第2話 悪食習得 スライムとの共生

今日は前日に続いて本に書いてあったことの続きだ。今日すべきことは悪食の習得。


石でも雑草でもなんでも食べろということだがどうしようか?


これから普通の人であればするはずのないことをするのだから場所を選ぶべきと考える。場所に関しては困らないだろう。この都市はダンジョンが多く存在する場所だ。人があまり近寄らない、人気のない無人のダンジョンを探せば大丈夫だと思う。


後は、何を食べるかだ。これに関しては本に書いてある。『ゴブリンの内臓なんかどうだろう?(笑)』と他人事みたいに書いてある。『一番手っ取り早いのはゴブリンの内臓だよ!(笑)』って書いてある。『さぁ、食べてみようゴブリン!(笑)』って書いてある。


絶対不味いに決まっている。一生のトラウマになる予感しかしない。ここだけだよ?突然笑い出した記述は!?生活魔法の説明の時は一度もなかったのにここだけ馬鹿にするように進めて来る。絶対食べたことないよこの作者。


ゴブリンについては最悪を想定しよう。なんでも食べろということだから普段食べないような物、雑草から始めていこうと思う。


宿舎から出て人気のなさそうなダンジョンを探しながらそこら辺の雑草をむしり鞄の中へ詰めていく。一応、少しでも食べやすいようにマヨネーズやドレッシング、調味料を持ってきてる。


そろそろ、昼になりそうな時間帯の頃に丁度いいダンジョンを見つけた。中は一部屋しかなく、出てくる魔物はスライムのみ。出てくるスライムの数も一匹と丁度いい場所だ。


早速中に入り準備を進める。準備と言っても簡単だ。調理用に使う火の魔法陣の書かれたシートを敷きその上に鍋を置くだけだ。魔法陣に魔力を流せば鍋を熱せられる便利な魔道具です。


水に関しては【ウォーター】で十分。そのための生活魔法だから活用しなきゃ損だ。


半分ぐらいを鍋の中に入れ適当に煮る。もう半分は生で食べようと思う。


鍋をぐるぐる煮ているが匂いが酷い。青臭さが部屋中に充満して食欲を減退させる。よく分からん得体のしれない灰汁が浮いてくるし色が変色していく。なぜ、青色になった。適当に調味料を入れてみたがどうにもならなそうだ。これは腹を壊す。確信できる。うん。【ヒール】でどうにかなるかなぁ?


スライムは我関せずの様だ。ゆっくりとした動きで壁を登ろうとしている。悪食が終わったらスライム食べなきゃいけないんだよな~。今は考えないようにしよう。


時間は過ぎていき、できてしまった。どうしようもない鍋が・・・。


最終的に鍋の中は黒色に染まっている。何が作用してこんな色になったんだ?理由は分からないし今は関係ないか。


実食


「いただきます」


一口食べようとしてスプーンが止まった。口に入れようとする手が動かない。体が拒否している!?


ええい、ままよ


お椀を両手でつかみ無理やり口に流し込んだ。


無理やり胃の中に流し込む。


味なんて知らない、知りたくもない。


暴れる胃の中身を【ヒール】で無理やり沈めて感情を捨てて鍋の中身、生のままの雑草を胃に流し込む。


終わったら調理どうぐなりを【ウォーター】で洗い流し適当に【ドライ】で乾かして鞄に突っ込む。


余った物は厳重に保存だ。放置とも言う。


吐くな はくな ハクナ と自分に暗示をかけ帰路についた。


その夜、ヒールを腹にかけ続け気絶する形で眠りに着いた。


それから、一週間あの手この手で自ら味覚を破壊するような料理を繰り返し気絶して眠るを繰り返す。




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「習得できね~」


これ、習得する前に心が死ぬ気がする。味覚へのダメージというのは思いのほかシャレにならない。連日に続く腹痛の連鎖。これは拷問ではないだろうか?セルフ拷問?だいぶ参っていることが自覚できている。探索者協会の職員の人にも心配かけてしまっているし何とかしないと。ここまで来たら最終手段しかないよな~


