第6話 異能力と疑問

「__カインさん。あれ、どうやったんですか?」


 エールがそうたずねたのは、勇者キョウマの死闘を終えた少し後、魔王城への帰路の途中だった。


「ステータスのことか?」

「ええ……あんな極端きょくたんな数値の減少、私でも見たことないですよ」

「あれはやろうと思えば誰にでもできる。ただ、それを『発見』したのが俺一人だったというだけの話だ」

「誰にでも?……んー?」


 エールは得意の直感と推察すいさつで色々と思いめぐらせている風だったが、しまいには首をかしげていた。


 それを他所よそに、今度はカインがエールにたずね返す。


「それよりもまず、俺の質問に答えてもらいたいところだな」


 エールが「へ?」とカインに振り向くのを、彼は勝手に了承ととらえ、なかば一方的に質疑を始めた。


「先の『千里眼』についてだ。あのやりとりをかんがみるに、それも異世界勇者のチートスキルらしいな」


 女神エールの背筋が伸び、顔付きが少し真面目になる。彼女はカインの問いにこくりとうなずいた。カインは質疑を続ける。


「その『千里眼の勇者』は今も俺達を『見ている』のか?」

「……その可能性が高いです」

「……なるほど、次。その千里眼スキルは世界をまたげるのか?」

「はい。それで逃げ切れなかった同僚も沢山いました」


 カインは思わず舌打ちした。まずいことになった。これで隠密おんみつ行動のことごとくがふうじられたことになる。かなり厄介やっかいな相手だ。


「次。千里眼の勇者がこの世に一人しかいないと言ったが、なぜだ。千里眼を習得している勇者はごまんといるはずだ」

「いいえ、『習得』した人はここにふくまれません。あくまでも、神と同等の千里眼を『さずけられた』使い手のみです。私、異世界転生者全員のリストをこまめに確認してましたけど、その中での該当者がいとうしゃは彼一人だったと思います」


 なるほど、理屈は分かった。

 ……しかし、神と同等、か。


「不注意とかいうレベルじゃないな。悪用されるとは思わなかったのか?」

「そ、それはっ……!」


 不意に痛いところをかれたエールは歩みを止め、カインに向かって何かを言い返そうと口をぱくぱくさせたが、程なくして、神妙しんみょう面持おももちでうつむいた。


「……いえ、おっしゃる通りです。私達は異世界勇者を手放しに信用し過ぎました。私達は、とんだ阿呆あほうだったんです」


 魔王カインは、彼女の話に否定も肯定こうていもしなかった。様々な感慨かんがい、様々な衝動しょうどうの一切をしまい込み、ただ静かに、胸を強くおさえる彼女を見下ろしていた。


 どんな顔で見下ろしていたのかは、彼自身にも分からなかった。


 __穴のぽっかり空いた魔王城が、目の前にそびえ立つ。


「……やれやれ、三百年続けたスローライフ生活が、こうもあっさり終わりを迎えるとはな」


 カインは大穴から魔王城へ上がり込んだ。エールもそれに続いた。

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