第2話 山の動物たちの贈り物
洗濯を終えたおばあさんが店にもどってみますと、「おまけ付き10円駄菓子」のガラスケースの横に、若草色の丸いものが、いくつか、無造作に転がっています。
泥がついたままの根元から、新鮮な土の香が店中に漂っています。
おばあさんは皺だらけの頬をゆるめてつぶやきました。
「おやおや、サルさんたちかい。いつもありがとうよ」🐒
ぷんと浅春の香りが匂いたつ「ふきのとう味噌」は、おばあさんの大好物。
――どおれ、お昼にはお粥を炊いて、春の香をいただくとしようかいのう。
半世紀余り使っているゆきひらにたっぷりの水を張り、ひと握りのお米を入れて、とろ火で30分ほど炊いて蒸すと、それはそれは甘い、絶品のお粥ができるのです。
*
庭に出たおばあさんは、曲った腰を伸ばし伸ばしして、古びた物干し竿に洗濯物を広げておりましたが、ふっと手を止めると、遠いまなざしになって空を仰ぎました。
枯れた雑木林の針金のような梢の向こうに、澄みきった青空が広がっています。
あまりに青が濃すぎて、心がすっと吸いこまれてしまいそうな、3月初めの空。
おばあさんは、ずいぶんと長いこと、その場に立ち尽くしていました。⛅
竿に干しかけの洗濯物のことなどすっかり忘れてしまったように……。👕
身体はたしかにそこにあるのに、心はどこか遠くへ飛んで行ってしまったみたい。
窪んだ目の奥に、しきりに光るものが湧いていることにも気づかない様子です。
そんなおばあさんを雑木林のかげから、サルやタヌキ、キツネなど山の動物たち、湖上から白鳥やカモ、ホシハジロなどの水鳥たちが、心配そうに見守っています。
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