第3話 ぼくに金平糖をくださいな
その日の午後のことです。🌞
おばあさんの雑貨店に、久しぶりのお客さんがやって来ました。
やわらかそうなミルク色の肌をした、とても可愛らしい男の子。
「おばあさん、ぼくに
笛のような声で言って、小さな手を差し出しています。
奥の部屋で横になっていたおばあさんは、座布団をふたつ折りにした枕から顔だけあげて、店に入って来た男の子をたしかめようとしましたが、強い光線が湖の側から射しこんでいるので、男の子の顔は黒いかげになってしまい、ほとんど見えません。
ただ、相当な色白さんであることは、剥き出しになった細い手足からもはっきりとうかがわれるのです。早春だというのに、男の子は半袖、半ズボンだったので……。
この前、店にお客さんが来てくれたのは、いつのことだったでしょうか。( ;∀;)
お客さんの顔を見るのは久しぶり、それもなんとも愛らしい妖精のような男の子が来てくれたのですから、おばあさんは否が応でも張りきらないわけにはいきません。
「おやまあ、いらっしゃまし」
いつものくせで「どっこいしょ」と出かけた言葉を、慌てて口のなかに呑み込んだおばあさんは、ニコニコ愛想のいい笑顔をひろげながら、店先に降りて行きました。
そうですねえ……おそらく、5歳ぐらいでしょうか。
男の子は困ったような顔をしてモジモジしています。
「金平糖でしたら、ここに、こんなにありますから、好きなだけお取りなさいまし」
おばあさんは男の子を怖がらせないように、つとめてやさしい声を出しましたが、出しかけた手を引っこめた男の子は、黙ってガラスのケースを見つめているばかり。
そこには赤や青や緑や黄や白や紫や、それに透き通ったのや……色とりどりの星のかたちをしたお菓子が、ギザギザの頭をぶつけ合いながら詰めこまれています。✨
「どうです、なんとも美しいでしょう? 金平糖は当店の目玉商品ですからのう」
胸を張ってみせましたが、どうしたわけか男の子はますますうつむくばかり。
おばあさんは、みごとな金平糖に驚かない男の子がふしぎでなりません。👦
なぜって、いままでおばあさんの店の金平糖を見て、「うわっ、すごい! きれいだね。星のお菓子だね!」歓声をあげなかった子はひとりもいなかったのですから。
おばあさんは腰をかがめ、うつむいている男の子をのぞきこみました。
男の子はますますモジモジして、いまにも泣き出しそうにしています。
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