第2話


 イズナの家族が廃人のような状態になる1年前……


―――――――――――――――――――――――――――――――――――――


「御免下さい」

 一人の男が、イズナの住む家の戸口の前に立っている。


「どなたですか?」

 イズナの母親が出て、応対する。


「私は、旅の者です。食料が尽きてしまいまして、何か分けていただけないでしょうか?」

 男はうっすらと笑みを浮かべて、頭を下げる。


「そうですか。うちには大した食べ物はありませんが、それで良ければ

持って行って下さい。今、取ってきますね」

 母親はにっこりと、返す。


 そうして、家の食糧庫に行こうと踵を返した時、

 男は何かを呟きながら、母親の肩に軽く触れた。


 その瞬間……


 母親の顔から、表情が消え、目が虚ろになり、その場に立ち尽くした。


 男は、家に入ると辺りを見回した後、二階へ向かった。

 二階には2つ部屋があり、その一つには休日で遅くまで寝ている

 イズナの父親の姿があった。


 そっと近付き、ベッドの前へ。

 そうして父親の目の前に立つと、また肩に触れながら一言。


 ぴくっと反応した後、ベッドで眠る男は、再び眠りに落ちたように動かなくなった。


 黒いローブに白髪。

 まだ20歳ほどに見える若い男は、家の中をしばらく物色した。


「目ぼしいものはナシか、この家には期待していたんだがな……」


 その時、遠くからこの家に少年が帰って来ているのが見えた。


 それを見た男は、にやりと笑い


「この家の宝は、あいつか……楽しみなもんだ」


 そう言って、家を後にした。




<次話へ続く>

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