピンヒール、ハイヒール、かわいい大きなリボンがワンポイントの靴等々、女性ものが多い気がするが知らないふりをする。どの靴もサイズはぴったしで靴擦れを起こすような心配もなく体の一部の様に違和感がない。


多分だが普段履くような靴ではバフは付かないのかもしれない。もしくは素材強化がバフを増やす強化方法なのだろうか?これについては追々わかるだろう。まだ、今日授かったばかりの物だ。強くなってくれることを信じて強化していこうと思う。


それにしても僕は靴が欲しいのになんで服も勧めてきたのかな?それも女の子用のかわいい服・・・。僕は男なのだけどそんなに弱弱しく見える?どれかワンセットは持っていってと断れそうになかったので中でも動きやすそうな短パンやスパッツ、肩だしのシャツ、ハイソックスだっけ?そんな感じの男が来ても違和感がなさそうなセットを貰いました。


すぐに着て欲しいとのことだったのでその場で『チェンジ』に登録して発動する。ちょっと格好つけて一回転して決めポーズ!


女性職員さんや一部の男性職員さんにもみくちゃにされてしまいました。




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昨日は大変な目に合った。結局あれよあれよという内に全部の服を渡されてしまい『チェンジ』に登録して披露する羽目になってしまった。最後の方はコスプレだったと思うのだがまさか手作り?バニーガールの衣装を着せられた時点で心ここにあらずの状態になってしまった。


『チェンジ』の登録一覧を見てみると・・・うん、これはアレだ。そう!見なかったことにしよう。


気を取り直して今日も午後からバイトがあるので午前中の間はダンジョンに突入だ。なんだかんだで二日も休暇を取ってしまった。今日から巻き返していけるように頑張らないといけない。


宿舎を出口でいつもの様にマートさんとあいさつし他の職員さんともあいさつする。職員さんも事情は心得ているようで昨日のような時間の取られ方もされることなくダンジョンに行くことができた。


今日は午前中だけと短い。それに素材強化についても試してみたいので一階層から再スタートしたいと思う。


試しのダンジョンは出現する魔物が変化する五階層ごとに転移が設置されている。多くの人が自分の力に合った階層に転移し実力を高めていく。この転移は探索者協会が設置したもので係の人に料金を払うことで使用可能となる。その際に過去の記録を参照しどの階層までたどり着けているかを確認される。これにより行ったことの無い階層には転移できないように制限がされている。記録については納品された魔物を基準にされている為抜け道がないわけではないがこのことについて不正を働く探索者は少ない。理由としては命に直結しているからではないだろうか?


僕は今まで転移を利用したことがない。まだ浅い階層という理由もあるがレベル上げを優先している為なるべく重量を減らすために討伐部位を収集していない。ニ十階層に到達出来たらその階層の魔物を納品しようと考えている。


一階層から始まり強化素材を集めるために魔物の種類ごとに一匹ずつ討伐していく。初めに倒した兎の魔物で気づいたことだ。討伐した魔物をアンクレットの宝石の部分に触れさせると兎の体全部が吸い込まれるように消えてしまった。ステータスを確認するとラビットシューズというものが増えている。


変化させた見た目は白いもこもこな靴。歩いたりジャンプしてみたりするが特に変化はない。靴の種類が増えただけなのかもしれない。まだ、一つ目の検証だ。諦めずに素材強化を続けてく。


それぞれの動物の名前の靴が増える。ラビットシューズから始まりウルフ、モンキー、タートル、リザードなどそれらの動物の体の一部を使用したような靴が増える。ゴブリンシューズは緑色なだけでちょっと気持ち悪い。トカゲやヤモリの魔物から獲得したリザードシューズはなんかペタペタしていて楽しい。そんな感じの面白靴は増えるが肝心のバフ効果が付かない。どうすればいいのだろう。


「あれ、でも今日は苦戦することがない?」


精霊の靴の強化に集中していて気づかなかったが今日はゴブリンにも苦戦することなく倒すことができた。なぜだろう?そんな風に考えていると別のフロアに到着。敵はゴブリンだ。確かめるにはちょうどいい。


ゴブリンは一匹。こちらに気づいている様子はない。今履いている靴は使い慣れたいつものブーツだ。足音をたてないようそっと移動し背後を取る。ひとつ呼吸を整えゴブリンに接近。


僕が短剣を振りかぶったときになって気づいたようだ。この状況なら命中する。背中を切り裂いた。ゴブリンは慌ててなのか棍棒を振り回す。


そこで僕は気づいた。何故か棍棒の軌道が分かる。ゴブリンが適当に振っているのに棍棒がどこを通るのか何回連続で振られるのか今までわからなかったことが分かる。それだけじゃない、自覚し意識したからだろうか?明確な致命的な隙が理解できてしまった。


