第4話
「ごめん。ちょっと風に当たってくる」
家族の楽しい時間も短針が二つ進むくらいには経過して、酒を飲んでいる家族は眠気に耐えるように水をがぶ飲みし始めた。涙も年相応に料理を半ば強制的ではあるが食べていったのですでにお腹は爆弾のように膨れ上がっていた。
「ったく、お前の為に母さんが腕によりをかけて作ったのに、もう要らんのか」
「いいじゃないか雅弘。涙、行きなさい」
「ありがとうお爺さま」
父親の抑制から解放されたい。でも一人ではまだ出来ない。今日も涙は実感する。
席を立ち家族に背を向けないように後ろに下がる。襖まで行ったところで涙は曲がった。庭の池がある右の方に。
縁側を一歩踏むたびにきしきしと音がする。それを聞くと涙は自分が年を重ねてきたことを思い知る。大人になりたいけど、自分が望んだようになれているのだろうか、と。
池には鯉が三匹。空に浮かぶ月に沿って泳いでいた。隊列を乱すこともなく、誰もスピードを緩めたり早くしたりすることも無く優雅に遊んでいるようだった。
否、
「これは避けているのか……?」
水面に浮かぶ緑色の三日月――月にしては奇妙な色だ。
だが空を見上げると浮かぶあいつは黄金色で満月だ。
「僕は疲れているのか……」
涙は何度も水面の月を見る。立って見たり、座って見たり。しかし色も形も空の物とは全く異なっていた。そして心なしか鯉たちが隊列を乱し始め、落ち着かない様子で泳いでいる。
涙はしばらく上を見て、月を睨みつけた。何を企んでいるんだと月に問うように。
その時だった。鯉が水の中で暴れだしそのうちの一匹が勢いよく跳ね上がって涙の顔面を尾びれで容赦なく叩いた。
不意を突かれてガードを取れなかった涙は当然のように平衡感覚を失って池の中に体を傾けて落っこち、意識をすっ飛ばした。
新規登録で充実の読書を
- マイページ
- 読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
- 小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
- フォローしたユーザーの活動を追える
- 通知
- 小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
- 閲覧履歴
- 以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
アカウントをお持ちの方はログイン
ビューワー設定
文字サイズ
背景色
フォント
組み方向
機能をオンにすると、画面の下部をタップする度に自動的にスクロールして読み進められます。
応援すると応援コメントも書けます