飛行プラン
経営理念
マネージャ会議に向かう途中、回り道だが製造現場を見ながら通った。その時、出荷を待っている傷が付いている完成品に気が付き 「この製品このまま出荷するの?」 と現場の人に聞いた。
「勿論」 と言う返事。
「傷が付いた商品は出荷するべきではないよ」
「そんなことを言っていたら今日中に出荷出来ません。お客さんは納品を催促してます」 と、彼なりの理由を示して真面目に返答してきた。
クニオは製造現場での体験をマネージャ会議の場で持ち出した。
「何か違和感がある、皆どう思う?」
「それって、価値観の違いでしょう」 と雲取が言って続けた、「従業員たちが同じ思いで仕事に取り組めないと、評価されずモチベーションが下がってしまいますよ」
「価値観?」
「人は、それぞれの思いで良いと思う行動や判断をするでしょ。 その判断基準の違いでしょ」
「確かに現場の作業員は、彼なりの理由を真面目に返答してきた」
「お客さんの立場ですと、傷が付いた製品も困るし、納入日が遅れても困るでしょ。 どちらを優先するか迷わないように我々の理念を現場に浸透させる必要があるわ」
「理念かぁー。 我々が思っている、ものごとの道筋とか根本的な考え方を纏めてみようか?」
どんな考えで、どんな思いで、顧客のビジネスに貢献したいのか。
「まずは、ここにいる皆が共感している思いをリストしてみましょう」 と蓼科だホワイトボードの前に立った。
「約束を守る」
「誠意を尽くす」
何か何処にでもあるようなリストを見て,「これって、社会人として当たり前の思いでしょ。 キタハチに似合ったユニークな考え方を提案したら?」
暫く雑談しながら出たアイデアは。。。
• 失敗は成功への研究材料、恐れるな。
• 何事にも感心し、好奇心を持つ事。
• 性能と品質に誇りを持つ。
ビジョン
クニオは山歩きが好きで、大井川上流の南アルプスを何回も登山をしている。 人が少なく、路を探しながら頂上を目指す楽しみがある。 急な山道を登りながらいつも考え事をするのが癖。 今日も、登りながら、キタハチの社員全員が、「失敗は成功への研究材料、恐れるな」 「何事にも感心し、好奇心を持つ事」 「性能と品質に誇りを持つ」 と言う思いで仕事に取り組んだらどうなるか?
ひょっとしたら、新しい発想でユニークな、物まねしにくい技術貢献が出来るだろうか?
どんな視野が見えるだろうか?
我々はイノベーション旺盛の組織になるだろうか?
きっとその姿は、我々の技術力で顧客の商品に改革が現れるだろうか?
もしかしたら、我々の技術力で文化の発展に貢献しているかもしれない。 文化の発展に貢献だなんて。。。もし世間がそう認めるときが来るとしたら、そんなのは、ただの夢である。 可能性の有る夢だからビジョンといえるのかな?
