第30話 買い物。占い。
「ありゃ、食材が足りない」
ジュライはそう言い、俺に向かってメモを渡してくる。
「これ、買ってきてほしい」
「あいよ」
俺が一人で行こうとするとアイシアとルカがついてくる。
「俺一人で買い物くらいできるって」
「いいから。お姉さんと一緒にいこ」
「む。わたしの方が先に旅をしていたのだけれど?」
二人はバチバチと火花を散らしながら歩み寄ってくる。
「お、おれも!」
「待て。ぼくの手伝いをして」
アッシュがついてこようとするが、ジュライが止める。
そこには気遣いを感じる。
俺とアイシア、それにルカが街に戻ると八百屋や肉屋が活気を取り戻していた。
「だいぶ、復興してきたな」
「ちょいと。そこのお嬢さん」
老婆がちょいちょいと手をこまねいている。
「なんだい?」「なんだ?」
アイシアとルカが同時に訊ねる。
「へ。いや、占いでもしていくかえ?」
老婆は水晶とタロットカードを机においており、占い師であることは明白だった。
「占い。好きじゃないんだよな。俺」
「そうかい? こっちでは普通だよ」
「そうそう。占星術といって、未来を
ちょっと興奮した様子のアイシアとルカ。
「その未来視も、ここが戦場になることは見えなかったらしいな」
俺の皮肉を物ともせずににんまりと笑う占い師。
「そりゃ、人の思惟が介入すれば結果は変わるさ」
あっけらかんと言い放つ占い師。
「それでもやる、ってんならお代をだしな」
「アタシはやるよ」
ちらりとルカを見やるアイシア。
「わ、わたしだって!」
銀貨を渡す二人。
「ほうほう。まずはそっちのアイシアさんから、行くぞい」
「アイシアの名前を知っている?」
俺は驚きの声を上げる。
「タロットと水晶、どっちがよいかえ?」
「それじゃあ、水晶で」
水晶に手をかざし、魔法陣を展開させる占い師。
「魔法なのか!?」
俺は驚きの声を上げる。
「そうじゃ。ワシほどの実力者になると、魔法でなんでもできるもんじゃい」
「それで? どうなのさ」
アイシアはせかすように訊ねると「待てい」と言う占い師。
「おお。きた。アイシア殿は立派に戦って、勝つ未来が見えるぞい」
「そりゃ、アタシなら当然ね」
嬉しくなり、ふふふと笑みを零すアイシア。
「キーポイントは髪飾りだね。それで運命が大きく変わる」
「髪飾り?」
「ああ。そうさ。そこの勇者が買ってあげるんだね」
キラキラとした視線を向けてくるアイシア。
「分かった。分かったよ。買ってやるさ」
でも資金源はみな同じなんだよな。
「次、獣人族のルカ殿、どっちがいい?」
水晶とタロットカードを見せる占い師。
「じゃ、タロットカードで」
同じと思われるが嫌だったのか、タロットを選ぶルカ。
タロットカードをシャッフルし、ルカに一枚引くように進める。
一枚を選ぶと机の上に置き、最期に魔法陣を展開させる。
くるくると回る魔法陣の下でタロットカードがひっくり返る。
そこには死神の逆位置が記されている。
「ほう。面白いね。死神は正位置なら死を呼ぶ物。だけどこれは逆位置だから死を回避する結果だね」
「わたし、強いから」
どや顔で呟くあたり、ちょっとうざい。
「へん。まあ、下手に死なれたら、寝覚めが悪いものね」
強がってみせるアイシア。
「あんたこそ、死んだら十字勲章ものだからね。孤児たちを助けられるだろ?」
ルカは意地の悪い笑みを浮かべる。
「わしの話を聞けい!」
占い師は二人の言葉を遮り、こほんと咳払いをする。
「ルカ殿はこの
差し出した呪符には魔法陣のようなものが描かれており、不思議な魅力がある。
「これは?」
「これは
「!? そんなもの、どこから!」
ルカは驚いたように目を見張る。
「ひゅー。ならこれを作った人と会いたいね。本当の話なら、だけど」
アイシアが釘を刺すように言う。
「やってみればわかるさ。一枚しか持っていないけどな」
占い師はニタニタと笑みを浮かべている。
「分かったよ。お守り代わりにもっておくさ」
ルカはそう言い受け取る。
が、手を離そうとしない占い師。
もう片方の手で指を三本立てる。
「一枚だね」
「二枚。銀貨六枚」
「一枚と銀貨二十枚」
「一枚と銀貨七十枚。これ以上は譲れないね」
「分かったさ。それで手を打とう」
