第6話
ユメの次に見えたモノは、なんだかよく分からない緑色の光だった。外に出たときに見えた月の色と同じ光。
これはなにかある――そう思った刹那、僕はこうなってしまっている。
早く目覚めないと……。声は響くが周りには誰もいない。辺りは暗くて、自分にだけスポットライトが当たっているみたいな不思議な空間だった。
真っ暗な空間の奥にぼぉっと光っている緑の光は自然と僕を引き付ける。足が自然と前に進む。「興味を持つことが出来る間は未だ子供だ」と、どこかの誰かが言っていたような気がするけど、それが本当なら僕はずっと子供のままなのかもしれないな。箱入り息子にされていた反動がきっと出てくるハズ。
足をどんどんと進めると、霧に包まれたかのように視界が悪くなる。
くるな……くるな……
後悔する……後悔する……
消えたくない……助けて……るい。
微かに声がした。誰の声なのか判別は出来なかったが、僕を知っている「ナニか」らしかった。不気味だ。背筋が凍る。このまま進み続けてもいいのだろうか。後ろを振り返ってもいいのだろうか。この声たちは僕を引き留めようとする。僕に変わってほしくないと脅すような懇願にも聞こえる。
でも、僕は……。
「変わりたいんだ……!」
その瞬間、奥で緩い光を放っていたアイツが、一筋の光を伸ばし、僕の胸を貫通した。光だから痛くはないがなんだか怖かった。そして胸を貫通した光は緑以外にも、赤、青、黄、白、橙とその数が増えていった。六色の光は一体何を意味するのだろう。
「お前が次の贖罪か」
ふと爽やかだが、トーンの低い声が聞こえた。不思議な光を見ていた視線を声の方に向けると、そこには六枚の黒い羽をもつ禍々しいオーラを放つモノが立っていた。
「贖罪って? 僕がどんな罪を負ったの?」
「神と融合した人間が世界の生命の半数を消し去ったのだ……」
「え……。僕はそんなことした覚えはないよ。違う」
「同時に我々、神々の力の欠片の一つを地上に散らしてしまった。重罪では済まないぞ!」
「僕の話を聞いてください! 僕は何もしてない。家の池の近くで月を見ていたらいつの間にかこうなったんだ。僕は何も知らない! 世界の半分が消えた? それってどういうことなのさ? ところでアナタは誰なの?」
「私はサタン」
「堕天使……?」
「貴様がそこまで違うというのなら一旦は見逃してやろう。ただし条件がある」
脅迫のようにも聞こえるカレの言葉。何を言われるのか想像もつかなくて、内心すごく逃げたかった。
お前の身体をヤツが貰う。時々ヤツお前の意識を乗っ取って、体を思うままに操るだろう。
この堕天使の目的はなんだ……? ヤツとは誰だ? 僕は顔をしかめる。
「あの……さっき『助けて』とか、『後悔する』とか聞こえたのですが、あれはきっと僕の家族の声じゃないんですよ。初めはそう思ったけど、僕の家族は弱音を吐かない。アナタが見せたアナタの幻覚でしょ? 本当の目的は何なのですか?」
「貴様、妙に冷静だな。胆の据わり方が尋常じゃない。……あの幻覚は私が出したものだ。お前の家族の声を利用したが暴かれるのが早すぎたな。お前を乗っ取る理由むしろこれが本命だと言えよう」
消えた人々をもとに戻す、バラバラになった神々の力を取り戻す。
「この二つを成し遂げる更なる存在を私は探している」
「大袈裟だよ」
「いや、貴様の生きた世界では大袈裟かもしれんが、一つ世界の見方と意義を考えるとそうでもなくなる。現に今も戦っている人間はいる。いつか出会うだろう。そいつらも貴様を待っていると思われる」
「どうしてそんなことがアナタに分かるのですか? 貴方は時間の超越は出来ないはず」
サタンは僕の意見にあぁそうだと軽く返す。そしてカレは一つ咳ばらいをした後に今まで一度もしなかった瞬きをし、再び僕と目を合わせて口を開いた。
「時間と空間を自在に操るのは我々神ではなく、魔法を巧みに操る人間たちだ。つまり人間の中に異常なまでの魔力を手にしたものが居る。私が貴様に出会うだろうと自負しているものはどれもそんなやつばかりだ。自分の努力で勝ち取った力、それを自らの意思のままに操ることが出来る。お前とは違って変わる努力の終着点を見つけたやつらだ。せいぜいその中でもがき苦しめ、三日月涙」
サタンがどんどん薄れていく、そして僕の意識もどんどん闇に吸い込まれていった。
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