第9話
僕が朝起きたときよりも、雨は随分とおさまっていた。
でもこれは一時的だ、またすぐに強くなる。八時という時間帯はそれほど出勤する大人たちが少ない印象だった。
普段この時間に駅に来ることがないからわからないけれど、通勤ラッシュの時間帯はもっと早い時間なのかもしれない。
チラチラと大人の目線が痛い。
僕は雨合羽に傘を差して駅前に立っていた。リュックにはたんまりと食料とお菓子、必要であろう道具が入っている。重かったけれど、毎朝のランドセルに比べればそんなに苦痛な重さではなかった。今どきの小学生は重たいリュックへの耐性が強いのだ。
駅の時計は八時二十五分を過ぎていた。亮人くんは時間厳守だと怖い声で言っていたのに、賢太くんも亮人くんもいまだにやってこなかった。校門が閉まるのが八時二十分だから学校では僕はとっくに遅刻者だ。まぁ何度も熱を出して休んでいるから、皆勤賞もなにもない。でも遅刻したのは初めてだからちょっとドキドキした。
「……遅いな」
いま頃、清子ちゃんは何をしているだろうか。
一人で本を読んでいるか。高木さんと話しているか。よく考えたら学校での清子ちゃんはこの二パターンしかない気がする。そう考えると笑みが零れた。
時刻は八時半を回った。
三十分が経って、通勤する大人の数は目を見るに減っていた。
ひとりぼっちは、慣れている。だから寂しくなんてなかった。もう少し待てば、友達になれるかもしれない二人が来る。そんな期待で、膨らんでくる不安を隠し続けた。
きっと来る。もうすぐ来る。
けれど人の数が減れば当然、一人で立っている子どもは目立ってしまう。そのことに僕は肩を叩かれるまで気がつかなかった。
「お母さんを待ってるのかい?」
振り向くと、話しかけてきたのは年寄りの駅員さんだった。
お盆に会いにいくおじいちゃんと同じくらいの年齢かもしれない。少し怖い印象だったけれど、表情は笑みを作ってくれていた。
咄嗟のことで、僕は何も言えなかった。
駅員さんは僕が応えられないことを知っていたみたいにすぐ質問を変えた。
「大きな荷物だね。どこかに遊びに行くのかな」
駅員さんの大きな瞳が僕の背負っているリュックに向いたのがわかった。僕はまた何も言えずに拳を握り絞めていた。もしいまここで、賢太くんと亮人くんが来たらどうしよう。大人にバレたらきっと親や学校に連絡されてしまう。したくもない予想がグルグルと頭の中を回り始めていた。
清子ちゃんだったら、こういうときどうするだろう。
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