第2話 トム兄さんは見守りたい
オレの働くパン屋があるストリートはテラス席がある飲食的がほとんどで、オレの店もそうだ。5年前にできたばかりの店だが、常連と呼べる客も増えてきて軌道にのってる感じがする!いい感じだ。
それに最近、毎日のようにテラス席で食べていってくれる女の子の客がいて嬉しいんだ。女の子だからってわけじゃねぇよ。自分が作ったパンを美味しそうに食べてくれる姿を目の前で見れるのが嬉しいんだ。
その子はいつも暗い表情をしているんだけど、パンを食べる時は少しだけ楽しそうな表情になって。美味しいって思ってくれてるのが伝わってくるんだよな!オレの思い込みじゃないといいんだけど。
「ごちそうさま。……美味しかったです。」
「あ、え、どうも!!」
いつも必要以上に話さないその子が話しかけてくれたもんだから、うろたえちまった。失礼だったかな?
「感想もらえて嬉しいです!」
ニカっ!と笑いかけたつもりだったんだが、その子は長い黒髪で顔を伏せて、表情を隠してしまった。
「またきます……。」
「ありがとうございました!!」
持ち帰り用にバケットを1本購入してから、ドアについたベルをカランと鳴らして彼女は出て行った。
「あの客、しゃべってくなんてめずらしいな?お前に気があるか?」
筋骨隆々とした髭の中年おやじ。店長がまーた変な絡み方をする。
「店長はすぐそういうこと言う!そんなんじゃないっスよ。」
「ま、なんか暗い子だから、お前のシュミじゃないか。」
「そんなんじゃないっすから止めてくださいよ!それに彼女のこと悪く言うのやめてください。」
さすがの店長も、オレのガチな声色におどろいたようだ。
「えらい肩をもつな?」
本気になってかばった自分にも半分おどろいた。でも半分は納得できる。
「前にうちの店に嫌がらせしてくる店があったじゃないですか。あとクレーマーな客とか。彼女が通ってくれるようになってからピッタリとなくなったの気づきました?」
「うん?うーん。そういえば、そうか……?」
「そうっすよ。たまたまかもしれないですけど、なんか悪くいっちゃいけない気がするんですよね。」
「見た目よりも勘が働く男なのか?それはあまり良くないな。」
笑顔しか特徴のない男が小さなイヤホンから聴こえる音に耳をすませていた。妹が好いているという男が働く店に仕掛けた盗聴器だ。
「しかし性格は良いのかな。チーちゃんの陰口を言ったら殺すところだった。」
「ぜったい殺させないから。」
男の後ろにパン屋帰りのチェリーがバケットを抱えて立っていた。足音も、ドアを開ける気配さえしなかった。
「おかえり。僕にたいして気配を消すのはどうして?」
「不審な行動をするから。案の定じゃないの。」
チェリーは男の持っている盗聴器を指差す。男はわざとらしく肩をすくめてみせた。
「妹かわいさについね。ごめんごめん。」
「兄弟喧嘩はしたくないの。よろしくね?」
チェリーはじっとりとした目のまま口角を上げた。その『よろしく』は威圧の『よろしく』だ。
「わかったよ。お兄ちゃんにできることがあったらなんでも言ってね。応援してるよ。」
「じゃあまず。」
チェリーは男の目をじっとみつめて言った。
「ルーお兄ちゃんを味方につけて。トム兄さん。」
トムとよばれた男はニッコリとした笑顔を崩さない。
「やってみようね。」
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