半導体と通信の分野での文化の発展とすると。。。例えば、「山の頂上でも都会のオフィスと同じように仕事が出来る」
マネージャ会議でビジョンとして考えた事を話題に出した。
「きつい坂を上がって山の頂上に行きたいと思う人は少数ですよ」
「オフィス以外でも仕事をしたいと共感する人はいないでしょう」
「でも、ユニークな新しい発想での技術貢献は共感されそうですね」
「ビジョンとしては多くの人から共感される表現にしようよ」
「例えば、何時でも何処でも都会と同じ環境」
「なんとなく、イメージが未だ掴めないなぁー」
「だったら、何処に居ても鮮明な生画像の受答え、はどうだろう」
「つまり、インフラが壊れてしまった被災地でも生画像の情報交換していると言う事ですね」
「そう、飛行機のコックピットの生画像も管制塔で見ていられる」
「それって、コックピットも、遠方の機械も、生画像を見ながらリモートでコントロール出来るわけでしょ」
マネージャ会議のメンバーが共感したビジョンは。。。
• 何処に居ても鮮明な生画像の受答え
経営方針
「ビジョンが現実のものになるのは何年も先の事でしょ」
「黒字経営に向かって進めていく上でのポリシーが必要ですよね」
「ポリシー?」
「そう、我々が経営活動を行うにおいて、大切にしている姿勢のこと」
「例えば?」
「定価の値引きは10%以内」
「競合と同等のものは提供しない」
「顧客に貢献できる付加価値の向上」
「何一つ心配や不安が無く満足出来る商品の提供」
「ちょっと待って」 と言いながら蓼科がホワイトボードの前に行き 「一言で言うとこういうこと?」
• 誇りを持った技術と品質を武器に黒字経営を目指す
今までは、価格競争で値引きに応じたビジネスをしてきた。
今後は、顧客が求める付加価値で利益の出る価格で取引をする。
経営目標
随一の目標は経営を黒字にする。
「目標と言うと経営の数字が頭に浮かぶけど、健康状態の目標も重要だよね」 と雲取が呟いた。
すると、苗場が 「わが社の健康状態ってなんだい?」
「キタハチの財務だけでなく、顧客満足度、社員満足度などの指標が必要だと思うんだ」
「そうだね、早速、健康状態を診れる指標を決めよう」
「目標は、前年比10%向上でどうかなぁ」
「そんなんじゃ駄目だよ。内輪しか見てないんじゃ」
「そう。世間に追いつかないよ。ベンチマークで決めない?」
「何それ、ベンチマークって?」
「ベンチマークって、何かを評価する際、優れた結果を出している企業との比較基準なんだ」
「要するに、同等の模範となる企業を参考とした値だね」
ベンチマークを基に決めた年度目標は。。。
• 純利益 5%以上。
• インターネットによる受注を10億円。
• 電子装置サポートビジネスを15億円。
• 顧客満足度を70%。
• 社員の満足度を85%。
経営戦略
「こんなに目標を掲げて、本当にできるの?」
「もし、出来なかったら、何故目標をミスしたか我々の抱える問題点を明確にできるよ」
「これって、今期の会計年度末までに達成する事でしょ。あと半年しかないのに」
「でも、もう実際に動いている戦略もある」
「例えば?」
「財務的な目標を達成する方法として、マーケティングとセールスの活動を半導体と通信のマーケットに集中させている。 インターネットによる受注とセールス効率を高める方法として、Transactional 買いの商品は全てインターネット扱うようにしている。 それに、純利益を確保する方法として、利益率の高いサポート契約を積極的に勧め始めている」
「だったら今更、戦略なんて要らないじゃん」
「これから先、どんな方法で目標達成の率を高められるか、アイデアをだそうよ」
年度目標の率を高める手段として。。。
• 高周波技術を活かした装置を開発する。
• サイクルタイムを縮小して効率を高める。
• お客様データベースと窓口を一本化する。
• インターネット販売と直接販売を協調する。
• 優れた人材を育成する。
中間キックオフミーティング
クニオは、会社が目指す方向性を直ぐに全社員で共有したかった。
社員全員が集まったのは社員食堂。テーブルをどけて、椅子だけを並べ、出来るだけ多くの社員が入れるようにしたが、遅れて来た人たちは壁際に立ち並んだ。本来なら、新会計年度の初めに、キックオフミーティングと言って、全社員を集めて共有する。だが、来年の新会計年度が始まる4月まで未だ半年ある。
そこで、経営の理念、ビジョン、方針、目標、戦略などで示すビジネス計画を、中間キックオフミーティングと称して10月初めに開催する事にした。
大まかな方向性は理解し納得したようだった。社員の目線でキタハチにも信頼できる羅針盤が出来たように感じた。
ところが、質疑応答の場面で、現場で日々の判断をするにはもっと詳細な目的、目標、戦略が社員から求められている事が分かった。
「今日の説明でどのくらい社員の行動に変化が期待できるかな?」
「総論は理解したが、各論は未だ納得できて無いでしょう」
「今後、さらに掘り下げた情報を得て、徐々に現場レベルでも意味のある実行計画が必要だね」
「そうしたら、各現場レベルでの説明の機会を設けましょう」
>>>次のエピソードに続く
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