次の振り下ろしをよけ左下斜めからの軌道をタイミングを合わせ棍棒の側面をそっと短剣で押してやる。ゴブリンは棍棒を天高く掲げ片足立ちになり態勢を完全に崩した。


僕は右斜めに掲げていた短剣を流れに逆らわずゴブリンの左わき腹に突き刺しすぐさま半回転、勢いそのままに首に突き刺した。


ザッ ザシュ


ゴブリンはゲェエと声にならないうめき声を一言に崩れ落ちた。


今回の戦闘で僕は一度も『ショック』を使っていない。魔法使いなのに魔力消費無しで勝利してしまった。


「何だこれ? でも、すごい!」


ここで調子に乗ったのが良くなかったのだろう。意気揚々とゴブリンの複数戦闘に挑み死にかけた。


一対一とは勝手が違い同時に複数の行動を把握しなくてはならない。意識を一体に集中してしまい止めを刺そうとしたところを別個体に背後から攻撃を受けてしまった。幸いギリギリで気づいて回避をしたが左腕に大怪我を追ってしまった。運悪く逆間接に棍棒を受けてしまい左腕が使い物にならない状況。ゴブリンは二体だったのでそこからは冷静に『ショック』を多用して牽制を繰り返しながらどうにかこうにか討伐に成功。


今日は中止し『ヒール』を掛けながら転移の魔法陣がある部屋まで移動し帰って来た。宿舎に着く頃には少し動くようになってきた左腕だがそう簡単には治らない。


職員の人に見つかり僕が怪我をしている様子を確認するなり大慌て、なんか上へ下への大騒ぎになり僕は回収され厳重な監視の元医務室に入れられてしまった。怪我も治り、「バイトが・・・」と話したのだが「気にしなくていい」、「今日は休め」の一点張りで僕は強制的に寝ることになる。


みんなにすごく心配されていることは分かるので本当に申し訳ない気持ちでいっぱいになってしまった。今日、僕は怪我を極力しないことを決意した。慎重に慎重を重ねた行動を心がけようと思う。それでも怪我してしまうこともあると思うが自分の力で直せるように魔法をその中でも『ヒール』を特に練習しようと思う。


まだ、外ではザワザワ聞こえるのだが大丈夫だろうか?流石に心配性すぎではないか?




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決意を新たにレベル上げの日々に戻る。あれから職員の人には会うたびに心配されるようになってしまった。「無理しなくていいのよ」と頭を撫でながら言われてしまう。僕が「大丈夫です」と言うと下がってはくれるのだが顔には心配であるとハッキリと書いてある。


これも僕が調子に乗ってしまったのが原因だ。少しでも強くなって大丈夫だと安心できるようにより一層頑張るしかない。


レベル上げに関しては今までが嘘のように順調だ。前回の反証を活かし慎重に状況把握をする様になってからは複数戦闘も熟せる様になってきた。一体ずつ増やしていき今では同時に三体との戦闘を繰り広げている。戦闘回数と討伐回数が増えたことでレベルは順調に上昇。一か月たった今では到達階層二十層、昨日魔法使いのジョブがレベル20になった。これで魔法使いのジョブ完全習得である。


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セイ 10才

レベル:20

種族:人間(固定)

職業:魔法使い20(MAX)

スキル

【無属性】

魔法

生活魔法

【クリーン】【ヒール】【ウォーム】【クール】【ドライ】

【ウォーター】【チェンジ】


精霊の靴

 素材強化 合成強化

バフ

 ジャンプ強化(極小)ダッシュ強化(極小)消音(極小)

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精霊の靴のバフ効果もやっと付いた。種類もそうだが同じ魔物を何度も素材強化として吸収させることで、極小ではあるがバフ効果が付いた。極小の効果だと上昇しているのかどうか全く分からないほどに変化がないがそれでもバフはバフだ。もっと強化することができれば確実に僕の力になってくれることが分かってホッとしている。


ステータス数値のグラフは前より成長している。MPは伸びているし回避を良くしていたからか速さが伸びているように感じる。感じたい。気のせいじゃないと信じさせてくれ。


突然相手の動きが分かるようになった原因は未だに分からない。何がきっかけだったのか?初遭遇ではわからないことも多いが何度も繰り返すうちに自然と読めるようになる。そこからの戦闘は危なげなく討伐ができるようになり安定してレベル上げが出来るようになった。ジョブを完全習得できた一番の要因だ。


ここからのレベル上げはさらに加速させたい。残り時間は1年と6ヶ月、職業は剣使い、槍使い、斧使い、盾使い、弓使い、暗器使い、そして職人職である見習い人。職人職は特殊である為、余裕をもって一年は時間が欲しいところだ。そうなると残りの戦闘職を一つ1ヶ月で完全習得しなければならない。


1ヶ月でジョブを20レベル上げる。基礎レベルは変わらないので適正階層に変更はなし。基礎レベルは上がればより深く潜ることができるしどうにか間に合うだろうか?いや、間に合わせよう。これが最後の挑戦だ。悔いのないようにやり切って終わりたい。


今、僕は教会に訪れている。もちろん、目的はジョブ変更だ。次のジョブは剣使い。短剣をそのまま使えるというのもあるが剣使いになれば剣系統の武器をレンタルすることができる。レンタル品は見習い職人の練習作品だがリーチの短い短剣のみよりは戦闘の幅が広がり有利に進めるのではないかと考えている。


端の方の席に座りジョブ変更を行う。教会の中は静かで集中しやすい。


(ジョブチェンジ 魔法使いから剣使いへ)


胸の中心辺りが暖かくなり感じていた魔力の操作の流れが少し変わる。【無属性】のスキルが消えた影響だろう。徐々に暖かさは体全体に広がり瞬間、元に戻った。


ステータスを確認するとジョブが『剣使い1』にスキルが【無属性】が消えて【斬る】に変わっている。


今日はまだ時間はあるし早速ダンジョンでレベル上げだ。




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