掌編小説・『ヴァイオリン』

夢美瑠瑠

掌編小説・『ヴァイオリン』

(これは8月28日の「ヴァイオリン」の日にアメブロに投稿したものです)


掌編小説・『ヴァイオリン』


 音楽の構成要素は、リズム、メロディ、ハーモニーだが、これは翻訳すると拍子、旋律、和音である。音楽がこういう定義であることが音痴?である私にはピンとこない。

 リズム、メロディはともかく、つまりその他のごちゃごちゃした音の要素ををひっくるめてハーモニーというのか、調和させるための音色の選択とかいわゆるアレンジのことを言っているのか。

 判然としないが、こういうのは勉強が足りないだけで、つまりは素人で、野球とか映画とか観戦、鑑賞はできても実際においてプロほどの深い造詣はない、それと類似のことである。

 音楽に関する知識と言って、だから大した程度ではないが、例えばモーツアルトは「神童」で、幼い時に一度だけ教会で聴いた交響曲だかを採譜できたとか、長じては長くて複雑な交響曲が一瞬で「見えた」とか、そういう天才ぶりのエピソードとかは知っている。いわゆる「モーツアルト効果」は、高周波数の音が多いモーツアルトの音楽には精神の病をいやす効果があって、これはモーツアルト自身が精神疾患で、無意識に?そうした疾病の治療に効果がある音楽を作っていたのでは?という説があるらしい。森林浴で聴こえてくる高周波の自然音が精神安定に効果があるのと同様の現象らしい。

 バッハの家系は遺伝というものの有意性を示す好例とされていて、数多い親族のほとんどが音楽家らしい。  

 芸術の分野、創造という営為というか、そういう場合は特に「天才」というか天賦の天禀がとりわけ重要という気がする。努力しても、サリエリという人にはアマデウスをどうしてもしのげない、そうした要素が大きいのは芸術とかにおける特質で、芸術家一般の魅力、独特な尊敬を受ける理由にもつながるかと思う。 

 多重人格のビリーミリガンという人物が別の人格では非常に細緻な写実画を描くことができた、とか芸術的才能には神秘的なところもあって、ヒューマンビーイングのヒューマンビーイングたる、その嚆矢というか、容易に解明できない最も高邁で複雑な精神現象が芸術創作一般かと思う。

  芸術の場合は実利的なものではなくて、およそ役に立ちにくい?「美」が中心的なテーマになっている場合が多くて、美を追求するのが最も芸術家らしい態度であろうか?

  抽象美術というものもあるが、とりわけ具体的でないのが音楽の特徴で、とはいえ、音楽にも「いかにも美しい」という感じを抱かせる音楽や曲調とか旋律とかはある。

  人間の感覚、五感のポジティヴな要素とネガティヴな要素はたぶん、生存や安全という観点から説明可能で、具体的なものへと還元可能である。いい匂いは美味しい食物の存在のサイン、平和な緑陰の風景で安らぐのも安全な生活のメタファーがそこにあるからかもしれない。女性美にも生殖という本能が絡んでいるし、健康な女体ほど魅力的だ。

 が、徹頭徹尾いわば抽象的な芸術である音楽においては「美」とはなんなのだろうか。

 「いかにも美しい」と感じる旋律はあって、その感覚を分析すると、なんとはなしの「純粋性」と、「調和感」、そうして人間性?につながる個性の美ではないか?今これは思い付きで何となく書いたのだが、例えばバッハの「G線上のアリア」という曲、これは僕のような音痴の人が聴いても非常に美しい、と感じる音楽だが、静謐で純粋な感じとか、いろいろと作曲のセオリーをふまえているらしい?それゆえの安定感、調和感。その他には紛れもなくこれはバッハだ、とわかる独特のサムシングエルズがあるのも気が付く。ここのところの、個性というか、偉大な天才ならではの唯一無二の昇華された精神の上澄み、精華、それぬきには語れない気もする。

 

 今、例えば「G線上のアリア」のバイオリンの奏でる旋律を聴けば、特定の意味というもののない、抽象的なその音楽は様々な連想やイメージや言葉、そういうものを刺激する感じがする。美しい風景。澄み切った湖とか、そういう連想もするし、典雅な美女とか、偉大な知性を持った人物の書斎とかそういうものも幻視したりする。ベルレーヌの「秋の日のヴィオロンのためいき」は、言葉だけだと薄っぺらいかも知れないが、秋の哀愁と、バイオリンの物悲しい響きがシンクロするがゆえに、非常な名文、秀逸なポエムになった。


 人間の上澄み?というのがもしあるとしたらだからまあ芸術家という人種がそれにあたり、齷齪しているだけの四角四面な下級官吏とかがおよそ芸術とかに縁がない無粋な俗物とかいうことは、下世話だが、「美」=芸術の追い求める夢、とすればそれも故なしとしない…というのは、変な文になったが、芸術愛好家の?我田引水であろうか…



<了>

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