第32話 蘇生魔法 その二

 地図を見て魔王の強大な力を見定めていた。

 林の先にある洞窟。

 その奥に魔王がいると地図では示している。

 俺とアイシア、ルカ、アッシュの四人はその洞窟の入り口で馬車を降り、内部の探索に移る。

 湿り気のある洞窟で、おぞましい気分になるが、進むしかない。

 数分後、俺たちはピンチに陥っていた。

 仕掛けられた罠が発動し、丸い岩石が後ろから転がってきているのだ。

「なによ!」

「こっち!」

 アッシュが脇道を見つけると、俺たちはそこに飛び込む。

「くそ。こんなに罠が多いとは」

「気をつけな。まだしかけはあるはずだ」

 アイシアがきっと目を細める。

「だろうな……」

 ルカが気を緩めずに応じる。

 獣人なら匂いや洞察力で罠が分かるかもしれない。

「ルカが先行して、罠を叩く。俺たちはその後を追う。これでいいか?」

 俺はみんなに訊ねると、首を縦にふるアッシュ。

「まあ、やってみるか」

 先ほどとは違い、気楽な感じで応じるルカ。

 ルカ、アイシア、俺、アッシュの順で洞窟の奥へと向かって歩き出す。

「ん。待って」

 ルカが足を止めると、目の前の足下を詳しく調べるルカ。

「ここを飛び越えて」

 ルカのお陰で罠を回避できたらしい。

 俺たちはそのあとも歩き続ける。

 大部屋にでると、俺たちは周囲を観察する。

「我々のねぐらに侵入するとは!」

 目の前には魔族の一人、悪魔がいた。

 コウモリのような一対の羽、鋭い角、紫色の肌。

 禍々しい雰囲気を纏っており、赤い双眸で睨んでくる。

 その目をめがけて矢を放つアッシュ。

 グサッと刺さり、血を吹き出す敵。

「やるぞ!」

 俺のかけ声と同時、アイシアとルカも動き出す。

 イリナの力を使い、敵の魔力を吸い取る。そして自分の身体強化に使う。

「やるよ!」

 アイシアは鞭をしならせ、ぶつける。

 ひるんだ瞬間に、ルカが後ろから、拳をぶつける。

 殴られた衝撃で吹っ飛ぶ敵。それを俺が蹴り飛ばす。

 アッシュの攻撃が地味に役立っている。

 二つの目を失った敵に、鞭が絡む。

 そして近寄ってくるルカに蹴り飛ばされる。

 最期に俺がショートソードでとどめを刺す。

 血のついたショートソードを捨てて、新しいショートソードを手にする。

「ち。こんな奴のために」

「いいじゃない。幹部クラスだよ。こいつは」

 アイシアが怪訝な顔で応じる。

「そうか……」

 俺たちは奥に続く廊下へと足を運ぶ。


「来たな。勇者」

 静かな声で低音ボイスを放つ一人の男。

「お前が魔王レールか?」

「そうだと言ったらどうする?」

 大仰に肩をすくめてみせる男。

 赤を基調した衣服に金色の装飾、黒いマント。

 鋭い角が二本。

 紅い瞳はギラギラとして高圧的な印象を受ける。

 正直、怖い。怖いが、ここまで来たんだ。

 負ける訳にはいかない。

「俺様が魔王レールだ。勇者よ。貴様をたたきのめしてやる。完全平和のために」

 勇ましく名乗りを上げる魔王。

 手にした武器はショートソード。

 この狭く昏く湿った洞窟では、短剣の方が強い。

「蘇生魔法。使えるのか……?」

「はん。どうだかな。答える義理はない」

 そう言って手を伸ばす魔王。

 手のひらに光を感じ、俺は少したじろぐ。

 かたかたと音を鳴らし、地面が揺れる。

「なんだ?」

 土の中から白骨の軍団が現れる。

「これは!?」

白骨戦士スケルトン!」

 からからとスケルトンが音を鳴らし、こちらに向かってくる。

 その数百。

「敵か!」

 俺はショートソードを持ち直し、構える。

 ルカは身体強化魔法を使い、スケルトンをちぎっては投げる。

 アッシュは後方から矢を放つ。

 アイシアは鞭をしならせ、打撃攻撃を行う。

 粉々に砕けていくスケルトンたち。

 俺もショートソードを握りしめて飛び込む。

 イリナの力を解放するが、スケルトンには通用しないようだ。

 どうやら埒外らちがいの力で動いているようだ。まるで神のご加護を受けているかのように。

 突破口を切り開くと、ルカが突進する。

「行けるか?」

 ルカが魔王の後ろをとると、鋭い爪をその首に突き立てる。

「言え! 蘇生魔法はお前がもっているんだな!?」

