第3話

 イズナは今日も父親の世話をしつつ、家で過ごしている。

 そこに、いきなり客人が訪れた。


 ノックをした後、イズナが返事をする前に扉を開けて入って来た。

 髪は明るいオレンジ色で、黒いローブを着ている。


「この家には微かにだが、強い能力者のいたニオイが残っているな……」

 入るなり、唐突に呟く。


「誰ですか?」

 イズナは身構えた。


「俺は、ギルゼ。とある奴を探して、旅をしている者だ」

 イズナが困惑しているのをよそに、男は話し続ける。


「お前は、人間が誰しも能力を秘めているのを知っているか?」


「一体、何のことですか?」


 戸惑いを隠せない。


「人間はな……知らないだけで、皆が力を持っている。それに気付いていないだけだ。お前からも感じるぞ」


「さっきから、何を言っているんですか?」

 イズナは、いよいよギルゼを不審がる。


 ギルゼと名乗る男は、質問には答えず、代わりに尋ねてきた。

「ここに、廃人のようになった奴はいないか?」


 いきなりの質問の内容が今、自分が最も気にしている問題だったことに       

 イズナは驚く。


「え! どうしてそれを……? 確かに、うちの父さんは……そんな状態ですけど……」


「そうか……すぐに案内しろ」


 ギルゼに促されたので、イズナは2階の父親がいる部屋へ案内する。         

 彼は父親を見て、少し驚いたような顔を見せた。


「一年前に急にこうなって、それからずっと……」


「そうか……

教えてやろう。これは人間の仕業だ。

力を持った奴が、お前の父親に攻撃をしたんだ。

恐らく、感情もしくは精神を奪う能力……恐ろしい能力だ。

使いようによっては、世界の支配者にもなれる程の能力……

奴に違いない」


 険しい顔でギルゼは続ける。


「お前、父親を元に戻したくないか?」


「はい、戻したいです! 戻りたいです、楽しかったあの日常に……」


「それなら俺について来い。ここにいても、永遠に父親は戻らないだろう。

お前の父親を預けられる場所はないか? 間違いなく、長く過酷な旅になる。これから、しばらくは家には帰れなくなるはずだ。今の父親の状態では、誰かの世話が必要だからな」


「えっと……親戚の家なら預けられるかもしれません。そこには、妹と母親もいますし。実は……、母親も同じ状態なんです」


「そうか、それは気の毒だったな…… 

2人を攻撃したのは十中八九、力を持った人間だ。

更に言うと、俺はお前の父親のように廃人状態になった人間を、これまでも数多く見ている。それらは全て、今俺が捜している奴の仕業だろう。

おそらく、元に戻す方法は、そいつに聞けば分かるはずだ。

ただ、現状では全く手掛かりがない……

誰か、姿を見ていないものか……」


 思案顔のギルゼに、イズナが尋ねる。


「ギルゼさん、一つ質問しても良いですか?」


「……何だ?」


「あなたは、一体何者ですか?」


「俺はな……」




<次話へ続く>

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