気絶から起きて【クリーン】で身だしなみを整え、まだ痛む腹には【ヒール】をかけ続けながら準備を進める。


今日はある有名なダンジョンに訪れた。


「・・・・・」


ゴブリンダンジョンだ。ここで出現する魔物はゴブリンのみ。階層は深くなく出て来るゴブリンも非常に弱い。その分うま味もないが初心者が練習に訪れるため、人は少なくはない。


今日はとうとう、本のアドバイス通りにすることにした。ゴブリンを食べるのだ。作者の考えに乗るのは遺憾だが仕方がない。どんなものか想像したくないがこのままでは身が持たない。


ゴブリンの死骸はすぐに見つけた。ダンジョンに吸収される前にサクッと内臓のみ回収する。


スライムダンジョンに行き。準備をする。


==グロイのでカット== 


出来上がってみれば今までで一番ましなものになった。何の肉か知らなければ普通に食べれる見た目に落ちついた。これなら思ったよりも大丈夫か?


「いただきます」



















































「ハッ!?」


気づいたらいつもの部屋にいた。いつ帰って来たのだろう?記憶にない。どういうことだ?


「ん? 連日続いていた腹痛がなくなっている」


これは習得したのだろうか?確認用に取っておいた雑草を食べてみる。


「・・・・・」


特に忌避感なく食べてしまった。今まで感じていた拒絶感がない。念の為、最初に作った謎の草スープも食べてみるが腹痛が襲ってこない。


「記憶がないが習得でいいのかな?」


僕は無事?に悪食を習得できた。




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「で、次だが スライムか~」


この一週間お世話になっているスライムダンジョンに来ている。ダンジョン内は例の汚臭で酷かったので【クリーン】で清潔な空間に変える。


うっ、頭が痛い。ない記憶が刺激されている?気のせいだ、今は無視だ。


このスライムだが討伐してしまうとそのプルプルのボディーが残らずダンジョンに消えてしまう。本によると消えないように倒す方法はあるにはあるようだが初心者には無理な方法である為、僕には不可能だ。僕に氷魔法などと高度な魔法技術を使うことはできない。


となると残るのは直接食べることになるわけだがどうしたものか。スライムを持ち上げてみたが抵抗らしい抵抗がない。


「とりあえず食べてみるか」


いたたきます、と一言話してからスライムを手に取り口に運ぶ。30センチほどの半透明の水色のゼリーだ。思ったよりも大きい。じゅるじゅると啜っていくがスライムからの抵抗はない。


味はない。無味無臭だ。悪食の習得過程で味覚が壊れている可能性はあるがたぶん不味くはないだろう。味のついてないゼリーのようなものだ。あれだ、薬と一緒に飲むゼリーとそんなに変わらないと思う。


手のひらサイズほどの小さなスライムになったが問題なく生きているようだ。相変わらず抵抗がない。スライムとは生き物なのだろうか?でも、経験値は入るし魔物の一種ではあるはずだがどうなのだろう?


スライムは魔力で生きていると図書館で読んだのだが僕の魔力でもいいのだろうか?試しに魔力を流してみる。心なしか喜んでいるように感じる。


しばらく魔力を流していると少しずつスライムが大きくなっているような気がする。気がするだけかもしれない。今日は持ち帰って魔力を注ぎ続けてみようか。




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半日ほどスライムに少しずつ魔力を与え続けた結果、魔力を与えることで体積を増やせることが分かった。


それからはそのスライムを透明な水筒に入れ暇があれば魔力を流したり魔力回復薬を入れたりしていつでも摂取できるようにならないか実験している。


一週間経つ頃にはスライム自身が状況を理解したのか体積を増やす速度が急激に上昇した。三十分程度の魔力供給で一食分の摂取量の体積に増えるようになるまでになる。


魔力を与えて食べるだけという関係も可哀そうに思えてきたので、毎日フルーツを与えるようにしたらスライムがほんのり甘くなった。それからは最初の目的も忘れてどれだけスライムが変化するか様々な物をスライムに与えるようになった。


