第19話

 事件を乗り越え、風澤昂は警察に、辺りの被害者は病院に送られ、死者も数十名出てしまった。身元確認中。その多くは飛んできた瓦礫や重機の下敷きになったり、ショックで失神した人もいるらしい。


 「自分たちは称賛されるべき人間なのでしょうか」


 涙は現場の奥で沈んでいく夕日を眺める黒川の横に立って聞いてみた。すると黒川は、「称賛されても、されなくても、誰かがやらなきゃダメなんだ」と言って煙草をふかし始めた。副流煙が空気と混ざる。涙はそれを少し吸ってしまったが、決して不愉快だとは思わなかった。むしろ世の中には自分の知らない空気があるのだといつもの癖で感慨深げにその煙を楽しんでいた。


「吸うか?」


「未成年に勧めないでください」


「それもそうだな。メルナは平気で吸ったけどな」


「その人はどんな人なのですか?」


 この短時間で何度か聞いた名前なのに、基地では見られなかった存在。黒川は涙の質問に真摯に答えるべく煙草の火を消して、内ポケットから携帯型の灰皿を取り出し開閉式の中に沈めた。それをまた内ポケットに収めて、スラックスのポケットから小さなルービックキューブが付いた車のカギを取り出し、六面で遊び始めた。

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