第13話

 「じゃあ学級委員長は三日月、副委員長は日比谷に決定な。二人とも大変だけどよろしく頼むぞ~」


 ホームルームが始まって五分の出来事である。「目立つことはごめんなんだけどなぁ」と言いながら委員長になってしまった涙。昔の話ではあるが、近隣ではヤンキー中学として有名だった学校出身の超優等生だと言って広がった噂はそう簡単には取り消せない。


 そして陽の方は完全に涙の従者である。委員長の座を狙っていた女子生徒が副委員長に立候補したが、陽自身が自分の親友に余計な虫がつくと面倒くさいと思って半ばゴリ押し気味に立候補し、適当だが実現可能の公約をクラスメイトに言った上でその座に就いた。


 その一方でマーティーは頗る退屈そうにしていた。ためしに魔法を使って他人の意識に潜り込み、今何を考えているのかを視てみたが、どれもつまらないものばかりで直ぐに飽きてしまった。


東の方角から微かに近づいてくる竜巻は、屋上で見ていた時よりも濃くていろんな塵を巻き込んでいた。涙にそのことを意識上で伝えたいが、彼に憑いている神様がマーティーの魔力を阻むのでどうしても伝えられない上に涙はさっそくクラスメイトを統率している。口頭で話しかけるのも一苦労しそうだ。


早く終わんないかな……。


「そうだよね……。僕もそう思う」


「ルイ……」


「ねぇマーティー、お兄さんが言ってたよね。『頑張れよ』って。あと少しだよ。これが終わったらまた自由だ」


 マーティーは涙が自分のことを察して近づいてくれたことに驚きと嬉しさを感じた。そこからのマーティーの機嫌は上昇し、クラスメイトの緊張感を解す役割として一躍買われた。機嫌が良く、陽気な立ち振る舞いを見せるマーティー。一気にクラスの中心人物に格上げしていく。マーティーの盛り上げに寄ってクラス組織は順調に決まっていった。


「マーティーおま、テンション高すぎだろ~!」


「そうですよ。あまり急にキャラを変えるとビックリするのでやめてください」


 マーティーは二人の声に反応してクラスメイトに向けていた目線をくるりと変えた。不思議そうな目で二人を見つめる。上品や清楚なんて言葉を忘れて、荒っぽく笑う陽と、先ほど三人で居たときは控えめであったがそれなりにラフだった。だが今の話し方はなんだか客観的と言うか、他人行儀と言うか、礼儀正しい子のようなイメージを持った。荒っぽさや少年感が全くない上品さと気品さが目立つ笑顔の涙。


 マーティーは心の隙間が全く見えない涙を見て午後からの予定に不安を覚えた。多数の人前に立った時の涙の話し方はまるで洗脳者のように耳にすんなり入って、言葉がきつくないのにきつく聞こえてしまう。マーティーは一人で胸に見えない矢を刺していた。


「ま、マーティー? 急に黙らないでもらえる?」


 涙が黒板に役職が決まった生徒の名前を書き終え、振り返り様にマーティーに言うと、彼は指をパチッと一つ鳴らして周りの動きを止めた。涙は一瞬でそれがマーティーの能力であることを読み取る。クラスメイトの動き、陽も、先生も、時計の針も止まっていた。動いているのは涙とマーティーの二人だけ。


「じゃあかしこまるのやめてよ」


 顔をぷくぅっと膨らませて妬いているマーティー。どうやら涙の営業スマイルが気に食わなかったみたいだ。しかし涙はすっかり染みついたソレを急に外すことは出来ない。


「えぇ……。ごめん無理だよ。というかマーティーだってさっきとキャラ違うでしょ?」


 涙も出会って未だ一日も経っていないマーティーの裏の顔を知ってしまった。故に反論する。初めて会った時のマーティーと、機密組織に居る時のマーティー。まるでどれが本当の君なのかと問うように。


「あぁごめんじゃあ、今の無し」


「あぁ忘れよう。今日はこのままで居させてくれ」


「ボクもそうさせてもらうよ」


 そういってマーティーはまた指をパチンと弾く。すると止まっていた周りの人たちの動きがもとに戻る。何もなかったように。


 隠し事が増えていく。


 涙はその痛みに耐えることで必死だった。

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