「さて。買い物の続きにするか」
「あら、そうだったわね」
ルカの声に反応したアイシアは、近くの露店を見て回る。
野菜に肉、魚もある。
街道が封鎖されていたわけでもないから、交通の便はあったのだろう。
それにしても早い復興だな。
人の活気が違う。
ジュライに頼まれた買い物を済ませると、俺は近くの露店で髪飾りとペンダントを買う。
「アイシア」
「なんだい?」
「これ、やるよ」
髪飾りを差し出すと、嬉しそうに口笛を吹きながら、受け取る。
「いいじゃないか。さすが勇者~♪」
頬にキスをするアイシア。
「なっ!?」
「ふふ。少しは意識する気になったでしょ?」
やられた。
アイシアはいつからそうだったのか知らないけど、その気があるらしい。
「何よ。アイシアの奴。勇者にデレデレで格好悪いわ」
「格好悪いか? 素直なうちは華だと思うが」
「何よそれ。わたしが素直じゃないみたいな言い方じゃない」
「そうだ。はいこれ」
俺は
「な、何よ。これ?」
「あー。アイシアだけに上げるのも可笑しいだろ? だからルカにも、ほれ」
「もう。しょうがないわね」
受け取ると、自分でペンダントをつけるルカ。
「これ、宝石がはまっているじゃない。しかもルビー」
「何か意味があるのか?」
「治癒魔法を一回だけ使えるわ」
そんな効果があるのか。
「そりゃ便利だ」
「……高かったんじゃないか?」
「いや、それほどでも……」
実際は金貨五枚だ。高いに決まっている。
復興の意味合いも含めて購入させてもらったが、そんなに高価なものとは知らなかった。
「まさか、さっきの占い師。これを予見して……?」
「なんだ? 行くぞ?」
俺はさっさとアイシアの後を追う。
「お、おう」
ルカが慌てて追いかけてくる。
もう人死には出さない。
そう決めたのだ。
戦争だから、軍属だから。
そんな理由で人が死ぬのはたくさんだ。
もういい。
俺は死にたくないし、殺したくもない。
蘇生魔法。
それがあればすべて解決する。
もう戻れない。
魔王に蘇生魔法の臓器を譲り受ける。
そのための力だ。
イリナの力はそのために使う。
蘇生魔法が本当にあるのだろうか?
いいや、あるんだ。疑ってはいけない。
そうでなれば、エレンの死も、イリナの死も。エインズレイの死も報われない。
俺は報いるために生きてきた。
もう一回会って、ちゃんと話しをしたい。
謝りたいし、ありがとうと言いたい。
「帰ったぞ。ジュライ」
「ありがと」
食材を受け取ると台所に戻るジュライ。
他の子とも仲良くなったのか、一緒に料理を手伝っている。
「今日はぼくの誕生日だからな、豪勢にやらせてもらう」
ジュライはそんなことを言い、料理をする。
「誕生日?」
「ええ。でも我々ではプレゼントも用意できなくて……」
困ったように頬を掻く院長。
「ちょっと待っていろ」
俺は慌てて町中の中央広場に駆け出していた。
出会ってちょっとの相手に。
名前くらいしか知らない相手に。
なんでかは分からない。
でもこれでいいのだろう。
みんな、その輪をつかんだら、離せないのだろう。
もう裏切ることも、捨てることもできない。
彼らは生きているのだから。
俺も生きているから。
死人にはできないことだから。
俺は俺の未来を。
彼には彼の未来を。
そして、死者に対しても、祝福を。
新規登録で充実の読書を
- マイページ
- 読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
- 小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
- フォローしたユーザーの活動を追える
- 通知
- 小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
- 閲覧履歴
- 以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
アカウントをお持ちの方はログイン
ビューワー設定
文字サイズ
背景色
フォント
組み方向
機能をオンにすると、画面の下部をタップする度に自動的にスクロールして読み進められます。
応援すると応援コメントも書けます