第14話

 クラス組織も何とか完成し、そのままの流れで学年集会が行われた。委員長と副委員長はクラスの先頭に立って並ばせるシステム。

 涙は挙動こそまだクラスメイトに不審がられているがそこは自分のポテンシャルでカバーしている。その集会で痛く感じたのは他のクラスの先生や、他のクラスの同じ役職の人たちの冷ややかで恐れられている目だった。涙と陽の間違った噂が吹き込まれている生徒には特に。それは女子生徒が多かった。


「やっぱり六組はあの二人じゃん……」


「うわこわ……。委員長会議あったら絶対喋らないでおこう……?」


「ってか六組の後ろに居るあの金髪、外国人じゃね?」


「昨日いなかったよね? なんて子だろう」


 一方で注目されたのはマーティーだった。列の一番後ろ。非常に眠たそうな目をしているが、まったく眠くない、演技である。今のところ本当に涙にしか興味がなく、しかし彼らは今一番前に居る上に、学校に居る間はSWORDのことは置いとけと組織にも学校からも命じられたので、彼は今心の中で何も考えず川に石を投げている状態だ。


「ねぇ弥生先生。帰りたい」


「リベリアくん、一体何を言い出すかと思えば……。抜け駆けしたらダメだからな」


「それはしませんよ。ボスに怒られる。……どうして名前順に並んでいるの?」


「番号順に並べば誰が居ないか一目瞭然だからだ」


 マーティーは自分で聞いたものの、適当に「フーン」と流して大きな欠伸をした。


「じゃあボクは逃げられないね。サボることも出来ない」


 マーティーはもっと何か言いたげだったが、手で「お手上げだ」と表現し静かに座った。

 これも国際勉強だとフュリムなら言うのだろうと思うと、より自分が不便な位置に立っていると気づくのだった。


 一番後ろで聞く話は面白かったが、バイト、二輪車の扱い、学校生活のルール等、そんなことはもう知ったこっちゃないという内容も多く、マーティーは退屈していた。それは一番前で聞いている涙にも該当していた。昨日の夜までは普通の男子高校生だったが、一夜にして神と共存する奇妙な人間と化してしまった。誰もが未だ漠然とする「本当の世界平和」を命じられた選ばれし人間。その代償は自分の自由。


 もっとも解放感に浸れる時期にそれが奪われてしまうのはとてもつらい。


『なぁ、つまらなくないか?』


「(そういうものさ。大人しくしててください)」


『未だ私に対する接し方が成れないな。可愛いぞ』


「(そんな可愛いもんじゃないだろ……)」


 涙は頭の中で自分よりも退屈そうにしている神様と話をして時間が経つのを待っていた。時々カレが笑わせに来るもので、度々吹き出しそうになったがそこは何とかポーカーフェイスで乗り切るのだった。


「では集会を終わります。二組委員長、号令」


 二組の委員長は屈強な体格をしている男だった。陸上投擲選手にしては筋肉がつきすぎているし、相撲選手にしてはもう少し肉が欲しい。彼は何者なのだろうと頭の中でぐるぐる考える涙。体育館でとぼとぼと、他の人よりもワンテンポ遅いスピードで場を後にする。


「おい、どうしたんだ涙」


「別に。この後の予定を考えていたんだ。ごめん今日は一緒に帰れない。ちょっと行かなきゃいけないところがある」


「おぉ、分かった。気を付けろよ」


「陽もね。あまり部活の見学会に参加して、ぽいぽい部活に入っちゃダメだよ」



「ねぇ、君、三日月涙だよね? 神天東の」


 知らない女。クラスメイトでもない奴。しかも風紀面最悪。涙は一発でその子のことを嫌いになった。


「だったら?」


「喧嘩強かったの? どれくらいの高校生やっつけたことある?」


「ヤクザの一組を潰したって言ったら信じる?」


 爽やかでも笑っていない。涙は蝋人形の様に光を通さない瞳を彼女に向けた。


「君、どこのクラス? 今度君の為にお弁当持っていくよ。僕に一生近づきたくなくなる内容物しか入ってない弁当をね。昆虫食って知ってる? 僕あれがすっごく好きでさぁ。自分でも作ってみようと思うんだ。タランチュラの唐揚げとかってどう思う?」


「わわわわ、分かったから。もうお腹いっぱい。じゃねっ!」


「えーまだ話の途中なのに~! ふぅ……消えろ。下心しかない女が」


「いやお前こわ。なんだよ、『タランチュラの唐揚げ』って。毒物じゃん」


「え、食べたいって? まぁそんなものないし、もしあったとしたら冥界だけだと思うよ」


 涙が頭の周りにお花を散らしたような笑みを浮かべる。さっきとは全く違う微笑みの差に、陽は思わず震え上がる。しかし直ぐにいつもの調子で二人並んで話しながら歩いて行った。


 ・・・


 かくかくしかじか。何とか半日を乗り切って今日は解散という流れになり、教室からどんどんと人が減っていく。涙はクラス日誌と行方不明者の明記をそれはそれは丁寧に書きあげて弥生先生に手渡す。それを書いている間、マーティーは窓の外に見える青いシロップと白いわたあめを見つめていた。


「また風の向きが変わった……。ルイ、まだぁ?」


「もう終わったよ。ごめん待たせて。行こうか」


 中身の少ないカバンを背負ってから涙は教室のドアを指さした。早く行こうの合図だ。

 二人は朝にフュリムと会った場所へ移動した。

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