第5話

一日の最後、帰りの会で先生は遠足の準備はしておくように、まだ中止と決まったわけではないからねと期待を持たせていた。中止になった場合は朝一で連絡しますと付け加えて。

 僕にはその付け加えた部分に先生の本音が隠れているように思えてならなかった。先生たちのなかでも中止は決定しているのだ。

 

 賢太くんと亮人くんは先生の話が終わると二人ですぐに帰っていってしまった。この雨だから、明日の打ち合わせがてらどちらかの家でゲームでもするのかもしれない。明日一緒に冒険する仲間なのに、当たり前のように僕は誘われなかった。

 

 朝は清子ちゃんと登校するけれど、帰りは一人だった。

 清子ちゃんは大抵、高木さんと一緒に帰るからだ。帰りには二人でよく図書館に行っているらしい。多分、高木さんとが一番仲が良いと思うけれど、清子ちゃんは誰とでも話すし、クラスの女子全員と友達って印象だった。

 一度、そのことでみんなと仲良くてすごいねと言ったことがあったけど、清子ちゃんはあんまり嬉しそうにしなかった。ただ「そう見えるだけだよ」と呟くだけで。


 道路沿いの歩道を一人で歩く。

 空から降る雨は小雨になっていたけれど、止む気配はやっぱりなくてどんよりとした分厚い灰色の雲が空一面を覆っていた。曇り空と同じように僕の心もくすんでいくみたいだ。

 

 トボトボと足を進めていると、前方に見慣れた赤いシックの傘が視界に入った。もう随分前から僕に気がついていたのか、清子ちゃんはじっとこちらを見つめていた。


「清子ちゃん。どうしたの?」


 尋ねると清子ちゃんは「ちょっとね」と応えるだけで続きを話そうとしなかった。

 僕はひとりぼっちじゃなくなったと胸が晴れていく気持ちと同時に、警戒心がむくむくと膨れあがっていった。清子ちゃんは何も言わないのに僕の事をじっと見つめている。


 佐久間にはバレるなよ、という亮人くんの声が耳に蘇った。

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