第3話 くらやみは危険?

 くらやみ祭りは、大国魂神社の例大祭。

 昔は、街中の灯火を消して暗闇にしていたので、そう呼ばれているらしい。



「すっごい屋台の数、人も出てる〜」

「昔から、人気のお祭りだって。江戸時代は男女の出会いの場として重宝したらしいよ」

「だってさ心春。詐欺男の事は忘れて、新しい出会いを見つけに行こう!」

 

 私は浴衣、髪飾りを新調して、友人2人と祭りに行った。

 本当は、智さんと回りたかったなぁ。


 人の波、前に進むのにぎゅうぎゅう押される。



 太鼓の音が響いてくる。

 皮膚も、お腹の底にも伝わる振動。

 空気がゆらゆら、揺れている。



 周りが急に暗くなった気がした。

 人混みは変わらず、押し合いへし合い。

 嫌だなぁと思っていたら、お尻の辺りを誰かが触っている。

 払い除けようとしたら、腕を引かれた。

 そのまま、ぎゅうと抱きしめられた。


 やだ。怖い。

 

 びっくりして見上げると、月明かりに照らされた髪を結った男は、ニヤリと笑った。

 

 痴漢!

 私は、その腕から逃れようともがいた。

 

「おい、嫌がるなよ。この祭り会場で、俺以上のいい男はいないぜ。あんたも期待してきたんだろ?」

(はぁぁ? 何なのこの勘違い男は?)


 全力押しのけようとしたら、口を塞がれた。


 最悪、初めてのキスだったのに。

 

 最終手段だ。あそこを蹴ろう。

 小学校時代、サッカーのスポ少で10番を背負っていた私のキック力をなめるなよ。


 よし!

 と思った時。

 男の腕から解放された。


「何しやがるっ」

「彼女、嫌がっているだろう」

 ひとりの男の人が、私と痴漢の間に割って入った。


「俺に口を吸われて、喜ばない女なんていないんだよ。これからいい所だったのに、テメェ」

 痴漢は危険な気配を漂わす。

 男の人は私を背に庇って動かない。


 その時。

「おいっ。女の子が怯えてるじゃないか。いくぞ」

 ゴツい男が現れて痴漢の袖を引いた。

「ちょっ、かっちゃん待て。こいつ俺に喧嘩を売ったんだぞ」

「この馬鹿っ」

 痴漢の頭にゲンコツが落ちた。

「痛ってぇ」

「コイツがご迷惑をおかけしました」

 厳つい男は、頭を下げながら痴漢をズルズルと引っ張って人混みに消えていった。



「あの、ありがとうございました」

 私は、助けてくれた男性に声を掛けた。

「僕がもう少し早く貴女を見つけていれば…… でも、会えてよかったです。心春さん」

 

 振り向いた男性は、彫の深い秀麗な顔立ち……


「え、智さん?」



 

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