第4話 湖から吹いて来た青い龍
そのとき、湖のほうから「コーコーコー」白鳥の鳴き声が聞こえて来ました。
すると、男の子は、はっと身体を堅くして、そちらのほうを振り返りました。
しばらくの間そうしていましたが、やおら、おばあさんのほうに向き直ると、今度は米粒のようにかたちのそろった可愛らしい前歯を見せて、にっこりと笑いました。
「そのすてきな金平糖を、ぼくにも分けてくださいな」
「ええええ、いいですとも、いいですとも」(*´▽`*)
節くれた手をお菓子ケースの丸い銀の
ところが、どうしたことでしょうか、蓋はびくとも動かないではありませんか。
「あれま、どうしたことかいのう。いつもは簡単に開くのに、今日はまた妙に……」
“いつも”といっても、何年、いえ、何十年前のことやら……。( *´艸`)
ともあれ、おばあさんはもう一度、渾身の力をこめてひねってみました。
けれども、蓋はまるで接着剤を付けたかのように動こうとしないのです。
あまりにも力を入れ過ぎたので、おばあさんの顔はだんだん赤くなって来ました。
これ以上は無理というころ、湖の真ん中あたりで、ひゅうっと音が起こりました。
振り返ってみると、青い湖水をいきおいよく巻き上げた風が、1本の太いねじり飴のようになり、クルクル
と見る間に、青い竜巻は、湖面をすうっと、おばあさんの店に向かって来ました。
そして、青いドレスを巻き着けた南の国の踊り子のように、リズミカルなサンバを踊りながら、埃だらけの商品棚を撫でると、そのまま裏庭に吹き抜けて行きました。
紺色のエプロンで顔を覆っていたおばあさんが目を開けてみると、はてさて、こはいかに、金平糖のケースの丸い銀の蓋が、ごろんと転がっているではありませんか。
ふしぎなこともあるものだね……しばらく呆然としていたおばあさんは、ようやく気を取り直すと、かわたらに立ち尽くしている半袖半ズボンの男の子に言いました。
「さあ、ぼうや、好きなだけ金平糖をお取りなされ」
男の子はさもうれしそうに小さな手をガラスケースに突っこむと、ギザギザの星型をつかみ出して、持参していた見るからに年代物の紙袋にジャラジャラ入れました。
「おお、おお、よしよし。金平糖ほど子どもさんに似合うお菓子はないでのう」
おばあさんが目を細めると、男の子もにっこりと白い歯並びを見せました。
その可愛らしい笑顔が、おばあさんには懐かしく思われてならないのです。
「はて……ぼうや、前にも来てくださいましたかのう?」
言いかけると、男の子はさっと身をひるがえし、外へ駆けて行ってしまいました。
金平糖のケースの横に転がっている蓋の上に、銀色の硬貨が2枚置いてあります。
近ごろではあまり見かけない、すいぶんと古びたデザインの硬貨のようです……。
そんなことにも気づかないのか、おばあさんは硬貨を目の前にかざして、ありがたそうに押しいただくと、『仁丹』のロゴ入りのエプロンのポケットに仕舞いました。
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