第6話 本能寺、♡♡の炎萌え~の巻
信長は安土城を出馬し、京都の本能寺へと入った。
「毛利攻めは、このバカ猿ではムリ、無理。上様直々に采配をふるってチョー」
と、秀吉から泣きつかれたからである。
翌日、
信長は興奮さめやらぬまま寝間に入った。しかし、やはり眠れない。三日月の茶壷がどうだ、こうだ。つくも茄子の茶入れがああだ、こうだと、自慢タラタラに、つい熱が入りすぎたのだ。
眠れぬ夜は♡♡に限る。
信長はニャンニャン相手の森蘭丸を呼んだ。
「お蘭、お蘭ちゃ~ん。わしゃ、寝られんのよー。添い寝してえ~」
「は~い。蘭丸サンジョー、参上。すぐチューチュー、ベロベロいたしまするゥ~」
「ういやつ~」
カンペキにバカップルであるが、本人たちは♡萌えなのだから仕方がない。蘭丸はあんなところ、こんなところをベロベロ、ナメナメし、ご奉仕にあいつとめた。
信長の大砲が天井に向かってそそり立つ。
「ご立派ぁ~」
蘭丸が信長の目の前に
「イヤーン、はやくゥ~」
そのときであった。
信長の妻である
「殿、もうおやすみでございましょうか」
「ウッ、ウム」
蘭丸があわてて小袖をまとい、
帰蝶も心得たもので、襖を無遠慮に開けたりしない。
再び襖越しに声をかけた。
「忍びの者によれば、一万余の軍勢が
「フム、おそらく明智光秀の軍であろう」
「と、申されますと?」
「あのバカ猿、もといっ筑前の毛利攻めを手伝えと光秀に命じておる。おそらくその軍勢じゃ。」
「なれど、中国方面へ向かうのなら、老ノ坂を越えて西へ向かうはず。なにゆえ、方角違いのこちらへ?」
「くどいッ!」
信長はイラついて、襖をガラリと開けた。すると、すでに帰蝶は、頭に
帰蝶は信長と目を合わせて不敵にほほ笑み、言い放った。
「これでも美濃のマムシの娘。万一のことあらば、ブザマな死に
帰蝶は美濃のマムシと称された
信長の横で蘭丸が不安そうな声を出した。
「とりあえず数名の
「ウムッ」
それから一刻後――。
物見が本能寺に馳せ帰り、息せき切って告げた。
「軍勢の旗印は
もはや光秀の謀叛は明らかであった。
帰蝶が下女どもに低い声で命じた。
「寺からすぐ立ち
下女がたずねる。
「帰蝶様はお逃げなさらぬのですか?」
「バカを申せ。マムシの娘が、畳の上で死ねようか。わが長刀の腕をようやくふるえるときが来たのじゃ。刃にたっぷり血を吸わせて、戦うときがついに来たのじゃ。この日を待っておったのじゃ。わらわは、うれしいー!」
帰蝶のうしろで声がした。
「キチョウサマ、ソレガシモ、タタカイマスル」
背後を振り向くと、牛のように大きな黒い影が目に入った。信長が宣教師からもらい受けた十人力の黒人坊主、ヤスケである。
「ソレガシ、キチョウサマ、マモル」
帰蝶がヤスケにニッコリほほ笑んだとき、次の間から
「
それを聞き、帰蝶は「バッカじゃね~。カッコつけちゃって。余裕、かましすぎ~」とつぶやいた。
外から
鉄砲の一斉射撃の音が
そのとき、帰蝶は「キャッホー!」と叫んで、群がる敵中に躍りこんだ。その腕には、父の道三から譲りうけた
その横で帰蝶を守るように、ヤスケの槍が
帰蝶は絶叫した。
「わらわは、信長の妻。道三の娘。われこそはと思わば、かかってくるがよい。容赦はせぬ」
その顔は自分の生まれながらの闘争本能を解放した喜びに満ちていた。
信長は――といえば、その頃、ようやく敦盛を舞い終わり、蘭丸をひしと抱きしめていた。
最期のときを迎え、二人は
「お蘭ちゃん、もうこれでおわかれね。今日こそシムー」
「信長様と一緒に死ねるなんてステキー。二人の♡は、フォーエバー!」
信長が脇差を手にとり、
信長が蘭丸にささやく。
「愛の刃、受けとめてね~」
「アーイ、お蘭も愛の刃チクリ~」
その瞬間、二人はブスリと刺し違え、♡♡萌え~の絶命を遂げた。
一方、境内ではまだ帰蝶とヤスケの二人が、敵の
すでに二人の着物は、敵の返り血で真紅に染まっている。帰蝶は歓喜の表情で刃をふるいつづけた。ヤスケは黒人というよりも、全身血に染まって、まさに赤鬼となっていた。
そこへ、一人の
武者がニッコリ笑って、帰蝶に頭を下げる。
「帰蝶様、お久しぶりでござる」
それは帰蝶より一歳年上の
光秀が血ぬれた長刀を見て、言った。
「あいかわらずお勇ましい。しかしながら、もはや勝敗は決まり申した。命をむだにせず、落ちのびてくだされ」
「イヤじゃ。戦って死ぬことこそ、わらわの
「帰蝶様を
次の瞬間、帰蝶の長刀が
帰蝶の整った唇から「ウッ」という短い
光秀は自分のしたことに驚き、胸から血が噴き出す帰蝶を抱きしめた。
「申し訳ございませぬ。帰蝶様」
帰蝶がとぎれとぎれの声を出す。
「いいのです。これでいいのです」
光秀の目から涙があふれ出た。
「みどもは、足利義昭公の命により、信長様を襲い申した。足利幕府再興こそ、この光秀の宿年の悲願。それが、このようなことになるとは……」
「本当にいいのです。ほら、青空がきれい。幼い頃、二人して稲葉山城から眺めた景色が
光秀が
槍を放り出したヤスケが、地を叩いて
頭上には、梅雨の季節とは思えぬほど美しい
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