第20話
黒川とメルナが出会ったのはまだ世界が脅威を知らなかった頃。黒川は三十代、メルナはまだ高校生だった。天ノ橋高校では三年になると、タイプを四つに分けられる。彼女は理系クラスを志望していたが、当時同校の非常勤として所属していた黒川にオールラウンダークラスを勧められる。
「あのクラスは誰もいないじゃない」
「誰も入りたがらないし、誰でも入れるわけではないからだ」
「団先生がどうして誘うのさ」
校内の最も人が通らない、一番奥のぼろい教室。そこは二人の会議場だった。
「天才は箱に詰めてちゃダメだろ? 勿体ない。……近い将来、世界が滅びそうになったらお前はどうしたい?」
「何さ急に……。そうね、消滅に抗うわ」
黒川が目を見開いて、メルナを見つめた。彼はその数秒後にニタァっと笑うと、すぐに吹き出して大笑いをする。メルナはそれに不満げな表情を浮かべ、黒川を死にかけの虫を見るような気味悪そうに睨んだ。
「やめてよ……無理なんだけど……」
「いやぁ、やぁ、ごめんな。零と同じことを言うから面白くて」
「零って……、零ちゃん先生⁉」
「お前、よくそれでシバかれないな」
メルナは「えへへぇ~実は何度も頭シバかれてます~」と照れ気味に自慢した。なんの自慢だと思いつつ黒川は話をする。
「俺も零もオールラウンダーだ。このコースは一応学校の生徒として扱われるが実質学校に来ることがない。外部活動を通して自分を研究し、研究結果を学校や国家の該当する省庁に提出する。通れば卒業だ」
「なんでもいいの?」
「あぁ。なんでもいい。血の気が多いお前なら何となく行く場所読めてくるけどな」
「バレてるか……。この学校で公務員のフリしてる二人の本当の職場に行きたいのですけど?」
「俺たちは別にいいけど、上層が手厳しいから覚悟しろよ? 相手にするのはこの世に存在するすべてだ」
メルナはスクールバックから進路希望調査紙を取り出して、大きく濃い字で自分の名前とコース名、所属したい機関の名前を書いた。
七条 愛琉夏 オールラウンダーコース SWORD(これ限定)
翌年度春、オールラウンダーコースはメルナを入れて五人いたが、夏までには全員、名簿から名前が消えていた。五人中四人が脱落、残りの一人は最短で成果を出し、実習先に就職、次の春を待たず卒業を果たした。
現SWORD大阪支部オペレーション班長 兼 SWORDアメリカ本部局長補佐官の七条メルナ
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