殺し屋だって恋愛したい

みたに

第1話 チーちゃんはお年頃

 「悪いコは チャールストン兄弟に狙われるよ……。」


 子どもの躾に悩む親が、そんな言葉に頼ることもある町に女は住んでいた。

 しなやかな長い黒髪に、あまり日に当たったことがなさそうな色白の肌。どんよりと井戸の底を見るような栗色の目をした女は、フゥーーと長くため息をついた。


「子どもなんかめったに殺さないのに、そんなふうに噂されたらやんなっちゃう。」

「そんなこといったって、チーちゃんもこの家業は辞めないんでしょ?」


 ニッコリとした笑顔を貼り付けた以外に特徴がないような男が、チーちゃんと呼ぶ薄暗い女に紅茶を差し出す。角砂糖は2つ。ミルクを添えて。


「このトンチキ。もう、チーちゃんはやめてって言ってるでしょ……。」


 侮辱的に咎められても、男の笑顔は崩れない。

 二人はいわゆる殺し屋を仕事としている。界隈では「チャールストン兄弟」と呼ばれ恐れられていた。


「ごめんごめん。チェリーにまた依頼がきてるよ。よろしくね。」

「その前にパンを買ってくる。」

「えっ。」


 男の笑顔が固まった。

「またあの男に会いにいくの?」


 血色悪くも見えた女の頬がボッと赤らんだ。


「一般人はダメだよ。」

「いいじゃない!わたしだって、恋したいの!」

「兄さんたちがなんて言うか……。」


 男が肩をすくませて天を仰ぐ。

 殺し屋兄弟の愛すべき末妹が一般人に恋をしたらどうなるか。あまり考えたくたいタイトルだった。

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