第18話 蘇生魔術 その一
また、失うのか……?
「うわあっぁぁぁぁぁぁっぁぁあっぁ」
叫び俺はショートソードを振るう。
が、何にも当たらずに、空を切る。
「なんだ。貴様、まるでド素人の動きじゃないか!」
ジークフリートが悩ましげに呟く。
「わたしがやる!」
「しかし――」
ルカが前に躍り出ると、俺は止めようとする。
「ちっ」
ジークフリートはマントをひるがえし、回避する。
そしてまたもや鏡の世界に変わっていく。
「く。この鏡の世界を攻略せねばなるまい」
「てめーならできるだろ。イリナの力を、偽りの力をつかえ!」
イリナにもらった偽りの力。
相手の魔力を吸収する力。
俺は世界最強を偽っている。
その力を持つ俺ができるのか?
やってやる。
魔力をそこかしこから奪い取る。
魔法陣がくるくると回転していく。その魔法陣がいくつも現れ、魔力を吸収していく。
「その蘇生魔法とやら、吐かせてみせる!」
俺は全神経を魔法陣に集中し、魔法陣を起動させていく。
大量に発生した魔力の流れが、一点に集中する。
連鎖的に魔法陣が起動の合図である回転を始め、魔力を爆発力に変換していく。
ボンッと小さな音を立てて、耳鳴りと同時、身体が吹き飛ばされる。
俺とルカ、そしてジークフリートが吹き飛ばされ、壁に激突する。
肺腑に残っていた空気が抜けていく音。
周囲に首を巡らせると、ルカが立ち上がっているのが見える。
ここは最初に入った地下への階段。その途上にいた。
ジークフリートが階段下で転がっている。
俺も立ち上がり、ジークフリートを見下ろす。
その身体を、イリナの力で、仮初めの力で包み込む。
「魔力を奪えば強くいられまい。魔族というくらいだからな」
「ぐ。この――!」
小さな火球が生まれた瞬間にボッと消えてしまう。
「な、何!? この魔法陣、力を吸っているのか!?」
ジークフリートが初めて焦る姿を見せる。
それに口の端を歪める俺。
「さあ、言え。蘇生魔法なんてものがどこにある?」
「言えるか。お前にだけは教えねーよ」
「ほう。ならその身を持って知るべきだな」
俺はショートソードの持ち手を変え、逆さ握りにすると、その太ももにショートソードを突き刺す。
「――っ! 貴様。勇者でありながら非道な!」
「俺に勇者とか、関係ない。俺はお前らを滅ぼす者。それだけで十分だ」
「狂ったか!」
「言え。言わぬなら……」
俺はルカに視線を送る。
「え。ええ! わたし?」
「ルカ。魔法付与なしで殴れ」
「で、でも……。無抵抗な相手を殴るって……」
「いいから。じゃないと虫唾が走る」
俺は睨むようにルカに言う。
「わ、分かったわよ。しかないわね」
ルカが軽くジークフリートの顔面を殴る。
魔法陣で捉えられたジークフリートは身動きがとれない。
「言え。蘇生魔法を教えろ」
冷たく言い放つと、ジークフリートは顔を歪める。
「こんな方法をとって嘘の情報を流したらどうする?」
「知ったことか」
俺はお前の仲間じゃない。敵なんだ。殺すべき敵だ。
だが、蘇生魔法を知っているのなら。
「嘘を言えば、殺す。それだけだ」
「勇者らしくないご感想で」
俺は耳を切りつける。
「っ。わ、分かった。言う。言うから見逃してくれ」
「ほう。でどこにいる……?」
「マケナ地方のサントリアだ。そこに勇者の臓物を引き継いだ魔王レールがいる」
「サントリアねぇ。覚えたか? ルカ」
「ああ。でも――」
俺はショートソードでジークフリートの頭蓋骨をかち割り、脳漿を吹き散らかす。
ソードについた脳漿を布きれで拭き取ると、俺は地下から這い上がる。
「さっきの言葉、信じるのか?」
ルカが不安そうに呟く。
「言ってみれば分かる。俺はこの偽りの力で乗り切ってみせる。世界最強なのだから」
「それは! そう、だけど……」