 ルカが荒い息を吐きながら問う。

「蘇生か。それほどのものではないがな」

 すーっと魔王が指を動かすと、スケルトンがルカに向かって動き出す。

「…………」

「これで分かったろ?」

 嫌みたらしい顔を向けてくる魔王。

「き、貴様! まさか……!?」

 骨を投げてくるスケルトン。

 飛んできた骨をよけるルカ。ショートソードのつかがその腹に突き刺さる。

「ルカ!」

 俺は走り出す。

「まさか。蘇生魔法の正体は……!」

 絞り出すように声を上げる俺。

「そうだよ。このスケルトンたちに聞け。死霊術ネクロマンシー。それが六代目勇者の力さ!」

「命をもてあそぶ力……」

 アイシアが憎たらしさを覚えたのか吐き捨てるように言う。

「ああ、貴様も、勇者もなにかもっているのだろう? なら、奪うまで!」

 魔王は地を蹴り、肉迫してくる。

「なっ!?」

 短剣を振るう魔王。

 ショートソードで受け流す。

「剣の使い方は素人か!」

 蹴りを入れられ、背中に痛みが走る。

 そのままスケルトンの群に突っ込む。

 後方。アイシアが鞭をしならせ、魔王の気を引く。

 アッシュの矢が魔王の右目を狙う。

 が、矢は運動エネルギーを奪われ、その場で落ちていく。

「はん。ただの矢ごときで倒せるとは思うなよ!」

 蘇生魔法はない。

 それを知ったショックが大きい。

 その上、魔力で矢を防ぐ。

 剣戟は一流のそれと大差ない。

 これじゃあ、どうやって勝てばいいんだ。

 俺は何ためにここまで来たんだ。

 死にたくない。

 生きていたい。

 あの笑顔を、守るんだ。

 ショートソードを子どものように振り回し、立ち上がる。

「ルカ!」

 その声にびくっと震えるルカ。

「わたしはまだ死んでないよ」

 飛び起き、スケルトンを砕いていく。

 俺もそちらに向かっていく。

「邪魔だ! どけ!」

 スケルトンをなぎ払っていくと、ルカが見えてくる。

「アイシア!」

「あいよ。こっちだ」

 アイシアが誘導してくれる。

 魔王への一撃を。

 滅び行くのはお前の方だ。魔王。

「ふふふ。俺様を狩るつもりか!」

 俺とルカ、それにアイシアが囲み、三方からの同時攻撃。

 だが、魔王は空中へと逃げる。

 そこにアイシアご自慢の針を投げつける。

「なんだ?」

 ブーステッド・アーティファクト。

 それが針の名前だ。

 呪符タリスマンのように魔法陣を刻まれており、流した魔力の量で爆発する時間を変えることのできる榴弾りゅうだん

 それを知っている者は少ない。

「はん。そんなものに」

 魔王はマントをひるがえすと、そのマントで全ての針を受け止めてしまう。

 が、爆炎が上がる。

「なに!?」

 魔王は爆発に呑まれ、落下していく。

「やるぜ!」

 アッシュが前に出てクロスボウを構える。

「ま、待て!」

 俺が声を上げた瞬間、アッシュの首が飛ぶ。

 魔王は落下しながら短剣を振るったのだ。

「あ、ああ……!」

 声にならない悲鳴を上げて、俺はたじろぐ。

「くそ。これ以上は!」

「――っ!?」

 ルカが接近する。

 アイシアが獣じみた絶叫を上げて、悲しみを零していく。

 ショックからか、涙を流し、その場に崩れ落ちるアイシア。

「くそ! アイシア」

 俺はアイシアに群がるスケルトンを引き剥がしていき、ショートソードで突き刺す。

「アイシア! まだだ。まだ生きてやり遂げろ!」

「アイシア!!」

 俺とルカが叫び、アイシアをスケルトンの山から引きずり出す。

 そしてその柔肌をはたく。

「俺たちはまだ、生きている。生きて仇討ちするんだ!」

 憎しみは時に人の原動力になる。

 死ぬくらいなら、恨んでいる方がいい。

 そう思えるのは俺が成長したからか。それとも憎しみを知ったからか。

 俺はアイシアのように強くない。

 アイシアはアッシュを本当の弟のように可愛がっていた。

 だからショックも大きいはずだ。

 それでも涙を流し、悲しみを出し切ることをしている。

 きっと彼女なら目を覚ますだろう。

 そして魔王を打ち砕いてくれる。

 信じている。

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