第1話

この世界では、弱い者はただ奪われるだけ……


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「父さん、食事を運んで来たよ」


 一人の少年が、ささやかな夕食を運んできた。


 彼の名は、イズナ。


 この家で、父親と2人で暮らしている。


 父親は、イズナの声にピクリとも反応しない。


 ただベッドに座り、虚ろな目で窓の外を眺めている。


 イズナは、父親の口を開け、食事を流し込む。


 ゴクリ。


 静かに、父親は飲み込んだ。



 イズナには母親と妹がいるが、今は別の家に住んでいる。


 実は、母親も……父親と同じ状態だ。


 妹はそこに住む親族の力を借りながら、母親の世話をしているのだ。


「父さん、今日はね……」


 いつも、イズナは一日の出来事を、小一時間ほど父親に話す。


 父親は、その間一切、イズナに反応することはなかった。


 この一年間、父親は一度も自分の意思でベッドから動いたことはない。


 それどころか、表情を変えたことすらないのだ。


「今日も戻って来なかったね……」


 イズナは悲しそうにつぶやく。


 彼は頭の奥底に、家族みんなで笑い合っていた楽しい記憶を思い浮かべる。


 その日常は1年前、唐突に消え去ったのだ。


 とある者が訪れた後に……




<次話へ続く>

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