悲しげに目を伏せるルカ。
妹がこんな目に遭うのは想像していなかったのか。
それとも妹の死が彼女の何かを変えてしまったのか。
まあ、もともと弱いから強がって見せるタイプの女の子だったしな。
しかし疲れた。
これで残敵の掃討は終わった。
一度、近くにあるネルネ村に立ち寄ることにした。ここで物資の補給と、しばらくの休息をとることにするか。
「ネルネ村に向かう」
「あ、ああ……」
気乗りしないのか、テンションが低いルカ。
あまり気にせずに村へと道筋を決める。
馬車を動かせるのはルカぐらいだが、そのルカも疲弊しているようだ。
夕暮れ頃にはネルネ村にたどり着き、馬車を止める。
と、俺たちは近くにある酒場に入る。
「ブドウ酒を頼む」
俺はカウンター席でルカと一緒にブドウ酒を掲げる。
「旅の疲れを癒やそう。それに生き伸びたことへの感謝だ」
「そういうことなら……」
「「乾杯!」」
目の端にとんでもない美人さんを見つける。
褐色の肌。赤い髪を一つ結びにしており、黄色いネコみたいな瞳が特徴的なお姉さん。簡単なシャツと白いスキニーで身を固めている。
「何見てんだ?」
ルカがそう言うと、俺はルカに向き直る。
「いや、なんでもない」
ふと二度見する。がそこには彼女の姿はない。
「しっかし、俺が酒を飲んでもいいのか? 俺十六だぞ?」
「いいんだよ。こっちでは十五が成人なんだからな」
「ははは。そんなもんかい」
酒を初めて飲むが思ったよりも匂いがキツいな。それに喉を通る熱さ。
ポワポワしてきて、気分が良くなってくる。
「これが酔うということか……」
「これが初酒か? あまり飲み過ぎんなよ」
ルカの忠告通り、ちびちびと飲もう。これは危険な香りがする。
「これでおめーもわたしらの仲間入りだな」
「そうかい」
そう言ってもう一度口に含ませる。
なるほど。複雑な味わいがある。
甘さと酸っぱさ、そして渋み。
気持ちが高ぶるから、つい呑んでしまう。
「ルカはなんで酔わないんだ?」
「ん。酔っているよ。酔っている気分じゃないけど」
酒で脳がやられた俺にはその言葉の意味が理解できなかった。
エレンとイリナ。
二人を死なせてしまった。
それに蘇生魔法を知ってしまった。
ルカとセイヤはこの先、蘇生魔法を追ってエレンとイリナを復活させるのか?
ルカはセイヤの異常性を知っている。どこか、落ち着いた雰囲気を持ち、冷静沈着。だが、それが返って彼の異常性を底上げしている。
どこまでも目的のために戦う。そんな風に見えるのだ。
ルカが人を殺したときは手が震えたものだ。三日三晩吐き続けたというのに、セイヤはそんなこともなく、人の死を乗り越えている気がする。
それが怖い。
勇者とは、セイヤとは。こうも世界の
ルカはセイヤに抱く感情は同情と、少しの恐怖。いや畏怖とも言えるだろう。
勇者は聖人君子と言ったか。
アレは本当なのだろうか。
ルカは自分の学んだ世界がひっくり返るのを覚える。
ただでさえ、なんのチートも持たないクソ雑魚なセイヤがイリナという偽る能力を得てそれで人間族を助けようなどと。
▽▼▽
ふーん。アレが勇者なのね。
案外可愛い顔をしているじゃない。
ちろりと舌を出す褐色のお姉ちゃんっぽい女の子は、しばらく眺めている。
下手に手出しはできない。
アタシの力だけで、乗り越えられるかい。
まあやってみるさ。
弟たちの食費を稼がなくちゃいけないしな。
悪いが勇者にはここで眠ってもらう。
本当にこれでいいのかい?
いいや、やるんだ。
でなければ、弟たちを助けられない。
さっき勇者に見られたのは痛手だった。
でも、それなら打つ手はある。
アタシ、アイシア=コメットは勇者を狩る。
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