様々なフルーツから野菜、木の実、ジュースにしておいしいものはとりあえずあげてみた。初めは水色だったボディーは与えたフルーツなどによって様々な色に変わるようになり一周回って元の色に戻った頃スライムが光輝いた。


目を開けられないほどのひかりが収まると水筒の中にはゼリー状の水色の液体とビー玉のような水色の物体にわかれた。少し振ってみるとカラコロと音が鳴ることから見た目どうりにビー玉のようなものは硬そうだ。


液体を飲んでみる。すごい、濃厚なフルーツジュースゼリーだ。甘味はしっかりしているがくどいほど甘くなく飽きがこない。これなら主食というか食後の一服として毎日でも飲める。初めの頃の無味無臭が嘘のようだ。


でも、液体がスライムの様には感じない。どちらかと言うとビー玉の方が本体のように感じる。魔力を与えてみると水筒の中は数秒で満タンになる。やはり、嬉しそうな意思を感じるのはビー玉の方からだ。フルーツを与えてみると液体に溶ける様に吸収され色が一瞬変わる。味見をしてみると風味が吸収されたフルーツ寄りの香りに変わっているようだ。やっぱり、ビー玉から嬉しそうな雰囲気を感じる。


これは一種の共生なのだろうか?僕はスライムを食べる代わりに魔力と食べ物を与えて、スライムは食料を貰い受ける代わりに体を分裂させる?そんな共生関係の様に思えなくもない。


まぁ、今のところスライムから不快な感じは感じないので大丈夫かな?そうだな、何か不満があれば出来る限り要望に応えられるようにすれば大丈夫かな。スライムと意思疎通が難しいから何か方法を考えなければならないけど今は大丈夫だろう。


カラコロ~となんだか楽しそうな音がする。


不思議な関係だが僕の初めての相棒だ。これから仲良くしていきたいと思う。


名前は何がいいかな~ 見た目どうりにビーちゃんなんかでいいかな~


なんだか抗議しているような雰囲気を感じたが僕にネームセンスはないのだから仕方がないだろう。いくつか候補を出して聞いてみたがどれもお気に召さないらしく不愉快な感じの雰囲気を感じる。そのうち慣れるよと初めに思いついた『ビーちゃん』で譲歩してもらえるように見つめてみる。


カラ~コロ~


少し間延びした綺麗な音色が響いた。




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行動を開始してから教会で初日、悪食習得に一週間と少し、主食となるスライムとの共生確立に一か月半と少し。だいたい、二か月くらいが経過した。


探索者協会の宿舎を借りれる期間はあと約一年と8ヶ月ほどこの残りの期間で基礎職業を全て完全習得しなければならない。残り時間は思ったよりもあまりない。


急ピッチでレベルを上げなければならない。今まではパーティーを組んで安全に魔物を討伐していたがそれでは間に合いそうにない。


今日は明日からのダンジョンアタックに備えて準備を終えた。今の職業は魔法使い。使える魔法は生活魔法と職業に就くことで覚えることのできる【無属性】の魔法のみ。生活魔法に攻撃性はないため論外。頼みの綱は【無属性】の魔法だけだ。


初期から使える無属性の攻撃魔法は【ショック】のみ。魔力を操作し直接、衝撃波を与える魔法。この魔法は高レベルの魔法使いであれば最速の武器になり得る魔法だ。最上級職の一つである賢者がこの魔法を使えばノータイムで対象を粉々に吹き飛ばす衝撃波となりうる。しかし、僕は初級職の魔法使いであり基礎レベルも12だ。相手を牽制程度に押すような力しか発生しない。


つんでないか?


足止めしても魔法使いの筋力では止めを刺せるだろうか?どうも僕には逆襲に会うイメージしかわかないのだが・・・


でも、諦めきれない。


持てる限りの手を尽くして明日戦いに挑むしかない。





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